Romom🍙
2026-04-23 03:25:51
37646文字
Public 🌕
 

深追いは時に傷を生むものの……

か、閑話休題⁉️

大学生プロファイラーのジョシュアと、オリフレム大学で非常勤講師をするクライヴが、兄弟パワーを駆使して事件を解決する話です📕 基本はジョシュア目線になります🐦‍🔥

ほんのちょっぴり光の民の二人が出ます🐉左右とかは決めていません❗️✌️
(文中に出てくる効果名とか内容は聞き齧りなので、変すぎると思いますが、堪忍くださると嬉しいです)
※カプのつもりはないですが、案の定弟兄観が濃ゆいと思われます🐦‍🔥🔥

↓本筋文
「深追いは時に傷を生む」(弟視点)
「執行者について」(兄単体)




 警察署の自動ドアが閉まる。一日と半日ぶりの空はどんよりと白んでいた。
 昨日の出来事は、海馬を働かせなくても容易に思い出せる。クライヴとの逢瀬、研究の手伝いとは名ばかりの寂しさ。一人で突っ走る兄の背に向けた半目と、拗ねた物言い。それから、草むらに転がされた女性の遺体──あの後、ヴァリスゼア大陸警察本部からの要請に伴った警官が来るまで、ジョシュアはなるべく現場を荒らさないようにしていた。少し後ろで安否を窺うクライヴに「もう亡くなってる」と告げたが、今思えば、あれはジョシュアの精神状態を尋ねた問いだったのかもしれない。
 現れた警官は、ジョシュアを、凄惨な現場を見てしまった哀れな隣人として扱った。しかし、現場を検めていたかと思いきや、何某かのやり取りの末、今度はジョシュアに同行を求めた。難しい顔をした警察に、「第一発見者として話を聞きたい」などと言われたら、善良な市民でもそうでなくても肯首せざるを得ないだろう。クライヴは最後まで食い下がってくれたが、チョコボの耳に念仏だ。半強制的な任意同行に背を押され、滑り込んだ後部座席からは様々なにおいがした。弟の名を叫び続ける声が、エンジンの音に掻き消されていって始めて、不安が喉に纏わりついた。
 結果として、まず、手酷い尋問などはなかった。多少怪しまれていることが、取調室の空気から読み取れたものの、悪い扱いは受けずに済んでいた。三番煎じの薄い茶を差し出されたし、夜になると腹ごしらえとして、人参いっぱいのレトルトシチューを出してもらった。
 オリフレム署の見上げるような思い遣りには、感謝状を五、六枚送付したいと何度も思った。情報の整合性を重視する姿勢など素晴らしい。再三話した事実を、約二十分置きに改めて確認されたら、どんな人間だろうと己の発言を省みるはずだ。ジョシュアの意見が変わらないと見るや否や、溜息をついたのも忘れていなかった。本部から再びの連絡が入って、解放されるまで。そんな厚遇を二日弱。精神が強靭で助かった。
 さて、どう帰ろうか。配車サービスを使おうにも、携帯は、事情聴取の際に取り上げられたことにより、乏しい充電しか残っておらず、誰かに借りるのも難しい。仮に貸してくれる人がいたとして、残った送信履歴を見たら、ひっくり返ってしまうだろう。ロザリアの大貴族直通の電話番号は、流石に公開されてはいない。
 叔父ならすっ飛んで来てくれるだろうが、血縁者に頼めば、自ずと親戚全体に情報が知れ渡ってしまうやもしれない。叔父の筆頭執事も、父方の近縁も、殆どが善良な人々であるが、母方の祖母や祖父──貴族派と呼ばれる連中は、大公家の醜聞を喜ぶだろう。時代は変わった、もう、魔法の文明は去った。不死鳥は神話の神格だし、祝福の儀は成人の祝いと一緒くたになった。本好きの嫡男と次男が、真似事として交わした祝福だけが名残りだ。ロザリス城内部の政、それだけが、今のロズフィールド一族に遺されている。
 付近の電話ボックスでは、女性が通話口に向かって何某かを捲し立てていた。これでは、財布内の小銭も無用の長物だ。
 一陣のエンジン音が鼓膜をついた。開けた駐車場に、一体のバイクが乗り込んで来る。運転手の男は、専用の白線内に車体を収めると、被っていたヘルメットを外した。端正な横顔には、険しさが滲んでいる。署を睨め上げて、頭を振る。眉間に募る苛立ちを発散させると共に、ジョシュアの眼差しに気がついたらしい。こちらに寄越された碧眼が円さを伴い、柔らかく細まった。
「兄さん……
「迎えにきた」クライヴが歩み寄る。「シドから聞いたよ、色々と」
「僕は──僕は、何もしてない」
「分かってるよ、ああ、分かってるさ。形式上、お前に話を聞かなきゃならなかっただけだ。皆、お前の潔白を疑ってなどない」
