今昔火群蝶

MHRウ教×ハ♀。相思相愛、婚約関係。
微妙に本編ネタバレあり。

お盆の時期を題材にしたお話。
ハンター♀母が故人設定(マイハンではありません)



楽しい時間はすぐに過ぎる。
もっともっと、ゆっくりで構わないのに。

そう感じてしまうことが増えたのは、楽しい時間を過ごすことが多い証。

喜ばしいことなのだろうと、ウツシは頭では理解をしつつ。

食事を楽しみ、畳の間で並んで、たまに手を伸ばして互いに触れたり、愛弟子でもある愛する人とじゃれ合ったりして、食後の団欒だんらんも楽しんでいたのだが。

やがて、名残惜しそうに、ウツシが畳からゆっくりと立ち上がった。

「遅くまでごめんね、愛弟子。もっと一緒にいたいけど……俺、そろそろ帰るよ」
「そう、ですか? ……そう、ですね」

師であり愛する人に続くように立ち上がった娘は、明らかに、しゅんとしたように声をしぼませた。

その様子に、ウツシの胸は細い鉄蟲糸できつく締め付けられるが如く痛んだ。
寂しいのは俺も同じだと言いたくなるのをぐっとこらえて、彼は優しく、ふわりと蝶のように娘の頭を撫でる。

「また明日、来てもいいかい?」
「え、良いんですか? む、無理してませんか?」
「俺が? まさか! してないよ。今日はお土産も何も無くてごめんね? 明日こそ何か買ってからくるからね!」
「ふふ、そんなのいいのに。でも、楽しみにしてますね」

そんなの、と、いいのに、の間に「あなたは、わたしの未来の旦那さまですから」といった言葉を紡ごうした娘だが、その言葉の後のウツシの精神状態が心配になるのでやめてしまった。

胸の奥にそんな言葉を潜めると、寂しさなど何のその、胸の高鳴りと共に不思議な安堵に包まれる。

愛されているのだと、心から感じられた。
決して孤独ではない。
彼は望むままに、言葉でも体でも抱きしめてくれる。孤独になどさせてくれないと思えるほどに。

落ち着いた表情になった愛する人を見て、ウツシがホッとしたように息をつく。

「それじゃあ、また明日ね。ごはん、とっても美味しかったよ。ごちそうさま!」
「いえ、また食べてもらえたら嬉しいです。お気をつけてお帰りくださいね」

上がり框にて手慣れた様子で脚装備をつけ直しながら、ウツシが静かに土間に降り立つ。

畳の間に立つ娘の方に振り返り、彼は、真っ直ぐ愛する人を見つめた。

……愛弟子」
「はい?」
「愛してる」
「!」

はっとしたように小さく目を開く娘を見ながら、ウツシが優しく目を細めた。
その眼差しに、彼女が穏やかな喜びに包まれて微笑む。

「わ……わたしも、です。お昼に精霊棚の前で、母にも、そう伝えました」
「! ……そう、だったんだね」

そう答えたウツシの脳裏に浮かぶ、先程の蝶と、記憶の彼方、生前の愛する人の母の姿。
たちまち、ウツシは自信無げに困ったような笑顔で眉を下げる。

「俺……お義母さんのお眼鏡に、かなうかなぁ。キミをお嫁さんにすること、許してもらえるといいな」
「何仰ってるんですか。大丈夫です、絶対に」

強気に頬さえ膨らませて嬉しそうに断言した娘は、帷子が下りたままのウツシの頬に、ついばむように口付けた。
確信を込めた、深い想いの宿るもの。

チュッと微かな音が響いて、不意を突かれたウツシが、ぱちぱちと小動物のように目をまたたかせる。

だが、愛する人からしてくれたこと。
すぐさま嬉しそうにふわりと微笑むと、その腕を優しく引き寄せて、唇を重ねた。
目を閉じる瞬間さえ、何の言葉がなくとも重なり合った。

上がり框に立つ娘と、一段低い土間に立つウツシ。
ちょうど身長差がなくなって、正面から真っ直ぐ口付け合えるのは、互いにとって新鮮で、無限の時の流れを欲してしまう。

ゴトン、ゴトンと、水車の音は遠く響く。

まるで数秒のような数分が経って、ようやく。

ゆらりと、どちらからともなく娘とウツシは顔と体を離した。

潤んだ瞳が互いに互いを映す中、ウツシが先に愛する人へ小さく微笑む。

「見送り、ここでいいよ。明日また来るね」
「はい……また、明日。お気を付けて」
「うん、ありがとう」

手を振りながら「またね」と再度告げて、ウツシはゆっくりと水車小屋を後にした。

きちんと静かに引戸を閉めて去った彼に性格を感じた娘は、「ふふ」と声を漏らして微笑む。

寝る支度をするために、彼女が踵を返した時。

板の間の格子窓の外をまだ揺蕩っていたらしい蝶が、優しく、月明かりの里の彼方へと飛び去って行った。

@acadine