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沁月
Public
ウ教×ハ♀ 相思相愛 読み切り
今昔火群蝶
MHRウ教×ハ♀。相思相愛、婚約関係。
微妙に本編ネタバレあり。
お盆の時期を題材にしたお話。
ハンター♀母が故人設定(マイハンではありません)
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御霊が帰って来る、迎え火の当日。
里は、暑すぎない快晴。
気持ちの良い
澄風
すみかぜ
が、柔らかく吹き抜けている。
集会所内の露台に居ても、その心地良さは等しい。
「ふぃーー
……
!」
ウツシが大きく体を伸ばしつつ、片手には一本のうさ団子を持って、露台の柵から涼やかな川の流れを見守る。
昨日見たような蝶がいないかどうか探してしまっていたが、露台からは、彼の目を持ってしても何の生き物の姿も見えなかった。
(昨日の蝶
……
水車小屋に飛んでいったような気がする
……
)
最後に感じた、蝶の気配が飛び去った方向。
時期もあって、勘ぐりたくなってしまう。
亡くなった里の人間が、この時期になって、帰ってきたのではないかと。
確信は持てないが確かめようもなく、妙に何かが引っかかったような心地だ。
(あれがもし、帰って来られた愛弟子の母君なら
……
是非再会して欲しいけれど
……
)
何と言えば良いものか。
そもそもあの蝶が彼女の母である証は何もないし、巡り会えるのも昨日が最後だったかもしれないし、ただの蝶かもしれない。
もぐ、と団子を
齧
かじ
りながら、ウツシが水の流れに耳を傾けつつ考え続ける。
そんな彼の後ろに、そっと歩み寄る人物。
「珍しくお静かですね、ウツシ教官」
「やあ、ミノトさん!」
歩み寄ってきた人物を背を向けたまま言い当ててから、ウツシが機敏に振り返る。
ミノトは小さく頭を下げると、静かに彼の隣に立ち、同じ川を眺めた。
「何か、見えますか? あなた様の目は、時に
数多
あまた
見通す
千里眼
せんりがん
ですから」
「そんなことないさ。この時期だからか、自然や生き物の動きが何となく気になってしまってね」
「なるほど。本日は迎え火、ですね」
「ミノトさん、家で何かやってるのかい?」
「家では、特に。家というよりは
……
」
ふと、ミノトが横目で意味深な視線をウツシの方に滑らせる。
忘れたのですか、とでも言いたげな、少々鋭利な細目。
その視線を感じ取った彼は「ああ!」と思い出したように微笑んだ。
「そうか! ミノトさん、ヒノエさんと一緒に毎年、里の入口の門のところに、ご先祖様用の精霊馬やお供えものをしてくれていたっけね」
「思い出して頂き、光栄です」
「ごめんごめん」
ヒノエとミノトは、毎年この時期になると、姉妹で門の出入口に立派な精霊馬と精霊棚を作る。
長命種である竜人族の彼女たちが、これまで見送ってきた人々のためであろうか。
里に生まれ、里で生きた先祖の御霊が、迷わず帰って来られるように。
この里の力強い炎の如き活気を、今を生きる里の者の生命を感じて、安心してもらうために。
ウツシとて、何度もその光景を見たことがあったはずだった。
今は考え事をしていたからか、すっかり記憶から抜け落ちてしまったようだ。
彼が申し訳なさそうに微笑むと、納得したようにミノトがまた、川の方を見つめる。
普段と変わらないはずだが、さらさらと静かに音を立てて流れていく清流は、太陽に煌めいて普段よりも透明度が高いように見える。
音さえも特別なような気がして、ミノトは静かに、軽く目を閉じた。
「この時期は、全てのものに特別な息吹を感じますね。自然はもちろん、生き物の動向にすらも」
