ひさね
2023-09-02 20:41:17
8222文字
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納涼祭

夏が終わるそうなので書いたホラーっぽいの。少しだけグロめの気色悪〜い話もある。


(カキの話)
 ……シオンと同室だったときに、一度だけ不可思議なことがあった。
 昼下がり、彼女が古本屋に行って、一人で部屋にいた。そうしたら部屋の電話が鳴った。外線が繋がるタイプの電話だ。そういうこともあるのだろうと受話器を取ると、シオンの声がした。
「もしもし〜? シオンだけど。大事なこと言い忘れてたから、公衆電話からかけちゃった。ごめんね〜」
 緩るかな普段の声音だった。どうしたのか、と尋ねれば、少し気まずげに小さく息だけで笑うのも、よく聞こえた。
「最近、部屋のドアの前に偽物が出て、扉を開けるようにせがむらしいんだよね。宿屋のご主人とかケント曰く」
 どうやら、そのオカルトじみた話を伝えるためにわざわざ電話をかけたらしい。なるほど、根は真面目な彼女らしかった。
 一人、思案をくゆらせていると、
「だから、絶対開けないでね」
 真剣に電話越しの声が言う。
 その直後だった。
「わ〜、ちょっとドア開けて〜! 今、手が離せなくて」
 ドア越しにシオンの声がした。
 それでも電話は、まだ切れていない。その証拠に「ああ、開けたらだめだよ。ロクな目に合わないから」と耳元で語りかけてくる。ドア越しの喚き声に被せて、話しかけてくる。
 正直な所、不可解だった。彼女が二人もいるはずがない。
 だとすれば、非常に非科学的とはいえ、偽物がいるのだろう。そう、結論付けるしかない。
 だから、電話を切ってドアを開けた。
 そこには両手いっぱいに古本を抱えたシオンがいた。「買いすぎたよ〜」と言いながら部屋に入って、買ったものを一式、ベッド脇に並べている。これから読むところなのだろう、と思った。
 
 ……ドアを開けた理由? この辺りの公衆電話は人通りがそれなりにある所にある。昼下がりなら、多少の足音や人の声のざわめきや、環境音が入るものだろう。息だけで笑う声が、そうはっきりと聞こえるはずもない。
 それにシオンが電話をかけるときは、自分の名前を名乗ったら、相手の名前も確認する。間違えないように。