私はカルデア内の誰も使われていない部屋に入った。
その部屋にはかつて、私が来る前にいたマスターが使っていたらしい部屋だというのをダ・ヴィンチちゃんから聞いた。そのマスターがいなくなってからは誰も使っていないのだと。
もし使うことがあれば使っていいかと聞いて、了承を得ているので不法侵入ではない。はず。
マイルームだと誰かがくる可能性がある。今の私には笑顔で対応できる自信がない。
使われていない部屋は当然、暖房も掃除も行き届いていない。そのため少し埃くさいし、寒い。でも、一人でいたいときにはちょうどいい部屋だ。
(ちょっとだけ、ここにかくまってもらおう)
そう思って、閉めたドアに背を預けて腰を落とした。床もドアも冷たいが、熱い体にはちょうどいい冷たさだった。
私はおそらく今頃楽しんでいるであろう二人のひと時の幸せを願いつつ、目を閉じた。
* * * * * *
気持ちが落ち着いてくると、腕時計を見れば2時間ほど過ぎていた。
そして、クリスマスがあと30分足らずで終わりそうである。
あと30分。それさえ待てればいつもの藤丸立香に戻り、カルデアのマスターに戻る。
また鍛錬と勉学と素材集めの日々が始まる。
なんだかんだ、準備期間も今日も楽しかったな。今年はちょっと悲しいけど、それもいい思い出になりそうだ。
さすがにマイルームに戻らないとマシュあたりが心配するだろうと思い、扉を開けた。
そこには、アルテラサンタが立っていた。
「マスター。待ってたぞ」
「アルテラサンタ、どうしたのこんなところで」
「それはこちらの台詞だ。私たちのマスターがいなくてずっと探していた」
「うっ、ごめん
……」
予想は的中していたようで、私を心配させてしまったようだ。
アルテラサンタは何かを言いたそうにモジモジと視線を泳がせている。そして、決意したのか私の目を見て口を開いた。
「マスター、今日までの働き、とても感謝する。おかげで私もサンタとして奮闘できたというものじゃ」
「あ、ああ。うん、こちらこそ楽しかったよ」
サンタクロースのときは、持参している白髭を首周りにしておじいさん口調で言う。
「だがな、ひとつだけサンタの役目を終わらせてないのじゃ」
「え、みんなの分用意したはずだけど足りなかった?」
準備していたとき、確かに何度も人数分数えたはずだ。だから渡し忘れもないはず。
アルテラサンタは首を横にふる。
「マスターへのプレゼントが、まだなのじゃ」
「え、私?」
「そうじゃ。マスターとして、サンタとして、私たちにたくさんの贈り物をくれた。ならば、私からマスターにプレゼントを渡すのも道理だと思う」
「いや、いいよ。気持ちだけで」
「しかし、瞳は未練がいっぱいと訴えているぞ?」
そう言って私の目を見る。彼女の赤い目に思わずギルガメッシュ王の瞳を思い出す。
未練
……ないと言ったら嘘になる。でも、それは口に出してはいけないものだ。
「何を言っているの。私は十分楽しんだし、みんなからたくさんプレゼントもらったよ。だから未練なんて
――」
「ない、とは言わせん」
突然男性の声が聞こえ、驚いて周りを見渡す。次第にアルテラサンタの隣に姿を現した。
今もアルトリアサンタと楽しんでいるであろう、ギルガメッシュ王だ。
「どうして、王様がここに?」
「フハハ! この我から離れられると思ったら大間違いだ戯けめ!」
そう言ってこちらに歩いてくる。私はギルガメッシュ王とアルテラサンタを交互に見る。いったいどういうことだと目で訴えながら。
アルテラサンタから説明をしてくれた。
アルテラサンタは私へのプレゼントをどうしようかずっと迷っていたらしい。そこで、たまたま見かけたアルトリアサンタからお願いを聞いたという。
アルトリアサンタはギルガメッシュ王と話をし、彼からのプレゼントの所望を聞いた。そのために、アルトリアサンタはアルテラサンタに協力をしろと、持ちかけてきたらしい。
「最後まで迷ったのだが、私とアルトリアサンタ先輩の相談で決断した。私からのプレゼントは
――”賢王と一夜を過ごす権利”じゃ」
だから、賢王を呼んだのも私だ、と彼女は言った。
私は首を横にふった。
「いや、それは駄目だ。王様はアルトリアと一緒にすごしたいって、シュメル熱にかかって倒れたときだって黒いサンタが来るのをずっと待っていたのにって言ってた。だから
――」
「
……それが今回の原因か、雑種」
横で聞いていた王様が怖い顔で私を見ていた。その表情に負けじと言った。