 宥めすかす言い方だ。共に過ごした十年の中で、一体どれだけ、ジョシュアは兄にこの態度を求めたのだろう。我儘を言って兄を困らせた夜長のことでも、朝ぼらけの庭園でのやり取りでもあり、隠れた人参をフォークの先で突いていた昼食の卓のことでもあった。クライヴは、絶対にジョシュアの味方でいてくれる。ともすれば、きっと、倫理の道から逸れた時ですら、クライヴはその優しい眼差しをジョシュアにくれるのかもしれない。
 それが愛というならば、なんと献身的だろう。でも、本当に愛と呼べるのだろうか。愛に似た献身で、その献身は盲目の名を冠するかもしれない──ジョシュアがここまで突拍子もなく底のない思考に暮れるのは、クライヴに向ける顔が作れなかったからだった。
「ジョシュア」
 いつもそうだ──ジョシュアは上げるつもりだった目蓋を固く瞑った。押し上げようにも、泣き面を晒したくはない。鼻先を地面に向けて、稚拙な壁を建て上げる。それでも、クライヴは無視をした。彼は簡単に壁を貫いて、両腕でジョシュアを抱いた。
 耳元で兄が言う。「帰ろう、俺が送るよ」いつもそうやって、彼は助けてくれる。鼻を鳴らしながら、兄の黒ジャケットの裾を掴む。「兄さんの家がいい」上から、笑う気配がする。手渡されたヘルメットを装着し、後部席に座った。
「しっかり掴まってろ」言われるがまま腰に巻きつく。シドのバイクに乗せてもらう際も、同様の格好を取るけれど、対兄となるとなんだか子供っぽい。事実、ジョシュアは腕の全てに力を込めて、兄の胴に掴まった。黒いライダースジャケット越しなのに、白いジャンパーのフィルターを介しているのに、クライヴの体温が伝わってくる気がした。その温もりに縋りたくて、目を閉じる。そのうち、風を切る体が浮いている錯覚に陥った。
 兄の住む邸宅は、その出自──というか、過去に似つかわしくない。初めて訪れたとき、ジョシュアは、素直にそう感じた。同時に、よかったと思った。掘立て小屋が完全悪とは言わない、でも、まさか生家を追われた彼が、肋骨に住んでいたら。
 そんなものあんまりだ。憤懣のままに大公家の財を注ぎ込んで、無理にでも引越しをさせていた。そうはならなかったのは、クライヴの住居が、立派な一軒家であるからだ。
「ザンブレクの阿呆貴族に売りつけるより、俺に住んでもらった方が家も喜ぶって。バイロン叔父さんが」頬の傷を掻きながら、照れ臭さを惜しまない兄と共に、何もかも豪傑な叔父に感謝したのも懐かしい。それも、随分前のことに感じる。
 玄関ポーチに揺れる花は瑞々しい。その鮮やかさが目に染みる。ジョシュアは何も見ることができなかった。真新しく咲いたモーガンビアードだけが視界を彩った。
「先に手を洗って、茶菓子は……」先に廊下を行く兄が、振り返ることなく話す。「しまったな、碌なものがない」そうだろうな。ジョシュアは、これが兄なりの場を和ます冗談なのか、彼特有の抜けなのか判断しかねた。趣味が変わっていなければ、彼は、お茶を飲むときに何も口にしなかった。片手に納まる本を汚したくないのだ。昔から。
「いいよ、気にしなくて」思うより沈痛な物言いになる。振り向かんとする姿を見ていられなくて、岩戸に身を隠すように、洗面所へと向かった。
 蛇口から垂直に伸びる水の柱は冷たい。木枠の窓から差す白んだ日光だけが、ジョシュアを照らす。着いたはずのない血痕を、ここで想起するものなのかな。手を濯ぎながら、漫然と考えた。透明な弧が真っ暗な排水溝に流れていく、側に吊るされたタオルで拭っても、白い生地には汚れひとつ着かなかった。
 リビングに向かえば、ちょうど台所から兄が顔を出した。トレー上のポットの中身が揺れた音がする。「俺の書斎に行こう、ジョシュア。前に、入りたいって言っていただろう」
「いいの?」
「ああ、ちゃんと片付けてあるから大丈夫だ」
……崩れてこないよね」クライヴが、まだロズフィールド家に住んでいた頃、彼の部屋で遊んでいたら、積まれた本が一息に崩れ去ったことがある。開いた面を下敷きにした分厚い本を腕に抱えて、「気にするな」と言った兄の顔は、今にも泣きそうだった。
「よく覚えてるな」
 クライヴがおかしそうに肩を揺らした。それに釣られながら、気がついた──暗くなっていた世界が、すっかり色彩を取り戻している。肉体の重心が偏った心中の凝り、こびりついたそれらは、一つ二つの応酬で姿を消していた。
