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Nosmi
2025-12-31 22:48:12
15109文字
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醒めてくれるな、わが悪夢 1 (ライシュロ)小説
魔王ラと麒麟(空想上の動物の方)のキメラになったシュのライシュロ。暗い。
捏造設定が多いのでなんでも許せる人向け。
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遠くでさえずる鳥の声が風に乗って聞こえてくる。軽やかな風は通り抜けざまに頭上の枝葉を揺らして木漏れ日がちらちらと瞬いた。その眩しさに目を細め、ふとそれが眠りの妨げにならないだろうかと左後ろに視線を移した。しかし他人の胴体を枕にする男は何ともないようで変わらず寝息を立てている。特に感慨もなく寝顔を眺めていると、風に吹かれた葉が一枚、その頭にひらりと着地した。それでも起きる様子が全くないので別に放っておいてもよかったが、砂色の髪に濃い緑の葉がどうにも目について仕方ない。起こさないよう、触れないよう慎重にそっと払ってやる。しかし落ちる拍子にかさりと音がしたことに反応したのか薄らと瞼が開いてしまった。中途半端に手を浮かせたまま動きを止める。
「ん
………
シュロー
……
?」
「すまない、起こしたか」
だが完全に覚醒してはいないようで、ぼんやりした顔で見上げてくるだけだ。
「眠いならまだ寝ていても──ライオス?」
ライオスは鈍い動作で徐に腕を上げると、葉を払った時の形のまま固まっていた俺の手を取った。
急に掴まれてぎょっとするこちらとは裏腹に、ふにゃふにゃと気の抜けた顔で微笑む。
「うん
……
もう少しだけ
……
」
そう言って寝返りを打つと、俺の手を掴んだままその手の甲を額へ押し付けるように顔を寄せて目を閉じた。いい大人だというのに人形を抱きしめて眠る幼子のような仕草である。それにこの体勢で手を固定されると正直辛いのだが、ぎゅうと握られた手が緩む気配は今のところない。仕方ないとこっそりため息を吐いて、傍らの木をまた見上げた。
何でもない日の昼下がり。空は晴れて暖かく、気持ちの良い風が吹いている。辺りは静かで二人の他には誰もいない。それこそ夢でも見ているような、理想の平穏そのものだった。
どれくらい経っただろうか、大人しく寝ていたライオスが突然目を見開いて跳ね起きた。上体を起こした姿勢のまま、あらぬ方向へきろきろと視線を動かしている。迷宮内を監視する魔物の"眼"から何か知らせがあったのだろう。そうして一通り見終わったのか、うんざりとした顔で項垂れた。
「侵入者か」
「ああ。数もそこそこだから魔物だけじゃ無理そうだ。はぁ
……
せっかく良い気分だったのに
……
」
ライオスは渋々といった様子で立ち上がり、庭の隅に置いていた鎧をのろのろした動きで身につけていく。それを俺は座ったまま黙って眺める。そうして悪趣味で厳めしい鎧を着終えたライオスは、出ていく前にこちらへと振り返った。
「じゃあちょっと行ってくるよ。
……
なあシュロー、何か欲しいものはないか?あるなら手に入れてくるけど
……
」
「いいや、特にない」
「
……
そうか。相変わらず君は欲がないなぁ」
ライオスはへらりと苦笑した。あちら側へ帰る時にいつも繰り返している会話なのだからいい加減覚えればいいものを。だがこいつにはこの無意味な言葉が必要なのだろう。俺がここから出て自由になりたい、人間に戻して欲しいと言い出さないことを確認して安心したいのだ。
それじゃ、と濃い赤のマントを翻して下へと続く階段へ向かう背中にライオス、と声をかけた。
「
……
怪我には気をつけるように」
「ああ!終わったらすぐ帰るからな!」
「別にそれは落ち着いてからでいい
……
」
