朔文小説まとめ

朔文の短めの小説(最大でも2000字)をまとめました。





【天秤】



「三人でパンケーキ食べに行こうよ!」

ある日の放課後。依桜いお朔叶さくと文花ふみかに誘いを持ちかけていた。最初は同じクラスの文花だけを誘おうとしたが、彼女にはとても厳しくて口うるさい保護者がいる。文花が首を縦に振ったとしても、保護者の彼――朔叶は許さない。
それならばと依桜は二人まとめて誘うことにしたのだ。その方がすぐ答えを得られて時短になるし。

「君毎日それ言うよね」

指を三本立てて明るく提案してきた依桜に、朔叶は軽蔑するような目で見下ろし淡々と吐き捨てた。そう、このやり取りは毎日放課後になると必ず行われる。依桜は裏でパンケーキ狂いという異名をつけられているほど、毎日誰かをパンケーキ屋に行こうと誘うのが日常茶飯事。

「行く?」
「嫌だよ」
「そっかぁ、残念。じゃあ明日もまた誘うね」
「何回言われても無駄だから」
「分かんないよ〜? 勉強で疲れたら甘いものが無性に欲しくなるでしょ? 明日の空木はそうなってるかもしれない。だから私はずっと誘うよ」
「はぁ〜……嫌だって言ってるのに、めんどくさいな君は……
「さく」

不意に文花が朔叶の裾をクイッと引っ張る。こてん、と小首を傾げて一言。

「私、パンケーキ食べたい」

子どものように目をキラキラ輝かせて期待の眼差しを向ける文花に、朔叶の顔はみるみる険しくなった。そばで見ていた依桜は雲行きの怪しさに思わず一歩下がる。



「ふ、ふみちゃんは」

震えた低い声。

「僕と帰る時間とパンケーキどっちが大事なn「パンケーキ」「ふみちゃあぁぁぁん!?!?」
「うるさい」

非難がましい目つきで問いつめようとした朔叶に、文花は堂々と胸を張って答えた。ガシャーン! と凄まじい勢いで天秤がパンケーキに傾いた瞬間である。
パンケーキにあっさり負けた朔叶は、一瞬で顔を絶望に染め泣き崩れた。ここまで十秒も経っていない。早送りの即落ち二コマ漫画のようである。

「ふみちゃあぁん、な、なんでぇ……ひぐっ食い気味で即答なんてひどいよぉ……ぐすっ……うぇぇえぇん……
「うわ……ガチ泣きじゃん……

文花の腰に縋り付きながら本気で泣く同い年の男子高校生、空木朔叶。鋼メンタルを誇る依桜でもさすがに引いてしまい、眉をひそめながらまた一歩後ずさる。

「三藤さん」
「ん?」
「パンケーキ食べに行こう」
「この状況で!?」

文花はこれまでにないほどの輝きを瞳の中に散りばめていた。……その足元ではぐずっている男子高校生がいる。本当に同じ空間で起きている出来事なんだろうか。

……いいけど、空木は?」
「さくは置いていく。嫌だって言ってたから用事あるだろうし」

ぷいっと顔を逸らして淡々と言う文花に朔叶は慌ててさらに縋り付く。

「やぁだ、置いてかないでぇ……
「用事あるんでしょ」
「何も無いからぁ……!」
「そうなんだ。じゃあ一緒に行こう」
「ゔん……

文花がそっと伸ばした手をぎゅうううと掴みながら、朔叶はふらふらよろよろと立ち上がる。その挙動だけを見れば高熱出してしんどい病人である。しかし今日の彼の体調は普通に良い、問題ない。情緒がインフルエンザなだけ。

「あ、本当に来るんだ……

依桜は異界の生物を見るような目をしながら静かに言った。
……え、ってか今からこの二人を連れていくの? いや、誘ったのあたしだけどさ……別に、いいけどさ……

依桜の脳内はここに来てショートした。