 やっぱり、クライヴはすごい。神話の時代を生きた魔法使いだ。簡単に、ジョシュアの心を解いてしまう。
「お邪魔します」玄関でも言った挨拶を口に踏み込んだ書斎は、他の部屋よりも幾分か小さい。だからこそ、感嘆が唇を湿らせる。
 彼の支配が完璧に及んだ室内は、本棚に囲まれていて、執務机の背後にある窓は大きい。今は閉じられているが、開けばきっと季節の色をした風を飲み込んでくれるのだろう。部屋の真ん中には、仕事用の机とは別に、一人がけのナーシングチェアが二つ、対面する形で設置されている。足音は、敷かれたカーペットが吸い込んでくれる。
 マホガニーで組み上げられた卓上には、あらゆる書類と書物が載せられている。気にはなったが、踏ん張って目を逸らす。機密を見てしまっては悪い。最も、クライヴが、見られたら困るようなものを野晒すわけがないのだが。
 逸らした先の壁には、書物の柱で隠れてはいるものの、薔薇の絵が飾られているようだった。他の額の中身は、阻まれていて分からない。本がありすぎる。見たところ、ジャンルも雑多で、大陸神話や歴史の域を優に超えた作品も少なくない。恐怖ものから、恋愛もの、果ては児童書まで網羅されている。ジョシュアは背筋を伸ばした、顳顬を伝う汗が囁く。「片付けたのではなく、スペースを広げただけだ」崩さないように、気を配らねばならない。
「基本誰も通さないが、たまに、お前のような物好きな同業者が訪ねてくるんだ」ワインレッドのチェアに腰掛けながら、兄は言った。「お前も座れよ、見た目以上に古いが、座り心地は叔父さんのお墨付きだ」
 対面するように腰掛ける。背中に置かれたクッションは、退けようかと思っていたが、丁度良かった。
 兄は慣れた手つきでお茶を注いでいく。立ち昇る湯気に見惚れていると、視界の隅に鎮座した、真白いポットが目に入った。本が積まれた小振りの棚──テーブルだったものの隅に置かれている。陽の光を仄かに浴びて、艶のある表面は輝いて見える。だが、見た感じ、あまり使われた様子はないし、クライヴは別の陶器を好んでいる筈だ。今、トレー上の定位置に戻っていったポットは、愛用の名残で、柄が薄くなっていた。
「そこのポットは?」
「気になるか? ……好奇心が強いやつは、聞かざるを得ないだろ」クライヴは不敵な笑みを浮かべた。「そこから会話に入るための、陽動専門の家具だよ」してやったりといった顔だ。
「てことは、見かけ倒しのポットだ」
「いいな、今度からそう呼ぼう」
 膝丈より少しだけ背の低い丸テーブルに、あっという間に茶会が展開された。ふと見れば、ジョシュアのソーサーにだけ、梱包されたビスケットが忍ばされている。
「貰ったんだが、俺はいらないから」賞味期限は問題ないぞと念押す真剣さに、つい吹き出した。ありがたくいただくことにして、紅茶にミルクを淹れる。口をつければ、安堵の香りが鼻腔を抜けた。馴染みのある種類だと察したのは、啜った瞬間だった。
「これも叔父さんから?」
 マグカップを掲げて尋ねる。クライヴが肯首した。どうりで、ロザリアの民が好む味がする。ザンブレクの人々が好む紅茶は、なぜかどこまでも一定で、どれだけ煮出しても境を飛び越えない。有り体に言うならば、濃ゆくならないのだ。淹れ方次第と言われたらその通りだが、急ぎの用事がある時に、丁寧なやり取りなど出来ない。
「悪くはないんだ。飲みやすくはあるが……やっぱり、濃い方が美味い」
「僕も同意だな。それにしても、すっかりお得意様だね」
「全く、俺の生活は叔父さん頼りさ」
 懐かしむ彼の声音とは裏腹に、胸が締め付けられた。彼は歴としたロズフィールドの人間で、実兄なのに。自らの意思で、親しい親類と膝を突き合わせることが許されない。叔父バイロンとのやり取りは、全て、商人とその客という形で行われているらしい。
 クライヴは叔父が好きだ。幼い兄が、立場と責任の鎧を外して、子供のように振舞える相手はとても少なかった。勿論、ジョシュアも叔父は好きだが、兄との方が、より深い信頼と関係を築いていると思う──叔父の愛に偏りはない。平等であることは、はっきりさせておく。
 それでも現実は厳しく、クライヴは、現状二度とロズフィールドを名乗れない。公の場で、大好きな叔父を叔父と呼ぶことは、大貴族たるロザリア七家族の一人に対する無礼となる。書面上でも、彼はもう、他所の他人なのだ。本当なら、ジョシュアとの逢瀬も憚られる身。学生のうちは、学者と教え子の体を保てても、学籍を脱すれば簡単には行かなくなる。でも、ジョシュアは垣根をぶち壊すつもりでいた。自分が、大公爵を継いだ暁には、クライヴを生家に呼び戻す。
