ツキシキ
2023-07-01 22:24:00
38840文字
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★悠遠物語まとめ

3作品。二次創作。原作ネタバレ前提。


わるいよいこにいいことを(エル×ピア)


※見ようによってはほんのりと性的
____________



 パン、と想像以上に小気味よい音が鳴った。そこで俺も気づくべきだったのだろう。
 本当は背中を叩いたはずだった。ちょっとしたドジでミスをしたピアに対する、軽い喝入れのつもりだった。目測を誤ったのは俺が椅子に座っていたせいで、その過ちにすぐ気付けなかったのは俺の目が適当なところを向いていたせいだ。つまるところとんでもなく俺はうかつだった。

「ひゃう!?」

 ピアのすっとんきょうな声がしても、俺はなお気づかなかった。思い浮かんだのは、大げさな奴だなというくらいなもんだった。ただ、手のひらが少しの違和感を訴えていた。打ちつけた拍子に弾むような感触。気づいていたならさっさと手を退けるべきだったと今では思うが、大馬鹿者な俺はここでさらに間違いを犯してしまった。想定と違う手触りに戸惑った俺はあろうことか、確認するように指先を滑らせてしまったのだった。

っあ」

 ピアの口から何かを堪えるような吐息が漏れた。それでようやく俺は視線を正面に向け、自分の手の位置を確認した。
 尻。俺の手はピアの背ではなく、尻に添えられていた。

「っ!?」

 慌てて手を離し勢い余って立ち上がれば、椅子が抗議するかのように大きな音を立てた。誤魔化すように口を開きかけて、振り向いているピアと目が合った。真っ赤に染まった頬、熱を帯びて潤んだ瞳、物言いたげに半開きになった唇、か細く漏れる吐息。その表情はとても、とても日常的にして良いそれではなく─

「じゃっ、じゃあ次はミスすんなよ!」

 ────情けないことに俺は、謝罪すらせずその場から逃げ出したのだった。





 何かあるとここに戻ってきてしまう辺り、つくづくこの場所は俺の家なんだなあと思う。
 勢いで階段を駆け下り、着いたのは自分の拠点だった。猛ダッシュをしたせいで、俺の心臓はばくばくと激しく脈を打っている。だが身体を動かそうと、胸の内で暴れている後悔や羞恥は消えてくれなかった。高鳴る心臓をそのままに俺は一人でその場を行ったり来たりする。

 ピアが追いかけてこなかったのは幸いだった。少なくとも混乱して追い打ちでわけのわからないことを口走るような心配は無くなる。
 しかしこうなるとまた厄介だ。今度は、なんですぐ謝らずに逃げちまったんだ、なんて煩悶に悩まされる。
 今からでも遅くないと勇気を出して立ち上がりかければ、脳裏に浮かぶのはあのピアの顔だ。これまでの俺達には無かったはずの、見るのも躊躇われるようなあの表情。ぐっと足が止まる。思い出してしまったら糸を手繰るようにどんどん記憶が零れ出てくる。
 しまいには手のひらにあの柔らかな感触が蘇ってくるものだから、俺は堪え切れず壁をぶん殴った。びり、とした衝撃が腕全体に伝わる。この痺れで上書きされれば良い話だが、俺の手のひらはそれでもあの感触を忘れられないままでいた。なんてしつこいんだ。

 …………手が当たった瞬間の、柔らかい肉が震える感触。

 慌てて首を横に振る。こうやって思い出すからいけないんだ、とっとと忘れるべきだ。わかっているのに、忘れようとすればするほど意識に色濃くその感覚が呼び覚まされていく。
 一時的に記憶喪失にでもなれれば。なんて、これまた逃避じみた考えと共に頭を壁に打ち付けた。



