由崎
2026-03-05 20:44:52
13400文字
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(未完)朝起きたら俺以外の国が全部女だった

右🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿固定
🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿以外ほぼ女です


弟は弟じゃなかった。

どうやら、かわいいかわいいあたし達の弟は別人でした。
いや、正確には、別の世界の弟だったのでした。

赤毛の女、北アイルランドは状況を受け止めるより先に興味が勝ったらしく、ぱっと顔を輝かせた。

「ねー!別の世界のあたし達はどんな感じ!?教えてよイング!」

身を乗り出す勢いが強すぎて、イングランドは思わず肩を引いた。
瞳がきらきらしている。
完全にワクワクしている。

「おいノース、落ち着け」

スコットランドが眉をひそめて低く言う。

「だって気になるじゃん?気にならないほうが無理でしょ〜?だって!だって!あたし達が男とか、ちょー気になるでしょ!」

北アイルランドはひらひらと手を振りながら、イングランドの顔をぐいぐい覗き込んだ。
押しの強さは、性別が変わっても相変わらずらしい。
金髪の女、ウェールズはシワを寄せて北アイルランドを睨むようにしながら、ついでのようにイングランドへ駆け寄った。

「ちょっと!わたしたちの弟への心配とかないの!?もう!のんちゃんはほんと……!」

ウェールズは慌てた様子でイングランドの手をぎゅっと握りしめる。

「待っててねいーくん!お姉ちゃんが助けてあげるから!」

言い終えると、バタバタと音を立てながら扉へ飛び出していった。
イングランドはぽかんとウェールズの後ろ姿を見送ったあと、心の中で小さくため息をつく。

本当に、この世界の兄上たちは女になっても……いや、元から女か……やっぱりややこしい。

あれから、スコットランドと北アイルランドがこの世界の常識を簡単に説明してくれた。
どうやら、ここでは国の化身のほとんどが女性らしい。
イングランドはゆっくり視線を上げ、なんとも言えない顔で二人を見た。

ちょっと待てよ、その……まさかアメリカとかカナダまで女なのか?」

北アイルランドは迷いゼロで即答した。

「そうだよ〜!この世界、だいたい女の子ばっかなんだからさ〜!お前なんてさ、かわいい妹たちに囲まれてんの!ほぼハーレム!」

あまりにも誇らしげに胸を張るので、イングランドは返す言葉を失った。
視界の端で、スコットランドが腕を組んだまま渋々と頷く。

「ハーレムって言い方はどうかと思うが……まぁ確かに、元英領はイングランド以外ほとんど女性だな」

北アイルランドがさらに調子に乗る。

「いいじゃん!だってイング、めっちゃモテるんだよ〜?まぁ財布目当てだけどね〜!」

スコットランドが眉をしかめ、北アイルランドがけらけら笑う。
イングランドはそのやり取りを聞きながら、額に手を当てた。

アメリカが女?カナダも?
オーストラリアもニュージーランドも?

脳内の顔ぶれが、性別を変えられて横一列に並んでいく。
そのうえ全員が兄上たちと同じように女だったら?背筋に薄い寒気が走った。

……いや、悪夢だろそれ」

ぼそりと漏れた声に北アイルランドがすぐ笑い出す。

「え〜?どこが!?女の子いっぱいだよ!」

イングランドは深く息を吸い、搾り出すように言った。

「いやいや……こっちは男ばっかり囲まれてる世界なんだよ……俺以外全員女とか、無理があるだろ……扱い困るんだよ……

その声には、心底の困惑と拒絶がにじんでいた。
スコットランドは鼻を鳴らし、小さく肩をすくめる。

「大変そうだな、あっちのイングランド」

北アイルランドは逆に、にやりと笑って肩に手を伸ばす。

「慣れなって?女の子に囲まれて生きるとか、男の憧れでしょ?」

「憧れた記憶は一度もない!」

イングランドは全力で首を振った。
そこで、スコットランドがわずかに声の調子を落とす。
からかいではなく、説明するとき特有の落ち着いたトーンで。

……で、問題はそこだ。お前の言う男ばっかりの世界はさておき、この家は見ての通り、女しかいない」

イングランドは思わず口を閉じた。
スコットランドは壁にもたれ、腕を組み直す。

「ここじゃそれが普通なんだよ、私もノースもウェールズも誰も気にしねぇ、姉弟なんだからな」

淡々としているが冷たくはない。
この世界の当たり前をそのまま置くような声だった。

……だから、男兄弟しかいなかったお前のほうが大丈夫かって聞いてんだ」

スコットランドの視線がわずかに柔らぐ。
イングランドは言葉を詰まらせ、うつむいた。混乱はまだ晴れない。

スコットランドと北アイルランドが、からかい半分、心配半分でこちらを見守っているのだけは分かった。
イングランドがどう返していいか迷っていた、そのとき、リビングの扉の向こうから、ドタドタと勢いよく駆ける足音が迫ってきた。

「いーくんっ!!」

勢いそのままに扉がばーんと開き、ウェールズが飛び込んできた。

「大丈夫!?あれから一時間くらいだったんだけど……具合とか、おかしいところない!?」

突然すぎて、イングランドは返事より先に目を瞬かせた。
時計をちらりと見ると、確かに一時間ほど経っている。
スコットランドが眉を上げた。

……おい、何してたんだウェールズ」

「ここにいるいーくんも!私のいーくんも!二人のためにお姉ちゃん頑張ったの!地下で魔術本、調べてきたから!」

胸を張って言う。
北アイルランドはにやにや笑った。

「なにそれ〜?ウェールズのイングランドじゃないでしょ。あたしのイングだし?」

北アイルランドの軽口に、スコットランドは呆れつつも、どこか安心したようにため息を落とす。
イングランドは三人のいつも通りの騒がしさと必死さに圧倒されつつ、どう反応していいか分からず、小さく肩をすくめた。
そこで、ウェールズがはっと何かを思い出したように振り返り、勢いのままイングランドへ顔をぐいっと寄せてくる。

「いーくん、聞いて!この現象は妖精の仕業、チェンジリングの可能性、かなり高いの」

息を吸う間もなく、続けざまにまくし立てる。

「しかも昨日は満月だったの。妖精の魔力が一番強い日、だから……次の満月まで帰れないかもしれないの!」

イングランドの顔が引きつる。

……あと一ヶ月後ってことか!?」

その瞬間、スコットランドが椅子をきぃっと鳴らして立ち上がった。

「おい、待て。あと二週間後は世界会議だぞ!?」

眉がつり上がっているが、必死に落ち着こうとしているのが見てわかる。
北アイルランドも目をまん丸にして叫んだ。

「しかも今回ポスト国でしょ〜!?どうすんのイング!?あれとかこれとか、全部イングじゃないと無理だよね!?」

イングランドは額に手を当て、深く深くため息を吐いた。
そこへノースがやけに明るく胸を叩く。

「あ、でも?あたし達がポスト役やってあげてもいいよ〜?」

イングランドに希望が灯る。
だが、ノースは満面の笑みのまま、イングランドの肩をぐいっと押し出した。

「えっとね〜……めっっちゃめんどくさい案件が山ほどあってさ〜?イングランドじゃないと出来ないの!うん!ガンバレ!!」

無責任な励まし。

「俺を帰してくれーーーー!!」

イングランドの絶叫は屋敷の梁までびりびり震わせた。