望野おもち
16143文字
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DRAPLS/Prologue③

続いたよ。ダークモードなどは解除して真っ白な世界で読んでいただけると楽しめるかと。



 なんだかドッと疲れた気がする。謎の環境、謎の状況、言わずもがな決死のハシゴ行軍、そして個性で殴り合いをしているかのような濃い超高校級たち。地球の重力ってこの重さで合ってるっけ、と恨めしく地面を睨みつけるぐらいしか、気持ちのやりどころがなかった。

「揃ってんねー。16人いると壮観だわ」
「NEMIちゃんさま! おかえりなさいませ」
「おかえりー! みんないるよ!」

 私たちの帰還にすぐ気付いた超高校級の鑑定士宝生ほうしょうジュリアさんと、超高校級のコンシェルジュの海月坂くらげざかあおいが手を振っている。他の面々も思い思いの場所に陣取っているが、ちゃんとこの場を離れずに待機してくれていたようである。

「ご苦労さまでした。ようやく話が進められますね」

「(中指を立てるポーズ)」
「(親指を下に向けるポーズ)」
「(荒ぶる鷹のポーズ)」

 超高校級のインフルエンサー天音光希あまねみつきさんことNEMIねみちゃん、超高校級のラクロス部綾瀬駿あやせしゅん、超高校級のブロガー蔭山徒丸かげやまとまるが早速煽ってきた超高校級のコンサルタント剣城御幸つるぎみゆきへ威嚇のポーズをとった。しかし剣城は冷笑して何処吹く風であった。

「ひとまず、各々持ってる情報、アイデア……気付いたこととか出しましょ。ブレストね」
「ハイッねえさん! ブレストってなんですか!! アホにもわかるようにお願いします!!」
「自由に意見を出す集団発想法よ。気付いたことは何でも言ってイイの」 
「へー(棒)」

 ブレインストーミングブレストを提案したのは超高校級の起業家如月美麗きさらぎみれいさん。言葉の意味は知ってるけど私はやったことが無い。16人の中で、そういった意見交換や状況把握に積極的な人、よく分かってない人、そもそも興味がない人など様々だ。かく言う私は、状況が状況なだけに不安なので意見交換には賛成の立場。

「えー。らぷらす?に聞くのが早くない? ほのか難しいのわかんないしー」
「聞くのは変わりないけど、その前に共通認識持って、要点まとめて問い詰めよって話。じゃ、始めよっか。つづりんちゃん書記お願い」
「は、はい」

 意見交換に賛成ではあるが、輪の中に入るには1歩が重くモゴモゴしていた。なにせ、私が今後どう頑張っても関わる事の無い雲の上のような存在の集まりだ。彼らは真に超高校級として今後の日本をリードしていく光。一般家庭の凡人の私が混ざり込むなんて芸当、来世も次の来世もきっと無理だろうし、そこまで心臓に毛も生えてない。とんだ異物混入である。だが幸か不幸か、超高校級の資産家早乙女玲央さおとめれおにメモ係に任命され、肩がビクッと跳ねたけれど、それを誤魔化すように慌ててスっと背筋を伸ばした。

「みなさん、最初の発言の際に一応名乗りましょう。お名前とお顔を一致させる目的です。宜しいですね?」

 宝生さんの言葉に反論する人は居なかった。私はだいたい覚えたけれど、確かに人の顔を覚えるのが苦手な人もいると聞く。そういう提案がサッとできる宝生さんは凄い。

「では言い出しっぺのわたくしから。宝生ほうしょうCセレステ.ジュリアと申します。与えられた肩書きは超高校級の鑑定士。わたくしから提起しますのは"誰が""何の為に""どのようにして"この状況を作り出したのか、ですわね」

 毅然とした態度、真っ直ぐ伸びた綺麗な姿勢、威風堂々とはこういう人のことを言うのだろうか。天は二物を与えず、けれど彼女には沢山のものが与えられてそう。そんな凛々しい姿を見て、起業家・如月さんは目をキラキラさせていた。後でスカウトするつもりだろう。宝生さん逃げて。

「先に全部要点出そうか。俺は早乙女玲央さおとめれお、資産家ね。この16人がいる理由、意図が気になる。通信制なんじゃない?全員。全国に散らばってた俺らをわざわざここに閉じ込めた。なぜ俺たちなのか」 

