Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ぎんちき
2023-12-21 18:35:37
44403文字
Public
再録
Clear cache
【R-18G】紺碧はやがて斜陽に染まる【再録】
当作品は以下の要素を含み、人を選ぶ内容となっておりますので閲覧にはご注意ください。
・人魚パロディ/童話「人魚姫」を基にした独自設定
・年齢操作
・登場人物の死
・グロテスクな表現(ファンタジー臓物)
2021年2月に本編をpixivにアップ(現在非公開)、同年7月に発行した同人誌の加筆修正ありWeb再録です。
遊び紙に入れていた文章や、ご購入いただいた方におまけでお渡しした短文も含まれます。
なお、作中で題にしている「月」「花」内の季節が一般的に表現される「雪月花」の季節感とズレているのは認識の上ですのでご了承ください。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
追憶:月
水月が、風に揺れた。光は海面を貫き降り注ぐ。その内で、ひとつ。漂う影があった。影は、瞼を閉じて静かに耳を澄ませる。遠くからそれにとってすっかり馴染み深いものとなった振動が伝わってきた。振動はすぐに止まる。恐らくはもうじき、名を呼ばれる。
『キテレツ──』
(来た)
ゆったりとした動きで、影が光の方へ向かっていく。
*
「んでさー、今日。大学の新歓ってやつで花見してきたんだよ。これがそんときの写真!」
そう言い、丸井はスマートフォンの画面を木手へ向けた。首だけをそちらへ向けて、映し出されたものを確認する。
「なるほど。黄色い」
「
……
ん、んん? まあ菜の花は黄色いけど。感想それ? ま、キテレツらしくって面白いな。
……
あ。で、これなんかも綺麗だろい?」
丸井が画面をスワイプしそこに現れたのは、画面いっぱいに映る青色と薄桃色。
「
……
へぇ。うちなーの海ほどではありませんが。確かに綺麗ですね」
「いつも思うんだけど、そこ、比べるところかよ? あははは! ほんとキテレツっておもしれー」
「どうも
……
」
今日の丸井はやけに上機嫌だなと、木手は思った。彼は基本的に明るく朗らかではあるが、その比ではなく。むしろ空元気とも言えそうな調子に感ぜられる。本人もそれを気づいているのか、そうでないのか。
「っと、そうそう。桜なら動画も一緒に撮ってきたから見るか?」
見た方がいいのだろう、と思い木手が頷けば、丸井はすぐにもう一度画面をスワイプし、中央に現れた再生ボタンをタップした。画が、滑らかに時を進みだす。
──
……
桜の枝が揺れる。人々の声が騒々しく、周囲の音をかき消す。画面にブレが生じる。遠くで、ざぁ、と音がする。散った。夥しいほどの花弁が、風に乗り舞い踊った。
木手の瞳が揺れ動く。
「
……
とても綺麗ですね」
「だろ?」
想像通りの返答が返ってきたことに満足げな丸井は、木手の表情に少しばかりの影が落とされたことに気がつかない。そのまま動画は一分ほど流れ、やがて止まった。
「沖縄にも桜は咲くみたいだけど、何か、コッチとは種類が違うって聞いたから。まぁそもそもキテレツって陸のものは見たことないんじゃないかなって思ってさ。俺的にはやっぱ春と言ったら桜だし。見せられてよかった!」
「
……
そう、ですか。ありがとうございます」
「あれ
……
。どした?」
と、ようやくここで木手の様子に気づいた。丸井に尋ねられた当の木手も、自身の中で言葉を探している様子である。苦笑と微笑の狭間のような、半端な表情を浮かべたまましばらく無言の間があり、ようやく口を開くに至った。
「何だか、妙な心地がしました」
「
……
妙?」
「ええ。ちゅら──
……
美しい、と思う気持ちに偽りはないのですが。それ以上に──そう、ですね
……
。上手く言えないのですが
……
こうやって
……
」
木手の視線は真っ直ぐ、前に向けられている。遠い、どこか。水平線の果てを見つめるように。丸井はその横顔をじっと見て、次の言葉を待った。
「こうやって生命は、消えていくのだと」
「え?」
思いもよらなかったそのひとことに、丸井はそれ以上を返すことができない。木手の方はといえば、ゆっくりと瞬きをし、一呼吸おいてから丸井の顔を見つめ返した。
そこに浮かんでいたものは喜怒哀楽、いずれでもなかった。激しさはない一種の、諦念のような。しかし、確かに、どことなく柔らかさと寂しさは帯びている。
「散っていった桜も、ニライカナイへ行くのでしょうか」
ニライカナイ──いつだったか、どこかで聞いたことがあるような気はするも、決して親しみ深いとは言い難いその音を、丸井は口の中で繰り返した。
「俺たちは、皆いずれそこへ行きます」
誰もが向かう終着点。
「
……
」
丸井にはいまいちピンと来ていなかった。木手の口ぶりからは恐らく死後の世界のようなものを指すのであろう、と推測はできていたが、それでも。
(だって、そこが本当にあったとして)
自分たちが行くのは、きっと、遠い、遠い未来のはずだから──と。丸井がそう思う間にも、木手は続ける。
「皆。ひとりで、いずれは
……
」
「ひとり、で?」
そうです、と返したきり俯く彼に、かける言葉を探す。ひとり、ひとりがそれぞれに、向かう場所
……
。
(
……
でも、少なくとも)
今は、現在は。
(俺たちは、孤独じゃない。それに)
言葉を交わさず。ただ傍らにいるだけだというのに。それも、出逢ってから永らく共に時を過ごしたというわけではないのに。そう、思えた。
「いいじゃん」
「はい?」
丸井自身、発した言葉に驚いていた。若干困惑しながらも、頭で考えるより先に口が動いてしまう。
「だってさ。ひとりでそこに行くとして、だ」
その
瞬間
とき
は孤独であっても。
「最終的にみんなが行くんじゃ。そこでまた、逢えるってこと!
……
だろ?」
「──
……
簡単に言ってくれますね、アナタは」
銀の光が淡く、平等に。隣り合う異種の者たちを包む。寂寂たるその天体は、瞬く星の弱光を掻き消しつ。何をぞ、想う。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内