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2023-06-16 23:54:21
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Public 拳コユ
 

【よよ恋2展示作品】day by days (わやわや学パロ拳コユ)

今年の1月に頒布し完売済の再録集に収録していたわやわや学パロ拳コユのweb再録に書き下ろし追加したものです。自分でも設定はよくわかってないので、一ページ目のなんとなくの設定をお読みいただき、あとはフィーリングでお願いします。※公式で出た学パロとは全く別物です一切踏襲してません※気が向くと増える



6.

 トースターから焼き立てのパンを取り出す。毎週火曜、特売で一斤99円のダブルソフト。私は近くのベーカリーのパンが好みで定期的に購入していたが、最近家族に加わった義妹がこちら好んでいるので、あっという間に我が家のパンは切り替わった。彼女が喜ぶなら私はなんら文句もない。透の代わりに迎えに行ったあっちゃんと一緒に一家族様二斤までのそれを抱えて帰ったのは良い思い出だ。
 焼けた匂いにつられてか、教育テレビを見ながら踊っていたあっちゃんがキッチンに入ってきた。歳の割に小さい彼女の為、トーストを皿にのせて屈んで見せてやる。
「おいしそ」
「あっちゃんが昨日、頑張って持って帰ってきたからだな」
「えへへ」
 笑う妹の頭を撫でていると、寝ぼけ眼の透がぼさぼさ頭を掻きながらリビングへ入ってきた。おはよう、と声をかけると、あくび交じりのあいさつが返ってくる。
「おぁお…………あっちゃんはやおきだなあ……
「とおるおにいちゃ おはよお」
「何枚食べる?」
「二枚~」
 あんがとぉ、なんて間延びした礼を受け取りながらまだ熱を持つトースターにパンを二枚。既に六枚切りの半分が消えた。二斤買ってもあっという間だ。
「ミカ兄、あっちゃん 今日これぬりたい」
 小さな手がずいっと差し出したのは私が北海道から取り寄せたミルクジャムだった。どうやらお気に召したらしい。義妹の舌は確かのようだ。ティースプーンにたっぷりとジャムをとって塗ったくり、飾り切りしたバナナと共にトレーに乗せて渡す。大きな目がキラキラと輝いた。
「そら、お食べ」
「わあい」
 あっちゃんがリボンを揺らしてテーブルに着くのを見届けてから一息つき、カウンターに放置していたコーヒーを飲み干す。私はそろそろ出る時間だ。トースターは焼き上がりまであと2分。透は自分で準備してもらうほかないか。
 透、と洗面所に向かって声をかけるのと同時に、さっぱりした顔で前髪を濡らして戻ってきた。裸の上半身に水滴が垂れている。思わず眉をしかめて、透の肩にかかったタオルを取る。
「濡れている」
「ちょ、ミカ兄、やめてよ恥ずかしい!」
「色男め、風邪をひくぞ。全く、愚兄に似てきたな……
「えっハゲてる……?」
「そうじゃない」
 軽率に裸でうろつくところだ、と苦言を呈し、綺麗に整った髪の毛を梳いた。へいへい、なんて笑う透は堪えた様子もない。こういうふてぶてしさも愚兄譲りだろうか。まあ、少し図太いくらいがこの世の中生きやすかろう。私と違って、という余計な一言は飲み込んで鞄をとった。
「先に行く。戸締りを頼む」
「いってら~」
「いってらしゃ」
 さっさとTシャツを着た弟と愛らしい妹に手を振り返す。透はあっちゃんに付き添って小学校まで一緒に行った後登校するので、いつも家を出るのは最後だ。
 さて、今日は何をしなくてはならなかったか。シューズボックスを開けて靴を選びながら考える。
 今日からテスト期間だから、授業がない分楽だ。学校は昼までだし、昼食をとってすぐに採点を始められるだろう。うまくいけば何クラスかは今日中に終わらせられる。定時で帰れたら、夕食に少し凝ったメニューを出せる。兄は「今回記述回答増やしたから採点めんどくせえよ~俺の馬鹿~」なんて教師にあるまじき愚痴を吐いていたので、もう少しかかるだろう。先に帰ってしまおう。
 今日はカルミーナに決めた。革靴を取り出して三和土に置く。置いて、はた、と気が付いた。
「ん?」
 馬鹿にくたびれたスニーカーが出っぱなしになっている。揃えられてすらいない。愚兄は部活の朝練で誰よりも先に家を出ているはずだ。ここに靴があるわけがないのだが。
……ああいや、部活は停止中か」
 そうだ、テスト期間の1週間前から部活の朝練は停止になるのだった。だとしても、今この時間に出なければ遅刻は必至だ。嫌な予感がする。
「透、透?」
 リビングに戻り、朝食を早々にあっちゃんと踊っていた透に声をかける。ヨガの猫のポーズに似た姿勢をとったまま、あに~? と顔だけ器用にこちらを向けてきた。
「愚兄、もう家を出たか」
「え? 出てるっしょ」
「ボロ靴がある」
「えっマジィ?」
 まだいるのかな、そんな馬鹿な、なんて言い合っていると突然──二階から気が触れた鶏のような声がした。
 思わず透、そしてあっちゃんと顔を見合わせる。示し合わせたわけでもなく三人、そろそろと階段に近づいて二階を見上げた。気配はない。もしかして先ほどの奇声は何らかの化け物で、愚兄は食われて跡形もなくなってしまったのだろうか。思わずそんな考えがよぎるほど、静かだった。響くのは教育テレビの「それではみんな、まったね~!」という元気な声と底抜けに明るい音楽だけだ。
……えっケン兄いるの」
「愚兄の部屋、見たか?」
「見てないよ、いると思ってねえもん」
「私も、」
 バゴン、と音がして思わず言葉を切る。次いで、ドカドカと床を殴りつけるような騒がしい足音と共に、目をかっぴらいて無表情の兄が駆け下りてきた。

