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ぎんちき
2023-12-21 18:35:37
44403文字
Public
再録
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【R-18G】紺碧はやがて斜陽に染まる【再録】
当作品は以下の要素を含み、人を選ぶ内容となっておりますので閲覧にはご注意ください。
・人魚パロディ/童話「人魚姫」を基にした独自設定
・年齢操作
・登場人物の死
・グロテスクな表現(ファンタジー臓物)
2021年2月に本編をpixivにアップ(現在非公開)、同年7月に発行した同人誌の加筆修正ありWeb再録です。
遊び紙に入れていた文章や、ご購入いただいた方におまけでお渡しした短文も含まれます。
なお、作中で題にしている「月」「花」内の季節が一般的に表現される「雪月花」の季節感とズレているのは認識の上ですのでご了承ください。
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追憶:雪
空から舞い落ちる白銀。山積したそれは、見慣れた風景を一変させる。頭上に燦然と輝く天体から放たれた光が反射して、眼球を射す。これはそんな、特別な日の出来事。
「あー、さっむ」
部屋を出て階段を下りていく。一段、一段と。丸井の鼻腔を掠めるはトーストと、バターの香り。腹部からぐぅと音が鳴る。確か数日前に作った苺ジャムはまだ残っていたはずだから、たっぷりと塗って食べよう。そんな思いを胸に抱きつつ、最後の一段を下りる。
方向を転換しリビングに入れば既に弟たちが目を覚ましていた。
「どした、珍しいじゃん」
「だって雪だぜ!」
「ご飯食べたら遊ぶんだー。兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
じゃあそうしようかな、と口にしかけた丸井だったが、ふと脳裏に別の顔がよぎった。彼にとってはつい面倒を見て、構いたくなるような存在。弟たちのように手放しにかわいい、とは言えないが。
(
……
アイツ、雪なんか見たことないんだろうな)
思わず口元が綻んだ。そんな丸井の耳へ、ニュースキャスターの声が届く。
『
……
記録的な寒波により、沖縄の海で魚が仮死状態に
……
』
「お、おいおい」
「兄ちゃん?」
明らかに動揺している丸井のことを心配そうに見つめてくる弟たち。ふたりにはぎこちないながらも「大丈夫」、と笑顔を向けた。しかし、胸の中はざわつく。
(沖縄の海ですら、そんなことになってるんじゃこっちにいるキテレツってヤバいんじゃねぇか? しかも今日は、雪が降った後でめちゃくちゃ冷えてるし
……
)
頭の中が、「最悪の事態」を想定し始める。まさか、そんな。そんなことは起こるまいと、考えようとするが。落ち着かない。
「あ
……
兄ちゃんちょっと今日、用事。あっからさ、ふたりと遊べないんだ。ごめんな!」
「? わかった」
聞き分けの良い弟たちで助かった。そう思いつつ、ふたりの頭を撫でてやる。そうと決まれば一刻も早く、彼の元へ。玄関へ向かい、上着を手に取る。
「ブン太、朝ご飯いらないの?」
靴を履き終えいざ、とドアノブに手をかけた瞬間に背よりかかる、母の声。振り返り、叫ぶ。
「
……
パンだけ、ちょうだい!」
*
転ばぬよう気を付けながら走る。呼吸をするたび気管と肺が冷えていく。息が切れる。吐く息も、世界も、総てが白に染まっている。積雪量としてはさほど多いとも言えない程度だが、それでも、丸井の目には普段と異なる世界へ来たような感覚がした。
自分の知っている世界と同じ形をしている、ここではない『どこか』へ、紛れ込んだかのような
……
。
「
……
」
そう考えだすと、何でもないはずのこの日常も、すぐに崩れるのではないか
―
そんな予感すら、した。
(なーんて。おセンチなのは性に合わねぇや)
自嘲気味にそんなことを考えて、目的地へ急ぐ。
普段の砂浜も街と同様白に支配されていた。まだ誰も踏み入れていないそこを丸井は歩みだす。さくり、さくり。柔らかな雪が靴底で踏み固められていく。足跡を残しながら、波打ち際へ。
「キテレツ、おはよー!」
口元へ両手を持っていき、声を響かせた。しかし返答はなく、静寂が丸井を襲う。胸のざわめきが再び顔を見せる。もしも、もしも
……
。そんな馬鹿な。答えの出ない思考に支配されていく。堂々巡りだ。
丸井は徐々に苛立ちを覚えだし、その場をぐるぐると回りだす。彼の足により緩やかな円形が地面に描き出された。さてどうしたものか。
「
……
何をしているんですか?」
呆れているような声。それが投げかけられた。声のする方向を見れば、海面から顔を出していたのは、丸井の心配の種。
「キテレツ!