 才能の研究機関、卒業すれば成功したも同然。そんな超が何個ついても足りないような一流の名門校は形態を少し変え、各分野、より多くの才能の原石へ「超高校級」のお墨付きを与えた。
 例として分かりやすいのは綾瀬の「ラクロス部」だ。彼が超高校級の冠をつけ、スカウトを受け入れたとする。すると、そのチームから離れ、都会のど真ん中へ転校、人によっては引越しすることになるだろう。無論、綾瀬がどのチームにいたとしても超高校級の才能を持つことに変わりはないが、ことチームスポーツにおいては、超高校級の最前線たちの集まりの中にポツンとやってきたとしても成立しない。潤沢な資金の上に立つ快適な練習環境があっても、他の選手がいなければダメなのだ。他にも様々な理由があり、才能の研究機関はスカウト枠を広げ、入学を任意とした。
 
「ええ、わたくしもお屋敷から離れることができませんから通信制を選択しましたわ」
「超高校級を集めるなら全国に散らばる俺らより、スカウト受け入れた本科生ほんかせいの方が一箇所に集まってて楽でしょ、もし拉致らちるならさ。労力、時間、金、あらゆる面において」

 念の為確認を促したが、やはり全員超高校級の肩書きを持ちつつ、入学は断り通信制を選択したそうだ。かく言う私もその1人である。両親はひっくり返って驚いていたが、私は少し考えて断った。「一流高校について行く自信が全くない」「大したことはしていない」「今転校したら、学校図書を放り出すことになり、他の仲間に迷惑がかかる」などなど、考え出すと断る理由しか浮かんでこなかった。

「では僕から。コンサルの剣城御幸つるぎみゆきです。そもそもここはどこか、です。避難シェルターは全国各地にあれど、残党から身を隠す目的で地図には載りません。この地下都市はかつて人がいたそうですが、ではその彼らはどこへ?」

 サラサラとメモに加えた。少しずつ世の中の平穏は保たれつつあるが、絶望の残党は巧みに身を隠し人を欺く。テロも時たま起こるような、悲しい現代社会だ。そんな中、逞しい先駆者たちは各地にシェルターや避難所を設立した。ここ──東部地下研究施設第8シェルター、そして地下都市──も同じようなものらしいが。

「じゃあぼく! あおは超高校級のコンシェルジュ、海月坂くらげざかあおい。長いから名前で呼んでね! えっとね、全部鍵がかかってて建物の中に入れないよね。試したけどどれも開かなかったよ。避難シェルターなのに建物の中に避難できない、ってヘンだなーって」
「ほのか、この水流れてないのが嫌〜。太陽もない、風も吹かない、きもちわるいね~。……あ、農家さんだよ」

 早速仲良くなったらしく、ライブペインター・難波に肩車されてキャッキャしてるコンシェルジュ・海月坂くらげざかあおい。難波、あおい共々「元気が有り余ってウロウロしてた」と言うし、綾瀬もその仲間になる予想が容易にできた。元気なのはいい事だけどプロレスごっこに発展するなら後にせえ、と心の中で突っ込んだ。

「あたしNEMI、インフルエンサーね。チャンネル登録高評価よろしく! あたし的にはラプラスがきな臭い。肝心なこと言わないし、なんか難しいことばっかだしさ」
「なにを。アルターエゴたんは完璧で究極な一番星の生まれ変わりなんだお」
「ちょっと黙ってて」
「サーセン」

 私の知るアルターエゴには、ラプラス、のような別の名前は無かった。開発者、超高校級のプログラマーと同じ顔の可愛い声のアルターエゴで、パソコンなどの端末の中に存在していた優秀なAI。ラプラスは保安上どこにいるのか明かせないと言っていた。得体の知れないものに囲われてる気がして、薄ら寒い感覚に鳥肌が立った。

「他になにか気になったものがある方、いらっしゃいますか?」
「それで言うなら、……あ、如月美麗きさらぎみれいキサラギテクノCEOよろしくどうぞ。絶望の残党対策規定?っての詳しく知らないから、まずそこからかしら。外に出たい、帰らせろって言ってもラプラスは答えてくれないし。知ってる人いる?」

