はりぼて自家発電所
2024-01-21 18:21:55
65045文字
Public カイオエ長編
 

軟派な彼と難攻不落 最終章






おまけ
※再録本の書下ろし。R18部分は再録本にのみ載ってます。とらのあなリンクはキャプションにて。





 それからも、ふたり 






 カインの記憶は、ふとした瞬間に戻って来ていることが判明した。オーエンが昔の話をすると、「ああ、あれか」とあっさりと思い出すのだ。そして酷く改悪された思い出に顔を顰める。

「おまえ、また自分が悪いみたいに言って……。そんなんじゃまた誤解されるだろ」
「べつにいいだろ。ほんとのことなんだから」
「いつか後ろから刺されるぞ……
「それはお互い様」

 人の心が分からないのか、とよく言われるカインは、オーエンの鋭い返しに言葉を詰まらせる。分からないまま傷つけてしまうのと、分かっていてわざと傷つけるのは、一体どちらが嫌煙されるだろうかと真剣に悩んだ。
 デートと呼ぶにはあまりにもしょっぱい会話をしていると、目の前に見知らぬ女が数人立ち塞がった。前にもこんなことがあったような、なかったような。
 隣で思いっきり顔を顰めるオーエンの代わりに、カインは笑って「何か用か?」と女性達に尋ねる。

「ミサが大変な時に、いいご身分ね」

 オーエンは頭に疑問符を浮かべ、カインに尋ねた。

 「ミサって誰」「ほら、俺がおまえと離れてる間に……」「ああ、あれ」「あれって、おまえな」「全部終わったんじゃなかったの?」「俺はそのつもりだったんだが……

 カインが小声で返すと、オーエンもつられて声を小さくしてくれた。ポソポソ喋っていると、気分を害した女達がいきり立つ。

「カイン、そいつが好きなんて嘘でしょう? 騙されてるの? 脅されてるの?」
「どうして嘘だと思うの?」

 オーエンがすかさず、にこりと笑った。含みのある笑顔に女達は少したじろぐ。

「だって、男同士なんて気持ち悪い。女なんて選り取りみどりなのに、どうしてあんたみたいな男に走るの?」
「さあ、こいつの趣味が悪いのは否定しないけど」

 オーエンはわくわくしていた。火に油を注ぐのは、彼の悪癖である。他人にも自分にも火の粉を振りまくそれは、放って置いてはいけない類いのものだ。現に女達の怒りを無駄に買っている。

 「おい、オーエン。それ以上言うな。謝るんだ」「なんで僕が」「話がややこしくなるだろ。丸く収めといたほうが良い」「どうして?」「また絡まれたくないだろ」「べつにいいよ。楽しいから」「おまえなぁ。また変なやつに襲われたらどうするんだ」「いじめて、二度と立ち上がれないようにしてやる」「やめろやめろ! おまえみたいなやつはにっこり笑って一言謝っとけば相手は引き下がるんだ」「はあ? そんなことで?」

 オーエンは普通に驚いたあと、ちらりと女性たちを見て、鼻で笑った。

 「無理でしょ」「いいからやってみろって」「っち……

「なにこそこそしてるのよ!!」

 近い距離で仲睦まじく囁きあう二人に、女達は嫉妬の炎を燃やした。友達のためなんて言って、本当は自分がカインと付き合いたいだけなのだ。オーエンは面白味のない彼女達に飽きたので、言われた通りのあざとい笑顔を貼り付けて言う。

「ごめんなさい、お姉さんたち。僕を許して」

 喚いていた女達が一瞬黙った。少し妖しげな美しい男の微笑みは、それだけで破壊力がある。

「そ、そんなことで騙されないわよ!」

 オーエンため息を吐いて、カインを見た。

 「ほら。だめだった」「諦めるなよ。もうちょっとだって」「もうやだよ。疲れた」「疲れちゃったか……」「騎士様みたいないい子なら効果があったかもしれないけど、僕なんかに騙されるなんて相当馬鹿だよ」「今すごい目が合ってるけど、その騙された馬鹿って、俺のこと言ってる?」「さあ、どうだろうね」

「ちょっと、なに見つめあってるのよ!!」
「そ、そうよ。私たちへの当てつけ?」
「なんの話?」
「付き合ってるふりをしたってダメよ。私たちのカインを誑かさないでっ」
「何言ってるの? こいつら」
「あー、俺達は本当に付き合ってる。だからあんた達の気持ちには応えられない。ごめんな」

 困ったようにカインが言うと、女達の表情が曇る。オーエンは嘲笑う。

「可哀想。カイン、やっぱり脅されてるんだわ」
「あはは、面白い。カイン、僕に脅されてるんだって」
「何言ってる。おまえと付き合ってるのは俺の意思だよ」
「だったら証明してみなさいよ」
「えーと、キスでもしたらいいか?」
「そ、そんなこと好きじゃなくても出来るでしょう?」
「たしかに」
「オーエン。おまえ、黙ってろ」
「なら、ここでヤって見せてよ」
「「は?」」

 オーエンとカインが同時に嫌な顔をした。その瞬間、ほらみたことか、と女達は胸を逸らしてくすくす笑った。

「本当に好きならできるでしょう?」
……とうとう脳みそ溶けちゃった?」
「ほら、出来ないじゃない。やっぱりカインはあなたのことなんか好きじゃないのよ」

 にやにや笑っていたオーエンは、本気の心配の後、次第にいらいらと不機嫌を隠さなくなっていく。彼女達は感情が消えた彼に怯みながらも下品な言葉を募った。

「くだらない。付き合っていられない。少なくともおまえたちに見られながらヤるなんて絶対に嫌」

 カインは苦笑いをこぼした。オーエンの舌剣は、おそらく彼女達の心を折るまで止まらないだろう。このままでは、誰も何も解決しない。オーエンの一人勝ちだ。

「オーエン」
「なに。今忙しいん……

 カインは女達に意識を持っていかれているオーエンの唇を奪った。呆気に取られて緩んだ口内に舌を忍ばせて、唾液が絡む音をわざと響かせる。見せつけるような口付けに、女達はぽかんとしていた。

「ちょ、やだ、……っあ!?」

 オーエンの目が驚きに見開かれ、焦ったように視線を彷徨わせる。カインの手が、オーエンの服の下で不埒な動きをしているのだ。

「ん、ぅ………

 ぴくん、と性感帯を知り尽くした動きに細い肢体が跳ねた。喘ぎそうな声を咄嗟に腕を噛んで殺すが、その腰を引き寄せられ、足の間に膝が入り込んで、パニックになったオーエンの目尻から涙が零れる。

「ふ、……っぅん……!」

 女達は官能的な場面に顔を赤くして、暫くその様子に見蕩れていた。最後に、カインの独占欲に満ちた瞳が彼女達を射抜く。すると、邪魔者だと理解したのか言葉もなくそそくさとその場を去っていった。
 快感に溶け始めた体を解放すると、オーエンは力を失いつつも必死にその腕で縋りついてきた。潤んだ瞳がカインを睨む。

「大丈夫か?」
「どの口が……っ!」

 オーエンの毒舌がカインに向かうようになって満足した。全ての言葉も表情も、本当なら誰にも見せたくなかったのだ。その瞳に映るのは、自分だけであればいい。

「くそ……っ、責任、取れよな」
「よろこんで」

 オーエンのこの凶悪な顔が、カインの前でだけ、桃色に溶けるかと思うと、それだけで、心が逸るのだ。