桂山針
2026-05-11 10:11:40
41259文字
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書き溜めてるやつ

一応書き溜めてるけど、全く進まないけどちょっと投稿したいな。という欲を発散するためのものです。
ハーメルンに後々上がるとも思いますが、その際内容が少し変わってるかもです。所謂、【画面は開発中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合があります】です。



02 ハーメルンの笛

 音楽とは、魔法使いであれマグルであれ。マジャール人であれ、ボヘミアンだろうが。北アメリカ大陸に住もうが、マダガスカル島に住もうがアマゾンの奥地に住もうが扱う事が出来る共通言語なんだよ!
 さぁ、リズムに乗ってワンツースリー
 帝都ウィーンのカフェでの雑談より
 ――オーストリア=ハンガリー帝国の音大生 エッダ・シェーレンベルク

※ ※ ※

 1991年7月6日。
 いつもと変わらず、その日も平穏でのんびりとした朝を迎える。
 朝食を終えたシルヴィアは、魔法薬についての本を読んでいた。それは、この家に元々置かれていた本であり、誰かの日記のような形式の本である。今回、シルヴィアが手に取った本には脱狼薬について記されていた。
 人狼化とはとても恐ろしい病である。噛まれてしまえば、死ぬか人狼になるか。人狼になれば、満月の夜には自我を失い家族、友人、大切な人ですら殺してしまう化け物となる。
 そんな病に涙していると予定があるとは聞いて居ないのに、〈美少女〉は魔法族らしく1990年代を生きるマグルにとっては古臭い、というよりは骨董品レベルの服装をしていた。

「あれ? イヴ。今日って何かあったっけ?」
 シルヴィアはこの〈美少女〉に連れられ、森の外。ロンドンへと赴く時が時折あった。
 それ故に、自身の服が生活がどれほど時代遅れかは知っている。知った後、〈美少女〉はシルヴィアの為に現代を生きるマグルのようにハイセンスな服を買ってあげた。
 また、テレビを買いビデオデッキを買い、定期的に一番近い街にあるレンタルビデオ屋に2人で趣き、VHSを借りて来る生活を始めた。
 因みに、シルヴィアは昨年公開の『ホーム・アローン』を見た時、ドギマギしてテレビに103分の映画だというのに、30分も目を当てられなかった。
 長々と語ったが、ともかくこの日にロンドンやらレンタルビデオ屋やら、スーパーに行こうという話にはなって居なかった筈なのである。

「おや、もう忘れてしまったのかい? 今日は7月6日。ホグワーツからシルヴィアちゃんの遺産について引率してくださるスネイプ教授がやって来るのだよ」
「え……あぁ、嘘。忘れてた……
「今からでも遅くないから、着替えておいでなよ」
 その言葉を聞いた直後、シルヴィアは弾かれるように立ち上がり、2階にある自分の部屋へ駆け上がった。それと同時にドアノッカーを叩く音が家に響いた。

「大丈夫だよ、シルヴィアちゃん。ゆっくり着替えてなよ。私が少しばかり相手しておくから」
「ご、ごめん……!」
 シルヴィアの部屋の中からその言葉が聞こえて来た事を確認すると、一旦息を吸って笑顔を作った。〈美少女〉らしい美しく誰でも惹きつけるような笑みである。〈美少女〉であれば、少し口角を上げるだけで品が良く美しく見えるのである。

「ここがミス・ベルグワードの住処か? ホグワーツ魔法魔術学校より参上したセブルス・スネイプだ」扉越しに響く低い声。
「へぇ……思ったより丁寧だ。もっと露骨に無礼な奴だと思っていた……
 扉の向こうに居る相手の皮肉も忘れずにする。それが英国人の嗜みというのもである。〈美少女〉はゆっくりとドアノブを回し、扉を開く。

 戸口に立つ男の真っ黒のローブは、色鮮やかな夏には似合わない恰好だと思った。その黒は夏の日差しさえ吸い込んでしまいそうに思える。〈美少女〉はこの黒をブラックホールのようだ。と称した
 男の土気色のとても健康的とは言えないモノだ。不機嫌を隠そうとしない漆黒の瞳を持つ。美しさとはかけ離れていた。

