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2026-04-22 18:37:34
19484文字
Public 小説
 

【リバリン】リーバルの結婚🔞

<2025.8.31初出> リーバルの言葉も足りないがリンクの察しが悪すぎる故に拗れているリバリン

***

 思い残すことがないようにといつも以上に感じて乱れた交わりの果て、力尽きるように眠りに落ちていたリンクはパチリと目を覚ました。極まって意識を落とした後のことは定かではないが、身体はリーバルによって清められた後らしい。深くリーバルを受け入れていた胎の奥はまだジクジクと疼きが残るものの、それ以外はさっぱりと綺麗に拭き取られていた。
 窓の外に覗いた月の位置を見る限り、まだ夜半と言って差し支えない時刻であることを知る。リンクは自身の身体に絡みついていたリーバルの腕を未練を断ち切るようにゆっくりと外すと、リーバルを起こさないように気をつけながら家の外へと抜け出した。リト族は夜目が効かないので日が登って明るくなる前に出歩く者はほとんどいない。リンクは静まり返った無人の村の中を通り抜け、村人たちが空に飛び立つのに使っている桟橋からパラセールで飛び立った。リリトト湖を飛び越えて村の外に着地した後は、暗い街道を黙々と足を進め続けた。特に行きたい先が決まっている訳ではない。ただ、あのままあそこにいてはいけないだろうなという思いがあるだけだった。厄災と戦っていた頃はシーカーストーンを使ってハイラル中に瞬時にワープすることができたが、厄災が封じられ神獣たちが消えるととともにその不思議な力も使えなくなったため、今は移動するにはひたすら自力で進むしかない。
 リンクはリリトト湖の周りに沿った街道を淡々と進み、兄弟岩のあたりまできてやっと足を緩めた。暗いだけだった地面に、うっすらと自分の影が映り始めていた。それに気づいたリンクがずっと俯かせていた顔を上げると、いつの間にか空はほんのりと白み始めていた。夜明けが近いのだ。リンクは街道を進むのをやめ、兄弟岩のある高台によじ登り、さらにその裏手のまた一段小高くなった岩場によじ登った。リトの村ほどではないが、それでも周囲から比べるとそれなりに高く、見晴らしは悪くない。リンクはよじ登った岩場の上にしゃがみ込むと、登る前の朝日の光がタバンタヒルの向こうから少しずつ漏れ始めるのをぼんやりと眺めた。

 視線をほんの少しずらせば、すぐにリトの村が、その中心に聳えるリトの巨岩が視界に入った。今日、リーバルがリーバルの結婚相手と誓いを立てる場所だ。そのてっぺんはリンクがいる場所から遥か高いが、それでもそこに誰かがいるかいないかくらいは見て取れる。
 リンクは結局、リーバルの結婚相手を見ることも知ることもなく今日この日を迎えていた。そして今この瞬間も、リンクは相手のことを見たいような見たくないような、どちらとも決心のつかないままで巨岩のてっぺんを眺めている。周囲より一足早く朝日が差し始めたその場所には、まだ誰の人影もない様子だった。リーバルの姿すらも見えない。太陽はすでに半分ほど山の端から顔を覗かせていて、完全に夜が明けてしまうまでもうあまり時間がないように思える。夜が明ければ、リトの村の住人たちも起き出してくる。リトの巨岩の上に登ってくる者はそうそういないとはいえ、日中であれば空を行き交うリト族の者に見つかる可能性も上がるだろう。そうなればリーバルの望んでいた誰にも知られずに行う「二人きりでの結婚」が叶わなくなってしまうかもしれない。
 そこまで考えて、リンクは唐突に気づいた。リーバルは二人きりで結婚の誓いをするのだと言っていた。なのに、その場所と時間をリンクに知られてしまっている。それをリンクに漏らしたのは他ならないリーバルなのだが、きっと後になって自身の失敗に気付いたのだろう。そしてリンクに悟られないように場所を変更したに違いない。考え始めるとそうだとしか思えなくて、リンクはひとり納得した。と同時に、リンクが未練がましくここに居続ける理由ももうないなと思った。

……寒いな。)

 山の端から完全に顔を出した朝日が眩しい。防寒着が必要なほどは寒くないはずの場所だが、朝日を浴びても岩場の上に座り込んだリンクの身体は酷く凍えていた。尻が岩とくっついてしまったかのように腰を上げるのが億劫に感じるが、だからと言っていつまでもここで感傷に浸っているわけにもいかない。今日はリーバルが結婚相手と二人きりで幸せを誓って、リンクが人知れず失恋したただけの、それ以外の人たちにとっては何の変哲もない一日なのだ。

