lilie_y0527
2026-02-19 23:08:54
13117文字
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先生ルークと保護者ディン

現代AUルクディン


【仲良し保護者】

ある日の夕方、ルークは職員室の片隅で、機嫌の悪いプリンターと格闘していた。自分が担当する延長保育の時間まで、まだ少しある。インク漏れで騒ぐこの働きもののご機嫌直しを今のうちにしておきたい。ふと、今日は窓の外の園庭がやけに騒がしいことに気付いた。
……あ」
窓越しに、黒い大きなミニバンから降りてくる二人の姿が見えた。お揃いの制服姿のままのパズとディンだ。夕方の早い時間、西日に照らされた二人のガタイの良さは圧倒的で、園庭の隅で立ち話をしていた保護者たちが一瞬、ざわめいたのが分かった。二人はそれぞれ自分の息子のクラスへ向かい、やがて子どもたちを連れて園庭へ出てきた。グローグーとラグナーが砂場で遊び始めると、パズとディンは柵に寄りかかり、リラックスした様子で話し始めた。

(あんな風に笑うんだ)
ルークは手を止めて見入ってしまう。肩の力が抜けた、気のおけない相棒のような空気感。ディンがパズの言葉に小さく肩を揺らして笑っている。

「帰るぞ、ラグナー!」
パズが声をかけると、年長のラグナーは素直にパズのもとへ駆け寄り、大きなゴツゴツとした手に自分の手を重ねた。しかし、グローグーはまだ遊び足りないようで、砂場でイヤイヤと首を振っている。
「おい、ディン! さっさと帰るぞ、置いていくからな!」
パズが豪快に笑いながら急かす。
「パズ、悪いが先に車に行っててくれ。こいつを説得する」
ディンが困ったように、けれど親しげに答える。ルークは、胸の奥がチクリと疼くのを感じた。
(パズ、ディンって呼び合ってるんだ)
自分にとっては、いつまで経っても「ディンさん」という、敬語を崩せない、どこか遠い存在。その遠くで、パズは当たり前のようにディンの肩を叩き、あんなにも気安く笑い合っている。自分が知らないディンの少年時代も、グローグーを育て始めた頃の苦労も、あの大きな背中の男はすべて知っているのだろう。
職員室の窓ガラス越しに、夕闇が迫る園庭でグローグーを抱き上げようと奮闘するディンの姿が、急に遠くのものに見えて、ルークは小さく溜息をついた。

窓の向こうでディンがこちらを見上げ、静かに会釈をした。ルークは弾かれたように背筋を伸ばし、慌てて会釈を返そうとしたが、彼はすでにグローグーを抱え直して背を向けていた。
「さようなら、ディン……さん」
誰にも届かない挨拶を呟く。
ラグナーと手を繋いで歩いていくパズの大きな背中と、グローグーを抱っこして歩くディンの背中。夕焼けが長く伸ばした二人の影は、まるで一つの家族のように、あるいは切っても切れない強い絆で結ばれた戦友のように、ルークの目には映った。
(いいな……。僕もいつか、あんな風に、迷わずにあなたの手を握れる日が来るのかな)
ルークは、握りしめていた自分の手を開き、見つめた。漏れたインクが指先を黒く汚していた。指をこすり合わせても、汚れはただ黒く醜く、手のひらに広がっていくばかりだ。
『先生』という立場が、今はあまりにももどかしい。

***

その日の夜、ルークはひとり薄暗い礼拝堂へと足を踏み入れた。
(ずるい、なんて。僕は、何を)
一瞬、胸の奥を焦がしたのは、醜い『嫉妬』だった。パズだって、ディンと同じ大切な保護者の一人だ。ラグナーくんの成長を共に見守る立場として、自分は彼に対しても誠実で、公平であるべきなのに。ディンの隣にいるというだけで、パズにまであんな黒い感情を向けてしまうなんて。

冷ややかな空気の中に身を沈め、祭壇の前に跪く。組んだ指先に、先ほどまでプリンターをいじっていた汚れが微かに残っているのが見えて、自分の心の汚れを突きつけられたような気がした。
「フォースよ、私の乱れた心をお鎮めください」
震える声で、心の中の『主』へと呼びかける。
「私は教育者であり、導き手です。すべての親子に平等な愛を注ぐべき身でありながら、あの方の過去を、あの方の時間を、独占したいなどという……傲慢な願いを抱いてしまいました」
目を閉じると、夕闇の中で笑っていたディンの横顔と、彼を呼ぶパズの声が蘇る。パズとの間に積み上げられた時間は、どれだけルークが望んでも手に入らない『聖域』だ。他人の歴史に嫉妬し、いち保護者にまで羨望を向ける自分は、オビワンが言う『光の導き手』には程遠い。
「どうか、この執着という名の影を、光の中に溶かしてください。私が、あの方の友人であるパズさんをも、心から祝福できる一人となれますように」
額を拳に押し当て、ルークは必死に祈った。けれど、祈れば祈るほど、ルークの心の湖面に消えない波紋が広がり続けていた。