◇◇◇



 そうして、色々試しはしたものの。
 俺はあの衝撃的な体験を何一つ忘れられないまま、廊下につっ立っていた。このまままっすぐ進めばポルトフィーナ、ひいてはピアのところに着く。結局ピアを避けて生活するだなんてことは不可能なわけであって、悶々とするくらいなら早く謝ってしまったほうがましだ。頭ではそうわかっているのに、俺は二の足を踏んでいた。
 そもそもこんな状況慣れてないんだ、と誰にともなく言い訳する。
 小さな子ども相手の接し方ならわかる。泣いた少女のあやし方やキレた少年の宥め方だって自信があるつもりだ。が、それが男女を意識するもやもやした年頃相手になると、どうも俺は不器用になってしまう。どこまで踏み込んで良いものかわからず、対応が邪険になったり雑になったりすることはしばしばだ。

…………ん」

 それでも、ピアとはうまくやっていけた。あいつも俺と同じくあまり男女を意識したがらないようだったし、俺はあくまで師匠としていれば良かった。それにピアは神経質な女らしい女と違って、男がどうだのナンパがどうだのと言うことはなかったから、変な気を回す必要もなく楽に過ごせた。
 だが。そんな気楽な関係を、俺のうかつなこの手が、この手がぶち壊してしまったのである。責めるように自分の手を見るが、そこにはただ皺が刻まれているだけだった。

「エルさんってば!」
「どわぁあああ!?」

 ふいに耳が呼び声を捉えて、思わずその場で飛び上がる。見れば、ピア本人がそこにいた。そのぽかんとした表情で、俺は大げさすぎる反応をしてしまったことに気づく。

「ど、どうした?」

 誤魔化すように飛び出た言葉は少々とんちんかんだった。そんなことを言う間があったら先に謝るべきだというのに。改めて口を動かしかけたところで、先んじてピアが答える。

「どうしたはこっちの台詞だよ、もう。ずっと話しかけてるのにぼうっとしてるんだもん」
……すまん」
「もしかして体調悪いの? えと、お薬は……
「あー、いや、大丈夫だ。そういうのじゃない」
「ほんとうに? 無理はしないでね」
「お、おう。ありがとな」

 俺の感謝にピアはにっこりと笑って返す。初めは訝しげだったピアもそれで一応納得してくれたらしい。事務的ないくつかを告げてから、何事も無かったかのように戻っていった。



 ……すらすらと。驚くほどいつも通りの会話だった。あえて挙げるなら、ピアが少しだけ早口だったくらいか。けれど、それも怒りを押し隠してという印象はなく、どちらかといえば単に時間に追われているだけのように見えた。ともかく俺の粗相は欠片ほども話題に上がらず、同時に俺も謝る機会を失ってしまっていた。
 俺が気にしすぎってことなんだろうか。と、自分に都合のよい考えを持ち出してみるも、やはりそれは少し楽観的すぎるとも思う。だって、なあ。尻だぞ。駄目だろ。
 とにかく俺は改めてピアを追って、ポルトフィーナの作業場に立ち入った。

「ピア!さっきは――――
「きゃっ!!」

 気合いの入り過ぎた俺の声が部屋中に響いた直後、パリン、と何かが割れる音がした。
 机の上に硝子の破片が散らばりきらめく。薬瓶が割れたらしい、と、認識する間にピアが無造作に破片へ手を伸ばした。何にも覆われていない素の指先が、鋭い破片に。

「っ、バカ野郎!」

 思わずピアの腕を奪う。指先を確認するが、特に傷や血は見当たらない。なんとか破片に触れる直前で止められたようだ。思わず深く息を吐く。続いて机の上を見分し、下手に結合する物質や影響のある混合物がないか確認する。幸い複雑な調合ではなかったらしい。すり潰しかけた赤い実が鉢に入れられているくらいだった。下手に落とすことのないよう、空いた右手で机の中央に鉢ごと移動させる。そしてピアの服に目をやって、妙な薬品のかかった痕が無いか確認する。が、そもそも机に液体が散っていない時点で薬瓶は空だ。おいおい、と自分で突っ込む。どうやら俺もけっこう焦っていたらしい。ついでに足元に視線を向けたが、落ちた破片を踏んづけたなんてことも無かったようだ。
 と、ここまで確認したところで。

