桂山針
2026-05-11 10:11:40
41259文字
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書き溜めてるやつ

一応書き溜めてるけど、全く進まないけどちょっと投稿したいな。という欲を発散するためのものです。
ハーメルンに後々上がるとも思いますが、その際内容が少し変わってるかもです。所謂、【画面は開発中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合があります】です。


04 小鬼のパイ味

 決して、ヒト族のみが文明を手に出来る訳では無い。小鬼ゴブリンだって、ケンタウロスだって、水中人マーピープルだって明確な文明を持ち、鮮明な意思を持って生きているのだ。
 ヒトが賢いと宣うならば、その手に握られている石を捨てろ。
  『ザ・クィブラー』1980年7月出版より
 ――『ザ・クィブラー』専属エッセイスト:無意識エスの罪
 
※ ※ ※

「では行きましょう」
 グリムロックは少し不機嫌そうな声音で言った。多分、グリムロックは魔法族の事が好きでは無いのだろう。シルヴィアはそう悟った。
 そうして、無言でグリムロックの後を着いて行く様子はまるで、監獄に移送される囚人のような陰鬱さを持っていた。
 シルヴィアにとっては一時間よりも長い時間を歩いて、松明に照らされた細い石造りの通路に辿り着いた。
 
 「足元にお気を付けください」
 グリムロックの言い方は確かに丁寧ではあったが、何処か不機嫌さを宿している。
 ここに、イヴリンが居ればどれほど楽だったのか、とシルヴィアは何度も考えざるを負えなかった。
 急な傾斜が下の方に続き、床に小さな線路が付いている。グリムロックが口笛を吹くと、小さなトロッコがこちらの方へ向かって元気よく線路を上がって来た。
 震える足を無理矢理動かして、トロッコに乗り込む。自分は今からどこに連れて行かれるのだろうか。ロスワード家の金庫であると知って居ながらも、そんな疑問が浮かび上がって来る。

「いや……
「如何なさいましたか?」
「な、何でもない……です。す、すみません」

 シルヴィアは気が付いた。あまりにも遅すぎるが気が付いた。
 
 ――自分の苗字は決してロスワードではない。自分の苗字はベルグワードである。
 共通点はワードしかない。
 しかし、幸運な事にシルヴィアはすぐに気付く事が出来た。〝自身がロスワードではない事〟を主張するのは決して得策では無い事を。
 確かにシルヴィアはスネイプから養父母の遺産を受け継いだ。しかし、シルヴィアはその事を一から十までこの眼光鋭い小鬼に解説出来る自信は無かった。下手をすれば、シルヴィアが盗人として判定され、このトロッコから投げ落とされてしまうかも知れない。
 
 〝雄弁は銀、沈黙は金〟
 誰かが広めた諺にそんなものがある、と聞いた事がある気がする。

 そんな思考に明け暮れている間にも、クネクネ曲がる迷路をトロッコはビュンビュン走った。一瞬で変化する視界。それは、シルヴィアの三半規管を攻撃するにはあまりにも適していた。
 チョピッと小さな音がして、シルヴィアの額に冷たい水が落ちて来た。驚きすぎて声を上げられないシルヴィア。
 この地下には鍾乳石や石筍せきじゅんが天井と床から競りだしている。その様子が堪らなく恐ろしくなり、最終的にシルヴィアは目を瞑る事にした。

「ロスワード家、491番金庫で御座います。」
「ど、どうも……ありがとう……
 トロッコ酔いでシルヴィアは酷い目に遭っていたが、それを気にする事無く、グリムロックが扉の鍵を開けた。
 緑色の煙がモクモクと吹き出してきた。それが消えた時、シルヴィアはハッと息を呑んだ。中には金貨の山、また山。高く積まれた銀貨の山。そして、銅貨までザックザクだった。
 また、奥の方に眼差しを移せば何やら謂れのありそうな銀色に煌めく剣が飾ってあった。

「これが……ロスワード家の、遺産……
 小説の中に出てくる埋蔵金のようだと思った。まさか、自分の目で見れるとは思っても居なかったのである。

「その、ミスター・グリムロック……。ふっ……2人分がホグワーツで……い、1年過ごすならば……どの程度、必要で、しょうか?」
「そうですねぇ……
 そう言いながら、グリムロックは金銀銅の山に踏み入り雑に掬ってみせた。

