しゅう as 猫田しゅうぞう
2025-12-10 21:31:07
20009文字
Public アナオビ
 

残り火

2010/8/13発行のコピー本の再録。
アナキンとオビ=ワンにまつわる六つの話。
今見るとさすがに構成が拙いが雰囲気はある。カップリング色なし。


凍える程度の窮地

 意識を手放したパダワンはまだ目覚めない。それどころか、体温がどんどん低くなっているように思えた。
 鼓動がうるさく、誰の鼓動かと馬鹿げたことを考えて、オビ=ワンは小さく笑った。こんなに着込んだ格好をしているのだから、自分以外の心音など、聞こえるはずもない。

 丘の上から、足音が近づいていた。鉄くずが雪を踏みしめる音が。雪の積もった垣根の向こうをみながら、無事にやりすごせることを願うが、願いとは真逆に、霜柱を踏む音が増えていく。
 無慈悲なスチールの足が追ってくる。それをプレッシャーと思う日が来るとは、と内心で悪態をつく。
 高感度スキャナーを持たない相手だから助かっているが、長くはもたないかもしれない。あまりリスクを冒せる状況ではなかった。
 中毒症状に苦しむパダワンのために、息を殺す。
 霜柱が壊されていく音が、やけにうるさく耳に響く。
 足跡は降り続く雪で隠したが、痕跡すべてを消せるほど完璧ではないはずだ。オビ=ワンはライトセーバーを握りなおした。居場所をスキャンされることはないから、パダワンをここに置いて、戦うべきであるのかもしれない。考えを改めるべきかもしれない。
 だが怖かった。手放すことが。
 いつもならばできることが、なぜか怖い。恐ろしい。パダワンが、アナキンが、軽口すら叩けなくなっているせいだろうと推測することはできたが、その推測も問題だった。
 それではいけない。それではだめだ。理性が訴えかけるのに、ライトセーバーを握る手に力がこもる。
 それでも、凍りついたように身体が動かない。
 喪失への恐れ。生への執着。執着。ジェダイに執着は許されない。執着は暗闇への近道だ。執着は怒りを生み、怒りは暗黒面に繋がる。
 ジェダイは切り捨てることができる。
 秤にかけることができる。正しい秤をもっている。もっているはずだ。もっていなければならない。
 ――頭では、わかるのだ。
 だが手放せば命が消える気がした。
 手放せば、未来永劫戻らない気がした。
 落ち着いて対処すれば、パダワンの中毒症状は緩和されているのだから、解毒はむずかしいことではない。わかっていた。そのためにここを脱することが必要だと。
 それでも、行動に移せない。
 どちらが正しいのか――考えられない。体が動かない。

「クリア」
 一体が言い出したと思えば、次々と点呼をとるように続く。その声にオビ=ワンははっと息を飲んだ。
「クリア? どうしてだ」
「命令が入っただろう、ばか」
「ばか クリアしろ」
「命令をクリアしろ」
 バトルドロイドが奇妙なやりとりをしながら、くるりと向きを変え、去っていく。まるで新たな命令をうけたようでもあった。
――なぜ」
 オビ=ワンの呟きに、答えがあった。
「行き、ました?」
 腕の中で、消え入りそうな声がした。
 驚いてみれば、パダワンがしっかりと目を開けて視線を返した。呼吸を飛ばすほど、オビ=ワンは驚いた。そして自分の決断よりも、意識混濁としていた弟子のほうが早く行動を起こしたことに、ヒヤリとした。
「アナキン?」
「あのタイプ、命令コードの入力が数秒絶えると、あいつらは命令を破棄して、新しい命令を探すんです」
「なに」
「見かけは同じでも改造されているやつもいるから、賭でしたけどね。とにかく、よかった」
 アナキンは唇をゆがめてみせた。
 笑うというには、あまりにも疲労の色が濃い。
 オビ=ワンは自分の震えが伝わらなければいいと思った。パダワンの得意げな口調は生意気だが、心地よかった。
 胸の奥で、鼓動を騒がせていた不安が払拭される。
「なにを、したんだ?」
「耳栓みたいなことを」
 アナキンは軽口を叩いて、指をひらひらさせた。彼らしいそぶりだった。フォースの助けを借り、電子回路の接触でも絶ったのだろう。
 胸をなでおろすと同時に、口をついて言葉が出た。
「ばか。治癒に専念しろ」
「ひどい、窮地を救ってさしあげたのに」
「おまえの窮地でもある――貸しにはしないから、やすめ」
「大丈夫ですよ」
「なんだ、信用がないな? 抱えていってやるぐらいは私だってできる」
「そうではなくて」
 弟子はその返事をあきらかに面白がっていた。からかうような、本気とは取れぬような声音で続けた。
――僕に不可能はないので」
 呆れた自信家ぶりだ。しかしその様子にこそ、元気だな、と内心で安堵したことは言うまでもなかった。
「フォースの導きに従えばな」
「疑っているんですか」
「いいや。だが、もうおやすみ、アナキン。おまえに感謝しているから」
 オビ=ワンの言葉に、ようやくアナキンは瞼をおろした。
 そうして彼が眠ってしまったことを確認すると、オビ=ワンも少しの間だけ、目を閉じた。
 ひやりとした空気を感じながら、手探りでアナキンの肌にふれる。冷たくはあるが、ようやく熱が戻ってきているように思えた。凍えずにすむように、彼の身体を改めて抱きなおす。
 もう二人の体格差はあまりない。次の機会には背負うことが困難になっているかもしれなかった。そう思うと奇妙な気がした。

 彼は目に見えて成長している。
 では、自分は――
 答えの出せない質問に自答することなく、オビ=ワンはようやくアナキンの身体を担いだ。