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しゅう as 猫田しゅうぞう
2025-12-10 21:31:07
20009文字
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アナオビ
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残り火
2010/8/13発行のコピー本の再録。
アナキンとオビ=ワンにまつわる六つの話。
今見るとさすがに構成が拙いが雰囲気はある。カップリング色なし。
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交渉人 最後の仕事
幾度も夢を見ていた。夢ではなく、幻覚かもしれない。
その夢は決まって、男がじっとこちらを見下ろし、ぽつりと一言零すというだけのものだ。
私は彼の足元にいる。
その足元で、身動きがとれず、身体の感覚も、どこといわず全てが痛いということばかり。そして、見上げざるを得ない彼に見下ろされていることが屈辱で、耐え難いと感じていることは間違いがない。それから、他にわかるのは熱だった。
焼けつくような空気であるからか、灰が喉にはいるためか、ひどく息苦しい。背後に燃え盛っているのはマグマだろう。溶岩の燃える色で、世界が赤い。燃えている。赤い。熱い。
見下ろす男は、自分よりも遙かに若い。
その姿が最後に観た姿だからだろう。昔の記憶だ。記憶から作り出された、露骨な夢だ。しかしそこまでわかっても、見下ろす彼の顔が見えない。いや、わからない。
逆光ではない。はっきりと見えるはずだ。そう思って目をこらすが、顔ばかり、いつもわからない。見えているはずなのに、彼だと思うのに、どのような顔だかわからない。いつからそうなったかわからないが、記憶が鈍ってしまったようだった。
男は私には思い出せない口で言う。ぽつりと。
「愛していたのに」
夢はいつもそこで終わる。
いつかの別れも、そうであったはずだ。
しかしどうしてそのような別れになったのか、ほとんど忘れてしまった。ただ、その結果として彼が私のほとんど全てを奪ったということだけが、その憎しみだけが、私に残っている。夢をみるたび、それを思い知った。
しかし、その姿を見れば、彼の存在を認識さえすれば、それでよかった。十分であった。憤怒が胸の奥からこみあげるのも、心地よくさえ感じられた。
「待っていたぞ、オビ=ワン」
私の声に老人は驚いたようだった。
そこで、合成音声で彼に話かけるのはじめてのことだなと気がついた。マスクから漏れ聞こえる呼吸音は、アナキンが名を捨てるにはちょうどよかったが、この変化はオビ=ワンにとってショックだっただろうか。それとも、出会うはずのない男に出会った事のほうが彼にとっては驚きであったのか。
ともかく、老人はたしかに、この黒衣の男を見て、表情をこわばらせた。
老人、そう夢の中の彼はいつまでも若かったが、実際には彼も年老いていた。もちろん、私も少なからず驚きを覚えた。きらきらと美しかった金髪はすっかり色を失い、生え際もずいぶんと後退している。しかし温和そうな表情はむしろ以前の若いころに戻ったようでもあった。余裕さえ見える落ち着いた姿は、今更ながらに、彼の師の面影を見せた。
それでも、こちらを見つめる青い瞳は、最後に見た姿と変わっていない。顔を思い出せないほどに忘れたと思っていたはずが、そう思った。
彼が老いたことより、姿を見たことよりも、彼が変わっていないことに自分が気づける事のほうが、私にとっては大事であった。なぜならそれが喜びでもあったからだ。彼が変っていないということは、彼は私の姿を見て、やはりまた傷ついているのだろう。
ジェダイであることによって、あるいはまた別の理由によって。
そうだ。彼はやはりジェダイだった。今この瞬間さえも。私には、一目見ればわかった。もはや失われたはずの、失われているべきはずの、魔法使いに他ならなかった。彼はまだ。
彼はそのジェダイとしての身分故に追われることとなり、私はほとんど死んだ。しかし私は今や銀河を掌握する帝国の要人となっている。
当時、私が死んだものとして名を改め、生き方を変えるとすぐに、彼は行方知らずとなった。まるで幻影であったかのようで、見つかったかと思えば痕跡が途切れ、それを繰り返す内に、私は彼を追うこともやめたのだ。どうせジェダイは皆処刑されているはずで、しかも逃げる相手などに構えるほど、私の立場は完璧ではなかった。完璧、そうだ。一時の私は銀河皇帝にだって成れたはずだった。オビ=ワンが私をほとんど殺すことさえなかったならば。
――
そうして二十年を経た。
結局、彼は逃げ回っている間に、どれほど多くのものを失ったのだろう? もともとジェダイらしく、ほとんど所有しているものなどない男であったから、失うものなど、もうその命ぐらいしか残っていなかっただろうか。多くの友人も、さまざまな理由で命を奪ってやった。残ったのは私のしらないものばかりだろう。もっとも、それも多くはないはずだが。