「エ、ル、さん」

 妙に途切れ途切れの声を聞き、顔をあげた。赤い頬が真っ先に目についた。

「え」

 俺までつられて、顔面にかっと熱が溜まる。すると手のひらまで妙に熱くなって、ふと、握りっぱなしのそれに気づく。左手に掴んだままのピアの腕。吸いつくような肌と、しなやかな細さ。

「わ、悪い!」

 慌てて手を離したが、それでもお互いに頬の熱は消えてくれない。そもそも俺は腕を掴んでいたこと以上に謝るべきことがあったはずで、ええと、何だったか。馬鹿と言ってしまったことか、気安く腕を握ったことか、ああ違う、尻が。
 今はもう何も握っていないはずの手のひらがまたあの柔らかさを思い出そうとする。握りこぶしをつくって誤魔化し、俺は懸命に脳みそを動かした。なんて言えばいいんだ。尻を触っちまって悪かった? 馬鹿か。

「あ、あのっ」
「っ!」

 ピアが改めてあげた声は控えめだったにも関わらず、俺には死刑宣告のように聞こえてしまう。思わず身体を硬直させてしまった。所在なさげにしていたピアも、俺の過剰な反応で緊張を煽られてしまったらしく、これまた身体を硬くする。なんでこういう時ばかりシンクロしてるんだ、俺達は。
 俺は無理やり表情筋を動かして、何でもない顔を装った。続きを促すように見つめれば、ピアが再び言葉を続ける。

「とりあえず、ここ、掃除しなくっちゃ、だから」
「あ、ああ。そうだな。箒探してくるわ」
「うん……

 いつも通りの会話が何故か妙にぎこちない。たった二言三言の合間がとてつもなく気まずい。俺は居た堪れない気持ちを引きずって、箒を取りに行った。



◇◇◇



 掃除自体はすぐに終わった。元々、破片の散った範囲もそう広くない。二人がかりで黙々と取り掛かればなんてことない作業だった。
 手に箒をもっている間は掃除という大義名分に頼れたが、終わってしまえばそうもいかない。作業中も角の立たない謝り方や場の切り抜け方を必死に考えていたが、混乱したままの頭では当然、見つかるわけもなかった。
 そして、逃げ道を失った俺達はまた気まずい雰囲気の中で立ち尽くしていた。結局俺はもごもごと唇を擦り合わせるだけで何も言えずにいる。どうにもならない。
 ピアの表情が気になって、ちら、と、視線を向ける。

「あ」

 と。逸らしようがないほど丁度良いタイミングで目が合い、どちらともなく声をあげた。直後、ピアの目が何かを決意したかのようにまっすぐになった。つられて俺もつい姿勢を正す。何かが飛び出す予感。その何かがわからないまま、態度だけで覚悟を決めた。

「た、叩かない、の?」
「はっ?」

 が、その気構えは軽く飛んでいってしまった。
 叩く、と来れば思いつくのは当然、延々と悩み続けたあの迂闊な行為しかない。
 ピアのその言葉が、例えば怒りに満ちた視線や刺々しい口調と共に吐き出されたならば、俺は覚悟通り悪かったと一言謝れるはずだった。あるいはピアが悲しみや困惑で言っているのなら、あれは俺が馬鹿だったと潔く頭を下げることもできたはずだった。
 けれど、その表情は。窺うような眼差しと、何か言いたげな唇と、ほんのり赤く色づいた頬と。
 似ている。俺がやらかしてしまった時のピアを思い出す。今まで見たこともないその表情に俺は戸惑って、結局深く考えずに蓋をしてしまったが。
 黙ったまま思考を回転させる俺に、ピアは言い訳をするように続ける。

「あの、私また、失敗しちゃったから……
「お、おう」

 ひとまず頷きはするものの、未だにピアの言わんとすることの先は見えないままでいる。いや、見えないふりをしたいのかもしれない。気づいていながら俺は懸命に蓋を重ねようとする。