「ご用件は何でしょうか、セブルス・スネイプ……教授?」
 その一言は戸口を一気に緊張状態に陥られせた。

「まず……お前は何者だ?」
「おや? ダンブルドア校長先生様からお聞きになっていないのでしょうか? 私は、シルヴィア・ベルグワードちゃんの愉快な同居人であるイヴリン・スミスと言う〈美少女〉ですわよ」
 自己紹介としては不適当なものだったのだろう。スネイプは元々不愉快そうな表情をしていたが、その表情はより深まった。

「そんな事、知っておる。お前が一体、何処から来た何者かと聞いているのだ」
「それよりも――
 〈美少女〉は小首を傾げる。赤い瞳が愉しげに細まった。
「誠実で聡明なホグワーツ教授様が、杖を隠し持たれているだなんて……未成年の女の子相手に卑怯ではありませんか?」
 スネイプの右手はローブのポケットに入れられていた。その先に杖が握られている事を〈美少女〉は見抜いていた。スネイプは動揺しない。彼は心を閉じる事に関しては長けている人物であるから。

「お前が誠実に自分の正体を示せば、この杖から魔法を発せられる事は無いだろう」
「おぉ、これはこれは……怖くて泣いちゃいますよぉ」
 わざとらしく女々しい声音。スネイプの精神を逆撫でするような言動だった。
「もう一度聞こう、お前は何者か?」
 〈美少女〉は1つ溜め息を吐いて見せた。
「そんなに、気になるんですか……
 少し考える素振りを見せる。だがそれは恐怖ゆえのモノではない。どの《》が最も効くかを選ぶ、計算の間だった。
 
「私は……マグル生まれの魔女でした。幼い時分から、そのことを両親は誇りにしていました。自分の娘が魔女であると。文句ひとつ言わず、受け入れてくれたのです。また、近所には魔法が使える少年が居たのです。私とその少年は、自然と仲良くなりました」
「やがてホグワーツに入学する年になり、私はその少年とともにホグワーツ特急へ乗り込みました。初めての魔法界。私にとっては、全てが新鮮でした」
「結局、私とその少年は同じ寮にはなりませんでした。それでも、同じ学校に通う仲です。関係は概ね良好でした。少年が……当時のと付き合い始めるまでは……
「彼は、私を特別扱いしているようでした。彼の仲間たちは、私と同じ生まれの者を蔑むのに……
「学内には、もう一つがいました。彼らは、自らが悪と断じた者に対して正義を執行することに、病的なまでに執着する集団でした。両者はたびたび衝突しました」
「幼馴染の少年は、とりわけ孤立しやすい気質を持っていました。だからこそ、正義を執行する側の標的にもなったのでしょう」
「全体を見渡して、どちらに正当性があったのかは、私には分かりません。片や闇の魔術に傾倒し、危うい思想に染まる少年。片や私刑を正義と信じる集団」
「ある日、彼らは衝突しました。闇の魔術に傾倒した少年は、皆の前で辱めを受けました。私は止めようとしました。ですが――

一拍。

「彼は、私に言ったのです。『穢れ――「辞めろ! やめるんだ!」
 スネイプは叫び、杖を振るおうとした。しかし、魔法は寸前のところで発動される事は無かった。
 
「では、やめますね。それにこの《物語》では、既に私がホグワーツに入学した事になっちゃいますからね。私、まだ11歳なのに……
 スネイプの顔は誰が見ても不愉快極まりないと、言わんばかりのものであった。例え、ホグワーツの悪戯っ子ヴィーズリーの双子でもスネイプにこんな表情をさせる事は無いだろう。

「しかし、スネイプ教授。貴方は実際のところ罪を忘れてしまったのではありませんの? まぁ、十何年と前の事ですから忘れてしまっていても仕方がないです。私も既に、忘れてしまっているのですから……
 静かに、呟くように言った。
「黙れ……黙るんだ……
 そう言いながら杖を降ろし自身の袖口に収めた。それは、押し殺すように自身の感情をも抑制する為に言っているようだった。

