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あけみ
2018-10-06 00:40:26
24544文字
Public
MCU(小説)
【MCU】君がいない世界で僕はあの日の答えを探し続ける【バナトニ】
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『
――
博士、解析は中断した』
酷く冷静な声がラボ内に響いた。バナーは首を傾げた。これは、『彼』が意図的に実行プログラムを中断したことになる。人工知能にそこまでの判断を任せたプロトコルを発動させたつもりはない。訝しむバナーを余所に『彼』は淡々と言い放つ。
『今すぐここから逃げろ、ブルース・バナー』
「なに?」
『インサイド計画だ』
そう放った途端、掻き消すように声が途切れた。爆発音が響き、隣の研究所から花火が散る。基地内が大きく揺れるとバナーの背後にあった大きなガラスケースが横に倒れた。中に保存されていた試験管がいっせいに割れる。前方に倒れ込んだバナーは状況の判断ができず混乱と、苛立ちが交差し感情の抑制がきかない。
突然シールドの基地が攻撃されたのだ。周囲の混乱と怒涛の悲鳴が耳鳴りを酷くした。ドクドクと耳元まで響く鼓動は、とっくに心拍数の限度を超えている。
ハルクになる!
と、固く目を閉じるバナーの元に肩を揺さぶる声が降る。
「耐えろ、またここで世界をリセットさせるつもりはない」
顔を上げると、ストレンジが悲痛な面持ちでこちらを睨んでいた。突然、現れた魔術師に困惑する思考が怒りを鎮めた。膝を付いたバナーはゆっくりと立ち上がり、頭をおさえる。
「どうして
……
あんたが。これは、どういうことだ?」
「私も驚いている」
ストレンジはそう言って、先程までモニタ越しに対話をしていたラボの精密機器を見やったが全てショートしているのかモニタは何も映していない。
「あれは想定外の存在だ」
ストレンジが心底驚いてバナーに向き直る。
「あれはどこにあった?」
一方的に問い詰めるストレンジの態度が気に入らずバナーは少しイライラした。倒れた時に頭を強く打ったらしいまだ思考が追い付かない。
「あれって? いや、それより、確か、貴方は
……
ドクター・ストレンジだろ? アベンジャーズは? なぜここが襲撃されている?」
疑問を全てぶつけてから、周囲が随分と静かだと気付く。先程の襲撃の悲惨なあり様は変わらないはずなのに、ここだけ異空間のようだ。ストレンジが何かをしたのだと確信すれば、目の前の彼を睨み上げる。
対するストレンジは目を細めバナーを見つめた。その瞳からは感情は窺えない。
そう、折り重なる途方もない記憶を保持したままの彼は今のバナーでは心情まで悟れない。
「君は永遠に彼を追いかけるのだな」
「は?」
全てを見透かす態度がバナーを苛立たせる。だが、ここで食って掛かるのも無駄な行為だと分かる。グッと押し黙ったバナーはストレンジが続ける言葉を促す。
「『彼』は「インサイド計画」と言っていただろ」
ストレンジは、『彼』が報せてきたと言った。
シールド内部はヒドラが根元まで巣食っていた。将来、害になる人物、インヒューマンを選別し内部から取り除く計画を押し進めていた。恐らく、規格外な『彼』は解析ついでにシールドのもっともっと深いところまでに手を伸ばし弄り回したのだろう。機密事項を知った『彼』は、あらゆるシミュレーションによりもっとも良策な判断を独自に行った。
バナーとストレンジに報せること。
弾き出した『彼』の判断に驚くと共に抱えていた既視感は現実として溶け出す。バナーの魂を引き寄せるのだ。
「インサイド計画の執行は通常より随分と早い」
そう言ったストレンジだったが少し表情を和らげる。
「ここは、他の時間軸とは少しずつ違う」
「
……
さっきから何を言っているんだ?」
ストレンジの説明は一つ一つ癪に障ると言い当てバナーは眉を寄せる。
「君が探している答えももうすぐ見つかるかもしれない」