「えと、あの、ほら。昔お母さんが、失敗したらお尻ぺんぺんってしてきてね。それで、だから、えっと。あっでも、エルさんはお母さんとか……

 ピアはたどたどしく話を続ける。その言葉が暗い方向に詰まりかけるのを察して、俺は補足を入れようと口を開く。

「あーいや、俺には師匠がいるからな。わかるぞ、俺もされたことがある。あの人も容赦なくてな、参ったもんだよ」
「そ、そっか、そうなんだ……うん」

 なんてこたない、日常会話だ。そのはずだ。だというのに、ピアの様子はとても普通とは言えず挙動不審だった。その裏に言いたいことを隠して、それでも堪え切れずにいっぱいいっぱいになっているのが嫌という程伝わってきた。俺だって今、普通に振る舞えているのかもうわからない。

「だっだから!」

 ピアが身を乗り出すようにして言う。今、あいつの堪えてきたものが確かに決壊しつつある。無意識に握っていた拳に汗が滲む。

「た、叩いてくれるのかなって……

 ただの疑問や確認とは違う、期待が見え隠れする声だった。だがピアも言っている途中で我に返ったのか、語尾は小さく消えていった。そのまま気恥しそうにもじもじと俯いてしまう。
 さすがにここまでくれば俺も察しがつく。ピアの言葉はびっくりするぐらい積極的に、それでいて遠まわしに望むことを教えてくれた。だから俺も、ピアが用意した言い訳を崩さないように気を遣わなければならない。せっかく、互いの欲が一致しているとわかったのだから。

 逃れようのない一言を口に乗せようとして、俺の動悸は激しくなっていく。ここはもう俺が言うしかない。言うべきこともたぶん分かっている。それでもなお、唇が震える。言ってしまえば最後、今まで丁寧に蓋をしてきた何か、目に見えない決定的な何かが、崩れる気がして。
 俺はいつの間にか溜まっていた唾をごくりと飲み下した。それで心は決まった。

「ピア、そこの壁に手ついて立て」
「ふぇっ!?うっ、うん」

 一瞬、ピアの目が輝いたように見えたのは気のせいじゃない。唐突過ぎるはずの俺の言葉に、ピアは素直に従った。そのせいで、俺達の間に暗黙の認識が出来上がってしまったことを強く実感する。この後俺がどうするのか、ピアはわかっている。
 壁に向かって立つピアの姿を改めて見つめた。あちこち歩き回っているのに、腕や脚は俺よりずっと細い。それでもワンピースの裾から覗く太股はやわらかそうだ。さらに視線で上を辿れば、布越しでもわかる確かな膨らみがそこにあった。以前は意識する前に触れてしまった、あの柔らかな部分。これから、今度はきちんとそのつもりで触れる。身体中が脈打って、何故だか妙に耳が熱かった。
 動かない俺を不思議に思ってか、ピアが振り返る。震えるまつ毛が俺を誘う。思わず、手が動いた。

「っ、ん!」

 パァン、と予想していた以上に激しい音がする。瞬間、目を瞑って痛みに耐えるピアの表情は、疾しい気持ちを呼び起こさせるに十分だった。悪かったと抱きしめてやりたいような、もっと手酷いことをして泣かせてやりたいような。相反する感情が溢れ出て、出口を探して、荒い吐息になって洩れ出る。

「エルさん……

 色づいた唇が開き、聞いたこともないような声が俺を呼ぶ。うっすらと潤んだ瞳が乞うように俺を見る。だから、俺はもう、躊躇わなかった。

「あっ! ん、んっ、やっ、あぁ……

 何度も何度も、連続して叩く。手のひらがひりついてもなお、形の良いそこに打ち付けてやる。柔らかい肉が弾む度にピアが声をあげる。悲鳴のようでいて、裏に隠しきれない悦びが混ざっている。鈍感な俺の耳でわかるくらいだ。ピアはどれだけあからさまに身を震わせているんだろう。