「この程度あれば、少々の娯楽と共にホグワーツ生活を満喫できるでしょう。ところで、革袋などはお持ちで?」
「い、一応……
 随分と前に、食料品を買うために家を出た時に持っていた革袋がまだ残っていた。革袋の口を広げ、グリムロックが掬い上げた硬貨を受け取る。
 ずっしりと重くなった革袋をポケットに入れて、もう一度トロッコに乗る。地上に戻った時、倒れ込まないように必死になって自身を支えたが、それは最早不可能に近い話でもあった。

「うっ……は、吐きそう……
「大丈夫? はい、元気薬」
 シルヴィアの目の前に差し出された手があった。
 その手には確かに、元気薬が入ったガラス製の薬瓶が握られていた。シルヴィアは手渡された薬を何も疑わずに飲んだ。

「あれま、シルヴィアちゃん。いくら何でも誰に渡された物か確認せずに薬を飲むのは危ないよ~」
「けど……そんな、底抜けに……明るい声の女の子なんて……イヴぐらいでしょ?」
 そう言って、シルヴィアはやっと前傾姿勢から脱して〈美少女〉の顔を見る。しかし、その隣には見覚えの無い赤毛の少女が居た。少女は不安気な様子でシルヴィアを見ていた。

「えぇっと……そこの横の子は?」
「わ、私は……ジネブラ・ウィーズリー。ジニーって呼んで! さっき、イヴリンさんに助けてもらったの、本当に凄い人だね!」
 何やら、〈美少女〉は早速ファンを得たらしい。

「えぇっと……よ、よろしく……?」
 シルヴィアは怪訝な表情を見せながらも、ジニーと握手を交わした。

「さぁてと、このジネブラの姉御が私達にダイアゴン横丁を案内してくれるらしい」
「え……ほ、本当に大丈夫なの……? お、親御さんとか……
 シルヴィアは若干〈美少女〉の言動を疑っている節がある。〈美少女〉は良くも悪くも強引な部分があるのだ。このジニーと言う少女が、実は〈美少女〉に強引に連れ回れている少女だとしたら、申し訳ない。

「多分大丈夫! お昼までには待ち合わせ場所の【フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラー】に行けばいいから!」
「へ、へぇ……
 シルヴィアは納得しては居なかった。ただ、ジニーは楽し気にダイアゴン横丁について教えてくれたので、徐々に訝しむ心は忘れて行った。

「ここが、英国魔法界で最も上質な杖を買う事が出来るお店。【オリバンダーの店〜紀元前382年創業高級杖メーカー〜】だよ」
 外観はこの横丁の中でもダントツで古臭く、年期が入っているように見える。〈美少女〉は、「へぇ~」と一言感嘆の言葉を漏らすと、中へ入って行く。それを見て、シルヴィアもジニーもワンテンポ遅れて着いて行く。

「いらっしゃいませ」
 柔らかな声が突如と闇の彼方から聞こえた。店主であるオリバンダー老人は店の奥から現れた。薄暗い店内で、その瞳だけが知性の残光のように浮かび上がる。
 
「ほぉ……君達が杖を求めている者かね? 名前は?」
「イヴリン・スミスです」「シルヴィア・ベルグワードです」
「ベルグワード? もう、500年前には滅ん……─「ミスター・オリバンダー、杖を選びたいんです」
〈美少女〉は指をパチンと弾きながら、そう聞いた。この場でその不思議な行動に文句を付ける者は居なかった。3人とも催眠にかかったが如く、ぼんやりと空中を眺めていた。しかし、暫くすれば焦点が世界に戻って来る。
……ふ〜む。さてそれでは先にミス・スミス。拝見しましょうか」
 何事もなかったように言う。そして、何事もなかったかのようにオリバンダー老人は銀色の目盛りが入った長い巻尺をポケットから取り出した。
 巻尺はポケットから出た途端に、縦横無尽に空中を彷徨い始める。それは、蝶のようでもあった。
 
