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2023-06-16 23:54:21
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Public 拳コユ
 

【よよ恋2展示作品】day by days (わやわや学パロ拳コユ)

今年の1月に頒布し完売済の再録集に収録していたわやわや学パロ拳コユのweb再録に書き下ろし追加したものです。自分でも設定はよくわかってないので、一ページ目のなんとなくの設定をお読みいただき、あとはフィーリングでお願いします。※公式で出た学パロとは全く別物です一切踏襲してません※気が向くと増える



7.

 ぶつぶつ呟きながらノートをめくり、隅から隅までを頭の中に叩き込む。マークした部分は全部覚えている自信があるけど、細かなところはちょっと自信がない。でも、先生が「テストに出しちゃおっかな~」といったところは二重三重に丸してある。テスト範囲の論語は空で全部言えるレベルで頭に染み込ませた。食事中にもそらんじてお父さんに怒られたくらいだから、これはばっちり、自信あり。
 今日はテスト期間初日。一時間目が世界史、二時間目が英語。二つともまあまあできたと思う。多分、前のテストよりは良い。そしてこれから本命の現国だ。
(ぜったい、満点、とる ……
 前回のテストは90点。記述式のところで少し解釈を間違えて減点、漢字の問題でケアレスミスして減点。もったいないことをした。今回は同じ轍を踏んでなるものか。
 この前進路指導室でこぼしてしまった自分の気持ち。あんなの告白の内に入らない。きっと先生だって告白だと思っていないだろう。だから次のテスト、現国で満点取ったら、ちゃんと告白するって決めた。決めたったら決めたのだ。
 隣の席のヒナイチさんがわたしを見て「すごい気迫だ……」と呟いている。それに反応している時間も惜しい。
 残り時間で少しでも、と駄目押しに教科書を開いたところで、ガラピシャーーーン!!とすさまじい勢いでドアが開いて、クラスの全員がビクンと肩を跳ねさせた。まだ予鈴もなっていない。
 肩を怒らせて入ってきたのは、武々夫くんだった。
「んだよ武々夫うるせえな」
「ドアぶっ壊したらケンちゃん怒るぜ」
「それどころじゃねえんだよ」
 透くんと圭人くんに吐き捨てた武々夫くんは、鼻息荒く教壇に立ったかと思うとピンク色のチョークを引っ掴んだ。今日のスケジュールが書かれている黒板の空きスペースに、ゴリゴリ何かを書き込んでいる。その鬼気迫る勢いに、教室中が目を点にして武々夫くんを見つめていた。
「ビッグニュースだ、お前たち」
 カッ、と勢いよくチョークで黒板を叩いた武々夫くんが、教室中に響く声で叫ぶ。

「ケンちゃん、左手薬指に指輪してた」

 目の前が、真っ暗になった。


 

……んだあ、誰か死んだか?」
 チャイムが鳴ってから十秒とたたぬ間に到着した先生は、クラスを見回して眉根を寄せた。のだろう。
だろう、というのは予想だ。何故ならわたしは机に突っ伏して、ぼうっと窓の外に目をやっていたから。初めて窓際の席でよかったなんて思う。
 顔を上げて、さっきの武々夫くんの言葉の真偽を確かめたい。でも、教室の静寂を鑑みるに、本当なんだろうな。やだなあ。
(ひゃくてんとってこくはく……
 先ほどまで燃えていた意欲の炎は消えて、わたしの心は燃えさしがかなしく煙を上げるだけだ。
 結婚してたなんて知らなかった。だって、指輪なんてしてなかったもん。確かに年齢を考えれば可能性はなくはない。でも、でもだって、そんなこと一度も言ってなかったのに。
 わたしの気持ちを知っている透くんが、ちらちらとこちらを見ているのがわかる。気を使わせてしまって申し訳ない。応援してくれてたのにな。
 もういいや、お父さんに怒られるかもだけど、名前とわかる漢字だけ書いて出そう。もし問いただされたらすみませんと素直に謝ればいいもの。
 くさくさしながら滲んだ涙をこっそり拭っていると、椅子と床がこすれる音がした。誰かが立ち上がったらしい。
「ケンちゃん」
「あ? 何してんだ武々夫座れ、今から配るから。今回記述多いから時間無くなるぞ」
「結婚したん?」
「はぁ?」
 先生の声がひっくり返った。武々夫くんの言葉を皮切りに、あちこちでハイ!ハイ!と挙手する声が続く。

「お相手は一般の方ですか?」
「ケンちゃんのどこが好きになったんですか?」
「出会いはどこ!?キャバクラ!?」
「ちゃんと誠意をもってその人を幸せにするって誓いました!?」

 矢継ぎ早に飛ぶ質問はどんどんエスカレートし、やれプロポーズの言葉は何だの、相手の両親にあいさつしに行ったときヤクザだと思われなかったのかだの、奥さんを芸能人に例えたら誰、だの。芸能人の婚約会見さながらだ。
(やだあ)
 聞きたくない。耳を塞いで丸くなる。もういっそ体調不良ですって言って保健室に逃げようかな。ヨモツザカ先生は面倒くさがりだからすぐにベッドを貸してくれるし、もう点数なんてつかなくたって構いやしない。
 ひそかに鼻をすすり、小さく手を上げかけたところで、パァン!と空気を切り裂く破裂音がした。途端、教室がしんと静まり返る。
「だまらっしゃい」
 手を打った拳先生が静かに、低く言った。額に青筋が立っている。
「おめーらが騒いでんのはコイツのせいかい」
 先生が左手を天高く上げる。その薬指には確かに、銀色のわっかが嵌っていた。皆が先生の圧に押されて黙り込む中、武々夫くんだけが椅子を傾けながら哀れっぽい声で言った。
「そうっすよ~もう俺びっくりしてェ。非モテ友達だと思ってたのにィ」
「不本意な仲間に入れんじゃねえ。そもそも俺はそこそこモテます」
 はぁ~とため息をついた拳先生は大きく息を吸うと、プリントの束をさばきながら言った。

「えーいいですかァめんどくせえから仔細は省くが俺ん家には歳のすごーく離れた妹がおりましてェ、その子と昨晩仲良くおままごとで結婚式ごっこしたときに嵌めてた指輪を外し忘れて出勤しちまったわけですね~もちろん外そうとはしたんだがまあこれが俺の指にジャストフィットして取るに取れねえ、力技でもいいんだがちゃちなプラスチックだし壊れたら妹が可哀想だろ? だもんでとりあえず今日はこのまんま仕事しますが俺は寂しい男やもめに変わりありません質問ある馬鹿はテスト終わったら職員室来るように以上」

 まるで高座に立った落語家の如く。
 ぽかん、と先生の噺を聞いていたみんなは、いつの間にやら机に伏せて配られていたテスト用紙を慌てて表に返してペンをとった。
 と、フォンくんが長くて白い腕をするりと伸ばし、綺麗な赤色の目で拳先生を真っすぐに見つめて言う。
「妹というのは何かの隠喩ですか? エッチですね」
「はい既に10分経過しとるが俺は知らんぞチャイムなったら解答用紙は即回収! でははじめ!!」

 忠告したぞ! という文句を最後に、拳先生は背中を向けた。多分、武々夫くんが書いた文字を消しているのだろう。
 大きな背中を少しだけ見つめて、カンニングにならない程度に周りに視線を走らせる。みんな背中を丸め、せわしなくペンを動かしていた。
 わたしもテスト用紙を裏返し、問題にざっと目を通す。あれも、これも、全部わかる。

 燻っていた燃えさしに風が吹き込んで炎に変わるまで、そう時間はかからなかった。