「ご、ごめん……ボタンを掛けてたら時間がかかっちゃ……あ、」
 シルヴィアが転がり落ちて来るように言うが、2人のどうしようとも言えない険悪な雰囲気に戸惑い困惑を見せる。

……我輩は、そこに居るミス・ベルグワードとこの場に居るミス・スミスをダイアゴン横丁への案内を校長より命じられている。非常に不本意ではあるが」
「結構ですよ。私、実はダイアゴン横丁の場所を知っているのです。2人で行きます。」
 涼しい声で尚且つ、冷笑するような声色だった。その言葉を聞いてスネイプの目が鋭く、細くなる。
 シルヴィアはその様子を見て、勘弁してほしいと思った。自分が来る前に何かしらの会話があった事は違いない。そして、〈美少女〉はこの気難しそうな一年中不機嫌そうなスネイプ教授をに違いない。

「ほう? 昨今のホグワーツ生は入学前から自身の知識をひけらかすのが流行りらしい」
 スネイプはわざと勿体ぶって言う。
 シルヴィアはここら辺りで、きっと自分が彼の授業の回答者にでもなって見れば泣きながら『分かりません』と言う羽目になりそう、と考え萎んだ。

「しかし、ここからダイアゴン横丁があるロンドンに向かうには魔法界式の方法を取る他ない。未成年の魔法使いである君がどうやってその方法を取ると言うのかね? 我輩の見立てではこの家は煙突飛行ネットワークには入っていないらしいが?」
 スネイプは指摘する。それは正しい指摘であるが、〈美少女〉はそんな指摘どこ吹く風の如く涼し気な顔をしていた。
 
「問題ありません」
 〈美少女〉は誇らしげに、美少女らしく微笑んだ。
 
「お見受けするところ……教授様には別の御用事がおありでしょう? ここからロンドンまで、皆まとめてお連れ致しますよ」
 そう言うと、ポケットへと手を突っ込みゴソゴソと動かした。
 シルヴィアはずっと疑問に思っていたのだが、〈美少女〉のポケットはいくら何でも容量が大きすぎると思う。普通入らない大鍋、三角帽子、鏡などを取り出した事がある。
 
 今回はハンドガンを取り出した。
 
 勿論、シルヴィアは世間知らずのお嬢様なのでハンドガンがどんな用途で使われるのか知らない。
 しかし、スネイプは一応はコークワークにある下水と工場の街。貧困に喘ぐマグル達の掃き溜め、スピナーズ・エンドに住んでいた過去を持つ。だから、マグル嫌いの側面も持つ彼でもその用途は知ってしまっていた。
 人が同族である人を殺す為に作った最も愚かな発明品の1つ。もし、魔法使いであったとしても数秒魔法の発動が遅れただけで命を奪われかねない悍ましい道具である。
 故に、すぐさま杖を袖元から取り出し厳しい眼差しをと共に〈美少女〉に向けた。
 
「何を、する気だ?」
 〈美少女〉は構わない。
 スネイプの問いに答えることなく、答えは空へ放たれた。空間を斬り裂く銃声が森に響き、動物たちが一斉に逃げ去る音が森のあらゆる場所から聞こえてくる。
 シルヴィアは「ヒャイ!?」と小さな叫び声を上げていた。心臓すら出てくるような錯覚を抱いたのだ。
 
「な、何を……したの?」
 耳を抑えながら恐る恐るシルヴィアが問いかける。
「動物払いだよ。これからの魔法は少々派手だからね。他の生物にも影響を与えてしまうのだよ」
 ハンドガンをポケットの中に仕舞いこんだと思ったら、今度は木製の古そうな横笛を取り出した。
 イヴリンは徐にその笛を眺めて袖口で拭いたり穴から中を覗いたりした。それをシルヴィアは目を丸くしてみて、スネイプは困惑の色を隠しながら見ていた。
 
