桂山針
2026-05-11 10:11:40
41259文字
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書き溜めてるやつ

一応書き溜めてるけど、全く進まないけどちょっと投稿したいな。という欲を発散するためのものです。
ハーメルンに後々上がるとも思いますが、その際内容が少し変わってるかもです。所謂、【画面は開発中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合があります】です。


06 予見者・ノストラダムス

 未来を視る事が出来る此の瞳は、本当に主から賜った宝物なのでしょうか?
 この恐ろしい能力は、主から賜った困難なのでしょうか?
 私は、主を敬愛しその信仰を一度も曲げた事は御座いません。しかし、私はウツの地のヨブのように強くないのです。私の全ては主が与え、主取られた事は理解しています。
 それでも、私は……私は此の瞳を潰したいと願ってしまったのです。
 フランス・ルーアン郊外の廃教会の告解室より
 ――予見者ノストラダムス エヴリーヌ・シルヴェストル=ノストラダムス
 
※ ※ ※

「おばあ様。だ、大丈夫でしょうか?」
 フランス某所。最早、荒屋のようになった家で、老婆が1人呻く。血が流れ続ける目を抑えて、呻いていた。
 幼い少女が老婆の隣に座り、背中を摩る。老婆は身体の震えが止まらないようだった。それが寒さからなのか、他のモノからなのか少女には分からなかった。
 
「ミレイユ……すまない、ねぇ……
 老婆は最早、じっくりと息を吸う事すら叶わなかった。老婆は最早、玄孫の顔を見る事すら叶わなかった。老婆は最早……予見を変える事は出来なかった。
「わしは……最初から、間違っていた。ようじゃ……
「間違って……いた? どういう事、でしょうか?」
 老婆の心に深く刻まれた予見。
 〝1999年7の月に恐怖の大王が来るだろう〟
 かつて、老婆たちの祖先が行ったその予見は、何度見ても変わらなかった。それどころか、予見を何度も繰り返す事により、未来がより正確に〝確定〟されていった。
 なんて、残酷な話だろう。未来を変えようとして、未来を固定してしまっていたのだから。
 
「予見は……無闇矢鱈むやみやたらに、やるべきものでは無いのだよ……。一度見た未来を、もう一度見ようとする事は……より未来の選択を狭める事だったようじゃ。何故、わしは100年以上も予見者をしているのに、気付けなかった?」
 そう言い、老婆はよろよろと立ち上がる。少女は老婆の腕を掴んで、老婆が倒れないように介助する。
 
「予見に優れた……我が一族も、既にわしとミレイユだけだ……これが未来を見る者への罰か……神よ!」
 割れた窓から見える月は老婆にとって自身を嗤っているように見えた。この老婆が耄碌し、正しい判断が出来ず酷い被害妄想に駆られていると言う可能性は決して排除できないが。
 
「お、おばあ様。無理なさらないでください。今日のところはもうお休みになりましょう、ね?」
「すまない、すまない。ミレイユ……
 そう謝罪の言葉を述べると、自身を支えていたミレイユの手を半ば剥ぎ取るように取っ払った。
 
「おばあ様! 危ないです!」
「視力が無くとも、魔法で知覚を拡張すれば良い。足が不自由になろうとも、魔法で自身を浮かべてしまえば良い。例え、腕が動かなくなっても杖無呪文を使えば良いのだ。わしは、わしらは魔法使いだからの……
――ミレイユ、ありがとう」
 老婆は魔法を使って目に包帯を巻いて血の流れを抑えた。
「ミレイユ、例えわしが帰らなくとも誰も憾んではいけないよ。その時はただオリンペに連絡しなさい。彼女ならば、ミレイユを救ってくれる……はずじゃ」
 そう言い切ると咳き込み始めた。ミレイユが再び老婆へ近付こうとすると、老婆は姿眩ましを使って消えてしまった。ポンっと軽い音だけがあばら家に残ったのだ。
 
「お、おばあ様……私には、もう……おばあ様しか、居ないのに……
 寒い風が吹き込む荒屋で1人ミレイユは泣き崩れた。

※ ※ ※
 
 深い闇に包まれた森の中を月灯りをも避けるように歩く人影あった。
 その人影は老婆だった。老婆は深くローブを被り、男か女かさえも分からないよう細工をしていた。各国で携帯電話サービスが広まる時代に合わない〝時代遅れ〟の恰好をしていた。
 
 老婆は暫く無言で森を突き進んでいたが、やっと目的地が見えた。小さな小川を飛び越えた先に無骨な石造り小さな家がある。部屋の中には微かに光りが灯っている事が分かる。
 老婆のその道中、掘立て小屋に出会した。
 てっきり、そこが自身が求めている人物が住まう場所かと思ったが。しかし、小屋の中には誰もおらず置いてある物も男物の物品だらけだったので、違うと断じた。その老婆の判断は確かにあっていた。あの楽園のような場所に建つ家こそ、老婆の求めていた人物が住まう場所である。
 