 ──もう、帰ろう。
 それは、リンクがそう決心してかじかんだ脚に力を入れて立ち上がろうとした時のことだった。少し離れた空の上から、バサバサと力強い羽音が聞こえた。聞き覚えのあるような、けれどどこか慌ただしいような羽音の主はリトの住民の誰かだろう。リーバルとの本当の関係は秘密だったとは言ってもリンクが頻繁にリトの村を訪れていること自体は隠しようもなく、リトの住民とは皆顔見知りかそれ以上になっていた。少しずつ大きくなる羽音はリンクの方へと向かってきているように聞こえる。薄情と思われるかもしれないが、今、その内の誰かにこんな所で何をしているのかと聞かれるのは面倒だなと感じた。気づかないふりをしてこの場を去ろうにも、妙に身体が重くて逃げきれそうにない。どうやり過ごそうか考えあぐね、俯いていたリンクの目線の先に空から舞い落ちてきたらしい何かが滑り込んだ。羽音の主から抜け落ちたらしい、一枚の羽だ。

……え?」

 それは見覚えのある羽色だった。この数ヶ月の間、何度も繰り返し見た色だ。リンクの目の前で、大きな手が器用に丁寧に作り上げた、あの羽飾りに仕立てられた羽根と同じ色。この羽色を持つリト族を、リンクは一人しか知らない。リンクがそれに気付いたのと、リンクの頭上から怒声が降ってくるのは同時だった。

「おい! こんな所でなにしてるんだよ!」
「リーバル……?」

 信じられない思いでノロノロと顔をあげたリンクの目の前に力強い羽音を立てながら舞い降りたのはやはりリーバルだった。酷く怒った顔をして、飾り羽を逆立て身体中の羽を膨らませている。今頃はリンクの知らない場所で、結婚相手と二人きりで結婚の誓いをしているはずのリーバルがなぜここにいるのだろう。何か問題が起きたのだろうか。驚きもあるが心配が勝って、戸惑いながら「どうしたの? 結婚は?」と問いかけたリンクにリーバルは「ふざけているのか!?」と吐き捨てるように言った。


「僕と結婚するのが嫌になったなら、ちゃんとそう言えよ!」
…………ん?」


 リーバルの言葉にたっぷり10秒ほどは静止しただろうか。リーバルの言っている意味が本気でわからず、リンクはつい「何言っているの?」と聞き返してしまった。そして聞き返してしまってから、しまったなと思った。こういう聞き方はリーバルの神経を逆撫でしてしまうと今までの付き合いで良く知っているのに。案の定、リーバルの顔が魔物との戦いの最中でも見せたことがないほど激昂に歪み、大きな嘴が怒涛の勢いで捲し立て始めた。

「君のせいで結婚しようって伝えるタイミングこそめちゃくちゃになっちゃったけど、ゆっくりと時間をかけて準備して、思い直す時間は十分に与えたよね!? 君が結婚なんて考えたことがなかったとしても、考える時間はたっぷりあったはずだ! それにみんなへの報告だって後回しにして、いつでも君が引き返せるようにした!」
「僕が作った羽飾りを、君は何度も綺麗だって褒めたよね? こんなものが貰えたらきっとすごく嬉しいって、何回も何回も! あれも全部お世辞だったのかい!?」

 リーバルがリンクに口を挟ませる隙も与えずに「君にそんな器用なことができるなんて思わないけどね!」と吐き捨てる。

「昨夜だってあんなに盛り上がらせておいて……っ、それなのに当日の朝になって黙って逃げ出すなんて。──あまりにも酷すぎるって思わないのか!?」

 怒りのままに捲し立てていたリーバルが最後は少し言葉を詰まらせつつも言い切るのを聞きながら、相変わらずリンクは困惑していた。やっぱり、リーバルの言っていることがわからない。もちろん言葉の一つ一つの意味はわかる。しかしそれをそのままの意味で受け取ると、とんでもない結論に至ってしまうのだ。まさか、そんな馬鹿な。そう思うけれど、目の前で怒りの余り目に涙を湛えリンクの不義理に震えているリーバルを見ると、もしかしてそんな馬鹿なことがあるのかもしれないという気持ちが湧いてくる。奇跡を願うような心境で、リンクはようやく口を開いた。

「リーバルの結婚相手って、俺?」
「それ以外に誰がいるって言うんだよ!?」

 リーバルがまた絶叫するのを、リンクは呆然と見ていた。

(リーバルの結婚相手って、俺? 俺がリーバルと結婚するの?)

 馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡る。固まったリンクに痺れを切らしたらしいリーバルが、リンクの肩をガシッと掴んでガクガクと揺さぶりながら「冗談はいい加減にしろ」と凄んだ。完全に目が座っている。

「あと一回しか言わないよ? リンク、僕と結婚するのかしないのか!?」
「す、する……!」

 頭を前後に揺さぶられ舌を噛みそうになりながらもリンクは咄嗟に答えた。する、リーバルと結婚する、と繰り返すリンクにリーバルが当然だとでも言うようにフンと鼻を鳴らした。指を食い込ませていたリンクの肩をパッと離すと、リンクの目の前にずいっと大きな手を出す。

「ならほら、出しなよ」
「え? 何を?」 

 少し落ち着いていたリーバルがまたピキピキと青筋を立てんばかりに苛立つのがわかり、リンクは内心冷や汗をかいていた。リーバルがイライラとしながら腰の後に吊り下げていたポーチから何かを取り出しながら言う。

「これと交換する、結婚の誓いの品だよ!」

 リーバルの手には、あの羽飾りがあった。ずっとリーバルの部屋の中でしか見てこなかった青藍の羽が、朝の日差しに半分透けて菫色に輝いている。それがあまりに美しくて、リンクは目を奪われてしまう。

「君がハイリア人流だと指輪が定番だとかなんとか言ってたんじゃないの? 早くそれを出しなよ」
「あ。あー……

 急かすリーバルにそう言われ、羽飾りの美しさに改めて感動していたリンクは間抜けな声を漏らした。
 確かに、ハイリア人は結婚するときに指輪を贈るのが定番だと話したことがあった。リーバルは指輪ができないから、指輪に紐を通して首飾りにすれば身につけられるだとかなんとか……。あれ、リンクとリーバルの話だったのか。リーバルはリンクから贈られる予定の指輪について話していたのか。これまでの数ヶ月、リーバルが話していた内容の本当の意味がやっとリンクの頭の中で繋がる。
 しかしリンクはリーバルと結婚するのが自分なのだということについ先ほど気づいたところなのだ。過去の会話の意味を今更理解したところで、どちらにせよ結婚指輪など用意しているはずもなかった。だがそれをそのまま正直に話したら、この時点でだいぶ憤慨しているリーバルは憤りのあまりに死んでしまうかもしれない。そんな風に危惧したリンクは、誤魔化すことに決めた。

「ま、間に合わなくて……
「嘘だろ!?」

 リーバルが大きな目玉をこぼれ落ちてしまうのではないかと思うくらい見開いて悲鳴をあげる。

「あんなにたっぷり準備の時間を与えたのに!? 僕が羽飾りを作っているのをずっと見てたのに、君は間に合わなかっただって!?」
「ごめん」

 しおらしい態度で謝るリンクに、半目になったリーバルが低い声で「まさかそれが後ろめたくて今朝逃げ出したのか?」と尋ねてくる。都合よく解釈してくれて助かったなぁと思いながらリンクはコクコクと頷いた。これでも十分呆れられるには違いないが、結婚相手が自分だと思ってなかったので最初から指輪を準備する発想すらありませんでしたと言うよりはマシだと思う。
 無言で肯定するリンクを見て、リーバルはいかにも信じられないと言った様子で片手で頭を抱えハァァと深いため息を吐いた。羽の隙間から覗くリーバルの目には呆れたという感情がありありと見て取れ、リンクは少し申し訳なくなって再度ごめんと謝った。リーバルが無いものは無いんだから仕方がないなと嘴を尖らせる。

「なら何か、指輪の代わりになりそうなものは持ってないの?」
「えっと、今?」
「そうだよ。僕は、今日、今ここで、君と結婚したいんだ!」

 リーバルがリンクに言い聞かせるように、一言一言をはっきりと区切って言い放つ。リトの村の巨岩の上じゃなくていいの、とは聞けない雰囲気だった。正直ちょっと、いや半日ほど時間をもらえればゾーラの里やゲルドの街に行って美しい装飾の施された指輪を買い求めることはできる。しかしリーバルはリンクにそんな時間を与えればまたふらふらと逃げ出すのではないかと疑っていることがありありとわかって、とてもそんな提案はできそうにない。もう逃さんぞという決意というか執念のこもった様子のリーバルに気押され、頭の中を巡らせたリンクは自分の後頭部に手を伸ばした。

