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はりぼて自家発電所
2024-01-21 18:21:55
65045文字
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カイオエ長編
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軟派な彼と難攻不落 最終章
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ハロウィンの話
10月31日はハロウィンである。
仮装をしてお菓子を貰いに行き、用意できない者には制裁を与えてもいいという、自分のためにあるようなイベントで、心が浮つく自覚がオーエンにはあった。
教えてやったのだからとスノウとホワイトに押し付けられた衣装を着て、写真を撮られて、土産を持たされ、無理矢理送り出されても、むしろ機嫌が良くなる程度には浮かれていた。
顔に薄らと施された化粧。頭をすっぽりと覆うフードのある、ゆったりとしたローブ。手首が覗くくらいの長さの裾は広く開いて、爪は黒く塗られた。上半身にはサラシを巻き、ダメージの入ったシャツに細身のスキニーを履いて、足元はブーツ。頭と腰についた装飾は邪魔だが、衣装も結構気に入っていた。
もともと今日はカインからデートの誘いがあったのだが、仕事があって断っていたから、突然の来訪に彼は驚くだろう。ハロウィンの夜は少しだけ明るくて、みんな賑やかな衣装を着ている。その中に混じって、恋人の反応を思い浮かべながら歩くのは、なんだかとても、気分が良い。
カインの部屋の前に着き、鍵を取り出しかけて、止める。その方が面白そうだったから。インターホンを押すと、バタバタと物音と明るい返事が聞こえた。なにか作業でもしていたのだろうか。
『すぐ行くから待ってくれ!』
その声に、なんだかくすぐったいような気分になった。相手が誰でも気安い喋り方ではあるのだが、やっぱりいつもと何かが違う気もする。カインが出てくるまで何が違うのかと考えながら待っていると、ガチャリとドアが開いた。
「悪い、ちょっと家具を動かしてて
…
、え? オーエン?」
「トリックオアトリート」
驚く恋人を無視して魔法の呪文を叩きつける。じっと見つめあって、カインは我に返ったように顔を綻ばせた。
「来てくれたのか。その格好、双子社長か?」
「よく分かったね」
「おまえが自分で用意するとも思えないからな。今日が何の日とかいちいち気にしないだろ?」
自然な動作で家に招かれて、オーエンはブーツを脱いで部屋に上がる。そう言われれば、近々行事があるらしいということはなんとなく察していた。けれどいつやるかまでは興味がなかったし、双子に言われるまでハロウィンという単語も知らなかった。
とはいえカインがあまり驚いてない風なのが面白くない。台所の方に向かう恋人の腕に手を絡めて、オーエンはおねだりをすることにした。
「お菓子はないの? それとも悪戯して欲しい?」
「菓子ならおまえが常備してるのがあるだろ?」
「
……
たしかに
……
」
あっさりと躱されて、なんだか思っていたのと違う、と唇を引き結んだオーエンに、カインは笑った。
「悪戯も大歓迎だけどな。ちょっと待っててくれ」
「
……
?」
カインの背中を見ながら、オーエンは首を傾げた。『待っててくれ』というカインの言葉に、既視感を覚えたのだ。それは、玄関の前で聞いた言葉で、その時はくすぐったいと気持ちが変に動いた。けれど今は、さっきよりもドキドキする。むしろこれがいつもどおりだったはずなのに。ぼんやりと考えながら突っ立っていると、カインが振り向いた。クッキーが乗った皿と、マグカップを手に持っている。
「うお、なんだ。座って待ってれば良かったのに」
「ああ、うん」
マグカップの中身はココアだった。受け取ろうと伸ばした手を避けられてムッとすると、カインがまた笑う。そのままテーブルの上に皿とカップを置かれたので、オーエンは大人しくソファに座った。クッキーを一つ手に取って、口に放り込む。おいしい。
その様子を、カインにずっと見つめられていることに気づいて、オーエンは居心地が悪くなった。
「
……
なに?」
「いや、好きだなと思って」
その言葉を、カインがあまりにも愛しげに紡ぐから、オーエンの心はまた跳ねる。喉が乾いて、ココアを口に含んだ。物足りなくて一気に飲み干す。
「おかわりは?」
「
……
いる」
本当は要らない。だけど、カインの視線から逃れたかった。溶けたような甘い視線や言葉に、耐えられなくて。
「なぁ、オーエン」
名前を呼ばれただけなのに、オーエンはびくりと体を震わせた。声を意識し始めたらもうダメだ。耳から入る言葉に身体中を犯されているみたいで落ち着かない。
「トリックオアトリート」
カインが呟いて、オーエンの隣に座る。意識しすぎて挙動が可笑しいオーエンをからかうように、肩に腕が回った。まるで生娘みたいに硬直してしまう。
なんで僕からお菓子を貰えると思っているの?
