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アスナショウコ
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【創作|馬子軸】レゾン・デートル
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【創作|馬子軸】レゾン・デートル CASE.04
26/2/5 追記 追加しました|ラストまで出てます
CASE.04 青き血の賓(まろうど)
※改行少ないです。閲覧の際は縦書きリーダーで読むことをお勧めします。校正・一部改稿後、個人サークル名義のPrivatterに移植します。
※CASE.03とめちゃくちゃ繋がっているため、ふんわり読んで頂ければ幸いです(CASE.03、修正終わってなくて非公開なので……)
全種族に輸血可能な血液と、世界を変えた天才の一撃。嘗ての天才外科医の功罪とは?
万能の血液製剤に適合しない、術中死した患者。沖田蒼司は娘・四宮椿と共に因果の渦へ──過去は泡沫。その身は、うつわ。
物語は十二年前の惨劇、その真実へ指をかける。
【個人サークル名義|Privatter】
CASE.01 緋色の邂逅
https://privatter.me/page/69736b2b3ba24
CASE.02 マスグレイヴ家の儀式書
https://privatter.me/page/6973712c73d47
CASE.03 超弦の遺恨
https://privatter.me/page/69847b7c23ec6
良ければ感想ください 📮
https://wavebox.me/wave/b064pup7uhwd9l39/
https://x.com/asunashoko
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――
六月二十三日(夕方)
東都医科大学 四宮研究室
秋津からの連絡を待つのもそうだが、椿は殆ど一日中ラップトップと睨み合っていた。大河がちょっかいをかけようものなら「邪魔をするなら窓から捨てるぞ」と底冷えする声で一喝するので、俺たちは黙っているか、彼女の言いなりになるほかなかった。
俺と大河は残っていた報告書の作成などを済ませ、時折椿から押し付けられた
様々な使い走り
遺伝子実験とか諸々
をする。
そうこうしているうちに時間は過ぎ、時計の針を気にする暇もないほど動き回らされていたことに漸く気付く。一息ついて缶コーヒーを手に取れば、それはすっかり軽くなっていて、俺はいつの間にかちっとも水を飲んでいなかったことに思い至った。
大河が「ちょーっといいですか?」と手を挙げ、三人分のカップラーメンを掲げる。腕時計を確認すれば、時刻はもう七時半をまわろうとしていた。
普段であれば、夕飯はわりときっちり自炊するほうだ。だがまあラーメンなら、椿のカロリーメイトと鯖の缶詰とかいう、この世の終わりみたいな食べ合わせを見ずに済む。
来客用のソファで丸まっている
猫
バステト
は、僅かに声をあげたが行儀よくそこでじっとしていた。
「カレン」
椿はラーメンを慣れた様子で軽く啜って、「あの屋上に何かあったのか」
「血痕です」
大河がスマホを取り出して写真を見せた。
「簡単に調べてみたンですけど幻想種や魔術師の血ではなかったンで、もしかしたら小林の血痕かも」
「成程な。小林は最初、屋上で誰かと会っていた。が、慌てて逃げて下に降り
――
」
椿は左手で銃をつくって撃つ動作をする。確かにその線は考えられるだろう。
「鳥たちの視界に小林ともう一人が映っている可能性は大いにあるな」
「ふぉれに」
餃子を口いっぱいに頬張りながら大河は続ける。
「銃で殺してる時点で、この事件単体に魔術師が関与してる線は薄いと思います」
「しかも殺害に使われとる銃の口径が小さい。致命傷を負わすには、比較的至近距離で撃たんと無理やし、かつ無音で周囲に痕跡を全然残しとらんとなると、もうプロのやり口としか考えられんぞ」
「そうであっても
――
」
椿は残っていたわかめを口へ放り込み、ラーメンの汁を飲み干した。
「ここで手を緩めるわけにはいかん。それに
……
」
「それに?」
大河がオウム返しに聞く。
「若槻泰の死因だ。病理解剖の結果だが」
椿はそう言って目を軽く細める。「幻想真菌が出ている」
「え、嘘」大河が目を丸くした。
「残念ながら事実だ。これを見ろ」
椿はMacbookに解剖結果を表示させてテーブルに置く。確かにそこには病理解剖の記録と、螺旋捜査部の付記が添えられている。
幻想真菌は主に、幻想種や神秘生命体が生息している場所
――
あるいは、神秘による高濃度の汚染が起こっている場合に検出されるものだ。
椿は自分でこう言った。『私の血には幻想真菌がいる』と。それは肉体の内部が幻想に侵されているということに他ならない。つまり、
