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kaisou
2026-04-14 22:48:45
10713文字
Public
1740年コンクラーヴェ話
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ローマは人を引き留める Roma homines retinet.
1740年コンクラーヴェ話・別視点8
帰らなかった人と引き留めた人。新たな関係の始まり
※歴史創作なので悪しからず
▼本篇まとめ
Aliquid est quod memoria mea non relinquit.
私の記憶を離れないものがある
https://privatter.me/user/kaisou_ja?category=110867
全7章/幕間含む
1740年コンクラーヴェ話の本篇その2
視点違いの2つの話のうちの1つ。
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それから、また数日が経った。
ローマの夜は深く、音を飲む。灯りの届かない場所は、光の届かなさそのものが沈殿しているようだった。書斎に人の気配がした。扉は叩かれなかった。ただ、開いた。
「聖下」
「入れとは言っていない」
「はい」
コシアはそのまま入ってくる。足音を立てずに机の前まで進み、書類を一枚置いた。
「表向きはナポリへ発ちました。ただ、続きがありまして」
「
……
そうか」
ランベルティーニは目を通す。手は書類を追っているのに、意識は別のところにあった。戻ってきて当然という顔ではない。弁解も与えない。そういう立ち方が、かえって部屋の輪郭をはっきりさせる。来ないはずの者が、来たあとで静かに定着してしまう気配だった。書類を閉じる。
「ナポリへはいつ戻る」
「さあ」
「さあ、とは何だ」
「ローマがまだ喋っています」
コシアは軽く肩をすくめた。その仕草には、いつもと同じ軽さしかないが、それが今は少し違って見えた。ここへ戻ってくる理由としては、あまりに私的で、曖昧だったからだ。理屈として整えば整うほど、別のところで嘘になる。そういう曖昧さだった。少し沈黙がある。
「君は」
コシアが顔を上げる。
「他の者にも、同じようにするのか」
言ってから、ランベルティーニはしまったと思った。取り消すには遅い。コシアはしばらく黙っていたが、やがて静かに問う。
「他の者、というのは」
「情報を集める相手だ」
答えるのが早すぎた。自分でもわかるほど早かった。コシアは、その速さをそのまま受け取ったように見えた。責めもせず、面白がりもせず、ただそこへ置かれた速度として。早さそのものが、問いの本体だったと知っている顔だった。
「ああ」
少し考えるふりをする。
「そうですね」
視線を机の端に落とす。
「ただ」
そこで一度、言葉を切る。
「こうして報告に来るのは、聖下だけです。
――
たぶん。そして、これからも」
沈黙が落ちた。長くはないが、短くもなかった。その長さが何を意味するのか、どちらも言葉にはしない。しなかったからこそ、沈黙はただの空白ではなく、置かれたものになった。机の上の書類よりも、よほど重いまま。触れれば崩れるのではなく、触れた瞬間に形が変わってしまう沈黙だった。
「
……
そうか」
それだけを言う。コシアは少し間を置いてから、書類を机の端へ置いた。
「残りは、次の機会に」
「ああ」
扉が閉じる。机の上の書類を、ランベルティーニは指先で軽く押さえた。動かなかった。灯りの火が静かに揺れている。消そうと思えば消せる火だったが、消さなかった。
――
消す気が、なかった。
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