「どちらが杖腕ですか?」
「左です」
「成程。腕を伸ばしてみて。そうそう」
 オリバンダー老人は俺の肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周り。と寸法を採った。〈美少女〉は、腕以外の採寸は果たして必要なのか。と少しの間考えたが、詳しいことは考えない事にした。
 
「お2人とも。オリバンダーの杖は1本1本、強力な魔力を持った物を芯に使っております。一角獣ユニコーンのたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣ユニコーンもドラゴンも不死鳥も皆それぞれ違うものじゃから、オリバンダーの杖には1つとて同じ杖は無い。勿論、他の魔法使いの杖を使っても決して自分の杖ほどの力は出せないわけじゃ。故に杖とは〝選ぶ物〟では無くて、〝選ばれてしまう物〟なのだよ」
「ほへぇ……杖は、ただ魔法を出力する中間装置と言う役割ではなく、魔法との契約そのものなのですね。いやはや、なんとも興味深い」
 〈美少女〉の世辞の一言は非常に余計だった。そのおかげで一時間はオリバンダー老人の杖講義は続いたし、シルヴィアとジニーは店の片隅に置いてある椅子で既に眠りこけていた。
 
「では、ミス・スミス。お試しください。ドッグウッドに猫の毛。33センチ。非常に振りやすい」
 そう言って美少女にやっと杖が渡った。杖を手に取った美少女は適当に杖を振ってみた。すると、オリバンダー老人の老眼鏡がファンキーなピンク色のサングラスへと変化した。
 
「はは、面白い! 面白いですね、魔法って!」美少女にとって一時間ぶりの面白い出来事であった。
「そ、そうじゃな」
 オリバンダー老人は少し驚きつつも、ファンキーなピンク色のサングラスを取り外した。
 
「その杖は貴女の事を大層気に入ったようじゃ、さて……そちらのミス・ベルグワード。貴女も腕を伸ばしてみてください」
 眠たげな眼を擦りながら、杖を手にしてテンションが上がっている〈美少女〉の隣へと向かった。シルヴィアもまた、〈美少女〉と同じように身体の彼方此方の寸法を測られた。

「それでは……これは如何でしょう。林檎の木に一角獣ユニコーンのたてがみ。19cm。硬くしなりにくい。手に取って、振ってご覧なさい」
 シルヴィアはオリバンダー老人の言った通りに杖を振ってみる。しかし、オリバンダー老人は納得がいかなかったようで直ぐに彼女の手から杖を取り上げて、次の杖を探し始めた。シルヴィアは怪訝な顔を一瞬したが、これがプロフェッショナルなのだろう、と勝手に理解した。
「アカシアに不死鳥の羽根。29cm。振りごたえがある。どうぞ」
 シルヴィアは今度も振る。しかし、オリバンダー老人は先ほどと同じく早々に引ったくってしまった。
「ふ〜む。ではこれはどうかね? くるみにドラゴンの琴線。16cm。バネのように振りやすい」
 今度は振るか振らないかのタイミングで引ったくられてしまう。その後も何本もシルヴィアは杖を試した。トウヒ、ヤナギ、柊、イトスギ、サンザシ、黒檀、ナナカマド、ブドウ。どれもこれもダメだったようでオリバンダー老人は悩みに悩み始めた。

「難解じゃのう……ふむ、そう心配なさるな。必ずピッタリと合う杖をお探ししますのでな」
 そう言うと店の奥へ引っ込んでしまった。〈美少女〉の方を見れば、「まぁ、頑張ってみなよ」と言う顔で見られたし、ジニーは相変わらず船をこいでいる。
 ただ、シルヴィアが杖を振るう事に店の中に災難が訪れる。先ほどは花瓶の水を暴走させてびしょ濡れになった。その前は杖の箱が棚の上から100箱ほど落ちてきた。〈美少女〉が機転を利かせてシルヴィアを庇った為、大事には至らなかったが怖かった。
 オリバンダー老人曰くよくある事らしく濡れたのも箱の暴走も杖を一振りするだけで原状回復させてしまった。それでもシルヴィアの心は休まらなかった。

「では、これは……どうじゃろうか? ナラの木に一角獣ユニコーンのたてがみ。38センチ。振りやすい」
 そう店の奥からオリバンダー老人は言いながら出て来てシルヴィアに杖を渡した。杖を受け取った途端シルヴィアの手の中が指の先が暖かくなる。シルヴィアが杖を振ると優しくも明るい花火が飛び出した。花火は特に破壊活動する事なくただ、美しい花火であってくれた。
 