「じゃあ、これなんかどうかな」

 リンクは自分の髪から外したばかりの髪留めを手のひらに乗せ、リーバルに差し出した。古いがその分質の良い石が使われていて、物は悪くないはずだ。リンクを睨んでいたリーバルの目線がリンクの手のひらに移る。

「君がいつも着けてる髪留め?」
「うん」

 母さんの形見なんだと言い添えると、値踏みするように髪留めを見つめていたリーバルが息を呑むのがわかる。

……いいの、そんなものを僕に渡して」
「うん。大事にしてくれるなら、いい」

 だって、結婚するということは一生一緒に過ごすということだろう。それならば、この髪留めがリンクの元にあろうとリーバルの元にあろうと同じことだ。
 リーバルは視線をリンクの手のひらの上から再びリンクの顔に移すと、じっとリンクの瞳を見つめた。そして無言でリンクに背を向けると、自分の髪に着けていた翡翠の髪留めを全て外した。きっちりと結われていたリーバルの髪が、リンクの目の前でゆるりと解ける。リーバルが少し俯きながらに「ん、」と促してくる意を汲んで、リンクは慣れない手つきでリーバルの髪を再び結い始めた。普段リーバルがしているように4本に分けて編むのではなく、大雑把に1本に編むのがやっとだ。少々不恰好ではあるが、なんとか最後まで仕上げたところでリンクは髪の先端に髪留めをつけた。リーバルの頸あたりに、リンクのピアスと同じ石でできた青い髪留めが揺れる。

「まぁ、悪くないね」

 自身の毛束を摘んで小さな声でそう言ったリーバルが今度はリンクに向き直り、リンクの耳の上に羽飾りをつけた。耳の上に揺れる藍色の羽を満足そうに眺めるリーバルを、リンクもどこか実感の湧かないふわふわした気持ちで眺める。

「この羽飾りのように絶えず君に寄り添い、温め、生涯連れ添うことを誓うよ」
「えっと、俺も……。この髪留めの石のように、堅く末永い愛を誓います」

 リーバルがリンクにつけた羽飾りに嘴を寄せながら結婚の誓いを述べるのを聞いて、ぼんやりしていたリンクも慌ててリーバルの髪に揺れる髪留めに唇を落とし辿々しく誓いの言葉を述べた。へぇ、それがハイリア人流の口上なんだ? と言うリーバルに曖昧に笑う。言葉は即興だが、気持ちは本物だ。しかしリーバルはそんなリンクの内心を見透かしたようにやれやれとため息をついた。さっきからずっとリーバルにため息ばかり吐かせている気がする。流石に呆れられたかなとドキドキするリンクをリーバルがおもむろに抱き寄せた。



「全く、君と一緒にいると予想外のことばかりだ」

 誓いの品も聞いていた話と違うし、場所だってこんなよくわからない岩場の上だし。僕の計画はなんだったわけ、とリンクの頭の上に顔を乗せたリーバルがぼやく。しかし口ではそんなことを言いながらも、リーバルの腕は変わらずリンクをしっかりと抱きしめていた。リーバルの腕の中はいつでも温かい。その上、耳を澄ませればトクトクと脈打つリーバルの心音も聞こえてくる。思い返してみれば、リンクは自分の気持ちにばかり振り回されて周りが見えなくなっていて、リーバルの気持ちも言葉もちゃんと受け止めてこなかったのかもしれない。リーバルは、ずっとリンクのことを考えていてくれたのに。これまでのことはどうしようもないし、遅くなってしまったけれど、今からでもちゃんと応えたい。そんな気持ちを込めてリンクもリーバルの身体をぎゅうっと抱きしめ返し、リーバルの嘴に頬を擦り寄せる。

「でも、思い通りにいかないところも好きなんだよね?」

 いつか今と同じようにリンクのことを抱きしめながらリーバルが語った、リーバルの結婚相手の好きなところを思い出しながらリンクは尋ねた。あれもこれも全部、リーバルが思っていたのはリンクのことだったんだ。そう考えると胸の奥から温かい気持ちがじわじわと込み上げて、抑えきれない幸せが笑みになって溢れてしまう。

「それはちょっと自分に都合よく解釈しすぎなんじゃないの」

 嬉しくてたまらないとばかりに口元を緩めるリンクを見咎めて、リーバルがリンクの頬を抓った。しかし嘴を尖らせながらも、リンクを至近距離で見つめるリーバルの目は優しく笑っている。それを見て、ずっと伝えたかった言葉がリンクの唇から自然と滑り落ちる。

「好きだよ。リーバル」

 少し照れくさそうに「僕も」と短く答えるリーバルに、リンクはやはり幸せな笑みを抑えられないのであった。