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【7/19更新】シャアム短編まとめ

シャアム




お題「協力プレイ」


展開したフィンファンネルが様々な角度から敵を追う。

直線的なフォルムをすっと一筆でなぞった。
こういうのは何度も重ねるより一筆の方が良い。
液晶とペン先の摩擦は程良く、満足の行く線が一発で描けた。滑らかな描き心地のそれに改めて驚く。
——職場の物より良いんじゃないか?いくらするんだ、これ。
ふっと目を上げるとタブレットの持ち主が夢中で作画作業をしているのが目に入った。

「この暖かさを持った人間が、地球さえ破壊するんだ。それを分かるんだよアムロ!」

画面に目を落としたまま、ブツブツと何かを呟いている男。
シャアはアムロの先輩だ。某大手自動車メーカーの開発部である二人は、貴重な休日を使ってシャアのマンションに缶詰になっていた。
名前を呼ばれたアムロはしかし、その「アムロ」が自分を呼んだ訳では無いと知っている。
シャアが描く二次創作、同人誌。その登場人物の「アムロ」だ。ロボットアニメの主人公、らしい。
その彼と名前が同じだと、幼い頃からさんざっぱら揶揄われたアムロはその作品を見た事が無かったので、よく知らないけれど。

「シャア。」
「地球に残った者共など所詮蚤だと言う事だ!だが、しかし、貴様の出方によっては、」
「シャア!これはベタを塗っていいのか!」
「むっ、」

眼鏡越しの瞳がこちらを向く。
あれだけ集中していても伸びたままの背筋は育ちの良さを伺わせる。プライベートでしかかけないシンプルフレームの眼鏡は職場の女性陣が見たら大騒ぎになるだろう。いや、あの独り言で台無しか

「ああ、出来そうなら頼む。しかしもうそのページまで進んだのか。流石だな。」
「人物を描けと言われたら無理だが、ロボットなら楽しいよ。塗りつぶしはどうやるんだ。」
「ロボットではない、モビルスーツだ。新規レイヤーからベタ塗りを選択してくれ。」

手元の画面上でシャアのカーソルがスルスルと動き、操作を指示する。
——へぇ、こんな事も出来るのか。
作画ソフトを初めて触るアムロは先程から感心しきりだ。
職場で何かと構ってくるシャアが「君の作図の腕を見込んで頼みがある。」と言ってきたのは数日前の事だった。
バイト代として示された金額に釣られたアムロが都心の一等地に聳え立つ高層マンションに連れられ渡されたのがこのタブレットで、キョトンとする彼に告げられたバイトの内容が「私が描く作品の、モビルスーツを作画してくれ。」だったというわけだ。
初めは「3次元CADとイラストソフトは違うだろ」と突っ込みを入れたアムロだったが、中々どうして高性能で使いやすいソレに、元々ガジェットオタクの気質が有る彼は夢中になった。
資料として横に配置されたロボットの画像も男心を擽るデザインで、気付けば午前中一杯夢中で描いていた様だ。
——しかし

『ここで和平を結べば貴様の自由は完全に無くなる。それでも良いと言うのか。』
『何度も良いと言っているだろう。くどいぞ、貴様らしくもない。』
見上げた自己犠牲だな、尊敬するよ。』
嘲笑の貌で見下すシャア。軽蔑され顔を伏せるアムロの表情は、彼からは見えない。

——なんか。

『君一人と作戦の全てを取引している時点で、色々と察して欲しいものだな。』
『そんな事、考える訳ないだろう。だって。』
『君は完全な自己犠牲で此処に来たのか。』
『俺個人で、会いたかったからだよ。これでいいか。』
『アムロ。』

——近くないか?

このキャラたちの事を良く知らないのでハッキリとは言えないが、少なくとも手を取り合って見つめ合うような関係では無い、気がする。
そもそも、名前を含めて自分とシャアに似過ぎている。
——どんな気持ちでこれを俺に手伝えと言ったんだ。ただの後輩の俺に
チラ、とシャアの方を伺うと彼も自分を見ていた様でバチリと目線が合う。
ニコリ。完璧な微笑みで応えるシャアに、何故か悪寒が走り、身震いする。

「ッシャア、もう昼過ぎだ。何か腹に入れた方が良い。」
「もうそんな時間か。何にするか、パスタなら有るが。」
「身体も動かしたいし、俺が買い出しに行ってくるよ。コンビニで良いか。」
ああ。ありがとう、メニューは任せる。後で精算させてくれ。」

なんとなく此処に居たくなくて、矢継ぎ早に告げながら上着を羽織った。
外の空気を吸えばこの妙な悪寒も四散するだろう。
アムロは部屋の扉をくぐる。その背中に纏わりつく視線を知らぬまま。

玄関の扉が閉まる音を聞き届け、シャアは立ち上がった。
彼が椅子の上に置いていった帽子を手に取り、くるくると弄ぶ。徐に、その内側に顔を寄せた。赤茶色の髪を包んでいた簡素なキャップは彼の残香を感じさせる。
シャアはふっと笑みを溢したが、目元だけが細まるそれは先ほどの完全な笑みとは違う異質な物だった。

ふと、彼のタブレットへと目を落とす。
几帳面にもキャンパスを閉じてから外出した彼の作業を確認すべく、それを開く。


「アッアムロッ!!?レイヤーを結合するなとあれ程ッ!!!!!」

シャア悲痛な悲鳴は、コンビニでプリンを選ぶアムロの耳には届かなかった。


おわり