そう言いたいのに、熱い手のひらをしているカインの目的がそちらではないことに気づいてしまって、どうしようもなくて。苦し紛れに双子に持たされた土産に手を伸ばした。中を確認すると、それはお菓子ではなかった。獣の耳が着いたフードに、背中側にふさふさのしっぽがぶら下がったパーカーである。
「
……
」
あの野郎、とオーエン双子を呪った。
不機嫌になった恋人をよそに、カインは手を叩いて笑い、それから嬉しそうに着ていたトレーナーを脱いで、黒いタンクトップの上からパーカーを羽織ってフードも被る。「どうだ?」とお伺いを立ててくる彼は、大きい犬みたいで可愛くて、非常にムカついた。
「お揃いだな」
カインは言って、部屋に来てからずっと着っぱなしだったオーエンのローブを脱がせた。しょうもないので隠していたかったが、どうやらバレていたらしい。フードの下からぴょこんと獣の耳が飛び出す。腰からちゃんとしっぽも垂れている。
「悪戯してもいいか?」
「それって許可をとるものなの?」
「それもそうか」
カインは口を大きく開けて、オーエンの首筋に噛み付いた。びくりと身を竦ませるが、痛みはやってこなかった。じゃれてくるみたいに舐められて、甘噛みされる。ぺろぺろと首から顎、頬を舐められて、唇を吸われる。
「んっ
……
」
「この耳としっぽ、猫、じゃないよな。二人とも。犬?」
「たぶん、狼
……
」
「ああ、なるほど」
カインの手が、オーエンの三角の耳をくすぐって、しっぽをするりと掴むように撫でる。この装飾品には、神経は通っていない。オーエン自身に触れているわけじゃない。なのに、感じ入ったように体が跳ねた。
「気持ちいいのか? 耳としっぽ」
「きもちいいいわけ
……
っ、んっ」
「でも、ここ、反応してる」
「ひゃっ
……
」
僅かに兆しを見せている場所に触れられて、オーエンは悲鳴を上げた。触れられただけなのに、期待していたせいでどうにかなりそうなくらい気持ちが良かった。
「あ、ぅ」
がぶがぶ首や肩を噛まれ、オーエンは怯えるように震えた。耳としっぽが見えるせいか、捕食されているような気分になる。それはある意味間違ってない。
カインはその甘い肌を舐めて、快感に身構える体をソファに押し倒した。息を吐く唇を甘く噛んで舌を差し入れる。行儀よく並んでいる歯列をなぞって、舌を絡めて、ちゅう、と吸い付いてから、唇を離した。
すっかりカインに溶かされた表情のオーエンも、カインのタンクトップの上から胸や腹の筋肉に、艶めかしく触れる。カインの指がキスで濡れたままの唇を拭うと、オーエンの赤い舌がちろりと指を舐めた。カインの目に獲物を狙うような獰猛な光が宿ってオーエンは目を細める。
「だめだよ。お菓子みたいにどろどろに甘やかして」
今にも食い散らかして来そうなカインを、オーエンは甘い声でたしなめる。けれどそんなの逆効果だと言うように、カインは細い体に食らいついた。気持ちまで野生に近くなってしまったのか、目の前のご馳走に欲望が抑えられないようである。
「オーエン、止められないかもしれない」
「きみが止まれたことなんてあった?」
カインはオーエンの薄い胸に鼻を擦り寄せた。甘い香りは、オーエン自身の匂いだろうか。嗅覚も敏感になったような錯覚。やっぱり格好だけでなく、中身まで獣になってしまっている。愛しくて大事にしたいのに、優しくしたいのに、なんだか、今は、
「
……
犯したい」
「悪い子」
余裕なくオーエンの肌に吐息を吹きかけると、彼の手がカインの頭を撫でた。
「いいよ。なら、けだものみたいに後ろから犯す?」
オーエンは上半身を起こしてカインに背を向けると、腰からベルトを引き抜いてスキニーを見せつけるようにずり下ろした。カインはその細腰を掴んで引き寄せ、臀部を高くあげさせてやる。
「わふ」
ぽすん、と顔をクッションにぶつけながら、オーエンは後ろ手でそろそろと自分の尻を引っ張って入口を晒した。自分から言い出したのに恥ずかしくなってしまったのか、クッションに顔を埋めたまま声を封じてしまう。髪の隙間から覗く本物の耳がピンク色に染まっていた。
