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雨野縁
2026-01-08 20:04:23
14963文字
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なんでもない日
2026年1月出版の書籍『もしも明日で世界が終わるとしたら』の再録。頃合いを見て更新したいと思います。
書籍版のみに掲載の話にちなんだタイトルだったので、web版ではタイトルを変更させていただいております。
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睦月 日の出と鍋
日本という国では日の出はめでたいものらしい。年明けのテレビはやたらと日の出の映像が流れるし、初日の出を見るために山の上で年を越す人もいるのだとか。イタリアでは日の出を見る習慣はないし、そもそも年始よりも年末、より厳密に言えばクリスマスが一番盛り上がるイベントである。それに比べて日本では年末年始が大きなイベントであり、特にお正月と呼ばれる年始を祝うイベントが盛大に行われる。初物に縁起を担ぐ風習があり、お正月の食事は豪華で街並みも一段と華やかになる。とはいっても年末年始は寿々華は実家がある京都に帰っているし、ゾラは昨年から年末年始限定で近所の神社でアルバイトをしているため環の食事はいつも通りどころか大分手を抜いたものになる。三人で祝うお正月は寿々華とゾラが帰ってくる四日以降にするのが恒例となっていた。お正月は基本的には三日間祝うらしく、ゾラが神社でのアルバイトから帰ってくるのが四日以降なのだ。今年は四日が土曜日に当たったため帰ってきたのは六日の昼頃、つい先程である。いつも元気いっぱいのゾラも流石に疲れたのか、帰ってくるなりベッドへ直行した。
「日本人って日の出好きだねぇ
……
」
環はテレビを見ながらそう呟く。ようやくお正月が終わったと思いきや世の中はまだまだお正月の空気が漂っている。環が以前気になって調べてみたところ、地域によって差はあるが大体は仕事などが始まるあたりまで、期間の長いところでは一月の中旬あたりまでがお正月の期間になるらしかった。〝松の内〟と呼ばれる、門松などの正月飾りを飾っておく機関があるらしい。期間の長さからも、日本における正月の重要さがよくわかる。
「うーん
……
やっぱり、日いずる国やからかなぁ
……
」
「日いずる国?」
寿々華の言葉に環は首を傾げる。寿々華はゾラがアルバイトに行く前に作っていたスイーツおせちを頬張っており、一口サイズの抹茶味のガトーショコラを食べ終えたところだった。お重に残っているのは栗きんとん代わりの一口サイズのモンブランのみだ。
「あー
……
それは
……
」
昔々、中国が隋という大国で、日本が倭国と呼ばれていた頃の話である。隋の皇帝に倭国からの使者が渡した手紙の書き出しが「日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙なきや。」というものだった。直訳すると「日が昇る国の帝から日の沈む国の帝にお手紙差し上げます。お元気でしょうか。」という意味である。これは皮肉ではなく、単純に〝東の帝〟と〝西の帝〟という表現であるとされている。日本という国はアジアの中でも東に位置しており、一番最初に日が昇る国だ。そういった逸話や、そもそも農耕民族である日本人にとって日の出とはめでたいものであることから、「日いずる国」は日本の美称となったわけである。よく考えれば日本の国旗は日の丸だ。日の出とは日本の象徴でもあるのだろう。
「へぇ
……
そうなんだ
……
」
初物に縁起を担ぐ風習もあり、新年初めの日の出である初日の出はとてもおめでたいものということだ。寿々華の解説を聞いた環は納得したように頷く。食文化に関してはかつて隣に住んでいた住人のお節介で学んだが、環は長らくイタリアに住んでいたため日本の歴史や文化に少し疎い。常識的な範囲では過ごせているとは思うが、まだまだ日本という国への理解は浅かった。環は未だにお正月の華やかさには慣れないし、やたらと食べ物が絡むイベントが多いなという認識である。
「環はんは初日の出見たいん?」
「うーん
……
寒いから、部屋でぬくぬくしていたいかなぁ。」
情緒がない、そう言われようとも環は正直冬は部屋から極力出たくはないと思っている。冬は比較的暖かいイタリアで長年過ごした環にとっては日本の冬は寒すぎるのだ。寿々華は環の様子を微笑ましく思いながら、確かに元旦に日の出を見るのは寒そうだと思った。
「あ、そうだ。しおがまやるの明日でいいよね? ゾラ、多分、今日は夕方まで寝ていると思うし。」
「おん、そうしましょか。」
めでたい、からの連想で鯛もまた縁起の良いものとされる。本来であればお節を作るべきなのだろうが、作るのは手間だしたくさん食べるわけでもないため鯛一匹ぐらいがちょうどいいのだ。それに寿々華が帰省先でお節を食べており、お節以外のものを食べたいという寿々華のリクエストでもある。しおがまは作るのが楽しい料理だ。今日作ってもいいのだが、ゾラが寝ている間に作ろうものならゾラが拗ねるのが目に見えていた。
「じゃあ今日の夜は何がいいかな、寒いから鍋にでもする?」
「ええねぇ。」
鍋といってもさまざまな味があるが、環が作るのは和風醤油味かコンソメ味が定番であるが本日は寿々華のリクエストでコンソメ味。その日によって具は様々だが、今日は簡易的に白菜と豚肉のミルフィーユ鍋だ。
「明日は買い出しに行かないとね
……
でも寒いしなぁ。ゾラに行ってきてもらおうかな。」
環は冷蔵庫から食材を取るついでに在庫を確認してぼやいた。鯛は調達してあるが野菜とかが足りないのだ。環は寒さに滅法弱く、冬の間は特に外出を避けたがる。日本は一月から二月にかけてがもっとも寒く、部屋の中でも厚着をしているほどだ。
「ええ〜、三人でいきましょや。」
環と出掛けたい寿々華は環の言葉に不満を言う。しばらくの攻防の末、三人で買い出しに行くことになった。環は二人の同居人に滅法甘く、よほどのことがなければいつも環が折れるのである。
「はぁ
……
春が待ち遠しいよ。」
白菜と豚肉を手に取って環がため息をつく。天気予報によると、ここ一週間は冷え込む予報らしい。寒さはますます深まるばかり、春はまだ遠かった。
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