マエバ・セイボスキー
2026-02-21 19:42:40
16143文字
Public パーバソ
 

眠りの海の船長

眠りパロのパーバソ。
Dの眠りをとてもオマージュしています。
なんのひねりもなく、タイトルままです。
二人はしあわせにくらしましためでたしめでたし、です。

 とある海辺の小さな村に、仲睦まじい夫婦が住んでおりました。
夫は漁師で、日々食べるだけを捕り、あとは海に帰す、慎ましく敬虔な夫婦でありました。そんな二人は海の神にも、空の神にも良い人間として愛され、貧しくも幸せに過ごしておりました。そうして、二人は男の子を授かります。二人はたいそう喜び、ジョンと名付けました。海の神は美しい赤子を見て「きっと素晴らしい船乗りになるだろう」と、海の加護を下さいました。それをみていた空の双子神が「彼の舳先はかならず港にたどりつく」と船旅の加護を下さいました。
 ある夜。どんどん、とドアを叩く者があります。乱暴なそれはまるで恐ろしい嵐の夜の音で、ジョンのお母さまは慌てて揺り籠に駆け寄りました。ふたりの大事にしている白い犬も、ジョンとお母様の前で扉を向いて唸っていました。

「どなたでしょう」

 お父さまは、声を低くして尋ねます。すると、そとからごうごうと荒れた海のような声が返ってきました。

「オレだよ、貸したもの返してもらいに来た」

「貸したもの?」

「ああそうさ、あの夜の、オマエの命だ」

 お父さまは思い出しました。数年前の嵐の夜、海の上でどうか家に帰して欲しいと黒い夜空に向かって祈ったときのことです。渦巻く暗雲から雷が落ち言ったのでした「助けてやろう、だがこの代償はデカいぜえ」どろどろと尾を引く雷鳴のような声でした。
 お父さまが覚悟をしてドアを開けると、そこには髭のねじ曲がった大男が立っていました。
 大男は口をぴくぴくさせながら笑います。

「イイ心構えだな、さて」

ぎょろぎょろとした鷲のような目が、やわらかく愛らしいジョンをみつけるのは一瞬です。

「アレを貰おう」

 男の腸詰めのような指がジョンを指します。

「あの赤子はいいおとこに育つ、16を迎え、海をしったとき、奴隷船を率いる船長になるだろう」

 オレのために、と。暗い夜空から雷が降り注ぎました。
 恐ろしい呪いです。お父さまは奴隷船を見たことがありました。
 男は大きな口から黄色い歯をむき出して笑い、そうして夜の闇に消えました。
 お母さまはジョンを抱いて泣き、お父さまは慌てて鍬を手に外に飛び出しましたが、そこには誰もいません。

「どうしたらよいのだろうか」

 足元に駆け寄ってきた犬も、お父さまを見上げてきゅうきゅうと鼻をならすばかりです。
そのとき二人の家の上を、きらりと光るものが走っていきました。それは空を旅する流れ星でした。流れ星は悲しむ声に気づき、輝く小さな足をとめました。

「どうかしたのかい?」

 きらきら輝くお星様がお父さまに聞きます。

「かわいい息子に呪いがかかってしまった」

 お母さまはおいおいと泣いています。お父さまは深くうなだれていました。薄桃色の髪がだらりと垂れ下がり、足元では白い犬が悲しげに鳴きます。

「かわいいこだね、よしわかった、ぼくがきっとたすけてあげる」

 お星様はぴかぴか瞬いて銀色にひかります。

「おとなになってうみをたびするとき、くなんにみちきびしいたびじでも、きっとそれは、じゆうをはこぶふねになる」

 きっとさ、とお星様のきらきらがジョンをつつみました。そうしてジョンは、海の神と空の双子神と旅のお星様の加護をうけたのでした。けれども、お父さまとお母さまはジョンが心配でなりません。翌朝、お父さまはジョンをつれて森に向かいました。

「森の賢者よ、どうか息子をお助け下さい」

 そこには青いローブを被り、大きな杖を持った魔法使いが立っていました。

「オマエも妙なもんに目を付けられたな、わかった決して海を教えずに育てよう」

 森の魔法使いは、差し出された赤子を抱え森の奥に消えました。
 お父さまは、小さくなっていく後ろ姿にいつまでもいつまでも手を振っていました。

 赤子を抱いた魔法使いは、腕の中にある無辜の美しい存在に微笑み、きっと立派な男に育ててやろうと思うのでした。

 月日は流れ星より早く過ぎてゆきました。