「じゃあ、目を閉じて。ブリテン島の空中散歩を楽しみたいなら止めないけど……おすすめはしないよ」
 シルヴィアはその言葉を聞いて、硬く目を瞑り始めた。次の瞬間、粗削りで不協和な笛の音が森を満たす。
 笛の音が聞こえて来たのと同時に、足元が地面とズレるのを感じる。倒れ込むほどでは無いが、日常生活を送る際にはあり得ない感覚である事は確かだった。

「結構。もう開けて良いよ」
 ほんの1分にも満たない時間だった。
 しかし、目を開けてみれば夏の日差しが差し込むシルヴィアの家では無い。酒の匂いが漂う、薄暗いパブ。ロンドン、ダイアゴン横丁入口の【漏れ鍋】だった。
 
「な……何をしたの?」「何を使ったんだ?」
 シルヴィアの困惑の声とスネイプの追求の声が重なり、先ほどの笛の音と同じような不協和音を響かせる。
 
「それで、スネイプ教授。もう1つの用事を済ませてしまってください」
 〈美少女〉は笛をポケットに仕舞い込みながら言う。
 スネイプは今の移動方法についての考察を脳内で繰り広げていた。
 煙突飛行でも移動ポートキーでも姿現しでもない。30代に突入した彼にとって、今までの人生を支えて来た理論が呆気も無く崩れ去る事が受け入れられなかった。否、彼がただ気に入らなかっただけなのかも知れない。
 ここで、スネイプは思考を完全に放棄し、自分の本来の役割に戻る。
 
……ミス・ベルグワード。これが君の養父母が遺した財産だ。グリンゴッツ銀行にて『ロスワード家の金庫を開けたい』と求めれば、財産を得られるだろう」
 古びた鍵をローブから取り出し、説明した。
 
「精々、養父母に感謝し丁寧に使えば良い……くれぐれも隣に居る得体の知れない少女に金を貸すべきではない」
 スネイプの言葉は決して嫌味では無かった。
 純度百パーセントの警告だった。シルヴィアは相も変わらずに困惑した表情を見せていたし、〈美少女〉は笑っていた。その笑みは何か重要な事を知っているような笑みで不気味に思えた。
 
「さっさと受け取らんか。我輩も暇では無いのだ」
「す、すみません……
 シルヴィアは自分の手でお皿を作り、鍵を受け取った。鍵は冷たく、若干錆びついていた。
 
「では、これで失礼する」
 スネイプはポンッと軽い音を出して立ち去う。残されたのは、パブに漂う酒の匂いと僅かな沈黙だった。
 
「ねぇ……さ、さっきのは。一体?」
 〈美少女〉は瞬き1つして首を傾げた。まるで、シルヴィアの問いが可笑しいと言いたげだった。
「ただの笛を用いた魔法だよ。シルヴィアちゃんはあまり、知らないだろうけど、笛ってね、昔から呼ぶものなんだ。風とか、獣とか、人……とか」
 そこで一度、言葉を切る。
「世界は音に弱いんだよ」
 〈美少女〉の説明はまるで説明になっていない。笛はすでにポケットの中に消えている。最初から存在しなかったかのように。
 しかし、シルヴィアは思い起こす。こんな事、前にも何度か当た調な気がする。
 
 1つは、廊下に掛けられた鏡の向こうへ手を振っていたとき。
 1つは、暖炉の向こう側の様子を語り出したとき。
 1つは、誰も居ない筈の客室に紅茶を出しに行ったとき。
 その全てで、〈美少女〉はもっともらしい説明をして、笑って誤魔化した。
 
 ――深く考えないほうがいい。深く考えると世界に嗤われる。まるで、そう言われているかのように思えた。

「さぁ、行こう。シルヴィアちゃん。魔法界は未だに大地と言うお節介な母親から親離れせず、空と言うこちらもお節介な父親に頭ごなしに怒られている。100年は時代遅れな服飾を身に纏った、頓珍漢な連中達がしっかりと大地を踏みしめて歩いているけど、滑稽で面白いと思うよ」
「う、うん……
 シルヴィアには〈美少女〉の言っている事がよく分からなかった。