カインはそんな恋人の痴態に興奮を覚えながら、指を舐めて濡らし、晒された穴の淵をなぞる。ひくひくとモノ欲しげにしている場所に指をゆっくりと埋めていき、熱い体内を優しく犯す。
「オーエン、顔を上げてくれ。声が聞きたい」
思い吐息を零しながらカインが呟く。オーエンは首を横に振って、クッションを抱く手に力を込めてしまった。カインは眉を下げて桃色に染まったうなじに唇を寄せた。
「寂しいな」
「
……
っ」
衣擦れの音だけが響く空間で、カインがポツリと落とした言葉に反応しながらも、オーエンは沈黙を貫いた。そのうなじにぬるりとカインの舌が這う。背骨や肩甲骨の形を確かめるように唇を動かしながら、器用に中を犯す指も増やす。オーエンの体は快感に震えていた。
「入れてもいいか?」
唇を背中に押し付けながら呟くカインの声は、びりびりとオーエンの内側に響く。
「は、やく。
……
いれて」
熱に浮かされた真っ赤な顔が振り向いて、余裕なさげなオーエンの唇がわなないた。自分の先走りで濡らした欲望の塊を、すっかり熟れた体に押し付けると、オーエンは無意識なのか、逃げるように腰を下げた。それを無理矢理引き寄せて、滾った楔を打ち付ける。
「っん、ぁ
……
!」
「っはあ
……
、オーエン
……
」
その後は、獣の交尾のように腰を振った。いつもと違う空気に、余裕なんかなくなる。声をクッションで抑えながらも、オーエンは雌のように腰をくねらせてカインの興奮を煽ってくる。
本当に孕んでしまえばいいのに。
カインは思った。オーエンはいつだって逃げ道を探している気がする。カインの気持ちが少しでも離れたと感じたら、傷つく前に全てをなかったことにするだろう。そうさせてしまいそうなくらい、まだ、足りない気がする。与えても与えても、心の奥にまで届いてない気がする。
この、カインの中にある重たい程の愛が。
「っは、う、
……
っんん!」
気づいたら、ビクビクとオーエンの体がひっきりなしに震えていた。構わずに体の奥を何度も暴いた。オーエンから悲鳴が上がる。
「あ! っふ、ぁん! いま、いった、だめっ、とまって
…
ぇ!」
ぎゅう、と精液を搾り取られる感覚に、快感と同時に安心感を覚える。でも、足りない、もっと。確実に、彼を縛り付けるには。
「ひ!? あ、やら! また、いくの! ぅ
……
っくるし
……
、ぐ、
……
っんん!」
逃げようとする体を引き止め、貪る。涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔が必死にこちらを振り向いて懇願している。その仕草は、ただ征服欲を満たすだけだった。
「あ、ぁんっ
…
や、あっ! っん゛、まっ、て
……
♡ いってぅ♡ また、いってうから、まって! ふ、は、っぁう!♡」
良いように揺さぶられてめちゃくちゃに犯されて、オーエンは過ぎた快感に溺れることしかできない。受け止めきれないと、口から悲鳴とも喘ぎともつかない文句が溢れる。ただ、それはきっと嘘だ。まだ、余裕があるはずだ。もっと、なにも分からないくらいに乱れて、求めて欲しかった。
「すきだ、愛してる、オーエン
……
!」
「ひあ♡ ふ、ああああっ♡♡♡」
ありったけの愛を囁いて、どろどろにとろけた体の中に熱を注ぎ込む。はぁ、はぁ、と荒く呼吸をしながら、ぐちゅぐちゅとオーエンの中に自分の種を押し込むように腰を揺すった。「あ♡」とオーエンはぐったり脱力しながらも、だらしなく開いた口からかわいい声を漏らした。そこから楔をゆっくりと引き抜く。その刺激だけで、オーエンはまた軽くイったようだった。
「ふ
……
ぁ♡ あっ、ん、もう、だめ
……
っ!」
未だに敏感な熱い体に触れると、オーエンは体を縮こまらせて拒絶を示した。構わずに抱き起こして、そのまま腕の中に閉じ込めて、キスをする。
「ふっ、んむ
……
、ぁ、ン」
応える気力もないのか、オーエンはされるがままだった。カインの舌に好きにされ、目を蕩けさせている。そのぼう、としている瞳を見つめていれば、じっと見つめ返されて、やがて我に返ったのか舌足らずな口を開いた。
「ん
……
