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ウリュウ
2026-01-24 00:02:20
40362文字
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われえひにけり
【RKRN】タソと保
RKRN怪談webオンリー「凍忍百物語」展示小説
タソ5人、保健5人が濃霧の中でばらばらにはぐれる怪談小説です。普通に怪異が出てくる怖い話なのでご注意ください。
【注意】
・あらゆる捏造があります。
・CPはありません。
【ある】主にタソ周りの関係性などの捏造、妄想
【ない】恋愛感情
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――
◆序
風を切って走る。
息が上がっていた。
「せ、先輩まだ追ってきますよ!」
「振り向くな乱太郎! 転んだら追いつかれる!」
響き渡る少年の高い声、やや上ずった青年の声。
冬、裏々裏山の中腹である。霧がかかり始め、雪がちらちらと舞う水墨画のような静かな景色の中を、少年たちが駆け抜けていく。その後ろを、大きな猪が追っていた。
不運委員会
——
もとい保健委員会は、本日もいつもどおり、折り重なった不運に見舞われている。
まず、『雪が降っていない今のうちに冬にも採れる薬草を探しに行こう』と遠出をして裏々裏山まで来たとたんに、ちらちらと雪が降り出した。
それでも少しずつ薬草摘みを進めていると、だんだん霧が出始めた。
さすがに天候がよくないので、『山を下りよう』と声をかけた保健委員会委員長、善法寺伊作の背負い籠の底が、突き出た灌木の枝に引っかかってちぎれた。
そこから落ちる薬草を受け止めようとして反射的に手を伸ばした鶴町伏木蔵がバランスを崩して転び、近くにいた猪名寺乱太郎を巻き込んで転がる。ついでに川西左近を巻き込んで、トベラの枝葉をちぎっていた三反田数馬にぶつかった。
四人が団子になって転がり込んだ藪に伊作が駆け寄り、『大丈夫かい!?』と声をかけた時には、藪の中にいた猪が、今にも少年たちにとびかかろうとしていたのである。
気の毒だが、珍しいことではなかった。保健委員会の不運と言えば、忍術学園では有名で、その不運ぶりは幸運が続くとかえって本人たちが不安になるほどである。とはいえ、不運が度を越した日というのが、やはりある。それが、今日であった。
いつまでも追ってくる猪から逃げるうち、五人は山を下りるどころか深くまで入り込んでしまっている。霧がどんどん濃くなってきた。
「らちが明かないー!」
悲鳴に近い声を上げた左近の横を走りながら、急に何か思いついた顔の乱太郎がくるりとふりむいた。それから懐に手を入れ、何かとりだすと、振りかぶって、
「もったいないけど
……
えーい!」
猪に向かって投げた。
「な、なんだいあれ?」
「おまんじゅうです
……
朝しんべヱにもらった大きなおまんじゅう」
尋ねた伊作にこたえて、乱太郎は涙を呑んで答える。
「ああ、これ」
同じものをもらった伏木蔵が自分のふところを触った。
野生動物にエサを与えるべきではないし、もったいなくも堺の豪商であるしんべえのパパがわざわざ送ってくれたおいしいおまんじゅうを投げるなど抵抗はあるのだが、緊急事態である。とにかく猪の気をそらしたい。
大きく弧を描いたまんじゅうは、珍しく狙い通り、猪のすぐ前に落ちた。
が、猪はまんじゅうの少し手前で、戸惑ったように止まった。
「あれ
……
?」
固唾をのんでいた少年たちは、きょとんとして完全に足を止めた。
猪は、まんじゅうの手前で停止したまま、まったく動かなくなってしまった。
「なんで追ってこなくなったんでしょう?」
数馬が言う。
「なんだろう
……
震えている? 病気かな」
今にも猪の看病をし始めそうな顔で伊作がつぶやいた。確かに、猪は震えているように見える。
「怯えてるような
……
? あのおまんじゅう、おいしいはずなんですけど」
乱太郎が首をひねった。
「そもそも猪ってまんじゅう食べるのか? あいつ、まんじゅうを見てはいないぞ」
左近が素朴な疑問を口にする。
「見てください、猪の前に誰かいますよ」
そう言った伏木蔵の指差す先、道の端に確かに人影のような、モヤモヤした物が見えた。それがふと、まんじゅうを拾い
――
急に物すごい勢いで食べた。途端、硬直して震えていた猪が飛び上がるようにして方向を変えた。そのまま一目散に逃げていく。異様な光景だった。なぜか目を離せず、五人は固唾をのんで成り行きを凝視する。
霧が濃くなっていく。
「寒い
……
」
思わずつぶやいた左近の声に反応するようにして、もやもやした人影がふりむいた。人影は、霧が濃くなるにつれて、なんだかはっきりしてくるようだった。
それは、老人だった。
急にニタッとわざとらしい笑顔を作ると
「こんばんは」
昼日中だというのに、老人はそう言う。
「薬を分けてくださらんか」
伊作は、『薬?』と訊き返そうとした。だが、その前に、みし、と足の下で嫌な感覚がした。
はっとして地面を見る。瞬間、五人の立っていた地面がまるごと崩れた。スローモーションのように、五人とその周りの地面だけが落ち始める。まるで張り出た崖の突端にいたかのように、広大な落とし穴かのように、崩れた地面の下には何もない奈落が広がっている。
——
そんな地形じゃなかったのに!?
