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2023-06-16 23:54:21
13001文字
Public 拳コユ
 

【よよ恋2展示作品】day by days (わやわや学パロ拳コユ)

今年の1月に頒布し完売済の再録集に収録していたわやわや学パロ拳コユのweb再録に書き下ろし追加したものです。自分でも設定はよくわかってないので、一ページ目のなんとなくの設定をお読みいただき、あとはフィーリングでお願いします。※公式で出た学パロとは全く別物です一切踏襲してません※気が向くと増える



3.

 それ、どうすんだ?
 葉っぱの隙間から見える日光のきらめきをぼうっと眺めていると、後ろから声をかけられた。
〝あ〟
「よぉ」
 こんなところで飯食ってんの?と窓から半身を乗り出して笑ったのは現国の拳先生だった。
 わたしがいるのは校舎とフェンスの間の狭い空間。とはいえ校舎の壁に背中を預けて座っても足を伸ばせるくらいのスペースはあるし、お昼休みの時間帯は日が降り注いで温かい。フェンスの向こう側に植わった街路樹の葉っぱが日差しを良い塩梅に調整してくれるからまぶしすぎることもない。わたしの秘密の場所だった。
 一人になりたいとき、ぼんやりしたいときにここに来る。たいして使われない美術準備室の裏側だから、誰かに見つかることもない、と思っていたのだけれど。
 拳先生はわたしの手元を見ながら、質問を繰り返した。
「それどーすんの」
……えっと〟
 先生の言う『それ』とは、わたしの手の中で小さくなっている黒紫色のクッキーの包みだ。補足すると黒紫色なのは包み紙ではなく、クッキー本体のことである。先ほどの調理実習で作ったものだ。
 他のみんなは可愛くて素敵なチョコチップクッキーを焼き上げていたのに、わたしが作ったものは何故か黒紫色に染まって、鉄みたいに固い。おかしいなあ、自信作だったんだけど。作ったクッキーは皆と交換するはずだったのに、何故かわたしの分は余ってしまった。
 ヒナイチさんがものすごい顔をしてドラルク先生を引っ張ってきたけれど、先生はわたしの手元でおいしそうな黒煙を上げるクッキーを見て、ただ目を閉じた。何も言わなかった。ヒナイチさんは崩れ落ちていた。本当に、何でだろう。
 そこまでを素直に拳先生に伝えると、先生は窓枠に頬杖を突いたまま黙って口の端をひくつかせた。
〝仕方ないので、この余った分は処分します。もったいないけど、食べきれないし〟
「そっか……
 チューン、とうなだれる。本当に食べきれないし、お父さんに持って帰る分は別に残してある。本当は他の班みたいにワイワイみんなと交換こしたかったんだけどな。
 包みを鞄にしまおうとすると、ケン先生が窓からするりと太い腕を伸ばし、わたしの手から包みをさらってしまった。包みを開き、小さなクッキーを摘まみ上げて口の中に放り込んでしまう。あまりにも鮮やかな手つき。止める間もなかった。
 拳先生は一瞬ものすごい渋い顔をした後、無表情でわたしのクッキーをゴリゴリ、ギリギリ噛み砕いた。ん、ん゙ッ、とちょっぴりくぐもった声を上げ、胸を叩きながら、次々クッキーを口の中へ入れてしまう。
 わたしはぽかんと見守ることしかできなかった。わたしのごはんを食べられるの、お父さんしかいなかったのに。
 バキバキ、ゴリゴリという音が止んだ。先生は窓枠に突っ伏し、深く長く息を吐いている。震える指が、空っぽの包みをわたしに突き返した。
「ごっ……そ、さん。うまかったよ」
〝えっ〟
「食い物を捨てるなんてもったいねえこと、すんな」
〝あぇ、あ、すみませ、ん〟
「まあ、うん、ゴホッ、若干……いやだいぶ……前衛的な味ではあったな。次はレシピをよーく見て、ドラルクセンセの言うことよーく聞いて作ンなさい」
〝は、はい〟
 予鈴鳴るぞ、と先生が天井を指さした。まもなく、チャイムが鳴り響く。次は世界史だっけ。移動教室じゃないから間に合わないことはないだろうけど、余裕があるわけでもない。慌ててお弁当箱を入れた巾着とクッキーの包みを鞄に投げ込む。
〝先生〟
「あー?」
〝ありがとうございました。食べてもらえてうれしかった〟
「おー」
 何故かちょっぴり青い顔で覇気なく手を振った先生に背中を向けて、教室に向かって走り出す。
早く教室に戻りたい。戻って、ヒナイチさんに、伝えたい。マリア先輩やター・チャン先輩、それから、帰ったらお父さんにも。

(わたしのごはんを食べて、おいしいって言ってくれる人がいたんです!って)