しゅう as 猫田しゅうぞう
2025-12-10 21:31:07
20009文字
Public アナオビ
 

残り火

2010/8/13発行のコピー本の再録。
アナキンとオビ=ワンにまつわる六つの話。
今見るとさすがに構成が拙いが雰囲気はある。カップリング色なし。


あらし

 外はフードをかぶれば済む程度の小雨であるのだが、人がほとんど隠れていた。めずらしいこともあるものだな、とアナキンは路地を進みながら思った。
 この街に訪れるのはさほど頻度の高いことではないが、しかしいつでも人混みが激しい街であるはずで、こんな風に、人がまばらな通りをみたことがなかった。夕暮れだからだろうか、と空を見上げるが、空は雨水をぽつりぽつりと落とすばかりの、くすんだ空色でしかない。時間感覚が失われそうな空模様だった。
 手近な店の扉を押し開く。触れた扉の表面が磨耗していた。やすりをかけたにしろ、目が粗すぎる。妙な扉だなと思いながら、ノブのない扉を押す。
 暑苦しく、重みのある空気が内側から溢れた。思わず目を細めそうになりながら一歩踏み込むが、カウンターから「少々お待ちいただけますか」と声をかけられた。
 その声に、狭い店内をそっと伺えば、どの席も埋まっている。話し声もにぎやかで、待っているよりほかの店を探した方が早そうだと判断するには十分なほど、人の気配に満ちていた。背を向け、声をかけてきたのだろう店員に見えるよう、後ろ手を振った。
 では隣の店にしよう、とアナキンは看板の案内表示に従って階段を降り、しかしまた入り口で足を止めた。
 それほど狭い店内ではないが、一見したところやはりここも満席である。めずらしいな、と思いながら、店員に気づかれる前に階段を戻る。
 ふと、階段を踏みしめながら、雨の音が強まっているのに気づいた。これは面倒だな、と思った。
 雨が強まっているならば、どこかでやりすごさなければ。そう思って階段を上りながら、差し込む日差しに違和感を覚えた――空が晴れたのか、さきほどよりも明るいのだ。だが雨音がする。さざめく雨音はまるで豪雨というよりも、波のようだ。
 いよいよおかしいと確信したときにはもう、まぶしさに目がくらみそうにさえなった。
 それでも外に出る。吹き込む風はなにかを含んでいた。
 ざらざらとした痛みに、砂だと気づく。靴底にあるのも、砂を踏む感触だった。
 ざらりとした感触に目を開く。あたりは一面砂にうもれ、やぶれた屋根などはつもった砂が零れ落ちている。まるで雨の滴の代わりに砂が滴っているようだ。
 だからみんなこもっているのかと納得した。
 風が砂を運んでいく。
 ざあざあと、砂音がする。
 熱いな、と肌を撫でる砂に思った。
 収まった砂の嵐が、雨が、また強まる気配がした。
 そうして目を閉じたとたん、何も聞こえなくなった。

 気がつくと、メディカルルームだった。
 それも小型船の応急処置用だ。起きあがると、メディカルドロイドが挨拶をしてきた。そしてそれを聞きつけたように、扉が開き、マスクをかぶったままのトルーパーが一人、入ってきた。クローントルーパーだ。
「コーディ?」
 おどろいて見つめてみるが、マスクの下は見通せない。
 ここにいるのがレックスではないのが不思議だった。
「お目覚めになられたようで我々も一安心です、スカイウォーカー将軍」
 なにがなんだかわからなかった。
 ただ、頭をかくとぼろぼろと砂がこぼれた。その感触は久しぶりだった。輝く砂色の、さらさらとした髪をもっていた幼いころのような。しかし今のゆるやかに癖がついた髪では、あのころよりもやっかいに砂が絡んでいるに違いない。面倒だな、と状況把握もそっちのけに考える。
 砂をかいた指を開いて見つめていると、目が回るようだった。
「砂嵐に飲まれたと思ったんだが」
「流砂、では」
「流砂?」
「流砂です。あなたが引き受けられた任務の特記事項にそう書いてある、とケノービ将軍が」
「オビ=ワンが?」
 コーディは頷いた。それ以外の答えがあるのかと不思議そうでさえあった。だが、その一言で彼がここにいる理由がわかった気がする。コーディはオビ=ワンと普段は行動を共にしているクローン兵チームのリーダーだ。アナキンにとってのレックス。だが、レックスを呼び寄せるより簡単なほうを彼は選択し、この場へ向かわせたに違いない。もしくは、単に座標の都合かもしれない。
 しかし助かった。
「ですが、どうしてあの街へ? あの街は砂の下へすっかり埋もれてしまったきりですよ」
「なに?」
「あなたが足を踏み入れるより、八日前のことですよ」
 コーディーは言った。
 そんなばかなことがあるものか。アナキンは言い返そうとして咳き込んだ。咳き込みながら、疑問が浮かぶ。
 ――どうしてあの街へ?
 コーディーの問いかけが頭の中に反響する。
 どうしてだったか。思い出そうにも、なにもかもがおぼろげだった。まるで夢の出来事のようだ。
 しかしざらりとした砂の感触は消えず、口のなかまでじゃりじゃりと砂が入り込んでいるのは事実だ。