 顔が怖い。

 思わず壁に背中をくっつけて道を譲る。またも示し合わせたわけでもないのに、透とあっちゃんも同じ動きをしていた。
 ばたばた、ゴソゴソ、どったんばったんと家探しでもしているのか? と思うほどのけたたましい音が洗面所の方から響いてくる。私も透も動かない。あっちゃんはいつの間にかリビングに戻り、黄色い帽子とランドセルを身に着けてズンズンと音楽に乗って踊り狂っていた。元気で何より。
……ミカ兄、いかなくていいの」
「え、あ、ああ」
「時間ヤバない?」
「そ、うだな」
 二、三分固まっていただろうか。先に我に返った透に話しかけられて、ようやく世界が戻ってきた。
 あの馬鹿はもうしばらくかかるだろう。いつもかなり余裕をもって家を出ているので遅刻することはないが、始業ギリギリに到着するのは自分の精神衛生上よろしくない。もし遅刻でもしてみろ、あの得体のしれない理事長に呼び出されて「遊び」とは名ばかりの拷問じみたレクリエーションに付き合わされるのがオチだ。以前は何故か教員を集めたハロウィンパーティーでポールダンスを踊らされたし。こういう時、校長は全くと言っていい程役に立たない。
 どこか浮足立った心地で腰を下ろして靴を履いていると、がん、と何かが壁にぶつかった。
「ミカエラァ……
 ゆらり、幽鬼のような動きでこちらに歩み寄ってくる男は、見開いた目と表情のない顔で私を見下ろしている。部屋の明かりが逆光になって若干陰になった顔が恐ろしい。私が何したって言うんだ。
 ぴえ、とちょっと泣きそうになっていると、恐ろしい顔をした兄が薄い唇を開いた。
 
「マジ悪いほんとごめんなんだけどあと五分だけ待って俺も乗せてって髭だけ髭だけ何とかすっから後生だから乗せてってくれ頼むいいよなオッケー?ヤッホーありがと助かる流石俺の賢弟!よっ日本一の愛されビキニ!」

 好き勝手にほざいた兄は愛してる!と最後に一つボリュームの壊れた声で叫ぶと、風のようにリビングへ引っ込んでいった。
 マシンガンのようにぶつけられた言葉の一つ一つを理解するまでに丁度五分。
 わたしがこの愚兄!!と叫び返したときには、既に兄はきっちり支度を整えて「行こうぜ」なんて笑っていた。



……オイ、それなんだ愚兄」
「あ?あにが……あ゛!?」