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由崎
2026-03-05 20:44:52
13400文字
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(未完)朝起きたら俺以外の国が全部女だった
右🏴固定
🏴以外ほぼ女です
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予定の時間ぴったりに部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、きっちりした身なりのハワードが立っている。
「おはようございます、イギリスさん。お迎えに参りました」
イングランドは軽く頷き、上着を手に取った。
昨夜の疲れはまだ抜けきっていないが、頭はすでに仕事へ切り替わっている。
車に揺られ、政府庁舎へ向かう道すがら、ハワードは要点だけを簡潔に説明していった。
言葉の端々に慣れと配慮がにじんでいる。
庁舎に入ると空気が一変した。
石造りの廊下、抑えた照明、靴音が反響する静けさ。
見覚えのある景色にイングランドは無意識のうちに背筋を伸ばす。
「こちらです」
案内され、重厚な扉の前で足が止まる。
扉が開かれた瞬間、イングランドは思わず目を瞬いた。
執務室。
書類棚の位置、机の大きさ、椅子の形。
窓の向きに至るまで、記憶にある自分の執務室と、ほとんど変わらない。
「驚いたな、俺がいた世界の執務室と、そんなに変わらない」
ぽつりと漏れた声にハワードは一瞬だけ目を見開いた。
「そうですか、内装や配置はイギリスさんの好みに合わせてありますので」
机に近づき、天板にそっと触れる。
革の感触も、細かな傷の位置も、覚えがあった。
違う世界なのに。
妙な居心地の悪さと、奇妙な安心感が同時に胸に残った。
ハワードは手にしていた書類を静かに机の上へ置く。
「では、この世界のイギリスさんが現在、主に交流のある国々の資料を用意しました」
きれいに揃えられた数冊のファイルが、規則正しく並べられる。
「会議まで時間も限られておりますので、まずは軽く目を通していただければと思います」
イングランドは資料に視線を落とし、静かに息を吐いた。
「ああ、分かった」
椅子に腰を下ろし、最初のページをめくる。
そして、その内容が目に入った瞬間。
ぱたん、と一度だけ、資料を閉じた。
「イギリスさん?」
ハワードが不思議そうに声をかける。
イングランドは答えず、ゆっくりと片手で目元を押さえた。
指の隙間から、深いため息が漏れる。
「
……
なあ、ハワード」
声は低く、どこか遠い。
「一応、確認していいか」
「はい」
「この資料に載ってる国
……
」
イングランドは閉じたままのファイルを指で軽く叩いた。
そこに記されているのは、欧州諸国だった。
「
……
全員、女か?」
一拍。
ハワードは、何の迷いもなく頷いた。
「はい。現在、欧州はイギリスさん以外、ほぼ全て女性です」
その言葉を聞いた瞬間、イングランドは天井を仰いだ。
「そうか」
納得したようで、していない声。
「
……
なるほどな」
ゆっくりと手を下ろし、もう一度資料を見る気力も湧かないまま、背もたれに身を預ける。
「そりゃ、ホテルに隔離されるわけだ」
ハワードは何も言わなかった。
ただ、そっと視線を逸らす。
イングランドは、再び資料を開いた。
覚悟を決めた顔だったが、その眉間にはすでに、くっきりと疲労の皺が刻まれている。
最初のページに記されていたのは、宿敵であり、腐れ縁であり、隣国。
……
フランス。
この世界では、国の化身の九割が女性だと聞いていた。
だが、その一割に含まれていた自分と同じ側に当然のようにあいつもいるものだと、どこかで思い込んでいた。
歴史を振り返れば、常に隣に立ち、張り合い、睨み合い、殴り合ってきた相手だ。
宿敵であり、どうしようもない腐れ縁。
だから性別まで同じだと、疑いもしなかった。
女。
あのクソ髭が、女。
理解が追いつく前に思考が一瞬で止まった。
「イギリスさん、大丈夫ですか?」
ハワードの心配するような声がかかる。
イングランドは反射的に手を振った。
「問題ない」
完全に見栄だった。
内心は、これまでにないほどの混乱に叩き落とされている。
「紅茶を入れてきます」
その気遣いが今はやけにありがたかった。
足音が遠ざかり、執務室にはイングランドひとりになる。
長いため息が落ちる。
改めて、フランスの資料をまじまじと見つめた。
「本当に、女かよ」
誰に聞かせるでもない呟きが静かな部屋に溶けていく。
写真に視線を落とす。
冷静に見れば、かなりの美人だった。
その事実を認識した瞬間、胸の奥に嫌なものが込み上げる。
腐れ縁の相手に、こんな感想を抱くこと自体が、かつてないほど屈辱だった。
認めたくない。あれはフランスだ。クソ髭だ。
「しっかりしろ
……
俺は大英帝国だぞ
……
」
誰に向けるでもなく、ぶつぶつと呟く。
ふと、別の疑問が頭をよぎった。
この世界の俺は、このフランスと、どうやって喧嘩しているんだ?
怒鳴り合う、皮肉を飛ばす、睨み合う。
そこまでは、いつも通りだ。だが、その先を想像したところで思考が止まる。
いつもなら、最後は机を叩いて立ち上がる。
場合によっては掴み合いになる。
ひどいときは、あのクソ髭の自慢の顔を殴る。
イングランドは、もう一度写真を見た。
女。
「無理だろ」
声に出した瞬間、ようやく理解した。
これは文化の違いでも、世界観の違いでもない。
単純に、自分の行動様式が破綻している。
「俺、この世界で一ヶ月
……
どうやって生きて抜くんだ
……
」
答えは出ない。
ただ、頭が痛くなった。
世界が違っても、フランスはフランスだ。
イングランドとフランスは宿敵だ。それは感情の問題じゃない。
歴史がそうなっている。
この世界の俺が、元の俺と同じ行動原理で生きているなら、ひとつだけはっきりしている。
俺は女を殴らない。
それが紳士であり、誇りにしてきたことだ。
だが、この世界では、国の化身の九割が女だという。
この世界の俺は、イングランドは、千年以上、あらゆる国々と争い、ぶつかり合ってきたはずだ。
殴らずに、どうやって戦ってきた?皮肉だけで済む話か。
口を叩くだけで、歴史が動くか。
イングランドは、こめかみを押さえた。
考えれば考えるほど答えから遠ざかっていく。
「
……
やっぱ無理だろ、これ」
小さく吐き捨てるように呟き、椅子の背に深く体を預けた。
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