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【7/19更新】シャアム短編まとめ
シャアム
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7
十四日間逃走
カチ カチ カチ
ノックを3回。
やっぱり、無い。替えの芯は
…
切れてる。
夏休み。中核都市の図書館四階、郷土資料コーナー横の穴場の机。朝からそこを独占して化学の追い込みをかけていたアムロは、己の準備の甘さと目の疲労から瞼をひくつかせた。
切れたシャープペンの芯を買いに行くにはここから最短のコンビニは遠く、外は暑く、何より気力が湧かない。
ハァーッ!人が居ないのを良いこととして完全に天井を仰ぎ、腹の底から息を吐く。
——
もうここで、昼寝してしまおうかな。
甘い考えは一瞬で捨て去った。何といっても彼は今年受験生なのだ。
しぶしぶと席を立ち参考書を仕舞う横顔に、何か熱を感じる。
振り返るとそこには男が立っていた。
金髪を緩くセットした男はラフなカットソーにスラックスを身につけ、数冊の本を小脇に抱えた「どこにでも居る大学生」の出立ちをしている。その顔を除いて。
——
うわぁ、格好いい人だな。
彼は正に俳優かアイドルかみたいな容姿をしていて、アムロは思わず感心して見つめてしまった。が、すぐに違和感に気がつく。彼は驚愕も露わな表情でこちらを見て固まっている。それももう数十秒ほど。
——
なんだろう、早く退けってことかな。
彼みたいな印象に残る人と出会った記憶の無いアムロは、熱烈な視線に居心地の悪さを感じ手早く筆箱をリュックに突っ込んだ。
「あの、どうぞ。」
短くそう言って、男の脇を通り過ぎようとした時。
グワシッッ
「うっわっ
…
!?」
突然動き出した男が、アムロの両肩を痛い程掴んだ。驚愕に跳ね上げた顔が覗き込まれる。
——
か、顔が近い!
「アムロ!いや、アムロ君!!私たちは話し合わなければならない!さもなくば
…
」
顔の近さと大声に身を固くしたアムロに構わず、ここで男は自分の腕時計を伺う。
「今日は八月二日。ここから数えて十四日後の十六日まで。この間に我々は、死ぬ。これは宿命だ!」
***
ツン ツン
図書館の一階に併設されたカフェの、名物パフェ。ボリュームに見合った値段のおかげで中々食べられないそれを突く。好物な筈のそれの味も、今は全く分からない。
「
…
という事だ。分かったかね。」
「
………
。」
ツン ツン
男の話はまるでファンタジーかSFのようだった。
かつて宇宙を飛び回って戦争をした二人は、遂に共に死んでしまったらしい。彼もアムロも、何度も何度も生まれ変わって、そのたび出会った。そして必ず、出会ってから一四日間の間に事故か事件に巻き込まれ、諸共死んでしまうのだという。
「いや、良かった。前回出会った時は君は一歳でね。何も功を成せず流行病で死んでしまったのだ。」
ツン ツン
「
…
あの、僕が。マルチにかかりそうな子供に見えますか。」
男の容姿。強引な様子。まずパフェを奢ってから話を聞かせる流れ。
有無を言わせず「好きだろう?」と注文されてしまった菓子が在る以上ここまで話を聞いたアムロも、流石に我慢の限界だった。
それを聞いた男はぐうっと仰け反り、口の端を吊り上げニヤリと笑う。
「その台詞。十一回前に出会った時と全く同じだ。懐かしいな。」
「
………
。」
男はあくまでこの茶番を続けるつもりらしい。
もしやマルチではないのだろうか。
「
…
れ、」
「霊感商法ではない。」
「
……
し、」
「新興宗教でもないな。」
この暑い中涼しい顔でホットコーヒーを啜る男は、台詞を先回りして潰していく。
そうして言われた反応を愉快そうに伺うのだ。気を悪くしたアムロが「お勘定は僕がします。」と伝票を掴む。
「お父上は元気かね。」
「
…
何か関係があるんですか?」
「有るとも。君が死ねば悲しませる事になる。テム・レイ氏は元気かな。」
驚愕に目を見開くアムロの前で、男の唇は止まらない。
「母はカマリア・レイ、ペットの名前はハロ、趣味はガジェット弄り。私が二十歳という事は、君は十五歳かな。」
「ッ
…
ス、」
「ストーカーでもないぞ。」
そういえば、男は最初からアムロの名前だって知っていた。
——
なんだ、この人
…
!?
その時。アムロは世界がひっくり返ったのかと思った。男がテーブルを押し除け素早くこちらに飛び掛かってきた光景を最後に、頭がめちゃくちゃにシャッフルされる。虹色の視界と何がどうなっているか分からない身体の痛みを経て、彼が重力の方向を再認識した時。カフェの中には惨状が広がっていた。
目の前には運送会社の中型トラック。
そんなものに突っ込まれたカフェのガラスファサードはめちゃくちゃになり、飛び散ったガラスと資材が床一面を覆っている。
正面からぶち当たった一脚のテーブルは、飴細工のようにひしゃげていた。
アムロたちが座っていた席だ。
男に抱かれたまま背中を冷たい汗が流れる。ふいに聴力が戻ってきて、騒然とした店内の悲鳴や怒号が聞こえた。
「不自然だろう?」
男の声に顔を上げぎょっとした。目前の額がパックリと割れている。
アムロは咄嗟に抱き抱えてきた彼によって、テーブル席から数メートルの所に倒れ込んでいた。
割れた額から赤い血がだらだらと流れ始める。
アムロを庇うためについた傷だ。
「見たまえ。私と君以外、誰一人傷を負っていない。」
促され店内を見渡す。これだけの惨状にも関わらず、怪我人は一人も見当たらない。トラックのドライバーですら、取り乱してはいるもののウロウロと元気そうだ。
額が割れた男と、全身に擦り傷を負ったアムロ以外は。
おもむろに、手が差し出される。
「さぁ、分かったかね。初日はまだ易しい方だ、外も歩ける。今のうちに対策を練りたいのだが、どうだね。」
「
……
わかりました、信じます。ありがとうございました
…
。あの、お名前は?」
「キャスバルと言う本名があるのだが、君にはシャアと呼んでもらいたい。シャア・アズナブル。ご覧の通り学生だ。」
手を取ったアムロに状況に似合わない笑顔を見せた男は、何故か偽名を名乗った。
これがアムロとシャアの、生き残りをかけた奇妙な十四日間の幕開けであった。
おわり
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