 確かに、規定上答えられない、差し控えるなどはぐらかされているが、そもそもその対策規定がどんな内容か詳しく知らない。

「大まかにざっくりとなら。諸々考えた後でお話しますよ」
「あら、優秀ね」

 小さく挙手した剣城はそのまま顎に手を当てた。視線はゆっくりと周囲を回っていき、発言がなかった人へ向けられる。

「他には?」
………あの。鷹栖忍たかすしのぶ、才能は言えませんごめんなさい。しゃべっていいですか」

 唯一正体を明かさなかった鷹栖忍たかすしのぶさんが抑揚の無い声で発言した。発言を促した剣城は何も言わなかったが、先程まで一緒に行動していた宝生さんがどうぞと優しく微笑む。コートの下に武器あり。警戒した方が良さそうな気もするけれど、何故か「怖い、危険」と感じない、感じさせない雰囲気がある。まだ断定できないが、ポンコツうっかりさんの香りがしなくもない。失礼に当たるので心の中にしまっておく。

「生活のこんせきが何もないです。人がいたことが、まるで無かったことにされてるみたい」
「確かに、落し物やホコリ、髪の毛1本すら見当たりませんでしたわね」
「髪の毛! そこまで見てるん!?」
「鑑定調査の基本ですわよ。建物内にあればそれで良しですが、現状わたくし達が動ける範囲での痕跡は何も」

 やっぱり有能ねこの子、と顔が語っている如月さんはさておき。確かに、人がいないのも不思議だが「いた痕跡が全くない」のはもっと違和感だ。

「他には?」
「あ。はい。わたしお話してもいいかしら、茶道部の一福恵いっぷくめぐみといいます。今っていつなのかしら。お外をお散歩してたら、怖い人たちに囲まれちゃって〜……気がついたらここにいたのよね~。おばあちゃんが心配しちゃうわ〜……

 のんびりした口調の一福恵いっぷくめぐみさんが小さく挙手した。それに関しては、私から答えが出せるかもしれない。

「あ、えっと……気になることというより、気付いたことなんですけど」
「どうぞ話してください」
「図書委員の綴目和歌子つづりめわかこです。一福さんのだけど……絶望の残党に襲われてから、そんなに時間は経ってないと思います。少なくとも日は跨いで無さそう」

 疑問点を挙げる、という時間だが剣城に鋭い眼光を向けられつつ促されたので、続きを話すことにした。

「根拠は?」
「襲われる……攫われる、というか囲まれる?感じだったんだけど。丁度雨が降ってて、さっき目を覚ました時靴と靴下は濡れた状態だった。怖くてリュックの紐を握った手の痕もそのままだった」
「たしかに、綴りん手痛そうだったもんね」
「つまり、靴が乾かない程度の時間しか経過していない、ということですね」
「私に限っては、多分そう」
「すごいわあ~、和歌わかちゃん探偵さんみたい〜!」
「き、恐縮です……

 NEMIちゃんに起こされた時、頭痛と靴の不快感、手の痛みがあったのを思い出した。子供の頃から靴が濡れるのが嫌いで、水溜まりは避けるタイプだった。ちなみに、我が妹は平気で水溜まりに突っ込んで行って母親に怒られるタイプである。

「あ、あともうひとつ……ラプラスが言ってた校則こうそくが気になるかなって」
「そんなの言ってたっけ。言ってた?」
「某、ハシゴ前後の記憶喪失侍と申す」
「使えね〜な」
「つ、綴りんママァ!! あやぴが虐めてきますお」
「静かにしてて」
「「ハイ」」

◆市民の皆様におかれましては、
ラプラスの提示する《校則》を遵守いただきますよう
よろしくお願い申し上げます。

◆《校則》を遵守いただけない方
《絶望の残党》と認められた方は
ラプラスの定義する「市民」から除外されます。
予めご了承くださいませ。

 確かこんなことを言っていた気がする。NEMIちゃんに起こされながら、ぼんやり聞こえた電子音もコレだろう。ニュアンス的に、ラプラスが提示する何らかのルールを守らない者と絶望の残党はラプラスの保護の管轄から除外される──というところだろうか。

「確かにそんな事言ってましたね。流石は超高校級の図書委員。記憶力は本物ですか」
「言われてみれば確かに……。色々ありすぎて意識の外でしたわ。ありがとうございます、綴目さん」

 おお、とちょっとした賞賛の目を向けられて肩身が狭く感じた。多分記憶力と才能に関係性はそんなに無いと思うし、役に立ったこともあまりない。まず褒められ慣れていないので、どんな反応をしたらいいのかもわからない。このくらい普通だと言ってしまえば角が立つし、謙遜しすぎも返って失礼。中途半端な笑みを浮かべて肩をすぼめるという、当たり障りのないことしか出来ない自分が嫌になった。