 その夢を叶えるためにも、意を決するべきだ。
 ジョシュアは、マグを机に帰した。腹の中の澱が、兄の部屋の匂いと懐かしい味で形を伴っている。これなら、言葉として外に出せるだろう。
「もう平気だよ」
 聡いにも程がある彼は、弟が、何を言語化し伝えるつもりなのかを悟ったらしい。湿った唇をまごつかせ、視線をしばし動かしてから言った。「そうか」茶器が定位置に戻ったのを確認して、テーブルが傍に移された。これで、兄弟を阻むものがなくなる。クライヴが足を組む。ジョシュアは、膝上に拳を置いた。
「事件のこと、僕が見たこと。協力者である、あなたにも話しておくべきだ」
 記憶の光景を整理し、都度、口頭に出す。もはや二日前と言いたい頃。兄の研究に付き添うという、念願叶った正午。空は天高く青に染まり、風は頬を包む掌で、萌葱の床が新しい季節に両手を上げて喜んでいる。
 でも、突如として、死体が眼前に現れた。拡がった血痕と若草の緑、石畳のコントラストが異常なせいで、眩暈すら誘発されそうだ──ジョシュアは、まっすぐに死体に駆け寄った。向こうで遺跡の観察に明け暮れるクライヴを置いていったのは愚策だった。呼べばよかったと、今更ながら強く思う。平気だと思ったのだ、或いは、平気であるところを見せつけたかったのかもしれない。
 死体など、見慣れたつもりでいた。
 死体の傍に屈み込み、周囲を確認しながら携帯を鳴らした。巡査部長兼友人のガブが、一回半の呼び出しで応答した。『もしもし、どうした? 若様』暇をしていたのがよく分かる声だった。
「ガブ、殺人事件だ──」
 ここで、死体の方に向き直ってしまった。
 彼女と目が合う。見たことのない人。学生だったのだろうその人は、ジョシュアの人生に初めて現れた。死体として。彼女は今後、死んだ人として記憶に残る。声を聞いても、笑っている様を見ても、そのどれもが記憶媒体越し。生きていた姿を知らない他人という事象が、泡になって指先から全身を包み込む感覚。
 喉が渇いて仕方がない。開いた口が、塞がってくれない。空気中に残存する断末魔と飛び散った涙は、きっと痛みによるものだ。彼女の全身に張り付いた恐怖が、世界の一切を塗りつぶしていく。
 死体など見慣れてしまった? 自画自賛も良いところだ、自尊が反り返って尊顔が見えないほどに、愚かだった。結局、今まで見てきた亡骸は、全て印刷機を通した証拠。写真として用いられた報告書のスライド。その一部でしかなかったことを失念していた。遺体安置所の、青白さが判別できる、眠ったような死相じゃない。
「あ……
 焦げた茶色の虹彩が、ジョシュアを見ていた。記憶が氾濫するのを止められない。正しかった映像に乱れが生じて、有り得ない幻想に置き換えられる──青空が、不自然に焦げついた色に変わっていた。それは、巨大な虹彩。死んだ女性が、旋毛から爪先まで見つめている。どこを見ても、死人の目が付き纏う。
 何かが燃える臭いが鼻をついた。そんな筈はない、現場に燃えた痕跡や、ましてや焚き火なんてものはなかった。これは、完全に幻覚だ。なのに、頭の中から出ていってくれと念じても、焦げていながら甘くもったりとした嫌な臭いは増していく。死体は、腹から血を流していた──まさか、刺殺体も、炎に巻かれた臭いがするのだろうか。
 生気のない瞳と、煙のない火の臭いが邪魔をする。兄に全てを話さなくてはならない。だけど、取捨選択が出来なくなっていた。現実の記憶と、幻想に燻された悪夢が一緒くたになって、ジョシュアの頭蓋を内側から叩く。懺悔の門に横たわる女性と、人が燃えていく臭い。何が本当なんだ。
 兄の声が些か遠くで聞こえる。
 ジョシュアの記憶中枢には、随分前から、重篤なエラーが生じていた。無意識か、故意か。己の良いように書き換えただけで、自分は本当に人を殺したのかもしれない。
 お前は人殺しだ──もう一人の自分が、頭の裏側から責め立てる。炎にまかれた世界の中で、何度も何度もジョシュアを責める。それは、時折響く兄の声でだけ勢いを弱くした。「ジョシュア!」切迫した響きが遠のくと、また、同じ姿をした男の人影が、懺悔を求めて叫ぶのだ。頭を掻き毟り、屠殺された鳥の断末魔を上げ、ジョシュアを震え上がらせる。男の手には、四角い形の──赤黒い炎が握られていた。記憶と共に捨ててしまった凶器が、鼻先に突き付けられる。
