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黒竹
2022-05-30 21:05:34
20516文字
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ビブリオテイクは狭すぎる
【ルカミク】現パロ。
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それから二週間、ミクは図書館に来なかった。メールを送って理由を尋ねてみても、体調が悪いとか課題が終わらないとか色々な言い訳をしてくる。嘘なことが丸判りだ。
よもや想いを自覚した途端に想い人と会えなくなるとは思わなかった。これまでは他愛ないやり取りをしていたメールも、彼女からはぱたりと届かなくなった。電話はなんとなくハードルが高くてかけられない。こうなると想いは募るばかりである。
ずぅんと沈んだ気持ちを抱えたまま、それでも仕事はしなくてはならない。ルーチンワークをこなしている中で、久しぶりにメイコと顔を合わせた。
「シャッポさんからメモのこと聞いたんですって?」
こちらの顔を見るなり言ってきたメイコに頷きかける。
「じゃあ、宝探しに加わったの? あなただといつでも探せるから有利じゃない」
「いえ、ここにいる間は仕事中ですから。お二人の楽しみの邪魔はしませんよ」
「そうなんだ」
メイコとシャッポさんの力により、見つかったメモは十七枚に増えていた。ルカも見つかるたびに場所を教えてもらって収穫のおすそ分けをいただいている。
メモはカエルの話が増えていた。
「このところ調子が悪くてねー。全然見つからないのよ。もう飽きてやめちゃったのかしら」
「なにか新しい遊びを始めたのかもしれませんね」
「残念だわ。ここに来る目的のひとつになってたのに」
肩を落とすメイコ。けれどすぐに怪訝な顔になって、
「でも不思議なのよね。小さい子がやったにしては高いところにある本に挟まってたりしてて。台とか使ったのかもしれないけど、それにしても届かないような棚にあったりもしたのよ」
このへんとか、とメイコが手を伸ばす。ルカと同じくらいの身長である彼女が、伸びをせずにギリギリ届くような位置だった。「犯人は幽霊で、ふわふわ飛んでメモを入れてたのかしら」冗談口調でそんなふうに続ける。
「まさか」
「ま、ルカさんが整頓で場所を変えたんでしょうけど。平均身長でいえば、男の子なら中学生くらい、女の子だったら高校生になってないと届かないもの」
さして深い意味もなく呟かれたその言葉が、なんとなく引っかかった。
若者の来ない図書館。幼児はおろか、中高生だってほとんど訪れることのない、静かな古書館。
学生はもう一つの大きくて新しい図書館に行ってしまって、ここに何度も来るような酔狂は一人しかいない。
「おや、女性二人でなんの話をされているのかね」
思索にふけりかけたところを渋い声に断ち切られた。ハッとしてそちらを向くと、シャッポさんが帽子に手を当てて挨拶してきた。
「あら、お久しぶりです。例のメモが見つからないってルカさんに愚痴ってたんですよ」
「そういえば最近は見かけないね」
「もうやめちゃったのかもしれないって話してて。シャッポさんも見つけてませんよね?」
シャッポさんが帽子を撫でながら頷く。「今週は新しいのがなかった」ふむ、と不思議そうな表情で小首をかしげる。
「
……
先週。先週はどうでした?」
言われてメイコとシャッポさんが顔を見合わせる。
二人とも記憶を探るような仕草をして、「一枚だけあったかな」シャッポさんが代表して応えた。
小さな図書館といっても、蔵書数は万を数える。その中からヒントもなしに探すのだから、隠されてすぐに見つかるわけでもないだろう。数日か、あるいはそれ以上のラグがあるはずだ。
メモの話はいつの間にか広まっていて、二人以外の常連も、偶然見つけたりすると彼らに教えていた。総数にして
……
十五人ほどになるだろうか。メモが入れられるのは小説のコーナーにあるものだけだから、対象はさらに絞られる。
三、四日に一枚のペースで挟まれていたとして、彼らが見つけるのにかかる時間はどれくらいだろう。
先週の一枚は、いつ入れられたものだろうか。
「あの、すみません。メモを一度すべて回収させていただけないでしょうか」
「え?
……
ま、あたしらのものってわけじゃないし、職員さんが言うなら止める権利とかないけど」
「メモを入れていた子もやめてしまったようだから構わないんじゃないかね」
二人に頭を下げて、今までに見つかったメモをすべて手元に集めていく。記憶があやふやなものは二人が一緒に探してくれた。
十七枚がすべて見つかったところでそれを丁寧に重ねて折りたたむ。落とさないよう手帳のポケットにしまいこむと、ルカはそれを無意識に握りしめた。
メイコがあーあ、と呟いて、
「楽しみがひとつ減っちゃったわ」
「もうここには来なくなってしまうのかね。私はメイコさんと話せるのが楽しかったんだが」
「そんなわけないでしょ。ひとつ減ったところで問題にならないくらい、楽しみがたくさんあるもの。もちろん、シャッポさんに会えることもね」
老人は喉の奥で笑って目を細めた。
「メイコさんのような綺麗な女性に好かれるとは、私もまだまだ捨てたものじゃないな」
「そんなこと言うと奥さんに怒られますよー」
「無論、一番は家内だとも」
立ち話に疲れたのか、シャッポさんが手近な椅子を引いて腰かける。メイコとルカもそれに合わせて腰を下ろした。
シャッポさんは帽子を取ってそれを膝に置くと、幸福そうに思い出話を始めた。
「私と家内は職場結婚でね。親しくなってから弁当を作ってくれることになったんだが、これが美味くて。こんなにも料理上手な人と結婚したら毎日美味い飯が食えると、そう時間も経たないうちに求婚したんだ」
「あら、いいですね」
「ところが、実はその弁当は家内の母親が作ってくれていたんだ。当の本人は料理なんてからっきしで、一度は出汁の煮干しが入ったままの味噌汁が出たこともあった」
何十年も前の話だろうに、つい先日の出来事のような話しぶりだった。きっと色んな人に同じ話をしているのだろう。
それほどに、幸福な思い出なのだろう。
「奥さんに怒ったりしました?」
ルカの問いにシャッポさんは両目を大きく開けて、
「そんなわけがない。好いてる相手が一生懸命作ってくれた食事だもの、全部ぺろりと平らげたよ。料理上手じゃなかったが、家内と結婚して後悔したことなど一度もない。私が惚れて選んだ相手なんだからね」
「その台詞、今の子に聞かせてやりたいわ。やれこんな人だと思わなかっただの、家事はできて当り前だの、うるさいったら」
「
……
メイコさん、言われてるんですね」
「この業界、いきがってるのが多くてね
……
」
軽く疲れた顔をするメイコだった。
思い出話を聞きながら、ルカはこっそりと考え込んでいた。
彼の話は、なんだか他人事と思えなかった。
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