これもお決まりのやり取りだというのに、毎回嬉しそうに返事をしてライオスは階段を降りていった。やかましく響く金属音が段々と遠ざかる。ほどなくして重い扉の閉まる音が聞こえた。階下には転移術の施された部屋があり、この空間に出入できる所はそこしかない。つまりここにはもう自分一人だけだ。耳を澄ませてその音を確認するや立ち上がり、屋上庭園をぐるりと囲む塀の上に跳び乗る。そしてその天辺から向こう側へと飛び降りた。普通の人間なら即死であろう高さから落ちていく中、後ろ脚で思い切り壁を蹴りつける。そして前へ伸び上がるように勢いをつけてそのまま空中へと駆け出した。
連なる山並みを遠景に、眼下には青々とした草に覆われたなだらかな起伏が広がっている。丘の合間を縫うように川が流れ、その両岸を挟んで並ぶ木立が見えた。その一端を目指して進んでいく。とは言ってもそう時間はかからない。四つ脚で宙を走っていけるから、ではない。ここは見た目ほどの広さはない。遠くの山も青い空も輝く太陽も、魔術でそう見えているだけのまやかしだ。そもそも地下にある迷宮の中なのだから。
ここは箱庭だ。迷宮の主であるライオスが、ここの外では生きられない俺の為に作った箱庭である。
上半身は人間、腰から下は麒麟という体になって目覚めてからしばらくは、体調が優れず常に伏せっていた。咳や発熱、各部の痛みに倦怠感。ろくに食事も摂れない状態で病弱な子供の頃に逆戻りしたようだった。回復魔法で治してもまたすぐに具合が悪くなることを繰り返すので心配したライオス達が原因を調べたところ、おそらく麒麟は病、特に感染症に弱いのではないかということだった。
生息地である東方群島でも目撃例が少ないこの麒麟という魔物───吉兆として扱われ霊獣とも呼ばれていたが、主に伝承でしかその存在を知られていなかった。
曰く、普段は高く険しい山奥で暮らしている。
曰く、平和をもたらす善き王がいる時にしか姿を見せない。
曰く、殺生を嫌い、他者を慈しむ情け深い生き物である。
あくまで言い伝えではあったが、自身の状態とあわせてライオスが推察した内容はそれなりに納得できる部分があった。高山地帯ということは低地より気温と生物の密度が低いので病気が広がりにくいこと。平和な時とは疫病が流行っていないほか、戦禍や災害なども起きていないので比較的衛生環境が保たれていること。殺生を嫌うのであれば草食性、つまり寄生虫の宿主や病気の動物を捕食しての感染は避けられること。また、縄張りを守るため等の攻撃もしないのなら怪我を負う機会はそれだけ減る。致命傷でなくとも傷口からの感染が元で死ぬのは人間でもよくあることだ。
そう考えてみると病に感染しやすい状況を徹底的に避けている。しかし麒麟はどうやってそのような状況を感知しているのか。それは特定の匂いに関して嗅覚が異常に鋭敏になっていることから説明がついた。
血と死臭。
少しでもその臭いを感じとるとたちまち吐き気が襲ってくる。腐乱した死骸だけではない。捌いたばかりの新鮮な肉だろうが香辛料を使って長時間加熱した肉料理だろうが、動物の肉や血を使ったものは一切受け付けなくなってしまった。果物や野菜ならば問題なく食べられるし、どうやら麒麟はあまり量を摂らなくても大丈夫なようなので飢え死にすることは早々ないだろうが。
つまるところ体質と生活環境の問題であり、その推測を確かめ解決する為にここは作られた。魔物や動物が入り込まないよう通常の区画からは隔離され、死と穢れを取り除き、清浄なものだけを敷き詰めた。そうしてここへ移されてからは体調も回復し、その後も問題なく動き回れるようになったのでライオスの説は正しかったことが証明された。
しかしそれは同時に特定の環境下でしか健康に生きられないという証左でもあった。ここを出れば迷宮内の澱んだ空気によってたちまち病に冒され、キメラという歪な生き物ゆえか魔力の薄い場所では息をするのもままならない。迷宮の奥深くにある温室にしか俺の居場所はないのだと。
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