「ジョシュア、しっかりしろ……!」
 縋る先は兄の声だけ。もっと呼んでほしい、ジョシュア・ロズフィールドは人殺しではないと言って。真実を教えて。
「兄さん……
 胸骨の中央、その中の内臓が、皮膚が貫かれるように痛い。呼吸が難しい。息の仕方がわからない。肺が無限に膨らんで、酸素が蝕んで、「助けて、たすけて兄さん」言葉だけを嘔吐し続ける。
 手の甲に落ちる水玉は誰のものだろう。心臓に根を張る痛みを、掻きむしって抑えつけても、意味がない。特攻薬もない。制御盤を失った自我が暴れている。世界の四隅が明滅して、心胆から湧き上がる罪悪感は、忘れた罪を裏付けるようでもあった。
「ぼ、僕は、人を」でも、思い出せない。クライヴも、皆も違うと言っている。だから殺していないはずだと、脳が訴える。「人を、殺した……?」
「ジョシュア!」
 指先に、自分のものではない熱を感じる。見れば、クライヴが、両の手を取って握りしめていた。大きさに差異がない掌が、しっかと手を包んでくれる。あたたかい。真摯な愛情が、荒れ狂っていた炎を呑み込み、徐々に穏やかな火に取って代わった。不死鳥による転生の炎を見た気がした。導く神の火の道標によって、先程までの怒涛も、混沌も、禍々しい黒炎もいまは無い。いつしかクライヴは席から降りて、ジョシュアの前で膝をついていた。忠誠を誓う騎士の、射抜く晴天がそこにいる。
「──聞こえるか? ジョシュア」
 眩しくて、両の瞼を叩き合わせた。クライヴの輪郭が融けている。重なる五指と甲の隙間に、涙が紛れ込む。吹き出した汗が、兄と弟の境界をなくしていた。
「ジョシュア、俺の目を見るんだ──そう、深呼吸をして……できるか? ああ、上手だ」
 喘鳴で上下していた肩が落ち着く。肺が痙攣をやめ、酸素に味があることをようやく思い出した。「ここには俺と、お前しかいない」濁った記憶から、掬い上げられていく。
「ジョシュア・ロズフィールドは犯人じゃない」
「どうして……
「お前が人殺しなんて、有り得ない。以ての外だ」
 もう、ジョシュアを脅かす影はいない。代わりに、大好きな兄がいる。
 言われるまま、彼の言葉を反芻すれば、ようやっと狂った妄想から抜け出せた。
 これじゃあ、クライヴの方が、心理士じみているではないか。二年間で得た座学の単位より、実兄による実習の方が役に立った。二十歳を超えてまで、みっともなく泣きっ面を晒したことが情けないし恥ずかしい。でも、それを見たのが兄でよかったとジョシュアは思う。
「ごめん、もう……大丈夫」洟を啜って、頭を振る。離れた掌が寒さを訴える前に、クライヴが手布を差し出してきた。朱に染め上げられた麻が美しい。「使っていい」流れた涙を吸って、深紅の斑点を増やした手布は、受け取っておくことにした。兄弟とはいえ、洗って返すべきだ。
「兄さん、僕、知りたいんだ」クライヴの目をみつめた。碧眼が、ジョシュアの虹彩を折り返して映し出す。「あの事件現場で何があったのかを」
「そうだな、俺も知りたい。お前が決して、犯人ではないことを証明するために」
「思い出せるか?」クライヴが小首を傾げて覗き込む。泣いたせいで頭が痛むが、それもすぐに過ぎ去るだろう。
「全て話すんだ、お前が見た光景の全てを」
「全て……」唾を嚥下したのは、獲物を前にしたからではなく、勇足を踏んだからだった。
 細密な情報は、相手の処理能力に圧倒的に依存する。加えて、思考労力を食ってしまう。過剰なほどの言語化で、生々しい記憶を完全に再現する──精神の迷宮だっただろうか。幼い頃に観たミステリドラマで、そんな言い方をしていた。
 クライヴ相手なら、能力面の心配はないかもしれないが、理解してくれるのだろうか。怖がられたり、気味悪がられたり、何か不気味なものを見るような、白い目を向けられたりはしないだろうか? 今まで、誰に煙たがられても、傷はついても立て直せた。けれど、彼に無理解を示されたら。爪の先程度の反応であったとしても、ジョシュアの傷はたちどころに線で結ばれ、巨大な罅になってしまう。
 青い光について語った、あの日のクライヴは、こんな気持ちを抱えていたのだろうか。寄る辺のない、胸を刺す孤独の河に、彼も恐怖していたのかもしれないことに、ジョシュアは今更ながら気がついた。
「ジョシュア」肩に掌が乗せられる。「俺が、お前の全てを受け止める」
「うん……うん」ジョシュアは肯首し、目を瞑った。記憶の隘路を渡り、二日前の光景に至っていく。
