レゾン・デートル|CASE. 02 マスグレイヴ家の儀式書

されば得られん────窮極へ至る鍵を。

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CASE. 01 緋色の邂逅 - https://privatter.me/page/69736b2b3ba24

学術研究都市〈いとしま医学特区〉を舞台に描く、現代ドラマ×オカルティックサスペンス! 厚生労働省の〈螺旋捜査官〉市ノ瀬咲良は、ある任務のために学術研究都市〈いとしま医学特区〉へ赴く。彼に与えられた任務はとある人物の監視だった。
その人物の名は──四宮椿。ある一方では〈医学における万能の天才〉と呼ばれ、またある一方では〈忌まわしき名探偵〉と呼ばれる彼女と共に、咲良は殺人事件へ挑むこととなり──? いとしま医学特区の港湾部にて、逆さ吊り状態で発見された遺体。科学で解けない殺人事件、二人の邂逅が導く真実とは?(CASE FILE.01)

※同人誌版の原稿をそのまま移植しているため、改行が少なく横書きでは読みづらいと思います。縦読みリーダー表示をお勧めします。

作者X 🦜 https://x.com/asunashoko
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「あの人が言うには、……その……殺人犯を炙り出したい、という話だった」
 諸星は眉間のしわを一層険しくしながら、眼帯の男——ジェームズ・ワトソンに言った。
「十二年ぐらい前に起こった大量殺人事件の犯人を追っているらしい」
……続けてくれ」
 ジェームズは手元のメモ帳に、即座に日本語を英語に翻訳しながら書きつけた。慣れた動作の筆記体が踊り、万年筆のインクだまりを所々作りながら文字が生まれていく。諸星は深く息を吸い込み、吐き出す。
……何か口止めされているのか?」
「そういうわけじゃない。ただ……
 表情が陰る。その人物の主張が滑稽だと言いたげな顔ではなかった。寧ろその表情は暗く、狂気を覗き見て震えるようですらあった。
「あの人は、変な宗教かなんかに嵌ってるんだ、きっと」諸星は頭を左右に激しく振った。「前はあんなひとじゃあなかった。いや、勿論俺のような日陰者と、堅気を比べるのは、変な話だってことは分かってるが」
「変化を感じた理由に心当たりはあるか? 些細なきっかけでも構わない」
 ジェームズはできる限り柔らかい声でそう言った。諸星は「きっかけ」と小さく零して、「いや、そうだ。もう五年ぐらい前か」
「何かあったのか」
「娘さんが亡くなってるんだ。まだ七歳ぐらいだったはずだ……
 その声に、ジェームズは仄暗いものを感じ取った。それだけではない。嫌な予感が確信に変わりつつあることが、酷い頭痛のタネだった。

 帰路についてからも、疑念はずっと頭の中をぐるぐると巡り続けている。
 エレノワ・マスグレイヴが己を頼り、日本を訪れ——己の命にも等しい〈生きた遺産〉を簒奪した者を追っていること。そしてさらに他の人物がそれを狙っている可能性。全て想定した事態のうち、最悪の可能性だった。
 ジェームズは暗澹たる気持ちを押し殺しながら、雑居ビルの裏手——カフェのキッチンと通じる勝手口を開き、そっと中へ入る。ちょうど来客が帰る頃だったのが見えて、ほっと一つ息を吐きだす。
 シャルルマーニュは椿たちが帰ったのを見計らって、キッチンの奥に呼びかけた。
 馬子の耳は性能がいい。特に、複雑な音を聞き分けたり、小さな音を拾うのは大得意だった。
「なあ、協力してやんねえの?」
 ジェームズはどこか不機嫌そうに「……何故」と呟いた。片方は黒い眼帯に覆われ、その表情は伺えない。赤い左目だけがシャルルマーニュを見ていた。
「だってさ、魔術結社が関わってんなら」
……彼女もそれは理解している。それに、本人が言っていただろう。〈尾びれを捥がれた魚に頼る気は無い〉と」
「ジェームズ、お前」シャルルマーニュの馬耳がぴんと正面を向く。「拗ねてる?」
……別に拗ねていない。適材適所なのは当然のことだ」
 ジェームズはキッチンを出て、残っていたコーヒーをマグカップに移す。そして業務用の牛乳を目分量で適当に混ぜた。
……長岡組の若頭と接触したが」
「はあ!?」シャルルマーニュは素っ頓狂な声をあげてジェームズの両肩を掴んだ。「何やってんだよお前、鉄砲ぶち込まれたりとかしたら」
……そんなことにはならない。安心しろ」ジェームズは軽くあしらう。「連中も一枚岩ではないようだ。諸星という男は己の組の令嬢が、殺害されたという事実を知らなかった。……魔術師と繋がっている連中と、そうではない連中の二つに分かれていると考えていいだろう」
「長岡組って確か、なんかデカめの医療法人と繋がってる、みたいな噂あったよな」
 シャルルマーニュは記憶を手繰る。中洲川端、歓楽街の近くに建つ総合病院。啓成会天神病院といったか。
……そうだな。四宮たちがあの事件に首を突っ込んでいる以上、長岡組のことを把握していないとは思い難い。奴が取引したあの男のことも……
「あの男って、エドワード・ブラントンのことか?」
「いや」
 ジェームズはカフェオレを一口飲む。赤い瞳の奥で揺らめくのは、いびつな形をした真実だろうか。それとも、何か別の可能性を見出しているのか。シャルルマーニュは少しだけ相棒が心配になった。
 自分は探偵じゃねえって口では言いながら、誰よりもしっかり探偵やってんだもんな。
 そんなことを言えばスリッパではたかれるので、言いはしないが。
「奴は二つの組織を捕らえるという思惑だけではなく、恐らく……この医学特区で何かとんでもないことをしでかす気でいる。そのことに、四宮たちが早く気付くのを祈るばかりだな」
「だったら協力してやりゃあいいのに」シャルルマーニュは唇を尖らせる。
 ジェームズはちらりと窓の外を見た。カラスが一匹、街路樹の枝に止まって羽を休めている。時折きょろきょろと顔を動かし、周囲の様子を探っているような動きを見せていた。
……陰陽庁との契約がある以上、これ以上の勝手はできないだろう」
「あ~……、そらそうね。こわ~い瀬川副長官に怒られちゃうか」


諸注意
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