玲緒
2021-03-01 23:53:10
8466文字
Public
 

#sansterweek2021

Twitter企画#sansterweek2021に寄稿した小説のまとめになります。


Day 5: Strength

 三月四日
 世界を去るまで、あと二日……

 王宮へと繋がる、最後の回廊。
 陽の光が差し込む場所で、久しぶりに手合わせをした。
 先に攻撃を当てられたら勝ちという、とても簡単なルール。もちろん手加減は無しだ。互いに魔法を駆使して、全力でぶつかり合った。

 柱には無数の焦げ跡。床には大小さまざまな骨が突き刺さり、空中では大口を開けた獣の頭蓋骨がサンズに寄り添うように浮かんでいた。
 二対の目が見据える先には、深淵と呼ぶに相応しい闇がある。黒い衣服を身に纏った男を中心に広がり始めたその闇は、じわじわとサンズに近づいてくる。
……もう終わりかね?」
 彼の足下で、深淵がうごめく。サンズは額に汗を滲ませながら、こちらの動きを凝視している。
「ならば、次は私の番だ」
「!」
 彼の言葉を合図に、足下の闇が一気に膨れ上がる。コポコポと泡の弾けるような音を立てながら、それは無数の槍の如く相手の懐を目掛けて飛び出していった。サンズは、そのひとつひとつを無駄のない動きで躱していく。
……
 心なしか、昨年よりも、サンズの動きが良くなっているような気がした。だが、それはきっと気のせいだ……気のせいだと、思いたい。
 なぜなら……この世界に適用されているシステムの関係上、サンズは一定の経験しか積むことはできないはずなのだから。
 どんなに経験を重ねても、それは時間の歪みによってそのほとんどが無に帰る。どんなにこの場所での死闘を繰り返したとしても……それはサンズの経験としては残らないのだ。
 だからこの子は、一定のラインを超えることはできない。どんなに訓練を重ねても、どんなに経験を積んだとしても、それ以上には強くはなれない。どんなに厄災を食い止めたとしても、厄災が起こらず、幸せな結末を迎えたとしても……その先の未来に進むことはできない。
 だからこそ、自分はこの世界の理から外れたのだ。

この世界を、この子を、繰り返される世界の呪縛から解き放つために……

「馬鹿野郎! 避けろ、G……!」
 不意に、サンズの叫び声が回廊に響いた。
 考え事をしていたせいで、ほんの一瞬、反応が遅れてしまった。
 気づいた時には骨の弾幕が眼前に迫っていた。

 模擬戦闘の勝者は、サンズとなった。

……強く、なったねえ……
 驚愕と困惑の表情を浮かべるサンズの頭を優しく撫でる。きっと、避けるだろうと思って弾幕を放ったのだろう。そのくらいのことはできるはずと。
 だが、できなかった。それだけサンズの放つ弾幕のスピードは速かったし、数も多かった。
 想像していた以上の成長ぶりに、ただただ困惑した。
「安心したよ……
 これだけ強ければ、そう簡単には負けないだろう。独り言のように呟けば、サンズは一瞬だけ眼窩を見開き、何か言いたそうに口を開いた。だがすぐに思いとどまったのか……歯を食いしばり、視線を泳がせた。

 きっと、サンズも勘づいてはいるのだろう。
 どんなに訓練を重ねても、どんなに経験を積んだとしても、それだけでは……いつかやってくるであろう『悪魔』を退けることはできないのだと。