先ほどまで逃げ道の先をきちんと見ていたはずの伊作は戸惑ったが、その手は六年生らしく、反射的に近くにいた乱太郎の袖をつかんだ。乱太郎も悲鳴を上げながら伊作の手にしがみつく。伊作は反対の手を伏木蔵にのばしたが、落下の風圧と位置の悪さで届かない。代わりに伏木蔵の襟を左近が両手で掴み、左近の帯を数馬が掴む。数馬も開いている方の手を伊作に伸ばしたが、やはり届かなかった。2つに分かれてしまった保健委員会は、濃い霧の中を、叫び声をあげながら、奈落に向かって真っ逆さまに落ちていった。
***
「良いお茶が手に入ったのです」
諸泉尊奈門は、うきうきとそう言った。
確かに、ふくよかな良い香りがする。
山の中腹である。
晴天の下、どこからか持ち出した円卓を据え、その周りにタソガレドキ忍者数人がつどっている。香ばしいおせんべいの香りと、それをかじる軽快な音。そして、豊かなお茶の香り。午後のティータイムであった。
尊奈門が慣れた手つきで急須を傾ける。淹れてもらった茶を自分専用の水筒からすすりながら、忍び組頭の雑渡昆奈門は、ぼんやりと向かいの山あいをながめていた。
「あんなところに、ずいぶんまとまって霧が出ていますね」
山本陣内が、雑渡の目線の先を見ながら不思議そうに言う。
確かに、一か所だけ、綿をまとめたように、霧が出ている。
「珍しいよね」
雑渡はそう答えた。
霧の出方が、本当に局所的だ。まるで煙幕でも張ったようだが、長時間ずっとそこにあるそれは、霧と判断するしかない。自然現象はたまに想像を超えて妙なことを起こすものだが
——
。
「忍術学園の保健委員さんですが」
と、押都長烈が話題を変えた。
「彼らは運が悪すぎて悪天候すら引き寄せるそうで。保健委員が薬草を摘みに行った山に一か所だけ雨雲がかかっていると、忍術学園では『あそこに保健委員がいる』と見当を付けるそうですよ」
「んふふ」
おかしくてたまらないといった調子で、雑渡は含むような笑みを浮かべる。
「じゃあ、あそこに保健委員さんがいるのかもね」
「気の毒に
……
」
心底気の毒そうに高坂陣内左衛門がつぶやいたので、雑渡はこらえきれずに口をあけてちょっと笑った。
その時であった。
明らかに尋常でない速度で、固まっていた霧の一部が渦を巻き始め、低く垂れこめた雪雲に変じた。相変わらず湧き続ける霧の中、雪が降り始めたように見える。
「
……
なんか変じゃないですか?」
素朴な調子で尊奈門が言う。確かに、さすがにちょっとおかしい。
次の瞬間、長く尾を引く子どもの悲鳴がこだまして消えた。
雑渡は反射で腰を浮かせていた。
同じく、山本陣内が立ち上がり、片膝の姿勢になった押都がじっと雑面の奥から白い綿につつまれたようになった山肌をみつめている。
「
……
ほんとにいない? あれ」
そう言った雑渡に、全員が視線を会わせた。聞き覚えのある悲鳴だった、気がする。
「ティータイム中断。ちょっと見に行ってみよう」
そういうと、雑渡はまだ温かい水筒を、懐に入れた。
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