 続く衝撃にあわせて、ピアの余裕が無くなっていくのがわかる。平らに押し付けていたはずの手は軽く握りこまれ、何もない壁にすがりつくように、指先がずりりと表面を擦っていた。こちらを向いていた顔も今は正面に向き直っているが、見えなくたってどんな表情をしているのか想像はつく。
 途端、背筋が粟立つような感覚に襲われ、それが脳天を突き抜けると同時、俺はことさら力を込めてピアをぶっていた。

「っ、ひゃ!」

 ピアが間の抜けたような声を漏らす。今までよりも大きな衝撃だったせいか、その声には驚きも混ざっていた。だから俺は本来ならピアを気遣って、やりすぎて悪かった、なんて言って手を休めるべきだと。わかっていて、正反対のことをした。



 ふと、こいつはこれ以上の刺激を知らないんじゃないかと思いつく。ピアは成熟している身体に反して恋愛事の話題も無く、どこまでも純情だ。だからこそ、育った身体が今まで遣る瀬無い煩悶を感じていて、俺がうっかりそれを解き放ってしまったんじゃないのか。それでこんな子どもにやるような行為に快感の萌芽を感じとってしまって、回りくどくはあっても、ねだらずにはいられなかった、とか。
 無知な子どもを汚すような考えが次々と湧いて出てくる。互いの吐息や、熱される身体中に、脳まで熱暴走を起こしていくようだった。

 もう駄目だ、これ以上はできない。
 俺の脳みその理性的な部分が焼き切れる前に、止めなければ。そうやってギリギリの自制をかけようとするのに、手を緩めればピアはまたこちらを振り返る。痛みで潤んだ瞳が切なげに俺を見る。その、眼差しが。
 俺は強く目を瞑って、それでも堪え切れない何かを掌の熱にのせた。

「っ、ああ!」

 とびきり力を込めた一発で、終わりの合図にした。それが伝わったのか、あるいは膝が持たなくなっただけか、ピアはその場にへたり込む。けれどすぐに腰を浮かせて、半端な中腰の姿勢になった。浮かんだ疑問符は、ピアが背中を見るようなそぶりを見せたことで消える。座ろうとしたら、叩かれ続けた尻が痛むのだと。気づいてしまったらまた身体の熱が増した。
 大丈夫か、と言うのも違う気がして、かける言葉を探す。そこでピアの失敗を叱るという大義名分があったことを思い出して、それらしい台詞を言うことにした。

「反省、したか?」
…………

 ピアは目尻に涙を溜めて、どこか遠くを見るような蕩ける眼差しで俺を見た。そして少し間を開けて、数度荒い息を零してから、ようやく、

「ごめんなさい……

 と言った。
 まだ、と言われなかったことに安堵もしたし、少しばかり惜しくもあった。それでもこうしてピアからも終わりの合図が出された以上、俺は止めるしかない。真っ赤になった手をそっと降ろす。手首に残った疲労感で、腕はいつもより重く感じられた。それでも、叩いた分だけ痛んでいるはずの手のひらの、その熱は不思議と心地よかった。



◇◇◇



 こうして奇妙で濃密な時間が終わり。
 翌日は、何事もなくいつも通り過ぎ去り。
 翌々日は、のんびりと平和な一日だった。
 そして、その次の日。

…………

 到底間違えようのない初歩中の初歩の錬金だった。俺だってまさかと思っていたし、あんな特殊な状況は二度と起こらないと思っていた。

「なあ、ピア」

 おまえわざと失敗したよな、と。続けるはずの言葉はぐっと留められた。
 とろんと蕩けた目つきと、よくない悪戯を覚えてしまった子どものような照れ混じりの微笑み。
 その、普段見ることの無い表情をもう一度見て見ぬふりできるほど、俺は欲に強いわけではなかったので。

「失敗、しちゃったから……

 隠しきれない期待の入り混じった声が俺にねだる。
 早いところ、俺達共通の言い訳をお仕置きからご褒美に変えないといけない。そう思いながら、俺はまた、幼稚でいやらしい行為を始めるための言葉を口にするのだった。




~END~