朔文小説まとめ

朔文の短めの小説(最大でも2000字)をまとめました。






【隠れた宝石】



文花ふみかの自宅にて。
朔叶さくとの膝の上に乗せられて抱きしめられているときのこと。

「さくの目って綺麗だよね。宝石のターコイズみたい」
……!? ふ、ふみちゃ」

文花は突然暖簾をくぐるかのような手つきで、朔叶の長い前髪をはらりと上げる。朔叶は目を見開いたのち、慌てて顔を逸らす。

「や、やだ……見ないで……
「どうして? 私、さくの目好きなのに」
……っ」

好き、の言葉に、逸らしたばかりの顔をおずおず文花へ向き直す。しかし目は合わず、きょろきょろと忙しなく動き回っている。
いつもうっとりした目つきで文花を凝視するのが習慣で、鼻と鼻が触れ合いそうな距離感でガン見することも飽きずに好き好むくせに、今は別人のように様子が違う。かなり珍しい。

昔から朔叶は両目を文花に見られるのを過度に避けたがる。理由は分からない。彼の両親や学校のクラスメイト相手にはそんな素振りは全くないのに。でも嫌がっている相手に無理強いさせるのは良くないからと、文花もそのことを今まで触れなかった。
だがつい最近のこと。強風が吹いていた日、風に煽られて朔叶の前髪が舞い上がった瞬間、綺麗なターコイズが垣間見えた。たった一瞬でしかも遠目だったにも関わらず、その光景が脳裏に焼き付いた。

それから気になって仕方なかった。何とか見れないかと横や正面から眺めようとしたが、右目は長い前髪にしっかり隠されていて、少し見ることさえ叶わない。当の本人は文花の思惑を知らず「ふみちゃんがたくさん見てくれてる……! かわいいなぁ」とニヤニヤしていた。
思った以上に両目揃って見るのが難しくて、文花は強行手段に出ることにした。それが冒頭の暖簾くぐりならぬ前髪くぐりである。

「どうしてそんなに嫌がるの」
「嫌ってわけじゃ、ないけど……でも、でもね」

「両目だと大好きなふみちゃんの顔がはっきり見えてしまう。そうなると心臓がバクバクしちゃうんだ。胸が高鳴って、僕が僕でなくなりそうで怖い……

普段あんな近くで見てきているのに? 両目と片目でそんなに変わるの? 違いがよく分からず、文花は背後に宇宙を抱えた。
朔叶は一世一代のプロポーズをしたかのように、これまでに無いほど赤面していた。顔全体が火傷しそうなほど熱く、今なら湯も沸かせそう。やかんがそばにあったら試してみたかった。

「あ、本当だ。心臓の動きすごい」

虚無顔の猫がやってくる前に、自力で宇宙から脱した文花は朔叶の左胸にぺた、と手を添えた。バクバクドコドコドン。……太鼓? 鼓動音ってこんなに愉快だったっけ。

「ねぇ、さく。さっきも言ったけど、私、さくの目が好きだよ。だからたまにでいいから見せてほしい。……嫌だったらもう見ないから」

ガーネット色の瞳に真っ直ぐに見つめられると、朔叶はノーと言えない。それも昔からだ。未だ治まらない熱を頬に携えたまま緩く頷く。

……たまにでいいなら、大丈夫だよ。それとふみちゃんにだったら、嫌とか思わないから。そこは安心して」

そう言えば文花は、ぱあぁっと花咲くような笑みを浮かべた。


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【おまけ】


「ねぇ、ふみちゃん。さっきのもう一回言ってほしい」
「何を?」
「僕の目が……なんだって?」
「えっと、さくの目が好き?」
「もう一回お願い」
「さくの目が好き」
「もう一回」
……しつこい」

朔叶が調子に乗り始めているのを感じ、文花は眉をひそめて口をぎゅっと閉じる。このままだと永遠に言わされる。その流れが固定化してしまえば、席を立つことも許されない。だから早めに流れを断ち切った。
一方で朔叶は満足そうに笑みを深めていた。「僕が好き、好き……かぁ」と噛みしめるように呟いている。「目」の一文字が都合良くカットされているが。でもまぁ、大した違いじゃないからいいかと文花は聞き流すことにした。