「若槻はロダン・バッカー症候群やったんか?」
「少し違う。ああ
――
そう。死亡時画像診断を見ればはっきりわかるが、体中のあらゆる場所で血栓ができていた」
椿は餃子を口へ放り込む。大河が「あ~!! 食べようと思ってたのに!」と言うのはお構いなしだった。
俺はマウスパッドを操作して画像を表示させる。確かに血管造影画像を見る限り、心臓、脳、あらゆる重要臓器で血栓ができ、脳に至っては手術前よりも梗塞が増大している。
「使用されたメディウムのパックが残っていることを期待したいが」
「流石にもう処分されとるやろうな」俺は水で唇を湿らせた。「今は秋津さんに頼んだ第三の人物の情報を待つしかねえんやねえの」
「それより先に嘴馬だ」椿は言った。
「あやつはずっと東医にいたから栄生会ときぼうの庭との繋がりは把握していないだろうが、それ以外の情報は持っているはずだ。腐っても嘴馬家の跡取りだからな」
俺は考える。若槻泰の死には明らかに不審な点が多い。
この状況は不気味だ。何か俺たちの知らないところで大きな力が動いているような
――
そんな荒唐無稽なことを考えてしまう。
椿は両手の指先を突き合わせ、握る。そしてもう一度五指を突き合わせた。
「きぼうの庭の背後について考えても
……
魔術結社がいる可能性は検討して然るべきだ」
「何でまた」俺は焦れて言った。
「証明する手立てが無いのだが」
椿は珍しく弱気なことを口にした。大河の膝の上にバステトが飛び乗る。誰も金色の猫には気付いていなかった。
「五年前に発生した八人連続殺人事件を知っているな?」
俺は頷く。かなりセンセーショナルだったのではっきり覚えている
――
逮捕された犯人が取調室で舌を噛み切って死に、被疑者死亡で送検されて幕引きになった事件だ。
「その事件だが、犯人は最初から死んでいたのだ」
「ちょっと待て。それって」
「ああ。死人になった身体の中に、何かが入っていた。そしてそれが暴れまわっていた、というのがあの事件の結論だ」
「若槻泰の肉体からは、大量の幻想真菌が出た。つまり」
椿は指を鳴らす。
「最初から死んでいた可能性がある」
声が俺の内心へ鋭く切り込む。俺は息を飲み込み、必死にそれを咀嚼する。最初から死んでいた、その言葉の意味を。
そして漸く気付く。目の前に、それに限りなく近い状態の奴がいることに。
「五年前の事件において、犯人の体に宿っていたものは幻想種だ。
――
吸血鬼
ヴァンパイア
、その中でも俗に
『霧に変じることができる』
思念体に形を変えられる
、吸血鬼第一始祖に連なるモノ」
椿は一度言葉を切った。
「
思念幻想体
ミームウイルス
だ」
「
……
思念体
ミーム
とは違うんか?」
俺は椿の契約妖精である〈カンブリア〉を思い浮かべた。アノマロカリスにそっくりな姿をしているそれは、厳密には妖精ではない。妖精に近い何か、という位置づけで、人間が産み落としたものであるという点から、第三の幻想種
――
第三怪異と呼ばれている。
「違います」
俺の疑問には大河が答えた。
「
思念幻想体
ミームウイルス
は、最近できた区分けなんです。幻想種っていう大雑把な雑の中に含まれてる小分類~って感じですね」
要は動物の中での哺乳類とか、そういう位置づけなのだろう。俺は納得して続きを促す。
「幻想思念体に分類される幻想種には、明確な基準があります」
大河は指で四を示す。
「まず、定型の姿が無い。認識によって姿が変容する。死人の身体を渡り歩ける能力がある。そして最後に、生命体に精神汚染を引き起こす能力がある。この四つを満たすものを幻想思念体と定義してるンですけどォ」
「認定は極めて難しい。だが、連中はそもそもミーム『ウイルス』と銘打たれている通り、本体は変異する可能性を秘めたウイルスと同じ存在と考えていい」
考える。若槻泰の病理解剖の結果、体内から多量の幻想真菌が検出された。体内が幻想種によって住み良い環境に改変されていたということだ。
「幻想思念体は、幻想真菌のおる環境やねえと定着できんのか」
「その通り」
椿は鷹揚に頷いた。「問題は『いつ』幻想真菌が若槻泰の肉体に入り込んだのか、ということだ。仮にオペの際に導入されたのなら、オペのどさくさに紛れて幻想思念体を受け入れる器を生み出そうとしたと考えられる。それ以前から体内に幻想真菌がいたなら、若槻はロダン・バッカー症候群に罹患していたことにあるが、魔術師家系でもない人間でそれは考えにくい」
魔術師がロダン・バッカー症候群になりやすいのは、魔術を使うために己を改変するせいだ。自らの意思で神秘の最奥へ至らんとするものにとって、ある意味それは当然のことなのかもしれないが。
しかし椿の言う通り、魔術師家系でもない一般人が(ごく稀に魔術適正が異様に高いものがいるにはいるが)ある日突然ロダン・バッカー症候群になる、というのは考えにくい。うっかり異界に迷い込んで何週間も過ごしたとか、そんな経験がないことには起こりえないと思われた。