……
よかったぁ」
自然とそう口に出ていた。笑顔が零れる。
「
……
?」
「あー。詳しいことは、今から話す!」
目を細め、そう伝える。木手は不審そうに丸井のことを見ていたが、最終的には諦めたと見え、いつも通りに岸辺へと上がってきた。
と、ここで丸井は一瞬、特に何も持ってきていなかった為に雪の上へ直に座るしかないことに気づく。だが背に腹は代えられぬと腰を下ろした。
「えーっとだな。うーん。そう思うと大したことはないんだけど
……
」
丸井は、口を開いた。昨晩から今朝はひどく冷え込んだので木手の身に何か起こってしまうのではないか。そう思ったら居ても立っても居られなくなってしまった、と。
……
今朝聞いた、ニュースの内容はただ何となく、伏せておいて。
「お生憎様。俺の身体はそこまで軟弱じゃありません。
……
確かに、少しばかり今日は、ひーさんですが」
「うん。ほんと、よかった。安心したわ」
ごく自然に、丸井の手が木手の頭上へ向かって伸びだした。それは無意識の行動であった。弟たちにしたのと同じように。彼にとっては何ということもない動作。しかし、木手の肩が少し震えたのを見て、思いとどまる。
「あ、っと。わりぃ。また子ども扱いするところだった!」
「
……
勘弁してくださいよ」
ふい、と木手がそっぽを向いた。丸井の顔に苦笑が浮かぶ。こんな時は、と思いコートとズボンのポケットを漁ったが、残念ながらいつものガムは切らしていた。手持ち無沙汰になったので自分の近くにある雪を手で掬う。冷たい。固めて、海へ投げ込む。
「そういえば、丸井くん」
余所を向いたままの木手が、丸井へ語りかけた。その目線は自身の横側へと向けられ、両手は胸の前あたりに引き寄せられていた。
「
……
これ。なんですか」
「
……
これ?」
丸井には木手が何を示しているのかがわかりかね、問い返してしまった。伝わらなかったか、と木手が片手の人差し指を立て、地面を指し示す。
「コレですよ。この、白いもの」
「あ、ああ? 雪のことか」
「ユキ」
もう一度白雪を掬い上げ、今度は木手の眼前へと持っていってやった。
「そ、雪。氷
……
水が冷えて固まったものでさ、雨みたいに降ってくんの」
ははぁ、と木手が声を漏らす。
「うちなーでは見たことがないですよ」
「まぁそうだろうなぁ。沖縄じゃほとんど降らないだろうし。こっちでもそこまでだから」
「
……
ふぅん。結構、綺麗ですね」
「だろ!」
「どうしてアナタが得意げになるんですか」
わからん! 丸井が笑う。釣られて、木手もほんの少しだけ口角を上げた。目が合えばすぐに取り下げてしまったが。
丸井は手のひらの雪をそのまま両手で握りひとつの塊にしてみせた。
「さっきもやっていましたね、それ」
「うん。こうやった雪玉をぶつけ合う雪合戦っていうのとか。もっと大きいのを大小ふたつくらい作って、乗っけた雪だるま、っていうの作るとかさ。あと
……
今日はそこまで積もってないけど、もっと降ってたらかまくら、っていうちょっとした雪の家みたいなの作るとか、そんな感じで遊ぶんだ」
もう一度。雪玉を沖へ向けて、投げる。緩やかな弧を描きながらそれはすぐに落ちていった。
「楽しそうですねぇ」
木手の視線が雪玉の向かった方向に向く。恐らくはもう、融けきった雪玉の方へ。
「だろ。かまくらとかは、もっと降った時にでも作ってみせるわ。だからまた、今度な」
「そうですね。今度、機会があれば」
「ん。腕によりをかけて作ってやるから。楽しみにしておけよな!」
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