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花筵シヂマ
2026-06-06 23:20:01
27374文字
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玲瓏の花籠(3から4話まで)
後転男体化なので前は女の子のミズキが出てきますが、転生しておとこになり、例の村で父と再会します
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昼間のミズキとは、湖畔の散歩が習慣になっていた。
朝餉が終われば掃除を終えたミズキが御簾をくぐってやってくる。その白い手を握っても、もう拒まれず握り返される。しかしなぜか今日のミズキの表情は強張っている。笑みも少ない。もしかしてネコ女が何か言ったのだろうか。冷や汗がゲゲ郎の頸にぶわりと浮かんだ。
やがてミズキは湖畔を覗き込むと、何かを言いたそうにゲゲ郎を横目で見ていた。瑠璃色の湖にミズキの白い横顔が映し出される。
「どうしたのじゃ?」
「あ、
……
いや」
ミズキが苦笑いで誤魔化そうとしているのが手に取るようにわかってしまう。
「教えておくれ」
ミズキの背を撫でれば、その背がびくりと跳ねた。あからさまに拒否の色を浮かべた表情を浮かべたミズキが後ずさる。
「ミズキ?」
名を呼べばミズキは自らの髪に触れながらおずおずと口を開いた。
「あんまり見ないでくれ
………
俺、最近変なんだ」
「何がじゃ
……
?」
もしや夜毎の行為がばれたのか。
渇いた喉を鳴らしても少しも落ち着かない。
「わからないか?」
無意識に手のひらを握り込み唇を噛んでいた。それでもミズキはゲゲ郎の様子よりも自らの髪の毛ばかり触っている。
「髪の毛だよ、勝手に伸びてるんだ」
「
……
髪
……
?」
「そうだ。この屋敷にいると妖怪らしくなるんだろう?
……
だから俺が気づかないうちに、他にも変なところがあるんじゃないかと思って」
胸中で安堵の息を吐いた。と同時に己の臆病さに気づく。ミズキに何もかも話さないとならないのに、全てが公になることを喜んでいない自分がいる。
何と醜いのだろうか。
「変わらぬ。ミズキはずっと美しい」
自らの姿を湖畔に見つけた。白く長い髪のおとこが虚な眼差しでこちらを見つめ返している。臆病でくだらない、汚い化け物が人らしく化けているだけの姿だ。
「髪が伸びたら儂が結おう。出会った頃に、お主の髪に触れたかったのじゃ」
白々しい言葉だったが、ミズキは嬉しそうに微笑んでいる。正視できないまま、ゲゲ郎は自らの髪を耳にかけた。
ミズキと褥を共にして三ヶ月は経過しただろうか。
一向に懐妊の兆しはなく、ただ、ミズキの髪だけは肩を越えるほど伸びて行った。
なぜミズキは孕まないのだろう。
抱かれてることに気づいて何らかの策を講じる気配はなさそうなのに。
憂鬱な息を吐き出しながら手摺にもたれかかり、庭先の花々を眺めた。昨日から再び雨が降り続き、花々も湿り気を帯びている。
手にした煙管を唇に寄せようとして誰かに横から掠めとられた。同時に鼻にまとわりつく甘ったるい香がして眉根を寄せた。
「お前も愚かなおとこだなあ
……
なぜ孕まぬかわからぬのか」
ゲゲ郎から奪った煙管で、父が煙を吐いていた。ゲゲ郎と同じ顔を楽しそうに歪めている。
「大方、ネコ女がミズキに孕まぬように薬でも飲ませているんだろう。それにも気づかず、無駄な種を蒔いて
……
健気なことよ」
父は我慢できなかったのか、腹を抱えて笑い始めた。時折、手摺を叩いて足を鳴らし、まるで童が笑うように。
不思議と怒りは沸かなかった。
父の言う通り、ゲゲ郎は無駄な種を蒔き、子を孕ませることもできていない。
だが着実に、ミズキの肉体は変わっている。肌は張りを持ち髪は艶を持ち、ゲゲ郎を全身で愛してくれている。
それをまるで嘘みたいに言わないで欲しい。
“愛し合って”いるのだから。
笑い転げていた父は、目が合うなり急速にその顔から色を失った。口角を引き攣らせたその顔は、怯えているようだった。
「なぜそんな顔をする
……
?」
そのような顔とはどんな顔なのだろうか。
ゲゲ郎にはわからない。
父の手から静かに煙管を奪い取り、床に叩きつけた。
「儂らは愛し合っておる。ミズキは儂を愛してくれておるのじゃ」
「それは、俺が操ってお前の褥に行くように仕向けたからだろう。愛などあるものか。お前もミズキに催眠をかけて抱いているくせに!」
父が一言口にするたび胃の奥から吐き気が込み上げてきた。
もう黙らせないといけない。
このおとこは昔から目障りだったのだ。
「違う。ミズキは儂を、ちゃんと思うてくれておるのじゃ!
……
」
叫びながら大股で父に歩みよる。
真ん中から割れた煙管を踏み締める感覚だけが足裏に残る。勢いをつけて父の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。
「
……
なあ、何の話
……
してるんだ?」
父の胸ぐらを掴んだ瞬間、ゲゲ郎は息を呑んだ。背後から首を絞められたように息ができない。
「なに、
……
催眠?
……
俺が
……
ゲゲ郎と
……
何してるって
……
?」
か細い声を出しながら、床板を擦る足音が近づく。やがてその足音の主は、ゲゲ郎の傍らで呆然とした表情で立ち尽くしていた。
ミズキは青ざめ、そして信じられないとばかりに首を振っている。
「あ、み、ミズキ
……
」
ミズキはまるで蝶のように身を翻し走り出してしまった。伸ばした手が掴んだのはミズキの髪を結んだ赤い紐だけだった。
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