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ぎんちき
2023-12-21 18:35:37
44403文字
Public
再録
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【R-18G】紺碧はやがて斜陽に染まる【再録】
当作品は以下の要素を含み、人を選ぶ内容となっておりますので閲覧にはご注意ください。
・人魚パロディ/童話「人魚姫」を基にした独自設定
・年齢操作
・登場人物の死
・グロテスクな表現(ファンタジー臓物)
2021年2月に本編をpixivにアップ(現在非公開)、同年7月に発行した同人誌の加筆修正ありWeb再録です。
遊び紙に入れていた文章や、ご購入いただいた方におまけでお渡しした短文も含まれます。
なお、作中で題にしている「月」「花」内の季節が一般的に表現される「雪月花」の季節感とズレているのは認識の上ですのでご了承ください。
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追憶:誰彼時
「キテレツってさ。臍、ないよな?」
ある秋の日。冷え出した風に身を晒しながらも波打ち際に座り、水平線の向こうを想いながら会話をしていた丸井と、木手。
そんな中で発せられた、丸井の突然の言葉に木手は首を傾げる。また、聞きなれないその音を聞こえたまま復唱した。
「
……
ヘソ?」
「おう。ほら、こういうやつ」
そう言うなり丸井は自身の着ているシャツの裾を捲り上げ、腹部を露わにした。そしてベルトより僅か上方にある窪みを指し、「これ」と木手に伝える。木手はじっとそこを見つめたあと、「確かに俺にはないですね」と言った。
「ないですが
……
それって、何ですか? 何か意味のあるものなんですかね」
「えーっと。何って言われても、俺も詳しくは知んないけど。ほら、キテレツの上半身って俺たちと似てるじゃん。だから何でないのかなって思って聞いただけ」
裾を元に戻しながら木手の言葉に笑って答えた。そしてポケットからスマートフォンを取り出し、きちんと問いに回答すべく検索をする。
「うーんと
……
ざっくり言うと、母親のお腹の中にいたときに使ってたもの
……
の、痕跡って感じ? らしい」
「なるほど
……
それなら確かに俺たちにはないでしょうね」
「そうなんだ?」
ええ。木手が丸井の顔を見ながら言う。
「丸井くんがどういう想像をしていたかはわかりませんが、俺たちは卵から孵るんですよ?」
「え
―
そうなの!?」
丸井に衝撃が走る。彼は、人魚はヒトと良く似た見た目である為に、同じく胎生であると考えていたのだ。丸井の反応が面白かったのか、木手は普段よりも少しだけ声を弾ませ、饒舌に語り始める。
「そもそもですね、俺のような個体は突然変異した存在なんですよ。親兄弟は至って『普通』の魚類であるにも関わらず。こういった現象が時折生じるらしいです。らしい、と言っても現に俺がそれを証明しているわけですが」
驚く丸井をよそに、どこか誇らしげな表情で木手が続けた。
「見た目は置いておくにせよ、実際のところ雌雄はないですし、子を成すわけでもない。それが俺たち、ヒトから『人魚』と呼ばれる存在です。もしかすると
……
だから長命なのかもしれませんね」
「なるほどなぁ。でも、なんかそれってさ
……
」
ここまで黙っていた丸井が言葉を発したが、すぐに口をつぐんだ。木手から目を逸らし、遠くを見つめた。しかし言いかけられたその続きが気になる木手が、眉間に皺を寄せながら丸井をせっつく。
「何。最後まで言いなさいよ」
あー
……
と、困ったように笑いながら頬を掻く。どうすべきか悩んだようであったが、横から刺さる木手の眼差しに負け、話した。
「いや、なんか
……
こう、寂しくないのかなって」
今度は木手が驚く番となった。横に座るこの男が、何をもってそのような発想に至ったのか疑問の様子である。
「
……
人間はさ、結局ひとりじゃ生きられない、から。全員がそう、ってわけじゃないけど大体が家庭とかを持つんだよ。だから。一代で完結してるっていうのは凄いな、って純粋に思うのと、それって
……
寂しいんじゃないかなって
……
」
「寂しい──? いえ。全く問題ないですね。仲間がいるので。以前お話したと思いますが『人魚』間のコミュニティというものがありますから」
「そっか
……
そう、だよな。俺たちもこうして一緒にいるんだし」