 一息息を吸うと人影はローブの裾を持ち上げて小川を渡ろうとする。
……辞めた方がいいよ」
 老婆の腕を掴み、小川を渡る事を止める人物が居た。老婆はすぐさま手を振り払い、距離を取る。そして、自身の歩みを止めた人物の方を視る。
 
 それは少女だった。〈美少女〉だった。魂は美しく清らかで生まれて間もない〈美少女〉だった。しかし、老婆にはどうしても普通の少女が目の前に居るとは思えなかった。何処か造り物ような違和感を抱いたのだ。
 〈美少女〉は猫を抱いており、猫は何処か全てを知っているような心を持っていた。老婆は元々猫がそういう生態を持っている事を知っていた。
「予見者の……君の国に合わせるならば、お嬢ちゃんマドモアゼル。今のキミがその小川を渡ろうとすれば、川幅はドーバー海峡よりも広がるだろうね」
……わしの事を、何も知らぬ小娘かと思ったかね?」
 声はしわがれており、若々しさは確かに失っている。老婆のモノだった。とても〝お嬢ちゃんマドモアゼル〟では無い。その声には太い芯が一本通り、年老いても自身の信念を燃やし続けていた。
 
 やがて老婆は深く被っていたローブを取り、少女と相対する。かつては色を宿していただろう髪は既に色を失っている。顔のハリは失われ、深く深く皺を刻んでいる。瞳を包帯で覆っている。
 しかし、燃えている。確かに、信念がそこにあるのが感じられる。それは、〈美少女〉でもハッキリと理解出来た。
 
「残念、私は予見者のお嬢ちゃんマドモアゼルが既に100歳を超えているご老体だって知ってるよ。……けどね、私から見ればキミ程度の年齢はまるでどうでもいい」
「そして私は、君の名前も知ってる。終末の予見者ミシェル・ノストラダムスの子孫。終末に杞憂する愚人エトワール・ノストラダムスだ。キミは今からこの先に住まう少女を1人殺害しようとした。キミ自身の憂いを断ち切る為に。ただの自己実現の為にこの地にやって来た」
 老婆は自身について全て知っている少女を非常に気味悪く感じた。2人は険しい表情で互いを牽制し合うように見つめ合っていた。
 
「お主は……一体、何者かね?」
――それより……キミはどの程度知ってるのかな? シルヴィア・ベルグワードについて。彼女の物語を」
 態度にこそ見せなかったが、老婆は酷く動揺した。この少女から感じられる怒りに慄いたのだ。そして、素早く推測する。この〈美少女〉にとって自身の殺害対象のシルヴィア・ベルグワードは非常に重要な人物であると。
……わしは、何も……知らぬ」
「へぇ~、何も知らないのによく人殺しをしようと思えるものだよ。キミは傲慢な老人だね」
 
 沈黙。
 老婆はその言葉を俯きながら聞き入れた。しかし、もう一度顔を上げ〈美少女〉の魂を見た。情熱を宿したその魂で〈美少女〉を魂を見たのだ。〈美少女〉は決して動揺する事は無かったが、訝しむように魂を変化させた。
「ただ1つハッキリと知っている事がある。それは――彼女はこの世界を滅ぼす。必ず」
――私の事を何も知らない小娘だと思ったの? だったら、残念。私は全てを知っている。彼女の抱えている面倒な設定を、彼女が抱えている残酷な物語を」
 意表返しのつもりだろう。〈美少女〉は老婆に返答する。老婆をまた驚いたが、それでも〈美少女〉との眼差しはぶつけたままだった。
 
「知っているならば、何故わしの行動を止める? お主もその事を知っているのであれば、彼女がこの世界に終末を齎す恐怖の大王にならないように一思いに殺してやるのが〝友人〟としての優しさでは無いのかね?」
「ハハハ、流石は〝終末を杞憂する愚人〟と呼ばれるだけあるよ。キミの行動はあまりにも乱雑だよ。終末を止める為に彼女を殺す? 自分が終末の増幅器に成りたくなければキミは行動を今すぐやめた方がいい」
 そう〈美少女〉が嘲笑うと、遠くでキィと扉が開く音がした。
 
「っ不味い、シルヴィア! 扉を閉めろ!」
 〈美少女〉の声がシルヴィアの声に届くよりも早くに老婆の杖無し魔法が少女に向かっていた。
 閃光が宵闇を裂く弓矢のように飛び出していた。〈美少女〉の赤色の瞳が初めて揺らいだ。その閃光が生命に終わりを与えるモノであると〈美少女〉は知っている。彼女の赤い瞳に初めて、絶望の色を灯した。