 マクルデュロワ丘陵、オリフレム近郊。悠々としながら、過去の遺物であることを全身に纏わせる懺悔の門。大昔のザンブレクの建造物の前。建ち並ぶ石柱と真白かったであろう石畳は、一部を除いて乾燥している。雨風に晒され続けた大理石の肌は、ところどころに傷が走っている。
 八十五点の青空の下、長く茂った草花の絨毯に、ジョシュアは足を埋めて立つ。
 門口から伸びる石畳、懺悔の門から見て四つめの巨大な石柱に近寄り、覗き込んだ。影に押し潰されて、誰かが寝転がっている。誰かの無償の愛と、誰かとのいざこざを人並みに抱えていた筈の女性が、悲壮に歪んで亡くなっている。
「ジョシュア」クライヴの声がした。声の方を見れば、現実と相違のない兄の姿があった。
 草が踏まれて潰れる音、青い匂いに、草の陰では、てんとう虫が慌てて道を譲っている。生ぬるい風を頬に浴びながら、彼の方へ歩みを向けた。
「あなたも見られるんだ、この風景を」
「お前の導きあってこそさ」
 これは嘘だろう。クライヴにも、同様の芸当が可能なのだ。幾ら説明が潤沢であれど、寸分違わぬ光景に至ることは難しい。ジョシュアには確信があった。彼には深い共感力があって、類稀なる知能があって、それ故に同じビジョンを共有出来ているのだ。
 もしかしたら、二人が、血の繋がった兄弟であることも関係しているのかもしれない。
「不思議な感覚……まるで、一つになったみたい。あなたと」
「それは……少し怖いな」
 口頭では誤魔化された感情が伝わってくる──満更でもないらしい。隠しきれていない微笑みが純然たる証左だ。クライヴと、精神で繋がっている感覚。胸中が暖かい。この世から、恐ろしいもの全てが無くなってしまったみたいだ。兄弟である限り、何だって立ち向かえる気さえする。
「俺も同じ気持ちだよ」クライヴが笑った。
 ロザリア城の庭園で、いつか似た笑みを見た。不死鳥の庭だけじゃない、記憶の中の彼は、いつも優しい笑みを浮かべていた。きっと、それ以外の顔も見せていたはずなのに。これは、弟と目を合わせたとき専用の表情なのだろう。ジョシュアだけの特権だ。
 温故に浸るのはこれくらいにしよう。ジョシュアは心持ち眦に力を込めた。
「ここに遺体があった」
 二人分の視線を受けた亡骸が、待ってましたと言わんばかりに血液のカーペットを拡げていく。それもまた、記憶の通りに乾いていた。鳥の形をした黒い塊が肉を啄んでいる。思わず目を逸らしながらも、追憶の通り近付いて、群がる烏を手で追い払う。
「一目見て、亡くなっていることが分かった。僕は遺体に近づいて」亡骸のそばに片膝を立てる、「それから、ガブに連絡をしたんだ」
 右手に握られた携帯電話は、ジョシュアが操作せずとも、一人でに発信先を指定していく。応答した通話口の声音が、内容を追ううちに深刻なものになっていった。
『おい、大丈夫か? オリフレムの懺悔の門前だな? そっちから応援を寄越して、俺たちもすぐ向かうから、周囲に何もないかどうかだけ見ておいてくれ!』
「協力要請の兼ね合いもあったから、確か到着まで十五分は掛かったはず」
「ガブたちが来るまでに、俺が」二人して一方を見た。もう一人のクライヴが小走りに駆けてくる。そして、すぐに血相を変えて歩幅を広げた。「そうだ、気がついたらお前の姿がなくて、そうしたらこんな……
 クライヴが首を振る。固く引き結んだ口端を、最後に一際噛み締めて、後悔は一旦止めにしたらしい。ジョシュアも倣って思考を切り替え、沈黙を破らぬ遺体を見下ろす。
「それにしても疑問だな、なぜ彼女はここに? 歴史的価値が大いにあるとはいえ──」
「待ち合わせ場所の可能性だってある。彼女はオリフレムの出身じゃなかったらしいし、会いに来たのかも」
 言いながら、これはないだろうと考えた。
「落ち合うにしても、他にもっと選べるだろう。学生というのはもっとこう……娯楽めいた施設を好むものかと」
「まあね。ただ、理由を探ろうにも、所持品の携帯にはそれらしきメッセージや、やり取りはなかったんだ」
 仮に、携帯を用いての犯行であれば、犯人は何かしらのアクションを起こすはずだ。被害者の懐から抜き取ったり、壊したりするだろう。だが、被害者の端末は警察に回収された。メッセージを消した痕跡は見つかっていないそうだ。そのお陰で、ジョシュアは二日以上の軟禁から逃れられたのだ。つまり、それ以上は知らない。恐らくだが、端末からは、持ち主以外の指紋も検出されなかったのだろう。出ていれば、今頃、兄弟で首を傾げあったりしていない。
