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黒竹
2022-05-30 21:05:34
20516文字
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ビブリオテイクは狭すぎる
【ルカミク】現パロ。
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朱夏の景色はまばゆくて白い。朱にして白。あるいは青であるかもしれない。夏のイメージは固定されない。
紙の古い匂いがする。
この街に図書館は二つあって、もうひとつのは去年竣工したばかりの近代的な建物だった。対してこちらは年号が変わる瞬間を二度経験したオンボロ、あるいは老いぼれである。クーラー(エアコンなんて洒落たものはない。冬が来れば指がかじかんでポロリと落ちそうになる。)は精一杯に気を吐いているが、率直に言ってあまり役に立たない。
新刊は数ヶ月遅れが当り前で、図書館というか古書館と呼称した方がしっくりくる。
おかげでこんな時期だというのに、勉学に励む学生がペンを走らせる音も密やかなお喋りも聞こえなかった。時々、たった一人席についている老人が、読んでいる本のページをめくる音だけ、思い出したように耳へ届く。
巡音ルカがこの図書館に司書として配属されることになったのは、彼女自身の希望だった。
はっきりとした理由があったわけではない。ただここの前に勤務していた、高校のすぐそばに建てられた大きな図書館にいるのに疲れたのだ。平日も休日も、全身からエネルギーを放出するあの集団。黙々と自習する気配と、ひそやかに交わされる会話。それらにどうしても馴染めなかったのだ。
夏に似ている。固定されない自由の不安定が、すでに不安定でいることを許されなくなっている己にはある種、異怖の対象として映ったのだろう。
老人は安定していた。彼はここの常連だ。他にも数人、彼のような人々がいる。利用者というよりも、この図書館のファンとでも言いたい雰囲気の、古書館自身を愛している人たち。こちらは誇称である。
雑多な書籍を決められた順番通りに並べかえていく。そよ風のような気配が流れてきて、そちらを見やるとルカより少し年上の女性が入館してきたところだった。鮮やかな赤い髪の綺麗な人。こんな寂れたところにはそぐわない華やかないでたちなのに、彼女は自然と風景に溶け込んでいた。
目当てのものがあっての来訪ではないのか、ふらふらと脚の向くまま歩いていた彼女がルカを見つけて会釈してくる。それに応じるとそのまま話しかけられた。
「こんにちは。この暑いのに大変ですね」
両手に抱えた本を視線で示しながら言われ、ルカは小さく首を振る。
「暑いのは慣れましたから、そんなに大変でもないんですよ。メイコさん、今日はお休みですか?」
「先週までツアーしてたから、今週は充電期間。それからはまた忙がしくなっちゃうから、久しぶりにここでのんびりしたいと思って」
彼女は歌を生業にしている。誰でも知っているといえるほど爆発的な人気ではないが、そのポテンシャルについて有識者の評価は高い。
そしてここのファンの一人だ。
ルカと軽い挨拶を交わした後、メイコは一冊の本を抜き出して席に着いた。椅子を一つはさんで老人と水平に並ぶ。気まぐれに会話ができて、読書の邪魔にはならない。良い位置だった。
メイコと老人がひと言ふた言なにか話していたが、距離があるので内容は聞き取れなかった。けれど、二人の表情はなんだか楽しそうだ。祖父と孫ほども年齢が離れているはずなのに、同年代の友人のような気安さで笑い合っている。
と思ったらメイコが少し驚いたような、拗ねたような顔をした。いったい何を話しているのだろう。
あまりじろじろ見たり聞き耳を立てたりするのは失礼か、とルカは仕事に戻る。
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