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ウリュウ
2026-01-24 00:02:20
40362文字
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われえひにけり
【RKRN】タソと保
RKRN怪談webオンリー「凍忍百物語」展示小説
タソ5人、保健5人が濃霧の中でばらばらにはぐれる怪談小説です。普通に怪異が出てくる怖い話なのでご注意ください。
【注意】
・あらゆる捏造があります。
・CPはありません。
【ある】主にタソ周りの関係性などの捏造、妄想
【ない】恋愛感情
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——
◆二十三 食堂
よく晴れた明るい夕焼けが、窓から差し込んでいる。
テーブルの上には柔らかい湯気の立つ熱いうどんが並ぶ。おのおのがそれをすする音が、小気味よく響いている。
食事の時間からは絶妙に外れた、夕方の忍術学園の食堂。窓側の席が、時ならぬ活気に包まれていた。伊作たち保健委員会の五人が、タソガレドキ忍者を三人も連れてきたからだ。
「組頭っ!」
尊奈門のとがめるような口調が響く。
「その食べ方やめてくださいよ、頭巾を洗うのは私なんですからね!」
言われた苦言もどこ吹く風で、口布をしたままうどんをすすった雑渡は、素知らぬ顔で明後日の方向の返答を返した。
「陣内も長烈も食べてけばよかったのにねえ」
「いやそうではなく
……
もう!」
諦めた尊奈門が自分のうどんを勢いよくすすり、熱そうにはふはふと息を吐く。
大人のしょうもないやりとりに苦笑を浮かべる左近の指先が、食堂のテーブルの、使いこまれた表面の滑らかな木目を無意識に撫でている。伊作はそれを見ながら、
——
帰ってきた。
と思っていた。
そう実感を持って内心で安堵するくらいには、緊張していたらしい。
目を上げると、霧の中では氷のような表情を浮かべていた高坂が、向かいではふはふとうどんをすすっている。温かいものを食べて体温が上がったのだろう。湯気に包まれた頬が紅潮して、別人のように幼く見えた。そして、その方がずっと健康的だった。
雪と霧の冷たい真っ白な世界に、確かに自分たちはいた。
それが、賑やかで温かい、出汁の香りがする橙色の世界に、今はいる。
夢でも見ていたのではという気分になるが、まちがいなく、どちらも現実だった。
冷え切っていた指先がぽかぽかと温まっているのを感じる。
目を落とすと、自分のどんぶりからも、出汁の効いた熱いうどんのつゆが、良い香りを漂わせている。いつもどおりのそれが、なんだかむしょうに嬉しい。
百鬼夜行がすべて通り過ぎると、押都の指示で皆ひとつかみずつトベラの枝葉を持たされて、すぐに山を下りた。そのまま押都と山本は「少し遅くなってしまったので」とタソガレドキ領への帰り道を急ぎ、雑渡と尊奈門、高坂が保健委員とともに学園へ直行した。
——
三人は、自分たちを護衛してくれたのだろう。
そう、伊作は思う。
うまそうにうどんをすする三人を見ていると、雑渡の言った「食堂のおばちゃんのうどんが目当て」という言い訳にも信ぴょう性がある気はするが(おばちゃんのうどんは、それだけの価値がある)、それでもやはり、わざわざここまで来てくれたのは、自分たちを無事送り届けるためだろうと思う。
外を見る。雪は山を下りるとすっかりやんでしまい、ここには霧の気配もない。明るい夕焼けは刻々と色味を増していく。穏やかな午後だった。
「あのトベラをまいてたのは、押都さんに言われたんですか?」
うどんをもぐもぐと咀嚼しながら、乱太郎が数馬に尋ねている。
「うん。魔除けの効果があるからって
……
」
「そうなんですか!」
横から左近が相槌を打つ。
うなずいて、数馬は続けた。
「一緒に歩いてた時から、僕の背負ってたかごの中身を見て、トベラは使えると思っていらっしゃったんだって。それで、伊作先輩が崖から落ちた時、『私が百鬼夜行をよけるまじないを唱えるから、君は皆を囲むよう周りにトベラをまくように』っておっしゃって。
……
その場で二人で、急いで籠からトベラをよりわけたんです」
そこで言葉を切り、数馬はどんぶりを両手で持つと、うまそうに出汁をすすった。
「なるほどねえ。上で何か仕込んでるなとは思ったけど」
食べ終わった雑渡が手を頬に当てて言う。
「採っといてよかったね」
と伊作は笑いかけた。数馬はにこやかに、はいと答える。その頬にもすこし赤みがさしているのを確認して、伊作は少し安心する。皆からだが温まったようだ。
一方、伏木蔵は好奇心が抑えられないようだった。
「押都さんって、そういうことにお詳しいんですか?」
声がワクワクしている。質問された雑渡は、「さあねえ
……
」と言葉を濁す。
「あの呪文、何だったんでしょう」
二つ目の質問には、雑渡は答えた。