 しかし、当たらなかった。老婆の魔法は途中で何者かに進路を阻まれたかのように明後日の方向に飛んで行った。
……っ、イ、イヴ? そ、そのお婆ちゃんは?」
「来るなッ!」
 〈美少女〉の忠告虚しく、老婆はすかさず再び魔法を繰り出す。しかし、再び明後日の方向へ飛んで行った。
「な、何だ……一体、何が……?」
「ひっ、酷い怪我を負ってる……ねぇ、お婆ちゃん。痛み止めの魔法薬がありますよ。どう――「ちょっと、シルヴィア。黙って!」
 〈美少女〉の剣幕が飛ぶ。シルヴィアは目を見開いて〈美少女〉を見た。
 
「キミの、シルヴィアの命に係わるから。悪いけど……取り敢えず黙ってくれないかい?」
 〈美少女〉の表情も声も何もかもいつも以上に真面目だった。いや、真剣そのものだった。
「シルヴィア。ごめん、声を荒げて……ねぇ、痛み止めの魔法薬をここに持ってきてくれないかい? この老婆はここで治療しよう」
「け、けど……さ、寒いよ?」
「いいんだ。今だけは、どうか私の言う事を聞いて……
 懇願するような言い方だった。
 〈美少女〉の腕の中に居る黒猫も少し驚いた。イヴリン・スミスと言う〈美少女〉は基本的にふざけており、真剣な表情は1つも見せなかった。〈美少女〉とは多数の仮面を使い分ける事に長けた人物らしい。と黒猫は新たに知り得た。

――いい子、じゃ。この世に居る誰よりも純粋で無垢で……穢れを知らぬ」
「エトワール・ノストラダムス。キミが何と言おうとも、老耄した老婆の言い分なんか信じないんだからね。自分が改心したように見せかけて、あの子を殺す。ていう魂胆でしょ? 私は彼女が物語から退場する事を決して許さない」
 冷たく〈美少女〉は言い放った。老婆は何も言えなかった。
「そうじゃな、2回もあの子を殺そうとした。それが事実として存在している以上、わしが信用を得られる事は無いじゃろう……
 少し寂しそうに、後悔しているように言った。
「第一、キミはどうするつもりだったんだい? キミの一族は5年前に壊滅したけど、幼い玄孫のミレイユは残っているだろう? そのミレイユを置いて、自分は世界救済に駆けるおつもりかい?」
「お前さんは何でも知ってるの……一体何者かね?」
 老婆が問う。〈美少女〉は少し悩んだ末に口を開く。
 
……私、東ベルリンで生まれた。本当に窮屈な場所でね。けど私は魔法使いだった。マグル生まれの魔法使いだったんだ。」
「だから、早くに魔法を身に着けて、西ベルリンへ逃亡してやろうと思った。」
「けど、途中で見つかって殺されそうになったんだ。その時に魔法使いに助けてもらった。本当に危なくてね、それでその魔法使いは予見者だったんだ。」
「キミが知ってるかどうかは分からないけど、アロイス・イルマイヤーって言う魔法使いの弟子だったらしい。私はそれからフライラッシングに移住して、予見能力を身に着けた」
……嘘じゃろう?」
「そう、嘘」
 〈美少女〉は嘘を誇った。老婆は一息、はぁっとため息を吐いた。
「嘘は良い事では無いぞ」
「キミにいい事を教えてあげるよ。みんなが信じれば、それは真実になるんだよッ」
 〈美少女〉はニカッと笑った。〈美少女〉の腕に抱かれた黒猫は思った。こいつ、碌でも無しだな。っと。
「イヴ、持ってきたよ~!」
 シルヴィアはそう言って、ゼェゼェと息を上げながら駆け寄って来る。〈美少女〉は僅かに緊張したが、老婆が魔法を発動する事は終ぞ無かった。

「すまなかった。イギリスに来る事も中々ないからな。少し迷ってしまった。ありがとう、お前さん達が居なければわしは行き倒れていただろう。感謝する。……この恩は、いつか変えそう」
 老婆はそう言うと、静かに森へと姿を消して行った。
「イ、イヴ……? どうしたの、さっきは……その~、なんか焦っていたけど……
「なんて事無いさ。さぁ、明日にはホグワーツ行きだよ。しっかり眠ってしっかり用意しなくちゃ!」
 〈美少女〉はシルヴィアの背中を押し、家へと戻させた。一瞬、森の奥の方に眼差しを向けたがそのの瞳には何も映らなかった。