「きぼうの庭は陰謀論で目立ちつつ、見えない場所で希少血ビジネスを展開している。さらに言えば、きぼうの庭によって困らされている者が小林主真のクリニックに辿り着くと、今度はメディウム批判へ誘導され
――
お前が勧められた通り、『勉強会』とやらを勧められている。仮にうっかり勉強会に行って、その主張へ引っ掛かったものがいたとしよう」
椿は蛍光グリーンのチューブラックを持ってきて、そこにペンを何本か立てる。
「この場合、メディウム批判へ誘導された者は
……
少なくともきぼうの庭の主張をうのみにしている者よりは医療リテラシーがあると考えていい。そして野々花は言ったな。栄生会ときぼうの庭が繋がっているかもしれないと。栄生会の役目はここからなのだ。勉強会に来た者たちの健康相談を受け、血液検査を行う。一般的な検査項目や、アレルギー検査を用意してな」
「表向きはただの健康診断でしかねえ。血液検査をやれば、絶対に血液型情報は判明する。栄生会を通して希少血の人間を探しとった」
俺は自分で言っておきながら恐ろしくなった。もしこの件で栄生会に調査が入っても、栄生会は勉強会を切れる。違法行為はしていないのだから。
証拠はどこにもない。あくまで推測に過ぎないことではある。
だが患者を勉強会へ勧誘していた小林主真は、何者かに射殺された。誰かが俺たちの行動を把握していて、先回りして勉強会へ調査の手を向かわせないようにした? 何のために? 俺は必死に思考を巡らせる。
若槻はきぼうの庭の関係者から誹謗中傷を受け、発信者開示請求をしていた。もしきぼうの庭について様々な事を調べる過程で希少血ビジネスに行きつき、表に出ていない情報に触れてしまったのだとしたら。
それこそ栄生会との繋がりについて知り、それを世間に向けて発信したのだとしたら?
俺は警察庁のデータベースを呼び出し、名誉棄損で逮捕された男
――
草埜啓明の情報を呼び出す。詳細欄に記載がある。複数のアカウントを使ってきぼうの庭の主張をデマだと修正しているアカウントに繰り返し喧嘩をふっかけていた、ということらしいが。
果たして本当にそれだけなのだろうか。猜疑心はとどまるところを知らない。
「まずは嘴馬だ。あやつに根掘り葉掘り聞いてやる」
椿は白衣に素早く袖を通し、勇み足で渡り廊下の向こう側へ向かっていく。心臓血管外科医局はこの渡り廊下を渡ってすぐのところで、随分近所なのだ。
まさに今から退勤しようかとしていた、少し疲れた顔の男が視線の先にいる。薄手のカーディガンに白いシャツ、目元には黒縁眼鏡という姿の
嘴馬遼士郎
はしまりょうしろう
は、ふと足音に気付いて顔をこちらへ向けた。
「椿」
「帰るなよ。私と楽しくお喋りしよう」
「はぁ? 何だよ急に」嘴馬は呆れた様子で、「お前また俺になんか妙なことやらせる気か? 今は無理だ、手いっぱいだ」
「お前がなにがしかの事件に首をつっこんでいることは把握している」
一瞬嘴馬の表情が強張る。
そういえば
――
あの時も。俺は何かを見落としている。
「その上で聞くが、栄生会の後ろ暗い噂について何か知っているか」
「知ってるよ、そりゃあ。陰謀論者には散々な言われようだからな。長いだけの歴史ってのはそうなる」
「違う」椿は嘴馬の言葉を制して、「『きぼうの庭』という市民団体と栄生会が裏で繋がっている可能性があるのだ。お前はそれについて何か把握しているか?」
「ちょっと待て。さすがにそれは冗談だろ」
「冗談ではない」
椿は首を横に振った。
「小林主真という精神科医が射殺された。奴はメディウムに対して荒唐無稽な主張をしていたのだが
……
その主張に関して詳しく広める勉強会とやらに患者を誘導していた。だがな、それだけではない。小林はきぼうの庭とずぶずぶだ。しかも連中は違法な希少血ビジネスを展開していると、警察がマークしている」
「栄生会が
……
それの片棒担いでるってか」
「野々花はかなり疑っている」
秋津の言い方を考えれば、あれはもう何らかの証拠を掴んでいるだろう。何せ捜査一課と四課の合同で、という話だった。俺の方に情報が来ていないだけで、水面下では捜査の手が緩みなく進められているはずだ。
「はあ
……
」
嘴馬はわかりやすく頭を抱えて、「そんな、気はしてた」
「何?」
「俺の親父は、俺に病院継げって口喧しく言ってたからな。第三者が病院継いでそういう裏帳簿でも出ようものなら、って話だろ。たぶん
……
、それに」
「嘴馬先生」俺は彼に呼びかける。彼は本当に何も知らないだろう。「お父様に話を聞けませんか」
「望み薄だと思うぞ。
……
まあ、椿か蒼司に聞けば俺の実家の場所は分かる。今は療養してるから、家に引きこもってるはずだ」
「大動脈弁逆流症。時折東医へ通院しているな。お前のオペを受けたがっているのだろう」
「一体いつからそんな噂好きになった? まあ本当の事だからいいけどよ」
嘴馬は力の抜けた笑みを口元に浮かべた。立ち話もなんだ、と彼は親指で居室を指さす。
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