「私はよく覚えてないけど、確かあれは、むかし貴族が百鬼夜行避けに唱えていた呪文じゃないかな。『自分は酔っているから百鬼夜行は観ていません』というような意味の
……
」
「あ」
言われて、何か気が付いたらしい乱太郎が、伏木蔵の方に人差し指を突き出す。
「じゃあ、『われえひにけり』って
……
」
「『我酔いにけり』ってこと
……
?」
隣の伏木蔵が同じように指をさして答える。すこし訳が分かってきた二人は嬉しそうに笑いあった。その横で、左近が首をひねる。
「でも、実際酔ってないし、あやかしものから見ても、僕たちがあいつらを観てるのは明確だったのに
……
」
これには高坂が答えた。
「貴族が使っていた呪文なら、おそらく繰り返し使われるうちに言葉そのものが力を持ったんだろう」
そう言って、残っていた出汁を飲み干す。高坂の椀は、見事に空になっていた。
「そんなものですか」
と答えて、尊奈門もどんぶりを空にする。出汁を飲み切った尊奈門の名残惜しそうな表情をみて、雑渡がおかしそうに笑った。
「んふふ、二杯目もらいなよ。おごってあげる」
「良いんですか!?」
尊奈門の表情がぱっと明るくなる。横で高坂があきれた顔をしているので、雑渡は容赦なく彼も巻き込んだ。
「陣左もね」
「えっ、い、いえ私は
……
」
「いいから。ほかのみんなは?」
子どもたちに確認し、おなかいっぱいだと皆が答えるのを見ると、
「おばちゃん、うどんふたつ追加お願いします」
と声をかけた。厨房から、おばちゃんの「はあい!」という元気な声が答える。
伊作は可笑しくなった。大人にはどうも、こういう時がある。とにかく年下にご飯をたべさせるのを、楽しみにするような時が。
「それにしても、山本陣内さん、なんかヒーローみたいでかっこよかったですね」
と乱太郎が自分のどんぶりの出汁をすすりながら言う。となりの伏木蔵がうんとうなずいて両手を頬にあてると、
「なんか迫力がありましたぁ」
と目を輝かせた。
これには高坂が頷く。
「あまり見ないお姿だった」
雑渡が小さく「んふふ」と笑って、そうだねと答えた。それを見ていた尊奈門が、雑渡に尋ねる。
「そういえばあの時の小頭、『組頭にもらった権利を行使する』っておっしゃってましたけど、あれはいったい?」
「うーん、そうだなあ」
雑渡はちょっと考えた。「趣味の悪い怪異だ」と言った陣内の顔と、蛙をぶん殴って、なんだかすっきりとした顔で戻ってきた時の陣内の顔を思い浮かべ、口布のうちでゆるんだ口元に、人差し指を立てる。
「ないしょ」
高坂と尊奈門が不思議そうな顔をしたとき、「できましたよ!」とおばちゃんが声をかけてきた。その前には、温かい湯気を上げるうどんが2杯、並んで置いてある。
「お残しはゆるしまへんで!」
食堂に差し込む明るい日が、あたたかな紫の光をたたえ始める。今夜は、穏やかな天気になりそうだった。
——
◆終 押都長烈
横を歩いていた山本陣内が、くしゃみをした。
「おや、風邪ですかな」
そう声をかけると、
「寒かったですからなあ」
と困ったように笑う。押都はいたずら心を起こして、
「それか、噂話か」
と付け加えた。
帰りの山道だ。さすがに裏々裏山から川沿いに抜ける道は避け、人もあやかしもいない道を歩く。
二人しかいないからだろう、陣内はすぐに言葉を崩した。
「やめてくれ、それならどうせろくな噂じゃない」
「山本殿のうわさがろくなものでなければ、わが忍軍にろくなうわさをされる者はいないことになる」
「そんなことはないだろう」
予定より遅くなったので、戻ってから片付ける仕事のことを考えて、二人は詰め所に向かっている。しかし、全力疾走するほど急ぐ必要もなかった。
「うどん、食べてこなくてよかったので?」
押都が尋ねる。陣内は、正直、食べたいとは思ったと答えた。「あそこのは絶品だというし」と言って、言葉を切る。
「仕事をさっさと済ませて、ゆっくり酒でも飲みたい気分、とか」
気づいている押都は、そう水を向ける。
「うん」
ややかわいらしい相槌で、陣内は答えた。
「酒ならご一緒したいな。聞き手はご所望でないか」
押都はさらに水を向けた。互いに気づいているし、気づかれていることに気付いているので、この辺は阿吽の呼吸でもあった。
「助かる。しゃべりたい気分だったんだ。何もかもわかっているやつに、あのろくでもないむじなの愚痴を聞いてもらわなくては」
「私は聞きたい気分だ。組頭から預かった権利とやらの詳細を知らなくては眠れん」
「酒といっしょに、明日にはその辺は忘れてくれるんだろう」
「もちろん」
そう言って、押都は含み笑いを浮かべる。
「我酔いにけり、だ」
ふたりの忍者はニッと笑いあって、どちらともなく走り出した。そうと決まれば、さっさと帰ってさっさと仕事を終えるに限る。
紫色の夜が、近づいていた。
了
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