「あの時にいたのは私だったのに、でも貴方は彼女との聖夜を取り戻せって言ってたじゃないですか! だから、それが貴方にとってほしいものだと思って」
「
…………あの贋作が言っていたことが本当だったとはな」
「
……え?」
「あの贋作も生意気に貴様のことを問い詰めてきた。このままだとマスターは倒れる、その前にどうにかしろと」
贋作
――それはエミヤのことだ。ギルガメッシュとエミヤは何かの縁があるのか、会った当初から相性が悪いようだ。
だから、エミヤは王様のことになると、とても心配性になってしまう。放っておけないのだろう。
「確かに、黒いサンタがくることを望んでいたことがあった。しかし、奴と過ごすことを望んでいたわけではない
――まぁ”若いころの我ならば”望んでいたのだろうがな。我の欲しいものはな、立香。貴様を独占することだ」
その告白に度肝を抜いた。
理想の女性と一緒に過ごすことを夢見ることは誰にだってあるだろう。私ではアルトリアに到底追いつかない。そんな私を独占する? これは夢でも見ているんだろう。
「わ、私はまた間違えてしまったのか!?」
「間違ってはおらぬ。こやつは正直ではないだけだ。軍神サンタもいい働きをする。褒めて使わす」
アルテラサンタが私が中々喜ばないからと間違えたのかと頭を抱えたところを、王様が褒めた。それを聞いて彼女は胸をなでおろした。
「こやつは本当に望んではなかったとしても、我の望みは叶った。貴様のクリスマスプレゼントを受け取ろう」
「
……うん。賢王も久しぶりに笑っている」
「え?」
「気づいていなかったか? 賢王も、マスターに避けられている間ずっと眉間に皺を寄せていたんだぞ」
「おい、そこまでは
……いや」
「あの時、食堂でエミヤと話をしていたところ、実は賢王も影で見ていたのだよ。フォッフォッフォ」
「ええ?!」
「戯け! そこまで暴露する必要があるか!」
「だが、どれだけマスターを気にかけていたのかを言う必要はあろう。誰のせいでマスターがずっと悲しんでいたと思うのじゃ?」
そう言って白髭を触って見せる。それにぐっとギルガメッシュ王は何も言えなくなる。
「では、邪魔者はそろそろ退散としよう。マスター、よいクリスマスを」
フォッフォッフォ、と彼女に似合わないサンタクロースの笑いを見せながら廊下を去っていった。
その姿は今までよりサンタクロースのように見えたのは私だけだ。
部屋に私とギルガメッシュ王の二人きりになった。
彼が中に入ってきて、開いていた扉がシュ、と閉じた。 その音に思わず震えてしまう。その姿が可笑しかったのか、小さく彼は笑う。
この沈黙がとても辛い。元場といえば私がいけないんだろうけども、沈黙が辛い。そして、体が重い。
王様がこちらに歩いてくると、ぎゅっと抱きしめてきた。
突然のことで私はそのままされるがままだ。
「今ならアルトリアのところに
――いたっ」
「まだ言うか。この阿呆め」
離れようと胸板を押すが、より密着して離れられない。私の背中に彼の手が回る。
「そんな顔で言われても、何も説得にもならんわ。この、阿呆め。馬鹿といえば分かるか? この頭は」
「うっ、痛い
……痛いです」
軽く頭を叩かれ、今度はほっぺたをぎゅっと摘まれた。久々のふれあいに嬉しく思いつつも、この痛みには耐えられない。やはり鬼だ。
「ほ、本当にいいの? 私なんかと一緒にいて」
「だからいいと言っている。我がしたいと思ったからここにいる
――む?」
「そ、その
……私、風邪っぽいから、離れないと」
半分恥ずかしいのもあるが、半分は風邪を移してはいけないと思っての牽制だ。すると、離れんばかりに強く抱きしめた後、私の顎に手を沿え、触れるだけのキスをした。
突然のことで私は頭がぼうっとしてしまう。顔も熱くなって彼の顔を見られない。
「ならば移せばよい。この我がその程度の風邪で寝込むとでも? 戯けが。これまで避けられていた分相手をせよ立香」
そう言われてしまったら拒否するわけがない。
だって、私もずっと触れたくて仕方なかったから。
私は同じ気持ちだという気持ちをこめて、初めて自ら彼の唇に己の唇を合わせた。
聖なる夜。
年に一度訪れるクリスマス。
来年もまた、みんなでクリスマスを過ごせますように。
そう言いたげに空は白い雪が舞い降りた。
メリークリスマス。
「Happy Merry Christmas」 END
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