「なら、考えられることは一つか。念のために聞くが、別端末があった可能性はないんだな?」
 二人して目を合わせる。導き出される解答は、自ずと一つしかない。
「犯人は、面識のある被害者を呼び出した」
 恋人か、友人。それに、考えたくはないが、家族や親戚の誰かの可能性だってある。血が繋がっていたとて、心は断崖隔てて架け橋などない、そんな家族だってあるのだ。
 現場の歴史的背景を視野に含むのなら、ひょっとすると、大学の教員も入ってくるが、ジョシュアは除外した。野外の遺跡に、学生一人を呼びつける教員なんて滅多にいないだろう──隣の、兄を除いては。
 凶器の正確なビジョンが見えていない以上、犯人の雌雄を文字通り決することは不可能だ。今回の事件のように、加害者側の筋力に依存する死因なら、男性が犯人であることが多い。却って、女性が犯人の場合、死因は毒殺を主にした、力を伴わない遠隔的な殺人であるケースが目立つ。勿論、いずれも例外はあるものの、この刺殺──鋭利で強力な刃物を扱うには、男性であってもそこそこの力が必要になる。
「犯人は男性、筋力は平均よりもある。定期的な運動を行っており、ジム通い、もしくは運動系の部活動に長年所属しているはず」
 周囲の長閑っぷりを見ると、尚更だ。タイヤ痕などなかったので、殺害後、犯人は走って逃亡した。
 オリフレムに戻った可能性は切り捨てた。雑草である程度阻まれていても、血液だって水分だ。容易に靴底に滑り込み、最悪のスタンプを石畳に押しただろう。街に入る門は、他に四つあるが、わざわざそこまで遠回りしようと思案出来る人間が、目立つ場所に遺体を放置するとは考え難い。よって、犯人は、殺害後南下したものと推測する。その上で、足だけで逃げおおせたのならば、オリフレム近郊の地元民である可能性が跳ね上がる。
「少なくとも周囲の地形とか、人目の判断ができる程度には、土地勘と周辺の町を知っていないと成り立たないね」
 靴底の痕跡は、生い茂る雑草の絨毯で見つからなかったが、それでも足跡らしきものはあったという。そこから、何か、判明したのだろうか。シドたちは見つけられただろうか。
「ううん、でも、この距離で?」ジョシュアは首を捻った。もし、凶器がありきたりな包丁だった場合、凶行に至るにはかなり接近することになる。小ぶりであれば、近づいても、背に隠せただろうが、それで健康な体躯を貫くのは無理だ。ならば大振りの刃物か? 勘づく間も無く逃げ出すだろう。
 凶器は回収されていた。刺殺体における刃とは、命を奪いながら、同時に命を繋ぐ栓の役割も兼ねかねない。無理に抜き取れば、行き場を見つけた血が一斉に噴き出す。所謂返り血を浴びた状態で、犯人はどこまで逃げ遂せるのか。ヴェルクロイの一帯は自然に軍杯が上がるし、昼間のムーアも、大抵の住民は他所に働きに出ていて閑散としている。だからって、無茶苦茶だ。
「刃渡が変……変というか、市販に流通する刃物だと足りないし、かといって……とにかく、辻褄が合わないんだ」諸問題を説明してから、またも煩悶と思考と呟きを繰り返した。
「何らかのからくりが施されていたのかもしれないな」
「或いは、物凄く刃が長いとか?」
 インヴィクタスでもあるまいに。横から放たれた、ロズフィールド大公家嫡男らしからぬ冗談は聞かなかったことにした。彼は、時折自らこういう軽口を叩く。先の茶菓子に関してもそうだが、故意なのか否か判別が付き難いのだ。今のだって、大公家に代々語り継がれる宝剣インヴィクタスを凶器当ての文脈で取り上げてみせたが、茶を濁すための剽軽狙いなのか、本気の除外なのか分からない。横顔をちらと見やるが、駄目だった。
「よく見てみろ、ジョシュア。記憶を完璧に構築するだけじゃない、その上で、周囲を観察するんだ」
 一時間弱前に語ったように、記憶というものは曖昧だ。他人の影響を簡単に受けてしまうものだし、細部のディテールなど盲点で大雑把。視線誘導の技法をしっかりと踏まえた絵画とそっくりなのだが、兄は、それを俯瞰して見ろという。
「お前ならできる」
 魔法の言葉に背を押され、ジョシュアは踏み出した。
 でも、どこへ? 何を観察するべきなのだろうか。ここでクライヴの方を振り返ろうにも、きっと獅子の崖落としにも似た態度で突き放されるに違いない。
