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ねぶくろ
2026-04-01 08:00:00
13884文字
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新生活応援キャンペーン2026
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よく晴れた公園のベンチは、程よく温まっていた。穏やかな日差しの下で伸びをして、七分咲きの桜を見上げる。平日だからか、公園内に人の姿は少ない。風の匂いに目を細め、
黒崎
くろさき
兼冬
かねふゆ
は、
黒崎
くろさき
凪
なぎ
と並んで花見をしていた。
やわらかな春風にのせて、園内には、乳幼児や小学生のはしゃぐ声が響いている。ちびっこを連れた親御さんが多いのは、今日がまだ春休みのさなかだからだろう。かくいう二人も、かたや春休み中の小学生、かたや繁忙期を終えたばかりの引っ越し業者だ。──新生活に先駆けた引っ越しのラッシュもようやく落ち着き、兼冬は数週間ぶりの休暇を満喫していた。
凪は頭上に咲き誇るソメイヨシノを見上げ、地面に届かない足の先をゆらゆらと揺らしている。くつろいだ表情の彼女を横目に、兼冬も、ふわふわと光るように花開いた白っぽい花弁に視線を向けた。時折、風に煽られてか花びらが降ってくる。揺れる枝を見ていれば、蜜を吸っているのか、スズメたちが花をつついているのがわかった。彼らの猛攻を受け、五つの花弁を持つ花がそのまま落ちてくる。
降ってきたそれを手のひらで受け止めて、兼冬は「なぁ」と、気の抜けた声で凪に呼び掛けた。「なに?」と、彼女が視線をこちらへ向けて、問いかける。彼女へ視線をやってから、兼冬は再び枝を飛び回るスズメへと目を戻した。
「お前は、スズメとかハトとは話せないのか?」
問えば、彼女は足元に積もった花びらへと視線を落として、「話せないよ」と応じた。ゆらゆらと揺れる爪先が、絨毯のように降り積もった花弁に風圧を与える。彼女の爪先に蹴り上げられるような格好で、白い色がはらりと舞い上がった。その動きを目で追いながら、「そうか」と相槌を打つ。凪は自身の爪先から目を上げると、兼冬を窺った。
「どうして?」
「ちょっと気になって」
穏やかな会話の隙間を縫うようにして、子供たちの歓声が鼓膜を震わせる。はしゃいで笑う幼い足音と、あっくん待って、と焦ったような女性の声。通りを挟んだ向こうの道で、ゆっくりと車が発進した。風が凪の髪を撫でて、その漆黒の奥から烏の濡羽に似た、光沢のある眼差しがこちらを見つめる。
「がっかりした?」
問い返されて、目を瞬く。がっかりってなんだ? と小首を傾げて、兼冬は「いや」と否定を返した。
「
烏
からす
は凪の家族だから、他の鳥と違って当然だ」
答えを返せば、凪は口を噤んで、それからバツが悪そうに目を伏せた。
「
……
試したことはないよ」
言われた意味を理解するまでに、一拍。兼冬はもう一度目を瞬いて、「ないのか」と彼女の言葉を繰り返した。凪が、少し申し訳なさそうな表情で頷く。
「試したことはないけど、ただ、喋れないだろうなって思う。
……
試してみようか?」
真っすぐにこちらを見つめて、彼女が申し訳なさそうに申し出る。兼冬はその、真摯な眼差しを受けて、思わず表情をほころばせた。人の目を気にしない彼女が、申し訳なさそうな顔をするのは珍しい。そんなに大した疑問じゃないのに、と愛おしさに目を細めて、「いいよ」と頭を振る。兼冬はその髪に舞い落ちた桜の花びらを摘まみ上げて、彼女へ笑いかけた。
「話せても話せなくても、烏が特別なのは変わらないだろ」
「うん」
どこか安堵したように頷いて、彼女が降ってくる花弁を見上げる。相変わらず足をゆらゆらと揺らしながら、凪は「お腹空いたね」と落ち着いた声を発した。公園内に佇む時計を見れば、時刻は十二時を指そうとしている。そろそろお昼にしようか、と兼冬はベンチから立ち上がった。手を差し出して、彼女と手を繋ぐ。
「商店街で何か買って、ピクニックしよう」
声をかけて歩き出せば、彼女は「やった」と笑って、繋いだ手を機嫌よく揺らした。
【あとがきのようなもの】
この度は企画にご参加くださりありがとうございます!
「新しいことに挑戦する」ということで、『カラス以外の鳥とも話せるか試す』話です。(挑戦はしてない)
たぶん、凪ちゃんは肌感覚で出来ないと分かっているから試したことがなさそうだし、兼冬さんも思いついて訊いてみただけで出来るとは思っていないだろうな、という感じで書きました。
本編には関係ないのですが、凪ちゃんと兼冬さんって、春の陽射しの下で桜を見上げている情景がめちゃめちゃ似合いませんか? 二人の間に流れる穏やかな時間が、春という季節ととても親和性が高いなと思いました。
だいぶ好き勝手書かせていただきましたが、楽しんでいただければ幸いです。重ねてになりますが、この度はリクエストをくださりありがとうございました。
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