なあに
……
?」
「足りないなぁと思って」
「はぁ
……
? もういらないよ。じゅうぶん
……
」
「いらないなんて言うなよ」
カインは拗ねたようにぎゅうとオーエンを抱き竦めた。こんなに近くにいるのに、何故か、遠い。オーエンはカインのなんとなく寂しげな雰囲気を感じ取ったのか、何も言わずにカインの行動を受け入れる。心做しか、パーカーの獣の耳もしょげている気がして、オーエンはカインの頭を撫でてやった。
「日付が変わるまでこうしていたい」
「
……
今日は随分甘えん坊だね」
オーエンは微笑んだ。さっきまであんなに乱れていたのに、もう情事の余韻がほとんど残っていないかのように。それがカインにとって寂しく感じられてしまう。
たぶん、不安なのかもしれない。
日付を跨いだら、言いたいことがあったから。最初、誘いを断られた時はなんとも思わなかった。気づいてないんだろうなと微笑ましく思った。びっくりさせてやりたいとも思った。だけど、いざその時になると、怖いのだ。今まで与えたカインの愛は、きちんとオーエンに伝わっているだろうか。届いているだろうか。
明日は11月1日。この日はオーエンにとってどんな日なのだろう。今、折角穏やかな笑顔を見せてくれているのに、むしろその顔を凍りつかせはしないだろうか。
『誕生日、覚えてない』
自分が生まれた日を覚えてないなんて、カインは想像もしたことがなかった。母親が腹を痛めてまで産み、ここまで育ったことを喜んでくれて、祝ってくれる日。カインの親は、未だに誕生日には祝いの言葉とプレゼントを贈ってくれる。カインも親の誕生日には感謝を込めて祝う。それが当然だと思っていたし、自然とそうなるものだと思っていた。
特別な日にしてやりたいのに、オーエンの喜ぶ顔が上手く想像できないのは、オーエンがなにも望んでいないのが分かるからだ。幼い頃の彼は、そんな些細な幸せすら、望むことを許されなかったのかもしれない。それを勘違いしたまま、今日まで生きてきたのかもしれない。
「カイン?
……
泣いてるの?」
ふと、オーエンが疑問を浮かべた。カインが泣く理由など、彼には一生理解できないかもしれないと思うと、また泣けてくる。オーエンはからかうことすらしなかった。ただ静かに寄り添って、お互いの体温を感じるだけの、なにもない時間を過ごす。
「
……
おまえが泣いてる理由は、僕にはわからないけど」
言葉でハッキリと言われると、ざっくり傷つく。カインが思う以上に、オーエンはなにも思わないのかもしれない。なにも思わないことで、心を守っていたのかもしれない。
もう、そんなことする必要ないのだと、期待していいのだと、どうやったら教えてやれるのだろう。
「僕が今どれくらいきみのこと愛してるかも、おまえにはわからないんだろうね」
まるでこれ以上ないほど満たされたような声音に、カインは顔を上げた。オーエンはいつもの意地悪な笑みを浮かべて頬を撫でてきた。
「なんだ、泣いてない」
「
……
誰も泣いてるなんて言ってないだろ」
「でも、なんか落ち込んでたでしょう?」
「ああ。ちょっと怖くなってた」
「どうして?」
「おまえの意地が、悪いから」
「なにそれ」
オーエンは楽しそうに笑った。そうだ、彼は人が怯えていることに興奮を覚えるタイプの人間だった。
ほんの少しだけ、安堵する。ここに確かな愛があるのなら、何があってもきっと大丈夫。大丈夫にしてやる。カインはそう思った。
「何が怖かったの? 僕に教えてよ」
「だめだ。まだ内緒」
「まだ? いつか教えてくれるの?」
「あと一時間後くらいかな」
「今教えろよ」
心底意味がわからないと、オーエンは顔を顰める。
ああ、本当に意味がわからない。とカインは苦笑した。恋人の誕生日を祝うのが怖い、なんて。けど、いらないなんて、もう充分だなんて言わせない。
嫌な記憶なんて、思い出させないくらい。
今の幸せを、これからも思い出させるくらい。
これからの思い出を大切に想えるくらいに、なればいい。
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