「
……
なんだって?」
「今も探しているのだろう?」
ストレンジの視線は真っ直ぐバナーに向けられた。
訝しむ表情のまま顔を上げる。そういえば、バナーに『逃げろ』と言った後声が途切れた『彼』は平気だろうか。襲撃を受けた際に消されたわけではないだろう。つまらない日常がやっと、面白くなってきたところだった。こんなふうに壊されて、『彼』が消えてしまったら
――
途端に不安になり、モニタの前にあったキーボードに手を伸ばした。
「
……
先程も言ったように、今までの時間軸は酷いものばかりだった」
キーボードを必死にたたくバナーを余所にストレンジは淡々と言葉を紡ぐ。
「君は何度も壊したが、ここでは違うだろう」
ストレンジの呟きはほとんどバナーには聞こえていない。
データの片隅に『彼』の断片としたプログラムを見つけ、バナーはホッとする。これなら復元は可能だ。
「『彼』をここから出した方がいい。場所を移動する」
バナーがポケットから取り出したフラッシュメモリを電子機器につなげ断片に残る『彼』をダウンロードする。移動すると言ったストレンジは、片手で円を描くように回し空間に穴を開けた。
「ここはもう崩れる」
襲撃を受け続けるシールドの基地から離れるのは得策だと瞬時に思ったが、バナーは前に踏み出した一歩を止めた。周囲は混乱と恐怖の声が絶え間なく聞こえる。まだ施設の中には何も知らないまま抹消されようとする人たちがいた。ダウンロードし終えたメモリを見つめるバナーは、ストレンジを真っ直ぐに見据える。
「ハルクなら襲撃を止められる」
自身でもはっきりと口にした言葉に驚いた。このまま背を向けて逃げるのは「違う」と思った。
こんなこと
――
きっと「彼」なら、どうする?
基地の外にはミサイルを放つヘリが幾つも旋回しているのが見える。ハルクが止める間にストレンジには施設の中で逃げ惑う人たちの救助を頼みたいと伝えた。
ストレンジはジッとバナーを見つめる。それから円を描く腕を止め、目を伏せた。
「ああ、そうだな。了解した」
ふわりと目を細めた彼は、両手を合わせ印を作る。バナーは背を向けて窓の外からこちらに向かって放たれるミサイルを睨んだ。ハルクが窓ガラスを突き破る。
君がいた世界を守るべきだった。
外に飛び出した時にやっと気付いた。
ハルクに襲撃を集中させ、基地から照準を外させる。無造作に暴れるだけでは救えないと、ハルクにも分かったのか細かな救助はストレンジに任せこちらは敵を倒せばいい。そうやって、以前からやってきたことだ。崩れる施設をストレンジが魔術でおさえる。辛うじて耐えているが、連動する振動まで長くおさえられない。襲撃もハルク一人では全てを受け止められない。ミサイルが一つハルクの横を反れ、施設へと飛んでいく。焦るハルクは背後を見たが隙をつかれ攻撃が集中する。咄嗟に手を伸ばした。
だが、予感した爆発は起こらない。顔を上げると、キャプテン・マーベルが阻止していた。ハルクはホッとし、ニヤリと笑う。一瞬、目を丸めたキャプテン・マーベルはすぐに微笑んだ。
君がいる世界を守るべきだった。
今なら分かる。
何万回も繰り返してやっとだ。
ストレンジに新しい上着を肩にかけられたバナーはくたびれた表情で見上げたが、頬はゆるやかに笑みを浮かべる。
「ここは、あの日と少し近付けた?」
バナーの問いにストレンジは小さく頷いた。その頷きに「そうか」と零してから胸の内で言いようのない寂しさが混同する。ゆっくり立ち上がり、瓦礫から人々を助け出すアベンジャーズの面々を眺めた。すぐに顔を俯いたのは、困惑と苦痛に染めた表情をしたからだ。死傷者は出ていない。食い止められた現状に喜びはしても苦渋に浮かべる表情は違う。だのに、バナーは哀愁に瞳を揺らし零れ落ちそうになる滴を掌で覆い隠す。
ここに君がいないのが寂しい。
たったそれだけのことだった。
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