柚子茶
2026-02-13 23:41:21
5629文字
Public 私とリオルシリーズ
 

私とリオルとときどき先生

イッシュ地方タチワキシティにある、ポケモン保護施設「タブンネの里」。
そこでお手伝いをする少女リノンと、パートナーのお話。


 お兄さんとルリリを見送って、施設のポケモンたちのお世話が一段落ついたころ、先生とまたお話する機会がありました。
「さて改めて、今日の反省は何ですか?」
「初対面の人を怪しい人と決めつけてしまったことです……
「そうですね。決めつけたのはよくありませんでした。でも、君の警戒心は大切なものでもあります」
 よくわからないと首を傾げてしまいます。怪しいと警戒したから今回のことが起きたのに。
「警戒心は自分や周りの身を守るための心です。少しもなかったら、それはそれで大変なことになってしまいます。じゃあどうして今回君が間違えてしまったのか。……それはね、思い込みが悪さをしているんです」
「思い込み?」
「具体的に考えてみましょう。君は『悪い人』と聞いてどんな人を思い浮かべますか?」
 先生の質問にうーん、と頭を捻りいくつか例を上げていきます。
 顔が怖い人、声が怖い人、動きが怖い人、とにかく今まで会った『悪い人』というのはみんな怖い人だったのを覚えています。でも。
「でも、今日会ったお兄さんは、怖いけど良い人でした」
「そうですね。怖いからといって悪い人だと決めつけてしまうと、出会いの機会が狭まってしまいます。今回は優しい人でしたが、逆のパターンも気をつけなければいけません」
「逆ですか?」
「優しくてよく笑う、良い人のフリが上手な悪い人もいるんです。……譲渡というのは、命を他の人に託すこと。だから、君が将来この仕事に携わりたいのなら、『本当に大切にしてくれる人を見極める力』をしっかり身につけなさい」
 先生の言うことは理解できます。それでも私は不安になってしまいました。もしも将来、今日みたいな勘違いで仲のいいポケモンとトレーナーを引き裂いてしまったら。もしも、私が託した人が悪い人でポケモンが酷い目にあってしまったら。私は思い込みが強いのだと理解してしまった以上、私は私の『人を見る目』を信じられないのです。そうやってぐるぐると考える私を見ると、先生は少し笑って言いました。
「なんて、偉そうに言ってみましたけどね、私も自分の人を見る目が完璧だとは思っていません」
「先生も?」
「はい。だって先生はサイキッカーじゃないので、人の心は読めません。だから、タブンネの力を借りているんです」
 タブンネの耳はとてもいい。触角で触れると相手の気持ちが分かるほどに。だから面談の時にタブンネに同席してもらって最終確認をするのだと、先生は教えてくれました。確かにタブンネにはどんなに隠し事をしても簡単にばれてしまいます。怪我した子が隠していた時も、やんちゃなポケモンがイタズラした時も、先生が無理をして頑張り過ぎている時も。みーんなタブンネにはおみとおしなのです。
「だから君も不安だな、心配だなと思うのならば、その子の、リオルの力を借りてみなさい」
 私の腰のモンスターボールを見ながら、そんなことを言う先生に、ドキリと心臓が跳ねました。
 リオルは、今は私のポケモンです。とても傷付いてとても怖い思いをしていた所を、先生の力を借りて保護しました。傷も治って私とは一緒に遊んでくれるけれど、まだ私や先生以外の人がいると怖がってボールから出てきません。
 リオルは波動を使って人の気持ちを見分けることができます。でも、その力でたくさん怖い思いをしてきたこの子に、頼ってしまってもいいのでしょうか。
 そんな私の不安を感じ取ったのでしょう。ボールがかたりと震えると、リオルが自分から飛び出し、そして私の足にぎゅっと抱きついてきました。
「リオル……?」
「リオルも君の力になりたいようですね。……さっきのルリリを覚えていますか? 小さい体に大きなパワーを秘めていましたね。ポケモンというのは、どんなに弱いと言われる種族でも人間以上の力を持っています。いつまでも守られるだけの存在じゃありません」
 いつまでも守られる存在じゃない。リオルもそうなのでしょうか。怖がりで、ずっと私が守らなければと思っていたけれど、そうではないのでしょうか。これも、私の思い込みだったのでしょうか。
 君を頼ってもいいかな。その思いに答えるように、リオルは私と目線を合わせるとゆっくりうなずいてくれました。
「私はね、ポケモンを守りたいと思っています。それ以上に共生したいと思っているんです」
「きょうせい」
「はい、協力し合って同じ世界に生きることです。困ったらポケモンの力を借りる。そして彼らが困っている時には、私達人間が力を貸す。そうやって助け合って生きることこそ理想だと考えています」
 何となくこの街の人と、ここで保護された子たちを思い出しました。誰のポケモンでもないけれど、お互いに助け合って暮らす姿は、先生の理想の関係なのだろうと思ったのです。