しかし残っていた腕と両足を失い、皮膚を失い、声を失い、それからフォースとの間に見えぬ膜を得てしまった私と、今や御伽噺の住人とさえ言われ、信用など地に落ちたいつかの英雄と、どちらがみじめであろうか。
剣を交わしながら、最後の時もこうであったなと思い出す。もっと苛烈な斬り合いであったように思うのは思い出故か、互いの身体能力が落ちたのかわからない。
ただ、あの最後の時、私の手足を切り落とす直前、やめろと叫んだオビ=ワンが、ひどく傷ついた顔をしたことを思い出した。
それは繰り返しみた夢の、ほんのすこし前の場面だ。
出会った瞬間にとは言わないが、後悔しているような顔をしてほしかった。しかしそれもなく、彼はただ驚き、怒っているのでも悲しんでいるのでもない顔をした。
斬りつけ、防がれ、かわされ、斬りつけ返される。
その応酬がしばらく続いた。私はそうしなければ私のこれまでを否定することとなり、彼はそうしなければ私に殺されて死ぬだけの、殺しあいだ。私はそれが楽しくさえ思えた。懐かしいと思った。そして彼が自分を見ているということに満足を覚えてさえいた。
だがオビ=ワンは最後に、笑った。それも、私に応えるためではなく、共にやってきたという田舎の若造に目をやって「ほら」と言うように。誇るように。または「そらみたことか」とたしなめた時のように。
「おまえは勝てない」
繰り返すことはなかったが、そう言いたかったのだろう。
すべてを失った惨めな私のかわりに、彼にはもう、私以外の誰かがいるのだ。その瞬間、思い知らされた。
それだけでも許しがたいと思えたが、なによりも許しがたかったのは、その砂色の髪の少年だ。レイア姫の他にドロイドとウーキー族、そして二人の青年をのせた貨物船を、オビ=ワンが護りたかったことは明らかだ。しかしオビ=ワンが希望を託したのが、もう一人の青年ではない事は直感できた。そんなわけはないのに、昔の自分を重ねてしまったほどだ。
きっと少年はオビ=ワンを信じているのだろう。
いつかの私がそうであったように。彼を敬愛し、師とも家族とも思っていたころのように。ジェダイらしい嘘に疑心を抱くことさえなかったころに。
一瞥しただけで、愚かな自分をみるようで、腹立たしかった。一瞬ばかり見たことを、彼が認識しなかっただろうことも
――
少年の目にはオビ=ワンしか映っていなかっただろう
――
憎らしい。
その憎しみを肌で感じ取っているはずのオビ=ワンは、それでも祈るようにライトセーバーを掲げた。その防御にもならない構えにたまらなくなった。ふざけるなと、声にならぬまま私は斬りつけた。案の定、彼は私の剣をその身に受けた。光刃がローブを切り裂く。しかし、実体を斬る手応えはなかった。まるで対峙していたのは亡霊であったかのように、その実体が消えたのだ。
夢の中の男は、オビ=ワン・ケノービであったその男は、そうして生涯を終えた。否、終わってはいないのか。おそらくは、フォースに還った。その師であった男と同じように
――
私だけを残して、その運命を終えたのだ。
操り手のいなくなったライトセーバーのスイッチが切れ、ただの金属の筒となって床に落ちる。その音をやわらげようとするように、老人がかぶっていたローブがその場に留まった。だが肉体はない。斬り殺したという実感もない。残るはぼろぼろのローブと、時代遅れの金属筒。
死はない。ジェダイに死はない。
彼がそう繰り返し教えたことを今更になって思い出す。しかし今、彼が死んだことに違いない。
その後夢は見なくなった。
あっけないものだなと思った。
あの瞬間のことを思い出すと、胸の奥が苦しみを訴えたが、今となってはそれが悲しみであるのかわからない。
どうでもよいこと。どうせ終わった。
互いの決着はあれで終わり。一度それが胸に落ちると、どんどん記憶が薄れていくように思った。感情が揺れなくなったせいだろう。そして、それは彼を乗り越えたということだろうと結論づけて、みじめな自分から目をそらす。
もちろん、気がかりもあった。
彼は最後に、どうしてあんな顔をしたのだろうかということだ。単純に得意になっただけとも思えず、しかし希望などとも思えない。あんな田舎の若造に、なにができるというのか。わからなかった。わからないが、フォースの恩恵から取り残されたわたしには、彼の囁き声など聞こえはしない。もしかすると、あの後、あの若造には聞こえたのだろうか? いつかの私のように、彼の思念体と対話することさえ、しているのだろうか。そう思うと、やはり胸が苦しくなった。
もはや確かであるのは、彼の目の色が、いつか私が首をはねたあの老人のような、裏切りに傷ついた目ではなかったことぐらいだ。そんな彼の穏やかさがただ空しい。優越感も高揚もない。まるでそれを奪われたように思える。なにより
――
オビ=ワンはまるで、それがわかっていたかのようでもあった。
「あんたが憎い
――
」
いつか口にした言葉が、ぽろりと口から零れる。あの時とは違い、なんの感情もこもらない。どうせマスクの呼吸音に混じり、声帯を損なった喉の震えを再現した醜い合成音声だが。
しかし零れ落ちたそれを、他人事のように、まるで涙のようだと思った。もう流し方も忘れたくせに。
了
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