 それにこれはジョシュアの記憶であって、幾らクライヴと共有していても、細部までは与り知れないのだ。鍵は己が手の内にしかない──ジョシュアは遺体を見た。ブロンドの滑らかな頭髪は、手入れされていたのだろう。腹に刻まれた傷さえなければ、彼女はきっと、豊かな午後を過ごせていたのに。
 弔いの意を込めて下ろしていた瞼をあげる。影を落とす石柱の根っこには、もうもうと雑草が芽生えている。歴史の刻まれた建造物なので、多少の罅にもロマンがあるものだ。
「あれ?」動きが止まった。
 柱の表面を視線でなぞって、見下ろして、また見上げて。
 足元に寝そべる、鋭利な刃物で貫かれた遺体。乾いた血溜まり。石畳を囲った等間隔の白い石柱、建造物を厳しく見せつける左右四つの大きな柱たち。返り血の斑点。
「どうした?」遺体を蹴ってしまわないよう迂回してきたクライヴが、眼前に立つ。問題の石柱の中央から下に影が落ちて──その一点だけ、未だ光を反射している。
「兄さん、彼女の死因は?」
「刃物での刺殺じゃなかったか」
「それ以外、死因の不可思議な点」
 怪訝そうに首を傾げられるが、目で先を言わせた。「刃渡だ。携帯して、持ち運べる凶器にしては長すぎる」
「それだ、そうだよ!」
 クライヴが仰け反った。弟が、至近距離で、物凄い大声を出したからだった。兄の鼓膜が痺れていようが、ジョシュアは気にしていられない。
 石柱に開いた小さな、本当に僅かな穴。キャンバス地の壁に残った画鋲の跡を思い出すような、ありふれていて見逃してしまいそうな違和。これが、無辜の学生を襲った狂気を指し示している。
 どれだけ鋭利な刃物だって、ここまでの傷は残せない。
「兄さんは、犯人がアイスピックで殺したと思う?」
「まさか、それだと彼女の腹に開いた傷の大きさと合わない」
 その通りだ。凶器は十分な太さを持って、生きていた人を葬った。そして胴体を貫通した鋒は、勢い余って石柱に突き立てられ、窪み穴を作った。単なる家庭用包丁だとか、或いは盗賊御用達のサーベルナイフとかでは成り立たないのだ。
 じゃあ、犯人は何を使った?
「槍だ」
 何も驚くことはない。聖竜騎士団の伝説を重んじるザンブレクでは、東洋の国の刀のように、槍型のものを頻繁に見かけることができる。その殆どが、工芸品や土産の品で、見栄えは良くても殺傷能力は無いに等しい。撲殺ならまだしも、このような刺殺にはまず使えない。そもそも、戦乱の世であればまだしも、現代は法治国家となった土地で戦力を誇る槍など所持していたら大問題だ。美術館や専門家以外が触れられることは滅多にない。
 唯一、『競技』の体を除いて。
「竜騎士の聖槍か!」今度はクライヴが声を張る番だった。
 ザンブレクにおける竜騎士は憧れの存在で、人気者だが、同時に、携えた聖槍は神聖かつ危険を宿している。だから、皆まで言わず、遠巻きに眺めるに徹する人が多いのだ。今の時期、竜騎士が周辺を歩いていても、まず怪しまれない。寧ろ、常識が逆転してしまう。
「竜騎士然としていればしているほど……人目を誤魔化せる……
「あれなら、専用の収納袋もある。兄さん、オリフレム聖竜騎士団の収納袋は何色?」
「複数あるが、最も暗いのは濃紺だった。だから、血がついた凶器を隠せたのか」
 皇室が執り行う祭典において、竜騎士による聖槍の舞と槍投げは長年続く伝統競技だ。建国記念の祝典では必ず催される。殆ど神事に近いそれは、神皇に腕を認められた、選りすぐりの竜騎士たちによって行われる。よって、彼らは、皇室が定めた大学にのみ所属することになる。現行、竜騎士を抱えるのは、オリフレム大学と、ノースリーチ大学の二校だけだ。
 そう、そうだった。ジョシュアは、二日前の──兄の研究室での談話を思い出していた。聖槍を拝めることはありがたいが、いつか大変なことにならないのか心配だと。大抵の心配性は寝言に終わる、まさか、こんな直近で現実になってしまうなんて。クライヴも同じく表情を苦くしていた。
「でも、ジョシュア。犯人の素性が判ったとはいえ、一体何が目的なんだ」
 またうちの大学が……そういうぼやきと一緒に眉間を抑えたクライヴが、視線を戻した。「ジョシュア? どうした」
「ディオンが危ない」
 椅子を蹴って立ち上がる。記憶の迷宮からいきなり飛び出したジョシュアに、置き去りを喰らったクライヴが、落ち着けた腰のまま、唖然と見上げてきた。
 あの日、研究室の談話で、友人のプライベートに配慮をして話さなかったこと。その内容が、聖槍の残した無惨な死と共に、刻々と迫っている。
「犯人の狙いは彼だ、彼が狙われてる!」