lilie_y0527
2026-02-19 23:08:54
13117文字
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先生ルークと保護者ディン

現代AUルクディン


【可愛い連絡帳】

朝の光が差し込む園庭。ルークは鼻歌まじりに竹箒を動かし、昨夜のモヤモヤを掃き出すように落ち葉を集めていた。そこへ、シルバーのSUVが停まる。降りてきたディンが、いつもより少しだけ迷いのある足取りでこちらへ近づいてきた。

「おはようございます、ルーク先生」
「おはようございます、ディンさん! グローグーくん、今日も元気だね」
声をかけられたグローグーが大きく手を挙げる。
すぐに挨拶だけで立ち去るかと思いきや、ディンが立ち止まり、口を開いた。
「昨日、パズとラグナーに連れられて……ええと、しゃぶしゃぶの食べ放題に行ったんです」
……?あ、ネコのロボットがいるあのお店ですね!賑やかだったでしょう?」
ルークが箒を杖のようにして笑うと、ディンは少し困ったように眉を下げた。
「驚きました。肉以外にもあんなにいろいろあるとは。特にあの、自分で焼くワッフル。あれは難しいですね。グローグーにせがまれて焼いたんですが、どうもうまくいかなくて」
ディンが敗北を認めるように肩をすくめる。そのあまりに平和な悩みに、ルークの心はパッと花が咲いたように明るくなった。
「あ、ワッフル!ああいうところのはコツがあるんですよ。生地を流し込みすぎないのがポイントなんです。僕、結構得意なんです」
「そんなコツが?先生なら、確かに器用に作りそうだ」
「今度綿あめもやってみてください。あれも回し方にコツがあるんです。グローグーくん、綿あめきっと喜びますよ」
「わた……あめ……
ディンが真面目な顔で反芻する。大きな男が背中を丸めて必死に綿飴の棒を回している姿を想像して、ルークはたまらず吹き出した。
「ぜひ、次は綿あめに挑戦して、どうだったか教えてくださいね」
「善処します」
少しだけ耳を赤くして、ディンがグローグーを預けて去っていく。ルークは、彼が去った後の地面を、さっきよりずっと軽い力で掃き始めた。何でもない日常を共有してくれたのが嬉しい。誰かに話したかっただけだとしても、その相手に自分を選んでくれたことが何より嬉しかった。もし、箒で空が飛べるならこのまま朝のさわやかな空に飛び込みたい……
(ワッフル。綿あめ。ディンさんの口から出る可愛すぎるワードだ。ずっと覚えていたい)

昨日、インクで汚れた手を見つめて嘆いていたのが嘘みたいだ。今はただ、次にディンから綿あめの報告を聞くのが、楽しみで仕方なかった


***

延長保育の引き継ぎも終わり、園児たちが静かに遊び始めた頃。ルークは手元の連絡帳を開いた。いつもは「体調に変わりありません」「元気に遊んでいます」と、ディンらしく簡潔な報告が並ぶグローグーの連絡帳。

けれど今日、そこには少しだけ筆圧の強い、急いで書かれたような文字が躍っていた。

『昨日は友人と一緒にしゃぶしゃぶの食べ放題に行きました。グローグーはネコの配膳ロボットに夢中で、ずっと椅子から降りて追いかけようとするので、それを止めるのが大変でした』

ルークは、思わず口元を手で覆った。グローグーのわんぱくに振り回されて困っている父親としての苦労を素直に連絡帳に書くディン。
(今日の連絡帳、可愛すぎ……!?)

『大変でした』の一文から、ディンの溜息まで聞こえてきそうだった。
そこには、子どものいたずらに手を焼き、猫ロボットに敗北しかけている一人の「不器用なお父さん」の姿があった。ルークは、すでに担任が記入を済ませているグローグーの連絡帳を、名残惜しそうに閉じた。自分は担任ではない。ただ、父アナキンが運営するこの園で、人手が足りない時間を埋め、子どもたちの安全を守る補助である、教会の牧師の息子だ。
けれど、保護者たちから「ルーク先生」と呼ばれるたび、彼はそう呼ばれるにふさわしい清廉な人間であろうと背筋を伸ばしてきた。特に、ディンの前では。

昨夜、自分が一人でインクの汚れを落としていた時間。ディンはあの大きな体で、猫ロボットに夢中な息子を追いかけていた。その生活の匂いが、たった数行の走り書きから溢れ出している。
ルークは、自分の役割を再確認するように子どもたちを見渡した。連絡帳に言葉を返すことはできなくても、今日の夕方、明日の朝、彼が来た時に最高の笑顔で「おはようございます」「おかえりなさい」と言うことはできる。

(ロボットの話、聞いてみよう。勇気を出して)

ルークにとっての「先生」という立場は、ディンに近づくための唯一の切符であり、同時に、一線を越えさせないための最大の壁でもあった。