ウリュウ
2026-01-24 00:02:20
40362文字
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われえひにけり

【RKRN】タソと保
RKRN怪談webオンリー「凍忍百物語」展示小説
タソ5人、保健5人が濃霧の中でばらばらにはぐれる怪談小説です。普通に怪異が出てくる怖い話なのでご注意ください。


【注意】
・あらゆる捏造があります。
・CPはありません。
【ある】主にタソ周りの関係性などの捏造、妄想
【ない】恋愛感情



 ——◆二十 山本陣内

 陣内はあやかしの列のなかに逆行して突っ込むと、あっという間に数匹のあやかしを蹴り飛ばし足場にして、空中に躍り上がった。その身が音もなく蛙の腕の付け根あたりに着地すると、頭の方へ駆け上がる。
 蛙はよそ見をしていた。その頬めがけて、振りかぶる。
 全身の勢いと力をひねりを使って、陣内は一直線に拳を突き出した。
 鈍い音がこだました。大きさからして、ほとんど効かないのではと思われた物理攻撃は、しかし思いのほかしっかりした手ごたえを感じさせた。
 殴られた蛙がゆっくりと倒れていく——その、途中で、どろんと姿が消えた。
 陣内が地面に着地した時、蛙のいたはずのそこには、小さな白いむじなが倒れていた。
……化けむじなか」
 冷たい口調で、陣内は言った。一瞬気絶していたむじながよろよろと身を起こす。
——見せる幻覚の趣味を、あらためるんだな」
 地を這うような声で、陣内が言った。すさまじい殺気に当てられたむじなは、きゅっと飛び上がると、びっこを引いて逃げた。列が乱れた。
 急速に、霧が晴れ始めていた。





 ——◆二十一 合流

 雑渡が気が付いて百鬼夜行の方を見た瞬間、陣内が巨大蛙をぶん殴った。
 雑渡につられて全員そちらを見たから、高坂や尊奈門などは唖然としている。部下にゲンコツをお見舞いする以外で、ものごとを拳で解決する陣内を、あまり見たことがないのだ。
 三秒ほどきょとんとした雑渡の頬が、やがてふっとくずれた。
「殴っ……殴ったよ陣内……
 そう言った声がおもしろげに震えている。やがてあはははと大きな声で雑渡が笑ったので、高坂はさらにびっくりした。


 急速に、霧が晴れていく。皆、自分たちでもわかるほど、方向感覚が戻ってくるのを実感していた。
 芸術的な身のさばきで列を脱してきた陣内が、崖下の雑渡たちに合流した。
「お疲れ陣内」
 ニッコリと笑って、雑渡がねぎらう。
「恐れ入ります」
 陣内はちょっと恥ずかしそうに、そう答えた。
「霧は解決した。あとは百鬼夜行をまくだけだ」
 そう言った雑渡に、尊奈門が「ま、まくってどうやってですか」と訊き返す。
 周り一体あやかしである。後ろは崖。さらに、一部しかこちらを見ていなかったあやかしどもの大半が、今はこちらに視線をむけていた。





 ——◆二十二

「おや、むじなの霧が晴れたわ」
「どうしたむじな。霧はもう作らんのかえ」
「人の子はもう列に誘わんのかえ」
「霧の幻で呼び込んだ人の子を食うのはやめたのかえ」
「おうむじな、おまえ殴られたのか」
「人間のにおいがするぞ」
 続々と声がする。
 次々と、あやかしものがこちらをむく。
 霧が晴れて方向が分かるようになったのは大きい。しかし、このあやかしものをすべてまいて逃げるというのは、骨が折れそうだった。
 後ろの崖を上るか、子どもたちをどうするか、逃げるにしてもどう逃げるか、そもそも逃げ切れるのか。山積する問題をどう片付けるかと雑渡が瞬時にいくつかのパターンを考えた時、その前に、音もなく黒い人影が飛び降りてきた。
 押都長烈だった。
「かたしはや」
 はっとするような、よく通る声で、彼は言った。
 一拍置いて、後ろの崖を滑り降りてきた数馬が、その前に走り出る。彼は、もってきた木の枝で、押都をふくめた全員の周りに積もった雪に、ぐるりと円を描いた
「えかせにくりにくめるさけ」
 押都が続ける。
 数馬は今度は、描いた円の内側にそって、背負い籠から出したトベラの枝葉をまいた。押都に指示されたのだろう。
 ——簡易の結界か。
 雑渡はトベラの事をそう解釈した。
 独特の節をつけて、押都が続きを唱えている。
「てえひあしえひわれえひにけり」
 わっと寄ってきていたあやかしものが、止まっていた。不思議そうに、じっとこちらを見ている。どのあやかしも、トベラの結界の内側には入ってこない。
「かたしはやえかせにくりにくめるさけ てえひあしえひわれえひにけり」
 押都は同じことをよく通る声で繰り返した。トベラをまき終わった数馬は、伊作の隣まで来て息を整えている。
「かたしはやえかせにくりにくめるさけ てえひあしえひわれえひにけり」
 くねくねした子どもが、こちらに興味を無くしたようにふっと離れた。首のぐらぐらした老婆が、それに続いた。ぞろぞろと、他のあやかしも続き始めた。
「かたしはや」
 押都は繰り返す。
「えかせにくりにくめるさけ」
 あやかしがいなくなるまで、押都はその文言を繰り返し続けた。