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【7/19更新】シャアム短編まとめ

シャアム




お題「本」



『お前のこれまでの努力に感謝するよ、それらは全て我々の為になる。』

——どういう事だ、彼はあの時死んだんじゃなかったのか。
「アムロ。」
——今ここで姿を現す意味は?
「アムロ、聞いているのか。」
——そもそも味方のままだと思わせて居た方が有利なのに。まさか……

死んだと思って居た仲間の復活、その裏切り。
混乱から抜けない内に向けられた刃は腹を裂き——シャアの顔が現れた。

「うわ。」
「うわ、ではない。夢中になるのも良いが夕飯ぐらいは食べなさい。」

夕飯。取り上げた本を片手で弄ぶシャアの指さす方にはホカホカのシェパーズパイが皿に盛られていた。彼が夕食を作り始めたのはついさっきだと思ったのに。
驚いて時計を見ると、最後に時間を確認した時から優に二時間が経っている。
——そんなに夢中になっていたのか。
反省したアムロは一言「ごめん、気付かなかった。」と謝り、率先してカラトリーと茶の準備をした。

***

シャアは困っていた。憤っていたと言っても良い。
趣味や仕事などに過集中する気のあるアムロが、現在、とある本に夢中になっているからだ。
架空の世界に釘付けになっている彼は凄まじい集中力で、本を読み始めると他の何にもまともに反応しなくなってしまう。勿論シャアの声にも。
まるで人生のボーナスステージのような貴重な時間。やっとの事で分かり合えたパートナーに、話しかければ「ン。」、肩を叩けば「ちょっと後で。」と言われてしまえば、短気で有る事を自認しているシャアが憤るのは至って自然だった。
彼は今も、綺麗に片付けたテーブル上の食後のお茶を冷ましながら、憎き本に視線を固定している。
それまで、夕食後は穏やかな語らいの時間であったというのに。

「アムロ、シャワーは君が先に浴びたまえ。」
「ン。」

それだけではない。歴史的ベストセラー、累計発行部数数億部、お子様からお年寄りまで安心してお読み頂ける名作シリーズは第一部だけで十冊以上ある。アムロが今読んでいるのは八冊目。つまり、彼が活字に夢中になり始めてから既に十日が経っているのだ。

……私が先に入るが、いいか。」
「ン。」

更に困った事に、シャアはアムロを止めにくかった。初めは、活字を好まない彼を見兼ねて「本くらい少しは読んだらどうだ。」と嗜めたのだ。その言葉にむくれた顔を見せた彼がポツポツと語る所によると、彼は義務教育すら全て終えられず、戦後は思想を育てさせない為に碌に実の有る本を与えて貰えなかったらしい。
それを哀れに思い、かの憎きベストセラーシリーズを「初心者でも読みやすく楽しいから。」と与えたのは他でも無いシャアだった。

——完全に、余計な事をしてしまったな。

シャワーを浴び、髪を乾かし、歯も磨いてから戻ったリビングの椅子に、最後に見た時と全く同じ体勢で本を読むアムロの姿を見て、シャアは改めてそう思った。

***

「目が悪くなるから明日にしなさい。」
「あと少し読めばキリがいいから。先に寝ててくれ。」

共に横になったベッドの読書灯はアムロの手元を照らしている。
このやり取りももう何度目になるだろう、近頃の彼はシャワーとトイレ以外の全ての場所で本を握りしめていて、その様子は時代が時代であればさながらスマホ中毒の若者のようだと思われただろう。かたやそれに苛立つ親の立場になってしまったシャアは、しかし親とは違いアムロに対して厳しかった。

「良い加減にしろ、明日にしろと言ったのが聞こえなかったか。」
「ン、ン。」

何度も声をかけられたアムロは、鬱陶しそうにモゾモゾと背中を向ける。この時シャアはハッキリと、自分の堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。

——そうか、私に背を向けるか。

瞬間的にプレッシャーを放ちかけたシャアは、それでも鉄の意思で自らの心を沈めた。
そうして無防備に晒された背中へそっと腕を回す。いつも背後から抱き締められて眠るアムロは、予想通り大きな反応をせずにジッと手元に集中しているようだ。
寝巻きの上から薄い(薄くは無い、シャアが異様に厚いだけだ、と言う説も唱えられている)胸板を撫でた。無言。
掌で勝手知ったる胸を押し込むように撫でる。これも無言。
根気よく揉み込んだ胸の中心が健気にも尖り始め、場所を主張し始めた。それを爪の先で強く、引っ掻く。

「ッ、」
——なるほど、これも耐えるか。

声を耐えはしたが無言を貫いたアムロに、シャアは楽しくなって来た。触っていた寝巻きのボタンを一つ外し、出来た隙間から手を潜り込ませる。寝巻きには下着を着ない派のアムロが、素肌を撫でられる感覚に身体を跳ねさせ、更に声を耐えた。

……ッ、ッ、」

直接触れる胸の中心は完全に尖っていて、実に十日ぶりにその素肌に触れるシャアは指先で殊更丁寧にそれを転がした。

「ぅっ〜〜ッ!」
「ふ、」

それでも、腕を震わせながらも意地でも声を出さないアムロの耳元に、笑いを含んだ熱い息を意識して吹き込む。彼はビクリと反応して肩をすくめ、耳を庇う仕草をした。
そのまま下半身へと向かった手が——強く掴まれる。

良い加減に、しろッ!」
「はは、」

やっとの事で振り向いた赤い顔が何か可愛く無い文句を言う前に、先手を打ち唇を塞ぐ。
抵抗がない事を確認したシャアが手探りで読書灯のスイッチを切ると、部屋を照らすのは窓からの月明かりだけになり、全ての輪郭が曖昧になっていく。
次第に皺を刻んでいくシーツの上から豪華な装丁の本がずり落ち、誰にも聞かれない鈍い音を立てて床に落ちた。


おわり