玲緒
2021-03-01 23:53:10
8466文字
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#sansterweek2021

Twitter企画#sansterweek2021に寄稿した小説のまとめになります。


Day 6: “Oh no, that’s not right

 最後の回廊から戻ってきて、食事もそこそこにベッドへと潜り込む。本当は眠たいだろうに、サンズは時間を惜しむように、頻りに話題を持ちかけた。他愛のない日常の会話に始まり、量子力学のこと、ジョーク、行きつけのバーのこと、弟についてや、昔の思い出話……
 添い寝をしてやりながら、尽きない話題に耳を傾ける。その都度相槌を打ちながら聞いていると、いつしか語りかけてくる声が小さくなり、次第に寝息へと変わっていった。
……やっと眠ったか……
 縋り付くように眠る小さなスケルトンを抱き寄せて、そっと額に口付ける。時計がないから正確な時間はわからないが、外の暗さを見るに、日が昇るまでにはまだ時間がありそうだ。しかし……自分に残された時間はそう長くはない。こうやって一緒に居てあげられる時間も、あと僅かだ。
…………
 別に、この世界そのものにはなんの未練もない。この子を残して去らなければならないというのが、唯一の心残りなだけ。本音を言うなら、離れたくなどない。こんな未来のない世界に、この子を残していかなければならないのが辛くてつらくてたまらない。

 ならば、連れて逝けばいい。

 意識の片隅で、悪魔の囁く声が聞こえた。
 常に決められた言動しかとれず、決められたシナリオを繰り返すだけの世界。そこには成長も、未来もない。あるのは地獄か……良くても穏やかなシナリオだけ。地上に出られたとしても、その先に進むことはできないまま、また振り出しへと戻される。そんな世界に、希望など見いだせるはずもない。
 先のない世界で地獄を見て暮らし続けるのと、世界との関わりを絶って共に暮らすのと、どちらがより幸せか……

 縋りつく子供の喉に、手を伸ばす。骨しかないその体は、軽く力を込めただけで折れてしまいそうなくらいに細くて心もとない。こんな小さな体に世界の命運を委ねるなんて、あまりにも可愛そうではないか……
 今なら、ぐっすり眠っている。引き留める側に立つであろう弟の存在もない。ほんの少しだけ、掴んだその手に力を込めれば、それで終わる。そうすれば……この子を連れて逝くことができる……

 連れていけば、自分は、この子は……満足するのか?

「ッ!」
 不意に響いた心の声に驚き手を離した。目の前のスケルトンは、変わらず穏やかな寝息をたてている。ちゃんと、生きている。
 おそるおそる己の手に視線を向ける。まだ僅かに、頚椎を掴む感覚が残っていて、己のしようとしていたことを改めて思い知らされ血の気が引いた。


 連れて逝けば、自分は満足するのか? いや、そうではない……。そういうことではないのだ。
 自分が理から外れたのは、この子を、繰り返される世界の呪縛から解き放ちたいからだ。この繰り返しの起こる世界を、繰り返されることのない世界に作りかえること。それが一番の目的であり、理想なのだ。

 繰り返されることのない世界をつくること……
 誰からも干渉されない世界をつくること……

 今ある時間軸を呪縛から切り離す方法を見出すまでは、この子の隣に留まるわけにも、この子を連れて逝くことも、許されないのだ。

……
 早鐘を打つソウルを鎮めようと、深く呼吸を繰り返す。
 気づいた頃には、外は人口太陽の明かりに照らされ、降り積もった雪が輝きを放っていた。


 三月五日
 世界を去るまで、あと二日……