Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ねぶくろ
2026-04-01 08:00:00
13884文字
Public
Clear cache
新生活応援キャンペーン2026
1
2
3
4
5
6
7
一日を終えて、自室に戻る。室内に
朝日向
あさひな
陽斗
はると
の姿がないことを確かめて、
星岡
ほしおか
美月
みつき
は自身のベッドに身を横たえた。「疲れた~」と無意識のうちに声が零れて、それから、その弱音に引きずり出される形で朝の一幕を思い出す。
──おはよう、としか言われなかった。
四月一日。今日は、美月の誕生日だ。同室となって久しい陽斗も、美月のプロフィールは把握している。しかし彼は、いつも通りの声といつも通りの表情で、「おはよう」と言ったきり、美月を祝う言葉は一つも口にしなかった。
朝、美月が目を覚ましてから、一日を終えて自室に帰った今この瞬間に至るまで。
「
……
ま、忘れてても仕方ないか」
苦笑と共に言葉を零して、天井を見上げる。今日は、学生にとっては一年のはじまりに等しい、大切で、特別な一日だ。陽斗にとって、四月一日とは新学期の初日であって、美月の誕生日ではない。それだけのことだろう。
それにしても、帰りが遅いな。スマートフォンを取り出し、ロック画面の時計を確かめて首を傾げる。普段であれば、陽斗もすでに部屋に戻っている時間帯だ。一体、何をしているのだろう。また教師に捕まっているのだろうか。それとも、新学期だからと気合いを入れて、図書館で勉強でもしているのだろうか。
連絡してみるかな、と美月がチャットアプリを立ち上げたところで、ガチャリとドアが開いた。このドアを
開
ひら
くことができるのは、美月の他には陽斗しかいない。美月はスマートフォンから目を逸らさないまま、「おかえり~、なんか遅くない? 何してたの?」と、相手に口を開かせる間も与えずに声をかけた。
陽斗が部屋の入り口で立ち止まる気配と共に、沈黙が落ちる。返答がないことを不審に思って画面から顔を上げて見れば、ドアの前に佇んだ陽斗の、緊張したような眼差しと視線が絡まった。──その手には、大きくて四角い、ケーキの箱が握られている。
「ただいま。
……
これを受け取りに行っていたら、遅くなってしまった」
言いつつ、彼が部屋の中央に位置する座卓へとケーキボックスを置く。それを見て、美月は目を瞬いた。スマートフォンを握り締めて、箱と、それを
携
たずさ
えて帰って来た友人とを見比べる。そして、──
「えっ!? 陽斗
……
、ホールケーキ買って来たの!? 二人で食うってこと!?」
驚きのままに声をあげれば、陽斗は美月の勢いに戸惑った様子で目を瞬いた。それに構わず、言葉を重ねる。
「しかもこれ、ケーキ屋の箱じゃん! ガチすぎるって!」
フツー、友達の誕生日って言ったらコンビニくらいで済ませるものじゃない? と腹を抱えて笑えば、陽斗は顔を赤く染めて、「そ、そんなに笑うほどおかしいか?」と動じたように言葉を零した。その声と表情から、彼が誠心誠意、心の底からの善意で行動したのだと分かって、ますます笑いが止まらない。美月はひとしきり笑い転げた後で、涙の滲んだ目元を擦りながら、「サイコー! 陽斗ってマジで面白いよね」と未だに立ち尽くしたままの友人を見上げた。
「ってか、ケーキ屋のケーキって、高いでしょ?」
「
……
まぁ。だが、誕生日だからいいだろう、たまには」
メッセージプレートも書いてもらえるし、と言い訳のように付け足されて、また笑いがこみ上げる。「マジ? プレートまで書いてもらったの?」と尋ねれば、彼は恥ずかしさを堪えるように表情を硬くして、箱を開けた。
真っ白な箱の中には、小ぶりなホールのショートケーキがおさめられている。赤いイチゴに彩られたケーキの上に、ちょこんと『Happy Birthday』のプレートが載せられているのを認めて、美月は「ガチじゃん」と
揶揄
からか
い交じりに陽斗をつついた。
「そんなにガチで俺の誕生日を祝いたかったの?」
彼の顔を覗き込んで尋ねれば、陽斗は恥ずかしさが上限を突破したのか、両の手で顔を覆ってその場にしゃがみこむと、「やめてくれ
……
」と弱々しく呟いた。
「友人の誕生日を祝うなんて、経験がないんだ
……
」
「それでケーキ屋って、ガチすぎでしょ。陽斗ってマジでそういうとこズレてるよね」
にやにやと笑いながら声をかけ、──美月は息を吐いて、箱の中の『Happy Birthday』へ視線を向けた。陽斗、と改めて友の名を呼ぶ。彼は赤みのさした顔でこちらを見上げた。その目を見返し、「ケーキありがと」と笑いかける。
「でも俺、まだ陽斗から肝心なことを言われてないんだけど?」
美月が
強請
ねだ
れば、陽斗は軽く咳払いをしてから、改まった声で「美月」とこちらの名を呼んだ。
「誕生日おめでとう」
【あとがきのようなもの】
この度は企画にご参加くださりありがとうございました!
美月くんはお誕生日おめでとうございます。健やかに生きてください。
今回は誕生日の話、ということで、
「同じ部屋で暮らす友達の誕生日を祝う」ってなかなか経験しづらくて、妥当なラインがわからないよな~という気持ちと、
4月1日は新学期初日(またはまだ春休み)なことが多いから出会ってから一年くらい経った後にしか誕生日を祝うタイミングがなさそうだな~という想像を足して、
『ガチすぎるお祝いをして爆笑される陽斗さんが見れるな
……
』という感じで書きました。楽しんでいただければ幸いです。
重ねてになりますが、この度はリクエストをくださりありがとうございました!
1
2
3
4
5
6
7
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内