「
……
。ねえ、ミノトさん
……
俺さ
……
」
「はい?」
歯切れの悪い、迷いの込められたウツシの声が珍しく、ミノトが閉じていた瞳を開く。
彼の横顔を見ると、彼はまだ真っ直ぐ川を眺めていた。
「俺、昨日の夜
……
蝶を見たんだ。愛弟子の家からの帰り道に、とっても綺麗な色をした蝶をね」
「この時期の夜に、蝶ですか? 珍しいですね」
「うん
……
何だか、頭から離れなくて。里を眺めるみたいに飛んでたのも、凄く印象的でよく覚えてる。不思議な蝶だったんだ」
夜に娘の家を訪れたと話すウツシに、ミノトは特に驚きを覚えることもなく。
川を見つめるウツシの瞳は
水面
みなも
を映すのみならず、当時の景色を思い出すように滲み輝いている。
珍しく静かに、何かに感じ入っている様子の彼を、ミノトは心の内であっても決して笑うことなく、川を見ながら真剣に「ふむ」と思案を巡らせた。
「ウツシ教官が見たのは
……
もしかしたら本当に、里へ帰ってきた御霊の化身かもしれませんね。蝶は魂を運ぶ黄泉の使いとも言われ、
輪廻転生
りんねてんしょう
の象徴でもありますから」
「そう、なんだね
……
」
手にした団子を食べることも忘れ、ウツシはまだ、川を見つめる。
人の魂を運ぶと使い、と言われる蝶。
幼虫から、死者のように動かぬ
蛹
さなぎ
となって、そこから美しく蝶へと変化し舞い上がる姿。
それが人々に復活や再生、転生を思わせたという話は、ウツシも聞いたことがあった。
あの時に彼が見た、揺蕩うように美しく、ひらひらと舞う幻想的な姿は、まさしく御霊が輝き空に揺れる様に見え、非常に印象深い。
「あの蝶
……
本当にそうなのかも。ミノトさんにも見て欲しかったな、とにかく美しかったんだ」
「いつかご縁があれば、わたくしも見られましょう。楽しみに待たせて頂きます」
「ご縁、ね。そうだよね、なるほどなぁ
……
」
ミノトが不思議に思う横で、晴れやかな様子のウツシが小さく笑みを零す。
あの蝶がもし、愛する人の母ならば。
きっと彼女は会えるだろうと、ミノトの言葉で思うことができるようになった。
母子の縁は、簡単には途切れまい。
ミノトの方に、ウツシが笑顔を向け直す。
喉に引っかかっていたものが外れたような心地で、非常に爽やかだ。
「
……
ありがとう、ミノトさん。話せて、なんだか、落ち着けたよ」
「それは何よりです。この時期は静かに過ごすべきなのでしょうが、教官があまりにも静かなのは落ち着きませんので」
「あはは、そうなの? それは嬉しいなあ!」
「褒めたつもりはありませんが
……
ま、まあ、喜んで頂けたなら良かったです」
元のウツシに戻ったような賑やかな気配を察したミノトは「それでは」と静かに告げると、受付嬢の仕事を再開すべく、そそくさと集会所入口付近の受付カウンターの方へ戻って行く。
その背中を見ながら「ありがとうー!」と
溌剌
はつらつ
に声を上げ、ウツシは手に持っていたうさ団子の串を持ち直すと「あむ!」と元気に頬張った。
(よおし! 午後も頑張って、仕事が終わったら愛弟子の家に行くぞぉ!)
咆哮しそうになるのを、密かに我慢しつつ。
ウツシはまだ遠い、愛する人と過ごせるであろう、夕暮れ時に想いを馳せる。
自宅のオトモのデンコウとライゴウには、今夜は自分を待たずに先に食べて寝ていて良い旨を伝えてあるので、憂いもない。
意気揚々と集会所の露台から屋内へ戻って行くウツシの背後、柵の向こうの川の真上。
そこで、ふわりと蝶が舞い上がって行ったことに、彼は気付かなかった。
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