「ブラボー!」
 オリバンダー老人はそう叫んだ。シルヴィアも安心したように息を吐いたし、〈美少女〉はお祭りのような笑みを浮かべた。ジニーは騒がしい店内の音を耳に入れて、やっと目を覚ましたらしい。

※ ※ ※

 その後、大量の荷物は全て〈美少女〉のポケットの中に仕舞いこまれて、身軽になった二人はジニーの案内で【フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラー】へと向かった。

「わぁ~冷たくて、甘いっ! これって凄い食べ物だね!」
 人生初のアイスクリームに感動するシルヴィア。彼女は無難にチョコレートとバニラの2段重ねのアイスクリームを注文していた。一方、〈美少女〉の方は臓物スープ味とカルボナーラ味を選んでいた。

「え、えぇっと、独特な味を選ぶね……イ、イヴリンは……
 ジニーは〈美少女〉のチョイスが本当に理解出来て居ないらしく、訝しむ声でそう言った。そんな事を気にせずに、〈美少女〉は奇妙あ二種類の味を持つアイスクリームを口に放り込んでは、満足気な表情を作っていた。

「2人とも、全ての物事には挑戦をしなければならないんだよ? 分かりきった味を選ぶより、分からない物を選んだほうが世界は広まる。人生はきっと豊かになるはずだよ!」
 〈美少女〉は、シルヴィアとジニーに対して熱弁していた。二人とも少し怯み、少し笑った。
 
「じゃあ~今度は小鬼のパイ味を試してみよっかなぁ~」
 シルヴィアはそう愉快そうに言った。ジニーは相変わらず、ドン引きしている。
 因みに、鬼のパイ味と言うのは現魔法省大臣のコーネリウス・ファッジが〈小鬼潰しのコーネリウス・ファッジ〉とも呼ばれている。そして、ファッジ大臣は小鬼を殺すように指示しており、小鬼をパイに入れて焼いていると掲載したジョーク雑誌が元ネタである。まぁ、存在しないパイなので、手っ取り早く言えばシークレット味である。

「あら、ジニー! ここに居たのね!」
 【フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラー】へと近づいてくる燃えるような赤毛の集団が居た。単純に考えれば、彼らこそがジネブラ・ウィーズリーの家族である〈ウィーズリー家〉なのだろう。

「その子達は一体?」
 赤毛の壮年の女性がジニーに向けて質問を投げかける。ふくよかで人当たりの良い表情をしている。
 
「今日、横丁で仲良くなった子なの、今年ホグワーツなんだって!」
「どうも、夫人。私はイヴリン・スミスでございます」
「えぇっと……その、イヴの友達で……その、シルヴィア・ベルグワードと言います……!」
 〈美少女〉とシルヴィアはそれぞれ挨拶をする。その挨拶を聞いて、ウィーズリー夫人は微笑ましいという表情で見ていた。
「僕の名前はパーシーさ。グリフィンドールの監督生をしている。もし、グリフィンドールに所属することがあったらよろしく。そうじゃなくても、僕に頼ってくれて構わない。下級生を助ける事こそ上級生のやることだからね。」
 生真面目そうな青年が律儀に一礼をして、二人に握手を求める。〈美少女〉は美しい笑顔でその握手を受け、シルヴィアは震える手で握手した。
「僕はフレッド」「僕はジョージ」
「ホグワーツ一の悪戯好きとは僕らの事さ」「悪戯商品が欲しければ予約はお早めに!」
 三秒後、双子はウィーズリー夫人に首根っこを掴まれていた。
「あぁっと、僕は……ロン。た、たぶん君達と同じ年にだと思う」
 ロンの目線は地面に吸い込まれていた。〈美少女〉があまりにも眩しくて、まだウブな少年は目の中で美少女の姿を捉える事すらできないらしい。
 以上の感想は〈美少女〉の主観に過ぎない。一方、シルヴィアはロンの気持ちがなんだかよく分かったような気がした。
 
