黒竹
2022-05-30 21:05:34
20516文字
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ビブリオテイクは狭すぎる

【ルカミク】現パロ。


 今日も今日とて本の整理をこなす。
 両手に本を抱えて、書架の空いた箇所に詰め込む作業を淡々とこなしている中で、ふと一冊の本が目にとまった。
 この間メイコが言っていた小説だった。知らない作家の知らない書名だ。何があるのだろうと気になって、それを引っ張り出すと表紙を開いた。
 特に目につくものはない。パラパラとページをめくっていく。と、中間に何かが挟まれていた。栞かと思ったが、つまみ上げてみるとそれは二つ折りにされたメモ用紙だった。
「なにかしら?」
 本をテーブルに置いてメモの中身を見ると、不格好な書き込みがされている。就学前の子どもが書いたように見える。字の大きさはちぐはぐで、ところどころ鏡文字になっていた。「あめの日のゆうがた、カエルさんが、ないていました」読み上げてみるがさっぱり意味が判らない。さて、なにかの暗号だろうか。
「これが宝物?」
 他に何かないかとすべてのページを調べてみたが、メモ以外には気になるようなものはなかった。子どもの手習いらしきこれを見つけて、どうしてメイコはあんなに喜んでいたんだろう。
「おお、おお。巡音さんも宝探しに参加するかね」
 後方から届いた声に振り向くと、例の老人、ミクがシャッポさんと呼んでいた彼がニコニコしながら佇んでいた。ルカは曖昧な営業スマイルで応じる。
「メイコさんに教えてもらったんですけど、これがどうしたんですか?」
「同じようなメモがいくつかあるんだよ。この前は私が先に見つけたんだがね、それはまだ見つけてなかった。今回はメイコさんに軍配が上がったね」
「はあ……
 シャッポさんはニコニコしたまま、ルカの手からメモを取り上げた。「そうかね、蛙が。一匹か、何匹かで合唱していたのかな」朗らかな口調でひとりごちる。まるで孫を目の前に話を聴いているようだ。
「それ、誰が隠しているんですか?」
「わからんよ。だから面白いのさ」
 口元を震わせてシャッポさんが語り続ける。
「ここは、言っては何だが人が少ないだろう。通っている連中は大抵顔見知りだが、小さな子どもがいる人なんておらん。そういう人は向こうの図書館に行ってしまうからね。あそこは託児室もあるから、そっちの方が便利なんだろう。もちろん一人で来るような子も見たことがない。誰がこれを仕掛けているのか私たちも知らんのさ。だからこそ、宝探しなんだがね」
「イタズラでしょうか?」
「さて。イタズラだとしても、本に傷をつけるでもなく、ただメモを挟むだけだから見逃してほしいものだけどね」
 「そうですね」ルカもその意見には同感だった。おそらく近所の子どもあたりが人目を忍んでちょっとしたイタズラをしているのだろう。ページを切り取ったり本に直接書き込んだりしない程度に分別は持ち合わせているようだし、シャッポさんとメイコの楽しみを奪うのも気が引けるので、ルカはそれを見なかったことにする。
「それにしてもこの子は、まったく字が上達せんな」
「まだ小さい子みたいですしね」
「しかしここ、『日』が漢字になっている。勉強したのかもしれんね」
 偉い偉いとシャッポさんが相好を崩す。ルカも懸命にメモへ書きつづっている子どもを想像して笑みをこぼした。シャッポさんはルカを巻き込むつもりなのか、「他のはあそこの棚と、向こうと……」今までに見つけたメモのありかを教えてくれる。
 シャッポさんと別れてから、やはり気になってしまい、整頓がてら教えられた本を一冊ずつ開いてみた。

『かぜをひいて、びよういんでちゆうしやをうってもらいました』

『カエルさんにあいさつをしました』

『うたをうたっていたら、おかあさんにうるさいとおこられました』

……カエルが好きなのかしら」
 見つめたメモは全部で九枚。そのうち五枚がカエルの話題だった。この季節は庭先にカエルが現れることも多いから不思議ではないが。馴染み(?)のカエルでもいるのかもしれない。
 微笑ましく眺めてから作業に戻る。図書館は慢性的な人手不足である。職員はルカと、上司に当たる責任者の男性が一人。つまり事務作業はすべてルカが受け持っている。回転率が悪いから時間に追われることはないけれど、だからといってさぼっていいわけではない。