九十九つくもさんは、なにか気付いたことは」

 まだ目立った発言がない面々へ視線を配る剣城。超高校級の数理学者九十九千尋つくもちひろへ白羽の矢を立てたのはおそらく、彼の才能と能力を知っているから。先程探索していた時も、何か考えている顔のまま、発言はなかった。

……面積」
「?」

 ぽそ、と抑揚の無い言葉が地面に落ちた気がした。私のメモする手が止まる。

「たしかにここって、どのくらい広いのか気になるわね〜。見渡すだけでもかなり大きそうだし〜……

 はて?という顔の綾瀬あおい難波元気小僧たちはさておき、こと数学において超高校級を冠する人間の言葉には注目せざるを得ない。

「面積はおよそ12.65平方km。東京ドーム約270.5個分。高さ約30-35m。この面積は標準的な都市と同規模で、1万人ほどを収容し、生活が可能な規模」
「え!? あの、ごめんなさいもっかい言って……

 ちんぷんかんぷんな人もいたが、数字の羅列に目を丸くしつつ頷く人もチラホラ。私はお願いして、もう一度メモを正しくさせてもらう事に成功した。嫌がられるかと思ったが、頼めば普通に、しかも分かりやすくゆっくり教えてくれたことに驚く。

「面積、12.65平方km。東京ドーム270個分。高さ、30-35m。1万人が暮らせる都市と同じ規模」
「──同じ、規模。ありがとう、書けました。面積までわかるなんて凄いね……!」
「かなり広いね。あ、綴りんちゃん書き足しといて。それだけ大規模の酸素供給、二酸化炭素排出、湿度気温管理。電力、水の供給設備諸々。結構莫大な金がかかってそう」
「そーそれなの! 空気止まってるの! 気温は……22.6度、湿度は……スンスン……68%くらいなの。ちょいカビくさ」
「えっ、すご。わかるん?」
「このくらい朝メシ前なの」
「ヤダこのコ天才!」

 慌ててメモを追加する。ぐるりと見渡した早乙女はホーと感心している様子だ。多分、設備がどうこうというより、どんな経済が回ってたのかの方に興味を引かれているのかもしれない。エリートの着眼点は次元が違って怖い。

 メモを書き終える頃、私の左肩をつんつんと突く大きな影に覆われた。振り返ると大きな胸板。見上げると深い前髪に隠れた瓶底メガネがキラリと光った。

「や、ヤミクモくん?」
…………構造……。た、耐震的に、普通の都市の下では、地盤が持たない」

 震えて消えてしまいそうな声だった。多分他の人には聞こえていないであろう小さな声。先程は照れ隠しか何かによる物陰でのボックスダンスが変な印象を残していた。どうやら本当に恥ずかしがり屋さんなのかもしれない。超高校級のミニチュア作家闇雲創一やみくもそういちくんは、懐から携帯を取り出すと、ものすごいスピードでカカカカカと文字を打ち込んでこちらに画面を向けた。

「"だから、少なくともここは都市部とかの下ではないと思う。特殊な地盤の下、専用シェルターとして作られた場所?"」
「わかった、ありがとうヤミクモくん。加えておくね」

 伝わって安心したのか、ヘコヘコするヤミクモくんを横目にメモへペンを走らせる。

「そちらの、おくさんは何かございますか?」
「ヒェエッ!!!!? あ、お、おおお奥は特に何も本当になくて、役立たずで申し訳ございません何も出来ないグズなんですどうぞ奥のことはご放念頂けたら幸いでございまして!!!!」
「何か些細な事でも、気付いたことがあれば遠慮なく仰ってくださいね。──では、一旦このくらいで打ち止めとしましょうか」

 急に名前を呼ばれて大パニックになった超高校級の庶務奥憂伽おくゆうかさんは隅っこで正座してしまい、落ち着いて話ができる状況では無さそうだ。しっかり発言を促し、議論の輪の中へ入れようとする姿勢の宝生さんが俄然かっこよく見えてきた。比例して如月さんの目もキラキラしている。そろそろ飛び付かれるかもしれない。逃げて。

「綴目さん、メモを見せてください。順番に情報を整理しましょう」

 綴ったメモを剣城へ手渡した。