「これに、ほんとはチャーリーって言うのと、ビルっているのが居るんだけどね」「チャーリーはドラゴン探しにルーマニア」「ビルはエジプトで王様の墓をひっくり返しているんだ」
 フレッド若しくはジョージがそう注釈を入れた。

「二人はお友達同士でダイアゴン横丁に来たのかしら? ご両親は?」
「えぇっと……その、」
 シルヴィアは口ごもる。なんて説明すればいいのか分からなかった。と言うより、自身の親の存在自体よく分かっていなかった。
 彼女の記憶は3年前である1988年からのモノしかない。その時には既に両親は居らず、〈美少女〉と共同生活を行っていた。

「シルヴィアちゃんも私も……その、親が居ないんです。少なくとも記憶にあるうちには会った事がありません。私が物心が付いた時には、孤児院に居たんです。その孤児院は劣悪な環境で、私は逃げ出しました。その後にシルヴィアと出会ったのです」
〈美少女〉は寂し気に語ったが、〈美少女〉にとって自分に親が居ない事を特にどうも思っていなかった。それにシルヴィアは知っていた。今〈美少女〉が語った話は純度100%の清々しい程の嘘である。
 これまでにシルヴィアは21通りの過去の話を聞いて来た。その全てに共通点は微塵もなかった。唯一見受けられる傾向として、〈美少女〉の過去の話は大抵悲劇的なモノであった。

※ ※ ※

 少々ウィーズリー家と世間話を行い、「またホグワーツで」と別れた。2人は、漏れ鍋へと戻りシルヴィアの飼いフクロウであるオリビアと〈美少女〉の飼い猫であるシャーデンフロイデ卿を迎えに行った。
 2匹は最初こそ抵抗したものの、最終的には〈美少女〉のポケットの中に収められる事になった。

「ところで……どうやって、家に帰るの? さっきの笛の魔法は……沢山人が居るから使えないんでしょ?」
「おぉ、よく分かっているね我が友よ! どうやって家に帰るか、それは簡単な話さ」
 〈美少女〉はシルヴィアの手を引いて漏れ鍋を横切る。オリビアとシャーデン卿も怪訝そうな鳴き声を発して、二人に着いて行く。

「マグルの移動手段を使って帰るのだよ! 覚悟しておくが良い、結構時間がかかるよ!」
「な、なるほど……
 外を出ると生憎の小雨だった。シルヴィアは少し辟易としたが、それ以外に帰る方法が特に思いつかなかったのでテンションの高い〈美少女〉に従った。

「少し寄り道でもしようか。何処がいいかな?」
「なんだか……眠くなってきちゃった……
 〈美少女〉が小声であれでもないこれでない、と言っている横でシルヴィアは口に手を当てて、大きく欠伸をする。横にベッドが突然と現れれば、迷う事無くシルヴィアはベッドへ向かうだろう。
「そっか、確かに今日は色々あったもんね……帰ろっか」
「え! いいの? 何か、やろうと思っていた事とかあるんじゃないの?」
 大層申し訳無さそうにシルヴィアがそう言う。しかし、〈美少女〉の表情はロンドンに有るまじきカラッとした笑みだった。
「いいんだよ、シルヴィアが楽しめないなら私も楽しめない。さ、キングス・クロス駅へ向かおう。きっとそこにはイースト・コースト本線がある。数時間かかるけど、確実に帰れるよ!」
 そうして、〈美少女〉はシルヴィアの手を引き最寄りの地下鉄チューブの駅へと向かった。そして、丁度いいタイミングでやって来た電車に乗り込んだ。
 とても申し訳なかったが、いくら何でもダイアゴン横丁という初めて行くような場所へ行った帰りに遊びに行くような体力はなかった。
 
 丁度1カ月前にファッション・ストリートであるカーナビー・ストリートへと向かった時、地下鉄チューブはストライキをしており、2マイル程度を歩く事になった。シルヴィアにとってその事がかなりのトラウマになり、今回もストライキしていないかと不安になった。しかし、幸運な事に地下鉄チューブの業務員たちの要求は通ったらしく、地下鉄チューブは通常通り運航されていた。
 20分弱でキングス・クロス駅に辿り着き、イースト・コースト本線へと乗り換える。所要時間は3時間程度。シルヴィアはその3時間の多くを寝て過ごした。