自分の発言で木手を傷つけないかが心配だった丸井は、どうやらそうではなかったことがわかったので少々安心してみせた。自身の膝を抱き、傍らに座る木手の顔を見る。
「そもそもの感覚が違うわけで。お前たちの基準から見ればそうなんだろうなぁ。でもやっぱ、俺からすると強いな、って思うけど」
丸井のその言葉に木手が、ほんの少しだけ微笑んだ。
「そうですかね。別に俺は丸井くんを
……
人間を弱い、とは思いませんよ。ああ、でも
……
」
「でも?」
この先を言うべきか、迷った素振りを見せる。その後静かに俯いた木手が、先程まで浮かべていた微笑みを自嘲に変えた。
「こうなって
……
ここに来てから、仲間の存在がいかに大きいものだったかは良くわかりました。だから、そういう意味ではやはりどこか寂しい、のかもしれませんね。こんな感情は今までは知りませんでしたから。
……
何なら、煩いからひとりにしてくれと思っていることも少なかったくらいですし」
「
……
っ」
丸井にはその時、自分の目に映る木手の姿がひどく小さなものになったような気がした。何か気の利いたひとことをかけてやりたい。そう思ったが、頭の中で無数の言葉が生まれては絡み合い、すぐに肥大化してしまい何も発せなくなってしまった。
「
……
今だって。うちなーが恋しいです。それに正直言えば、仲間たちの顔も見たい。ですが
……
」
不意に木手が首を横に向けた。ふたりの目線がまっすぐに衝突する。そのまま静止した為、しばし時が止まったかのようになった。互いの顔を明るく照らす海面の反射だけが、ゆらめいて時の移ろいを告げた。
「あっ! と」
互いの間に流れる空気に思わず耐えきれなくなった丸井が、顔を逸らして声を発した。木手も我に返ったかのように正面を向く。
「なんだよキテレツ〜、『ですが』って! 変にもったいぶっちゃってさぁ!」
通常よりも大きな声で、茶化すように話す丸井。木手には見せないようにしていたが、その表情には困惑を浮かべている。
「
……
べ、別に。深い意味はないですよ。丸井くんという、友人、がいるからそこまで寂しさというものは感じなくて済んでいる、と言いたかっただけです。最も。アナタが毎日来るの、もう少し頻度を下げてくれても良いくらいなんですから」
「はぁ? 何だよそれ!」
瞬時に表情を変えて、まるで子どものようにムッとしたものを向けてきた丸井に、木手が思わず吹き出した。顔を手のひらで覆って声をあげて笑う。それはとても珍しいことであった。
「ちょ、何がそんなにおかしいんだよ〜! あはは
……
」
しばらくそうした後、目尻に溜まった涙を拭いた丸井がポツリ、とつぶやく。
「はー、笑った笑った。しっかし、キテレツと話してると色んなことが知れるし、色んな価値観があるんだなってわかって、ほんと楽しいわ」
「
……
俺もですよ」
「なら良かった!」
そう言って丸井は抱えていた膝を離して胡坐をかいた。
「
……
!」
彼の解いた手のひらが、後方に置かれた。その際、指先が僅かに、木手の手の甲へ触れるような状態になった。そのまま、ほんの少しだけ。小指同士を交差させる。
「
……
丸井く」
「
―
あ。今度、気が向いたらでいいからもっと海の中のこと、教えてくんない?」
「
……
わかりました。では
……
以前少し話した、幼馴染のことでも話しましょうかね」
「いいじゃんいいじゃん。そういうの聞きたい。海のこと
……
、キテレツのこと。まだ知らないことだらけなんだもん」
鼓動が早まった。少しばかり呼吸も苦しくなる。そうなる理由がわからない。
しかし手を引いたのでは何か意識をしていると思われてしまうのではないか、という懸念。そして、相手が気づいておらず、許されるのであればこのままでも良いのではないか、という期待。名のない感情が芽吹く。そもそも、この感情に名前をつける必要はあるのだろうか。答えは必ずしも見つかるわけではない。だが、できれば、そっと。誰にも
―
相手だって知られず育てていきたいと思った。
会話をすれば時が経つ。ゆっくりと日が傾き、総てを一色に染め上げていった。夜の帳が下りるまで、間もない。ふたりは、今日という日を惜しむように話し続けた。
(ああ
……
丸井くんの手が、熱い。このままではきっと、火傷してしまう)
体温の差が、決してなくなることのない相互の違いをまざまざと木手に実感させる。
(キテレツの手。冷たくてちょっと気持ちいいな)
自身の手から、その熱が相手へと伝わっていくのを、丸井は朧気に感じていた。
波音がそんなふたりを柔らかく包む──在りし日の、記憶。
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